1242. 留守中の情報収集時間
次の工房へ行く間に、イーアンは自分の話はまずおいて、皆の状況を知りたがった。
ドルドレンはイーアンと一緒にいたかったけれど、自分はいつでも(※夜)一緒なんだからと、ちょっと我慢して『荷台でロゼールと話しておいで』と、皆のいる後ろへ送り出し、御者台一人。
この間に―― バイラと駐在団員が横に付いてくれたので、手綱片手に業務に勤しむことにした(※サグマンの持たせた仕事忘れてた)。
荷台では、オーリンとイーアン、ロゼール、フォラヴとザッカリアの5人。寝台馬車の御者に、どうしてかミレイオとタンクラッドが並んでいて、馬車は久しぶりに人数多め。
「お前は後ろでも良いんだぞ」
「私、前の荷台乗れないんだもの。満員だから。ここしかないじゃないのよ」
ミレイオは場所を譲るために、後ろの馬車の御者台にいる、と親方にぼやく。親方も仕方なし、一緒。御者台なら、前の荷台の会話に加われると思ってだったが、横にミレイオだと発言に気を遣う(※面倒)。
「お前もイーアンと話したかっただろうが」
「仕方ないでしょ。あの子たちの方が話したいでしょうし」
若いのに譲る中年は、つまらないので笑顔も出てこない。前を進む馬車の荷台、5人仲良く話しているのを眺めるだけ。親方もミレイオも、『オーリンはそこじゃなくても良いような』と思っていた(※オーリン中年)。
荷台は、そんな中年二人のもの言いたげ眼差し関係なく、キャッキャ、キャッキャ、楽しく過ごす。
「そうでしたか。では私が空に上がって、その日」
イーアン、ロゼールの来た急な事情を知り、オーリンを見て『あなたの行動が奇想天外』と笑う。オーリンも笑って『俺もこうなるとは思わなかったよ』と答えた。
「あっという間に決まりました。大急ぎで、世話になっている工房へ飛んで、用事を済ませたんです。
それからオーリンと一緒に、龍でここまで来ました。龍だから、こんなに運べたんですよ」
「ミンティンくらいの大きさだと、もっと運べます(※ミンティン運搬用の意識)。次回はミンティンに頼みましょう。今回は、ガルホブラフが頑張って下さいました。有難いことです。
しかし、見事!嬉しいですね、こんなに素晴らしい武器や防具が」
「後で、バイラさんに見せてもらって下さい。鎖帷子は、サンジェイさんが作ってくれたんですよ!魔物製の鎖です。あれは、テイワグナの防具だし、ここでも見せたら通じますよ!」
イーアンが一番驚いたのは、頼む前に動いてくれたグジュラ防具工房の、職人・サンジェイ。テイワグナ出身だとは知っていたが、まさか鎖帷子をこさえてくれたなんて!と、ビックリした。
次に驚いたのが、オーリンが自慢げに見せた、仲間の作った弓。テイワグナ郷土資料館の歴史の弓を再現させたという、意表を突いたその行動に、イーアンはオーリンを褒め称えた(※『オーリン、クール』)。
鏃はダビだと言うし、剣はサージの工房で要領を得て作り始めたことに、感無量。
それから、ロゼールはお菓子を出して『一週間前だけど、大丈夫かな』と気にしながら、自分が焼いたケーキをイーアンに食べてもらう。
「大丈夫です。私は傷つきません」
「イーアン、その表現おかしいぞ。ロゼールからしたら、ロゼールが傷つく。一生懸命作ったのに」
オーリンの注意に、あ、と頷くイーアンは、不安そうなロゼールに咳払いして言い直す。
「あのですね。この姿。あなた、私を一目見て『変わりましたね!』で済んじゃいましたけれど。肌の色も変わって、角もこんなになって、尻尾も」
尻尾をぎゅうっと首に巻き付けたまま、シアワセそうにしているザッカリアを見て『尻尾もあるのに』と続け、イーアンはケーキを一切れ食べて『最高においしいです』と笑顔を向ける。
「私、龍ですから」
「はい。見て分かりますよ。どう見たって、もう人間じゃないですよ」
笑いたそうなオーリンにイーアンはギラッと睨み、据わった目で『ロゼール。龍はお体丈夫なのです』と真面目に教えた。
「傷つかない、とはそうした意味でした。例え、少し時間が経過している食べ物でも、お腹に影響ありません」
「便利な体ですね~。イーアンは何でも食べるけど、とうとう、そんなになったんですね」
「ぬ。ロゼール。あなたはいつも牧歌的な笑顔を下さいますが、言うことが斬新」
「有難うございます!支部にいた時と、ちょっと見た目は変わったけれど(※ちょっとで済む)イーアン、中身はそのまんまで良かったですよ!」
「むむ。中身は一緒。確かにそうです。なのに、何か気になりますよ(※成長したばっかりなのに)」
「ケーキ、お腹に平気そうなら、もっと食べて下さい(※イーアン流される)。どうぞ、食べて」
オーリンもフォラヴも可笑しくて仕方ないが、真面目に答え続けるイーアンと、斜めに入ってくるロゼールの会話を邪魔しないよう、笑うのを堪えて黙っていた。
「ゴホン。美味しいケーキ有難うございます。とっても嬉しいです。ところで、魔物の話ですが」
イーアンは、もう切ることもなくケーキを丸かじりしながら(※『丸ごと食べて良いですよ』って渡された)フォラヴに水をもらいつつ(※詰まる)次の情報へ促す。
3人の騎士は、まずは虫の出たコリナリ村の話をし、『総長以外はここにいる誰も参戦していない』ことと、シャンガマックとホーミットが来たことを教える。それから、こっちを見ているミレイオ(※聞こえている人)に顔を向ける。
「ミレイオは途中から加わったらしいんです。でも、ミレイオも戦ってはいません」
後ろのミレイオがちょっと手を振って、イーアンと目が合う。すぐに微笑んでロゼールの言葉に続けた。
「そうなのよ、私は手を出してないの。ドルドレンとシャンガマックで倒したわね」
実は。間に合っていたし、参戦するつもりだったのよ―― 言いたいことてんこ盛りだけど、ミレイオはとりあえず簡単に肯定し、イーアンはその返答に頷く。
「内容は大体しか知りません。詳しくは総長に」
「分かりました。ドルドレンに後で聞きましょう。それから、他の魔物は」
「それは俺が話せます。フォラヴとザッカリアもそれぞれの位置で戦いました。俺は総長の手伝いをしたので、何が起こったかは見ています」
ロゼールはムバナの町を出た後、雲の魔物が近づいて来た話をし、フォラヴは雲の上へ、ザッカリアは下へ回って対処したこと、自分は中へ入ったことを言い、驚いているイーアンに『総長もそれで中へ』と済まなそうに笑った。
イーアンとしては、軽くでも注意をしたかったが(※危険)とりあえず無事だったので、黙って続きを聞く。
そして、イーアンは驚いた。驚きっぱなしだが、この驚きはまた別の喜びから生じる。
「金属粉」
「そうです。でもこれは、総長もはっきりは分かっていなかったみたいで。タンクラッドさんが、再三、注意してくれました。だから俺たちは今、ここに火傷もなく座っています」
「んまー・・・素晴らしい。ドルドレン、ちゃんと覚えていたのね。さすがドルドレン」
「イーアン。そこじゃない。それも大事だが、教育をもう少ししておく方が良いぞ」
大きな声ではない呟きを、しっかり聞き取る親方(※地獄耳)は、さくっとイーアンの感動を切り捨てて、『知識を固めるべき』と助言。イーアン、無表情で頷く(※伴侶褒めたかった)。
「感動です。でもタンクラッドの意見は尤もです。危険と隣り合わせの知識はいけませんね。これから、その辺りを固め・・・て。あ、ああ、そうですよ!」
何か思いついたように、ハッとした女龍に、皆は注目する。何かと思えば、イーアンは皆をぐるっと見渡して『ギールッフへ行きます』と言い出した。
「え。ギールッフ?ああ、そうか。イェライド!」
オーリンが真っ先に反応し、イーアンは大きく頷く。そしてロゼールが持参した、武器防具の箱に視線を当て『ガーレニーも』と呟く。親方の表情がさっと曇った(※イヤ)。
「今日『最初に訪問した、二軒の剣工房は消極的だった』と、聞きました。先ほどの弓工房は、フォラヴが取り次いで下さったすぐ後に、オーリンが続いたから、上手く行ったのです。
これから向かうのは、また『剣』ですけれど、午後は『防具工房区』ですから、ガーレニーに頼んで、説明して頂くのです」
「イェライドの道具はどう頼る」
オーリンは、彼に教えたことがどのくらい進んでいるかによるぞ、と言う。
イーアンもあれから、日が経っていないことは分かっているが、彼らの心意気、その勢いには期待できる。
「イェライドには、道具の進捗状況を訊ねます。イェライドの道具の方が、まだ金属粉丸ごとよりは、扱うのに難しくありません。あちらでもう、製造が始まっていれば、材料を少し・・・買わせて頂けるかも。
今後、直に金属粉を使おうと思う時が、来ないとも限りません。その時、タンクラッドやミレイオ、私やオーリンがいるかどうかも。いなくても大丈夫なように」
教えながらでも、万が一に備えて、イェライドの道具製造を頼ろうと、イーアンは言う。
「ここでも買えそうだぞ。イェライドは、材料の状況が分からん」
親方に言われて、イーアンもそれは承知の上。はい、と答えて『ここで購入出来るなら、それを優先する』と続けた。
イーアンの表情から、親方はその言葉の意味を理解する。ミレイオも分かった。
「ギールッフほど、気前良くないかもしれない、ってことか」
「あの子の方が、私たちより経験あるから(※断られた営業の経験値高いイーアン)」
工房の廃材でも。突然、訪ねて来た旅人の事情を聞いて、いいよと、譲る職人はいないかも知れないと、そうした意味だと分かったため、御者台の二人は『とりあえずイェライド』『とりあえずギールッフ』に了解した。
ギールッフの町は復興が始まったばかりなので、材料の入手も大変なのは理解している。だから、買うとしても大丈夫そうな範囲を聞いてから。
その上で、もし問題なければ範囲内で購入して、それをドルドレンたちの備えとする。
そして、このスランダハイの町で、もしも話を聞いてくれそうなところに出会えれば、イェライドが既に手掛けている『ギールッフの魔物対策の一つ』として、道具の紹介もしようと、イーアンは考える。
「よし。では私はドルドレンにこの話をして参ります」
イーアンは、うん、と頷いて、尻尾を仕舞い(※ザッカリア悲しそう)唖然とする皆を置いて、馬車を下り―― かけたが、オーリンに捕まえられて『君は歩いて下りるな』と止められた。
「飛んだら目立ちます」
「動いている馬車から下りたら、転ぶだろ」
笑ったオーリンがイーアンを片腕に抱えて、一緒に下りてやり、不服そうな女龍と一緒に御者台へ。
行動が早いのはやっぱりイーアンだ、とロゼールは笑い、フォラヴもザッカリアも『じっとしていない』と一緒に笑ったが。ガーレニーが来るのかと、溜息をついたタンクラッドは、笑えなかった。
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