1249. 別行動:相談 ~工房契約実施・町外れ職人区
今日も朝から、魔法の扱いに励むシャンガマックは、数日気になっていることがあった。
気になっていることと、自分が毎日頑張って覚える魔法のことを、並べて考えてしまうと。
「バニザット。危ない」
父から注意を受ける。ハッとして『ごめん』と謝り、腕を離れそうになった緑の風を慌てて引き寄せる。
朝方の明るい時間、ヨーマイテスは山影の落ちる場所に立ち、魔法陣の外から叱る。
「さっきも。昨日もだ。何かあるのか。教えたことが分かりにくいか」
「違う。分かりやすいよ。そうじゃないんだ。別のことを考えていて」
「練習中に違うことなんか考えるな!俺がいなかったら、今のはどこへ向かうと思ってるんだ」
「ごめん」
封じる力がそのままお前に戻ってくるんだぞ、と怒るヨーマイテスに、シャンガマックは『気を付ける』と頷く。
しょげた騎士に、ちょっと怒り過ぎたかとヨーマイテスは黙る(※気にする)。騎士に、側に来るように言い、とぼとぼ歩く姿を見て、かなり可哀相になった。
影のある場所まで来て、騎士が前に立つと、ヨーマイテスは彼を覗き込み『何を考えていた』それを話せと、静かに訊ねる。
「こんなことを言うと、ヨーマイテスがまた気にするからと思って」
「俺が気にする?良いから話せ。お前が考え事をしながら、練習する方が気になる」
「ごめん」
「もういい」
しょげると可哀相で(※負けた)騎士の頭をナデナデすると、とりあえず話すように言い、対処する必要があるかどうか考えると、ヨーマイテスは話した。
シャンガマックは少し考えて、手短に自分が感じていたことを伝える。それは、洞窟地区で精霊に聞いた話について、誰とも共有していなかったこと。
共有する時間がなかったから、仕方ないのだが、連絡珠を使うと父が嫌がる(※毎度)し、自分だけの情報である状態が好ましいと思えなかったことを、打ち明けた。
「俺のせいか」
「違うよ。そんなこと思わないでくれ。ヨーマイテスに嫌な気持ちはさせたくないんだ。ただ、精霊たちに教えてもらった話が、『種』に関わることだったし、総長たちにも伝えておく方が良いと」
「戻りたいのか」
「ヨーマイテス」
それは目的じゃないよ、と騎士が首を振って『悪く取らないでくれ』と頼むが、父は仏頂面。『お前も、仲間と離れるのに慣れない』ちょっと嫌味も言う。
その嫌味を聞いて、シャンガマックはじっと父の碧の目を見つめた。父は目を逸らす(※苦手)。シャンガマックは丁寧に否定。
「俺の話したことは、そこに直結していない」
「そう聞こえる。知らせる、その意味は。相手がいる。ドルドレンたちに会うか、接触をしないとならないだろ。離れて二日三日で、お前がそう話すと、俺が」
「ヨーマイテス。『種』の話は、危険だからだ。知らないことで、何を被るか、想像出来ない」
ヨーマイテスも分からないわけではないが、呼ばれたら行けば良いだけのことでもある。危険の危の字は教えてやっているんだし(※サブパメントゥ感覚)四六時中、共有することなんか、と思う。
そんな父を、少し怒っているような顔で見つめる騎士に、ヨーマイテスは眉を寄せ『そんなに気になるなら、連れて行ってやる』と投げやりにぼやいた。
シャンガマックの漆黒の瞳は、父の投げやりな言葉に動じず、自分を見下ろす父の顔に手を伸ばすと、頬を触って『話しが違う』と短く言う。
「俺の心配は、危険かどうか。仲間と一緒に動けていないことに、執着しているわけじゃない。ヨーマイテス、こっちを見てくれ」
「だから。気になるなら、連れて」
「愛しているよ、ヨーマイテス」
「そうか」
思わぬ状態で『愛しているよ』と言われてしまったので、父は頷いて黙った(※感情は顔に出さない)。
シャンガマックは、父がやきもちを妬いていると分かるので(※子供のような父)ちゃんとそうではないことを伝えて、知らせるだけ知らせたいことと『それは連絡珠でも可能である』と話した。
「じゃ。連絡しろ」
「今?」
「今が良いんだろ。座れ」
父はその場に座り、胡坐をかいた上に騎士を引っ張って座らせ(※愛情表現)ちょっと笑っている息子に『何だ』と嫌そうに呟いた。
「何でもないよ。気持ちが伝わるのが嬉しい」
そう言うと、シャンガマックは微笑んで、父の頬をまた撫で、それから腰袋の連絡珠を取り出し、総長を呼ぶ。
大男は終始無言で、連絡珠でやり取りする息子の頭に顎を乗せ、彼の邪魔をしないよう、でも出来るだけ接触しているようにして、連絡の終わる時を我慢して待った(※せいぜい3分くらいだけど)。
*****
その頃、午前に回る工房の一軒にいた、旅の仲間。ドルドレンは連絡珠に気が付いて、一度、外に出る(※通話のため)。
ロゼールが、バイラと親方を横に並べて、工房の職人さんに『ここ、ここも。それで、はい。書いてもらって』指差しながら、記入する場所を教える。
バイラとタンクラッドは、見学中。
ロゼールは今回、機構の意見を伝えるためにも来ているので(※後回しだった)それを晴れて遂行する。
「契約扱いなんだな」
タンクラッドは紙を覗き込みながら、自分の時とは違う内容でも『契約』取り交わしの必要を訊ねる。若い騎士は頷いて『資料があるので』そこだけですよ、と言う。
「これまでは、タンクラッドさんたちが、実際に作っている様子を見せていたんですよね。それは、良いんですよ。ほら、教えても会話ですから。
でも今回って、サンジェイさんや、サージさんも、オーリンの仲間の人のも、資料が付いて来てるから、これは機構の感覚からすると『持ち出し情報』らしいんですよね」
「使用にあたって、ってことか」
「そうですね。とりあえず・・・国王に聞いたことないですか?俺はイーアンから聞いているんですが、国王が『製造方法含む、製品全般の扱いは、ハイザンジェル王国魔物資源活用機構に帰属する』こと、って決めているんです」
ああ、と頷くタンクラッド。前、そんなこと話していたなと、雪の日に堂々、邪魔しに行った時のことを思い出す(※476話参照)。
バイラと職人は、二人の会話に『国王』の名前が聞こえ、さっと彼らを見る。二人とも王様の話題を、友達のように出しているので、いきなり遠い存在に感じた(※特にバイラが)。
「でも機構から、実質の動きってないんだろ?各国に手が出せるわけでなし」
タンクラッドの質問に、ロゼールは『そうです』と答え、ハイザンジェルが管理するだけの話と、付け加えた。
「資料を渡した相手の、国と地域と町の名前。工房名。要は、『権限がどこにあるか』って、ことだと思うんですよね。把握しておきたいとか。資料は、契約工房からの提供ですから、機構の範囲です」
「金が動くとかじゃないよな?責任の発生が、どうとか」
「違いますね。資料の受取先を記録して・・・平たく言えば、どれだけどこに広まったか、の証拠なんじゃないですか?
呼び方こそ『契約』ですが『ハイザンジェルの資料をここで使いましたよ』と言うか」
みみっちいよな、と呟いた親方に、バイラと工房の職人が笑う。ロゼールも笑ったが、『国で立ち上げている機関だから』こうしたことは仕方ない、と返した。
ザッカリアは何のことか分からないので、ガーレニーの横でボケーっと見ているだけ。ガーレニーとしては、自分も鎖帷子の資料が欲しいが、面倒そうで(※紙)言うのイヤだなと、そんな思いで眺めている。
一人、別行動中のオーリンは、この工房の前に寄った、弓工房で説明中なので欠席。
「はい。ロゼールさん。これで良いのかな。これで、その資料は、うちが貰っちゃって良いんだよね」
「有難うございます。そうです。5部ありますから・・・それと、俺が書いた確認を受け取ってもらって。別に形だけですから、あんまり気にしないで良いと思いますよ(※テキトー)」
ハハハと笑った皆の場所に、ドルドレンが戻り、契約取り交わしが終わった場面に礼を言う。
「今、タンクラッドさんとバイラさんにも、見てもらったんです。もし、資料が今後も必要そうだったら、取り寄せた際は俺が契約した感じで、書いてもらって下さい。で、紙を機構に送って」
「分かった。お前も執務の騎士のようだ」
またそんなこと言って、とロゼールに呆れられ、ドルドレンは黙る。それから引き上げる支度を済ませ、皆は鎖帷子の工房に『役に立てるように祈っている。どうぞ魔物に勝って』と励まし、そこを後にする。途中でオーリンを迎えに行き、皆で次の工房へ向かった。
こうして、弓、盾、鎖帷子の工房のそれぞれ、昨日約束をしていた工房に赴き、『魔物を倒したら、やってみよう』と答えた、気持ちのある職人たちに資料を渡し、ガーレニーと親方が、金属に変わった魔物の説明をした。
一行は、午前、お昼を挟んで、午後の2時になる頃、昨日の約束分を終えた。駐在団員は、ドルドレンに『町役場で』の話を先にする。
「町長が今日戻りましたが、今日は時間がないそうです。戻ってすぐなので、明日以降ならと」
ドルドレンは了解し『それなら』と、午後から来てくれた駐在団員に、頷いて見せる。彼も分かっているようで微笑んだ。
「行きますか。町の奥の」
「そうしよう。案内してくれ」
駐在団員とバイラが前を進みながら、町の外れにも当たる『奥地』の話をしてくれた。
バイラは、よく覚えていないのもあり(※黒事情あり)あまり話さなかったが、駐在団員はこの町を知っているため、どんな場所かを丁寧に説明し『変わり者だらけ』と笑っていた。
馬車は駐在団員の案内で、町の中を進み、どんどん、道の周囲の建物が減る中を進む。
そうして1時間近く経った頃、少し上がった感じの斜面に続く道が見え、前を行く警護団員は『あそこですよ』と指差した。道が続く先は、全て職人が住んでいると教えてもらい、馬車はゆっくり坂を上がる。
時間が時間なので、今日は長居しないけれど、と思うものの。大きく敷地を取った様子の各家は、『工房の集落』と呼んでも良さそうなくらい、様々な雰囲気が庭や建物で分かるのが面白い。
町の見える場所にある工房とは、印象が違う。自由奔放な個性が突出していて、どこも違うのに、ここに棲み付いた職人たちの方向性は似ている。
言ってみれば、『ミレイオ的』な人たちなのだと思う。
イーアンが見たらきっと、芸術性が高いと言うだろう。ミレイオも自分と似ている気がするかもしれない。
敷地らしい区切りがなくても、どこからどこまで、と感じ取ることが出来る、豊かな感性の工房たち。
「武器や防具だけではないんだな」
「そうですね・・・陶器や家具なんてのもいますから。この集落に居れば、何が壊れても大丈夫でしょうね」
笑う団員と一緒に、ドルドレンも少し笑ったところで。何か気配を感じ、さっと横を見たが、何もいない。建物や木々はあるけれど、人影が少ないこの区で、何だったのかと怪訝に思った。
だが、ドルドレンの怪訝はすぐに終わる。
駐在団員の馬が、幅のある道から細い道へ曲がり、意識はそっちへ向く。
曲がった先は誰かの敷地のようで、警護団員は『ちょっと待っていて』と馬車を停めると、一人で敷地の中の家へ進んだ。
5分も経たずに馬を下りた団員と、その横を歩く小柄な女性が来て『どうぞ』と招いてくれた。小柄な女性は老人というには若いが、中年とも言えない年齢で、話を聞けば団員の親戚だった(※知り合いのおばちゃん)。
「はい。私の親の」
「それで、積極的だったのか」
「彼女のご主人が、鎖帷子を作ります。彼女は、内側に着るものを作っていて」
ドルドレンは、下りて来た馬車の仲間を紹介し、皆で工房の中に入った。入って間もなくして、鎖帷子を作るご主人が挨拶し、ハイザンジェルから来た騎士たちの苦労を労った。
魔物退治の話をすると、彼ら夫婦は興味深そうに聞き、総長の話が終わった後『そう言えば』と、二人で顔を見合わせ、思い出した違うことを話し始める。
その話に、ドルドレンもタンクラッドもバイラも驚いた。
ロゼールとザッカリアは『ここに来たんだね』と囁き合い、それだけで済んだが、総長たちは詳しい内容を知りたがる。ガーレニーとオーリンも、話が分からず仕舞い。
夫婦は自分たちの知っていることを教え、それから『そのお宅は、この上の左側を上がった、剣工房ですよ』と教えたので、3人はそっちへ向かうことにし、残りの4人に『ここで話しといて』と任せる(※置いて行かれるとも言う)。
駐在団員は、4人の付き添いで、親戚のおばちゃんの家に残る。20分後くらいを待ち合わせとし、3人は急いで剣工房へ向かった。
魔物の体を持ち込んで、相談したすぐ後、消えた男の話を聞きに――
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