表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
新たな脅威の調べ
1240/2964

1240. 空組帰還

 

 オーリンとイーアンが龍の島に着いて、ザッカリアの名前を呼びながら、彼の龍気がある場所へ向かうと、やはりそこに彼の龍・ソスルコの縞柄版の龍がいた。


 小柄な龍も、二人が来たのを知っていたようで、トコトコ小走りに近づくと、ガルホブラフに乗ったオーリンと、翼のイーアンに顔をすり寄せた。



「ザッカリア。この姿でずっと」


「どれくらい、ここに居たんだろうな」


 二人は小柄な龍の顔を撫でながら、物言えぬ彼を気にする。ザッカリアの龍は後ろを振り向いて、そちらをじっと見ているので、二人もその方向を見ると、青い龍がこっちを見ていた。


「あら。ミンティン」


「ミンティンと一緒だったのか」


 ミンティンが面倒見ててくれたの、と訊くと、ザッカリアは頷いたので、彼はいつからいたのか分からないにしても、孤独ではなかったのだと安心した。


「この姿であるということは、地上でこの姿を取ったのでしょうから、うーむ。私が一週間留守だったと聞いていますし、もし直後だとしても、彼も長くて一週間」


「そうか。俺は・・・あ、そうだよ。俺、ロゼール連れて来たんだぜ」


 え!話が逸れて、一瞬そっちに意識が向いたが、撫でている最中のザッカリアが、オーリンに目で訴えているので(※話違うぞって)龍の民は脱線を戻す。


「後で話すよ。その時はザッカリア、いたんだ。そうそう、いたな。ロゼールを届けた翌朝、俺はこっちに来たから、その後は」


 そこまで教えて、二人は空を振り返る。ザッカリアも空を見つめ、近づいて来た男龍を待った。


 やって来たのはルガルバンダ。イーアンを見て微笑むと、横のオーリンに何故か笑った。

 オーリンは笑われた理由を訊ねたが、男龍は『お前がここに居ることが珍しい』と、嫌味のつもりはないけれど、嫌味のような答えを伝えた。オーリンは、質問しなければ良かったと思った。


「ザッカリアか」


 パっと見て事情を理解したようで、ルガルバンダは小柄な龍を少し見下ろす。

 ガルホブラフと同じくらいの大きさでも、ソスルコ自体が翼のない四肢を持つ龍なので、ちょっと小さ目に見える。ソスルコと同化しているザッカリアは、男龍の顔を見上げて首を揺らした。


「そうだな。ここじゃ難しい。よし、一緒に行ってやろう」


「あれ?移動しますか。どこへ」


「ミンティン、一緒に来い」


 ルガルバンダは、イーアンの質問を無視して青い龍を呼び、目の据わる女龍に笑うと『ここで待っていろ』と伝える。イーアンは眉を寄せ、一緒に行きますと言ったが、男龍はニコッと笑って『まだ早いんだ』と断った。


「またそれですか。私もう、始祖の龍のお墨付きなのに」


「覚えたことが沢山ある。進む道はまだ途中。イーアン、()()()()進むんだ」


 ルガルバンダに諭され、むすっとした女龍は角を撫でられ、お留守番で龍の島。オーリンも同じく。

 男龍はザッカリアを連れ、ミンティンを伴って、どこかへ飛んで行ってしまった。


「嫌な感じ~」


「まぁ。一度に覚えきれないこともあるだろ。そう捉えておけよ」


 ブツブツ言うイーアンと、仕方なし一緒に待つオーリンは、朝の龍の島で降りてからの予定を話し、ちょっとは建設的な話題で待ち時間を過ごす。

 待つこと30分。彼らは戻って来て、ザッカリアはソスルコに乗っていた。


 ザッカリアに訊いて教えてもらっちゃダメなのかしら、と。

 ふと思ったイーアンに釘を刺すように、男龍はザッカリアの頭を撫でて『質問されても答えることはない』それを先に告げる。子供は嬉しそうな顔で頷くと『言わないよ』と答えていた(※イーアン完敗)。


 こうして、無事にザッカリアを連れて戻る2人。


 ルガルバンダにお礼を言って見送ってもらい、3人は出発。ミンティンも途中まで来てくれたが、特に用事はないと分かっていたようで、イヌァエル・テレンの空の境目で帰って行った。


 オーリンは、ずっと気になっていたことを訊ねる。イーアンが居ないとはいえ、自分も留守をした期間、ザッカリアが龍と同化する事態があったと思うと、何となく後ろめたかった。


「ザッカリア。いつからあの姿だった」


「俺もちゃんと覚えていないんだ。でもね、総長たちが戦った時だから・・・何日前だっけ」


「あら。ドルドレン、戦いましたの。皆無事かしら」


 それは大丈夫、とザッカリアが答えて安心させると、イーアンとオーリンは、ホッとした顔を見せた。戻ったら情報交換の時間が要ると話し合い、馬車のある方へ降りて――



「えーっと。えー・・・どうしましょうね」


「そうだな。歩く?」


「町に入ったんだ。あれ?何だっけ、洞窟ばっかりあるところは終わったのかな」


 龍族の二人が子供を見ると、子供は行き先の予定地を教える。3人の眼下には、白い地面と木々があり、木々の合間に道、その道の続きに町。反対方向は森があって、旅の馬車は森を抜けたのまでは分かった。

 森のもっと向こうに、白い奇妙な凹んだ地形があったことで『多分、あれが洞窟ばかりの場所』と見当を付けると、進行方向からこちらと。


「まぁいいや。それは良いんだけどさ。あれ、馬車だろ?壁の外の。馬車の民じゃないのか」


「私もそうかなと思っていました。テイワグナの馬車の家族ですよ。ジャスールの馬車と違うような」


「ジャスール、いるかな」


 いないかもね、とイーアンが笑顔で答えると、ザッカリアは『新しい馬車の家族も関わるんでしょ』と訊ねた。

 間違いなく、そうなる。イーアンはここでまた、少しの間、離れていた馬車歌が、頭を(もた)げたことに、見えないタイミングの意味を感じる。


「とりあえず、浮かんでいても困るよ。見られない場所に下りて、歩きで行こう」


 オーリンは龍を手前に戻し、二人もそれに続いて、皆は町から1㎞ほど離れた場所に降りると、龍を帰して徒歩で町へ向かった。



 歩いている最中、イーアンが目立つだろうねと、男二人で話していたが、イーアンは開き直ったか『どうせ見られる』と男らしいことを言っていた。


 ザッカリアは、イーアンに何があったのかは知らない。『空で勉強中』だけは知っているけれど、内容は知らないので、彼女はいつも人目を気にしていたのにと、少し不思議に感じた。



 そして、案の定。町の壁の近くまで来ると、馬車の民が声を上げ始めた。

 彼らからは離れているが、朝の出発で動く業者の馬車の列を避けた3人は、馬車の民がいる方を歩いていたので、彼らはすぐに寄って来た。


 イーアンの頭にある長い太い二本の角に驚き、次に皮膚の色で騒ぎ、オーリンとザッカリアが両脇にいるのに取り囲んだ。


「こうなると思っていた」


()()()()なるのよ。早いか遅いかってだけ」


「イーアン、変わったな」


「慣れたの」


 笑うオーリンに、イーアンも苦笑い。始祖の龍は『自分が誰かを決して隠すな』と言っていた。それは『自分を疑うだけでなく、龍に祈る、多くの祈りを無視するのに等しいんだ』と。


 その言葉をしっかり胸に。イーアンは、どれほど仲間の皆さんに迷惑かけるか知らないけれど(※考えないように頑張る)始祖の龍の教えに従う。


 少年と30~40代くらいの男性とおばさん、男女7人の馬車の民は、イーアンに触ろうとする。イーアンは言葉が分からないので、微笑むだけで体を逸らして、触れようとする手を避けた。


「よせ。知らない相手に、いきなり触っていいはずないだろ」


 オーリンはしつこい男の手を掴んだ。男は睨み、何かを口走ったが、すぐに後ろから聞こえた声に振り向いた。その声は、イーアンたちも知っている声。でも、言葉が違う。


 男の振り向いた方へ、3人も顔を向けると、手前2台目の馬車から、背の高い黒髪の男が出て来た。



「総長」


「ドルドレン」


「あ、イーアン!おかえり、イーアン。良かった、ザッカリアもオーリンも一緒か!」


 3人が驚いていると、彼らを取り巻いていた馬車の家族は、こちらに足早に近づくドルドレンに、何かを大声で訴える。

 ドルドレンはすぐに答え、皆の顔を見ながら短く何か説明し、さっとイーアンの肩を引き寄せた。


 見上げるイーアンに、ドルドレンはニコッと笑って『大丈夫だ』と教え、空いている片腕でザッカリアを引き寄せる。


「イーアンと、ザッカリアだな。()()なのは」


「え、俺は」


「オーリンはそのままで宜しい。二人は俺から離れるな。でも良かった、お帰り」


「ただいま戻りました。一週間?」


 そうだよ、と笑顔を見せるドルドレンは、イーアンをぎゅっと片腕で抱き締めて『長かった~』と本音を言うと、ハハハと笑った。イーアンも伴侶の胴体にぎゅっと抱き付き『お待たせしました~』の返事。


「抱き合いたいのは分かるんだけど。どうするの、この人たち。総長はどうしたの?一人かよ」


 ん、と総長が顔を戻すと、オーリンの示した指先の人々(※馬車の民7名)が、目つきもあまり良くない状態で、じーっと見ている。


「そうだな。俺たちは昨日の昼にここへ着いた。馬車の家族を見つけ、挨拶して今日は朝から馬車歌を聴きに来たのだ。俺一人である。皆はバイラと駐在団員の案内で、工房へ向かうから」


「待て。総長、工房?ここの?」


「そう。まぁとにかく。そうだ、イーアン。ロゼールもいるのだ。でも今はとりあえず、彼らに挨拶しよう」


 そう言うと、ドルドレンは彼らに話しかけ、一緒に馬車へ戻り、ドルドレンが現れた馬車の前で立ち止まる。中からヒゲの生えた男が顔を出し、ドルドレンと彼の腕に収まる二人、連れの男を見て笑顔を向けた。


 彼はポンと荷台を降りて、同じように笑顔のドルドレンに、龍の女を指差して『彼女だな』と訊ねた。ドルドレンは頷き、イーアンを見る。


「彼は、この家族の歌い手。アンブレイという」


「俺はアンブレイ。ドルドレンが昨日、ここを訊ねた。さっきまで、歌を少し聴かせていたところだよ。あなたが龍の女か」


「はじめまして。私はイーアンです」


 握手を求められて、イーアンは手を握る。アンブレイはしっかり握って『生きていて良かった』と呟いた。彼の笑顔や雰囲気は、顔つきこそ違うけれど、イーアンにもベルを思い出させた。


「素敵な角だ。立派な龍の角。真っ白な肌。あなたは白い龍?」


「そうです。私は白い龍。アンブレイのご家族は私に触ろうとしましたが、それはなぜでしょうか」


「龍の女に会えたから、仲良くしたいだけだよ」


 ハハハと笑ったアンブレイに、イーアンも笑う。そうでしたか、と頷いて『分からないから避けた』と言うと、馬車の男は微笑みながら『握手はしてやってくれ』と頼んだ。


 イーアンは安全を確保(?)出来たので、しばし、イーアンは馬車の家族たちに握手会状態で動き回っていた。が、ザッカリアはドルドレンの保護下。


「俺は何で危険なの」


「お前と同じくらいの年齢で、女の子供たちがいる」


「そうか」


 ザッカリアは了解して、ちょっと総長のわき腹に顔を隠しつつ、じっとしていた(※狙われる恐れ)。


 そんなザッカリアに笑いながら、オーリンもザッカリアを挟むように横に立っていてやり、イーアンの挨拶が終わったくらいで、『歌の続き』とアンブレイに促されて馬車の中へ入った。


 自分たちの馬車よりも少し長いせいか、中は広く感じる。4人は示された長椅子と低い腰掛けに座り、アンブレイが楽器を弾きながら歌うのを聴いた。この間、他の家族は近寄ってこなかった。


 アンブレイは何度か手を止めて、意味を説明し、ジャスールの歌った部分との繋がりは丁寧に教えてくれた。

 一時間も経つ頃、アンブレイは最初から通して最後まで歌い上げた。4人は歌が終わった後に拍手して褒め、お礼を言って馬車を出る。



「まだ居るから、聞きたいことがあれば来てくれ」


 親切な馬車の男にお礼を言い、ドルドレンが今日か明日、また来るかもと話していると、遠くから待ち構えていたように、女の子が3人走ってきたので、ザッカリアは怯えた(※自分目掛けていると分かる)。


 さっとオーリンの背中に回って隠れ、それをオーリンは笑ったが、走ってきた女の子たちの顔が真剣で、笑顔も固まる。


「逃げろ、ザッカリア」


「どこ行けばいいの!」


「空ですよ」


 ハハハと笑ったイーアンは、翼を出してザッカリアを背中からひょいと持ち上げると、わっとざわめく馬車の家族と、目を丸くする女の子たちに『また会いましょう』と言い、喜ぶザッカリア(※助かった)と共に浮上した。


「イーアン、近くにいろよ」


 オーリンに叫ばれて、イーアンは頷く。浮上して相当高い場所まで上がると、ザッカリアは振り向いて『有難う』のお礼を言う。



「あなたも飛べると良いのにね」


 イーアンが笑って答えると、ザッカリアは笑顔をちょっと戻して『そのうち』と微笑んだ。


 その答えに、ハッとしたイーアンだが、すぐに下から『イーアン、あっちへ飛んでくれ』と伴侶に示されて、慌てて移動し、ザッカリアの『そのうち』の言葉の質問はそのまま消えた。

お読み頂き有難うございます。


ブックマークを頂きました!有難うございます!頑張ります。

今回、二度目の登場の、テイワグナ・馬車の家族。彼らの話が丁度出たので、馬車の一場面を描いた絵を載せます。



  挿絵(By みてみん)




この絵は、ハイザンジェルの馬車の民の顔つきですが、馬車の内部を雰囲気だけでも。

テイワグナは暑いから、暖炉はもう少し小さい形のものを積んでいます。

でも、どこの馬車の民も暖炉は備えています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ