表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
新たな脅威の調べ
1239/2962

1239. 夜明けはオーリンと

 

 昨晩―― 男龍に挨拶して、少し話をしたら地上へ戻ろうと思っていたのが、男龍に質問をされ続け『出来ることを見せろ』と頼まれ(※芸)そんなのに答えていたら、もう真夜中になってしまった、イーアンの夜。



「ふむ。この時間に戻ってもな。ドルドレンたちも都合が良くないな。寝ているから(※知ってて)」


 強制的に、ビルガメスのお宅に宿泊することが決定し、ビルガメスは嬉しそうだった。が、それは束の間の喜び。


 ジェーナイが起きていて、イーアンと一緒に居たがった。そのため、ジェーナイとファドゥも一緒にお泊り。


 小さなジェーナイはイーアンの尻尾が大好きで、お気に入りになってしまった。

 なので、イーアンは長~いフサフサの尻尾で、くるくるっとジェーナイを巻いてあげて、ジェーナイを尻尾で揺らしながら(※意外と使える尻尾)寝かしつけた。


「これ。便利ですよ。両手が空いています。お母さん、楽勝です」


 家事も楽そう、と呟くイーアンは、眠ってクターっとしているジェーナイを、尻尾に巻いたままベッドに移動(※尻尾強い)。


 そんな様子を見守る、ファドゥとビルガメスは、何とも言えない幸せで穏やかな喜びに浸る。


 女龍が、力強く成長してゆくことも嬉しければ、自分たちの未来も明るいと確信する。子供と遊ぶイーアンは、子供を寝かしつけるために尻尾も使う(※出しっぱなしだった)。



 おじいちゃんとしては、イーアンを泊めて、母の力を身に着けた彼女を眺めながら、夜を過ごそうと思っていたのだが(※ビルガメスは成長を眺めて満足する)。そんな気持ちを見透かすように、銀色の男龍は彼を見上げ『私たちも一緒』と、念には念を入れて伝えた。


「知っている。ここに居るから」


「ジェーナイは、イーアンと一緒に寝かせてあげてほしい。ベッドを使っても良い?」


「俺のベッドだぞ。俺も寝る」


「そうか。でも私も泊まるから、長椅子をベッドに寄せるよ。私は長椅子で。ベッドのこちら側には、ジェーナイとイーアンを。ビルガメスは向こう側」


 ファドゥの意見は、お父さんとしては尤もなので、ビルガメスは不服にも、若い男龍に従うことになった。

 だから、ビルガメスとファドゥが両脇で、イーアンとジェーナイが内側の図。ビルガメスの心境は全く以て嬉しくなかった。でもジェーナイが、女龍と一緒の構図は微笑ましいため、文句は止めた。



 こうしたことでベッドに3名。寄せられた長椅子にファドゥが横になり、皆は就寝時間。


 イーアンは、ファドゥとビルガメスに、小さな声で『明日。夜明けに出ます』と伝えた。オーリンと話したいと言うと、二人とも少し気にしたようで『オーリンを呼ぶのか』と訊き返す。


「オーリンには、いつもこうした変化の時。話すことにしています。彼は私の()()()()()に思うから」


「兄弟・・・そうか。イーアンは二人で来たから」


 長椅子に横になったまま、ファドゥは理解を示す。二人で一緒に、アムハールの空を抜けて来た。最初に彼らと話したのは自分だった。ファドゥは微笑んで『そうすると良い』と頷く。


 イーアンがビルガメスを見ると、大きな男龍は面白そうに口端を少し上げている。ゆっくりと女龍の角を撫でて『お前は()()()()を大切にする』それはそれで、イーアンらしいんだろうと囁き、了解した。


 こうして女龍と男龍は、静かなイヌァエル・テレンの、穏やかな風に吹かれて眠った。



 翌明け方―― イーアンは目を覚ます。外はまだ暗く、空には星が見えた。


 ジェーナイを起こさないよう、そーっと体を起こし、そーっと尻尾を消して(※尻尾布団)。ここで背中に指が当たる。大きな男龍の人差し指の先は、イーアンの手の平くらいある。振り向くとビルガメスの金色の目が見えた。


「また、すぐに来い」


「そうしましょう。でも今日明日ではありません」


「早めだ、早め(※おじいちゃんは自分のペース)」


 笑うのを抑えて、イーアンは頷き、その顔に少し笑ったビルガメスは『ここから浮かべるか』と訊いた。このまま浮遊・・・出来るかなぁと思いつつ、『落ちたら困るから』とジェーナイを見た。すると、反対側で銀色の男龍も目を覚ましていた。


「おいで。私が出してあげる」


 上半身を起こしたイーアンの両脇を支え、ファドゥはそっとイーアンを持ち上げると、不満そうな顔のビルガメスにちょっと笑って『こうしないと出られない』そう言って、イーアンを床に下ろした。


「浮かんだかもしれないのに」


「浮かべばいいが、もし落ちたらジェーナイが起きるよ」


 浮遊しそうだから見たかった様子のビルガメスに、二人で声を出さずに笑いながら、イーアンは表へ出る。ファドゥが見送り『また来てあげて。ジェーナイが喜ぶ』最初にそれを伝えすぐ『私たちも喜ぶよ、タムズは特にね』と言い添えた。


 ニコッと笑ったイーアンは『もちろんです。数日したら来ます』ちゃんと約束。


 翼を出して、また尻尾も出して、部屋の中の眠るジェーナイとビルガメスをちらっと見てから、静かに飛び立った。夜明け前の星のある空に、女龍の長い白い尻尾が揺られるのを、ファドゥは満足げに見送った。



 そして飛びながら、オーリンを呼ぶ。連絡珠はあるけれど、今は使わない。


「この方法で。始祖の龍が呼びかけた、この方法」


 イーアンは男龍たちがそうするように、目を閉じてオーリンを考える。彼の名を呼びながら、彼の顔を動きを感じる。オーリンの応答は頭に響かないが、彼が反応したことは分かった。


「よし。()()()()()なってきましたよ。頑張りましょう、せっかく教わったんですもの。うむ。忘れたら、即行、聞きに行って(※覚えたこと多過ぎる)」


 忘れないうちに、試さなきゃ~と呟きながら、イーアンは夜明けの前の空をパタパタ飛ぶ。



 綺麗なイヌァエル・テレンの空に、馴染んだ龍気が空気を伝うのを感じる。その方向へ顔を向けると、龍の背に乗った男が来るのが分かった。


 イーアンは彼に近づき、おはようと挨拶。オーリンは目を見開いて『尻尾あるぞ』と笑う。ガルホブラフも目が据わっている(※『まただよ』みたいな)。


「君に呼び出されているだけでも、驚いたのに。尻尾まで付いたか」


「元から付いていますよ。この姿でも出せるようになっただけ」


 アハハと笑うイーアンに、オーリンも一緒になって笑い『毎回驚かされる』と女龍の肩を叩いた。


「どうするんだ。今日、このまま戻るの?それか、()()()()で話すのか」


 ちゃんと気が付いている龍の民に微笑み、イーアンは頷く。


「あの場所です。こんなふうに何か物事が変わった時は、オーリンに最初に話したくなります」


「嬉しいね。いいよ、行こう・・・俺さ、今、彼女いないんだぜ(※自慢げ)」


「何、藪から棒に言っているんですか」


「だから。ちゃんと『真面目に待っていた』って言いたいんだ。ザッカリアにも串刺しにされたし」


 ザッカリアからの串刺しに、イーアンは大笑いする。オーリンも笑いながら、『ちょっとは()()()頑張ろうって思ってる』と話していた。

 二人と一頭は、夜明け前に話す場所へ飛び、そこで、明け行く空に包まれて、思うところを話し続けた。



「イーアンはあっという間に変わった」


「そうですか?私も次から次の印象はありますが」


「見た目が変わったり、能力が増えると、最初に会った頃が昔みたいだ」


 うん、と頷く女龍。人間としてこの世界に入ったのは、半年以上前。でもまだ、一年経っていない。あれよあれよという間に、体も力も変化した。居場所も変わり、知らなかったことを毎日見つける。


「オーリンは、私と会うまで」


「あのまんまだ。山奥で一人でさ、木を切っては弓を作って。20年くらいそうして過ごしていたな。

 君に会わなかったら、死ぬまでそうして生きただろう」


「私が()()()()()()()()()()()、ここまで来ると、全てがそうなるように動かされている感じです」


「俺もそう思う。それでも、現実、君に出会ってから。一変したっていう意識は残る」


 ニッコリ笑った龍の民に、自分と同じくらいの年齢であることを、イーアンはじんわり感じる。

 一つ違いだから当然なのだか、顔の表情や皮膚の皺、年齢が現れる手の甲など、見て分かる()()()()()にしみじみする。


 40代も半ばで突然、人生が方向転換した。いい加減、世の中に期待もしなくなった年齢で、ある日、子供のような好奇心と勢いを掘り返されるような、踊る運命の輪の内に、吸い寄せられ、飛び込んだ自分たち。


 ――若くもないのに。この年で何が出来るの。今から新しいことを。


 戸惑いながら、受け取りたいものも、受け取りたくないものも、自分を変えながら、腕の内に抱えて進んだ変化。


 これまでの自分が積み上げた、自分への評価も、自分を理解した視線も、他者や世界を自分なりに受け止めてきた、嫌でも何でも馴れさせた感覚も、自分が自分らしく生きられるように、少しずつ築いた居場所も、まっさらかなぐり捨てる、そんな速度で――


「気が付けば、今は()()()


「そうだね。俺も空の上で『角の生えた尻尾付きの女』と話しているなんてな」


 二人は、明け方の金色の光の中で笑う。


「イーアン。学んだことは、力の使い方と()()の過去と、男龍たちの未来について?」


「そうですね。もっと細かく聞いていると思いますが、大きく分けると」


「この旅の続きは?」


 オーリンの黄色い瞳には、朝の光が透き通る。イーアンは彼の目を見つめ『分からない』と首を振った。


「男龍たちの未来については、先ほども話しましたが『こうすると、こうなるでしょう』といった話だったのです。

 でも、私たちの未来については、彼女も話しませんでした。それは、彼女が知っているとしても、話すことではないのかも」


「深追いしない方が良いんだな。俺たちは()()()で行くから」


()()です」



 オーリンは理解した様子で頷くと、女龍の肩を組んで、顔を覗き込む。じっと鳶色の瞳と、その目を縁取る黒い睫毛、黒い螺旋の髪、紫がかった半透明のような白い肌を、注意深く見つめる。


「どこも、似ていないんだ。だけど、俺と君はいつも」


「はい。兄弟のよう。私もそう思うのですよ」


 ニコッと笑ったオーリンは、女龍の頬にちょっと顔を寄せてから『角が良いか』と笑って、角に軽くキスをした。笑うイーアンは『それなら安全』と答えて、頬は止めた方が良いとも教えた。


「何で。総長が怒るから?君も嫌そうだけど」


「ビルガメス達がそうして口付けしますとね、この辺ぜーんぶ埋まるの。よだれ、ぶちゅって感じです」


「ああ、あの大きさだから」


 イーアンは自分の頬を指差してぐるっと円を描き、よだれ付くんだ、と言う。真顔で言うから可笑しくて、オーリンは『拭けば』と返したが、『拭くと怒られる』の答えが戻り、ゲラゲラ笑った。


「だから。止めておいた方が良いです。乾燥して、膜張ってるから(※いつも)」


「そうか。総長は、男龍大好きだからな。全く問題なさそうだ」


 うん、と無表情で頷くイーアンに、いつまでもオーリンは笑い、笑い過ぎて腕を叩かれた。



「じゃ、そろそろ行くか。ミレイオが食事作り始める頃だ」


「そうですね。さて、ザッカリアが()()()()いそうなのですが。知りませんか」


 ザッカリア?オーリンも分からないので、何のことかと訊き返す。イーアンは首を傾げ『このイヌァエル・テレンのどこかに、彼がいる気がする』と教えた。


「今は分かるのです。イヌァエル・テレン限定かも知れませんが、この空の龍気に、彼のいる感じがあります」


「鈍かったのに・・・怒るなよ。凄いな、そうかよ。じゃ、俺を呼んだみたいに、呼んでみたらどうだ?

 君は、ルガルバンダが俺を呼ぶ時みたいにしたぞ。ザッカリアにも通じるんじゃないの」



 うーんと唸って、イーアンは試みる。


 方向は分からないが、どうしても『ザッカリアがいる』ようにしか思えない。オーリンを呼んだように、目を閉じて、ザッカリアの名を呼びながら彼を思う。彼の動き、彼の顔、彼の存在。


 反応を待ちながら、少し間を開け、十秒ほどで繰り返すこと5回目。頭の中に、ザッカリアの『うん?』イーアンはハッとする。


「どうした。応答あったか」


「あの子。龍ですよ、呼応がありました。あれ?え?龍だったの?」


「違うだろ、龍じゃないぞ。『龍と混ざった』ことがあるが」


 それだ!叫んだイーアンは、驚いた顔でオーリンを見る。呼応は龍でしか出来ないはずなので、それが戻ったことは(すなわ)ち。



「龍の島ですよ。彼は、龍の島にいるんだわ」


「本当かよ。ガルホブラフ、いたか?」


 二人に寄りかかられているガルホブラフは、友達を見て、軽く頷く。早く言えよ、とオーリンが眉を寄せると、無視した。


「いつから龍だったんだろう。でもとりあえず、迎えに行かなきゃな」


「そうしましょう。誰か、男龍も呼びます。もし龍だったら、私に扱い方分かりません」


 二人は腰を上げて、オーリンは龍に乗り、イーアンは翼を出す。そして龍の島へ向かう間に、イーアンは一番近くにいる男龍(※誰でも良いから)に『龍の島へ来てほしい』と呼びかけた。

お読み頂き有難うございます。


本日は、朝1度の投稿です。仕事の都合により、夕方の投稿がありません。

度々ご迷惑をおかけして申し訳ありませんが、どうぞよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ