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魔物資源活用機構  作者: Ichen
新たな脅威の調べ
1231/2964

1231. 白い洞窟群

 

「話しそびれたな」


 後で話すか、とヨーマイテスは呟く。ウシに揺られる体内で、シャンガマックは昔話を聞き終えた後、父の言葉に『あ、そうだった』と一緒に思い出した。



「すっかり忘れていた。魔物の質が変わったことと、あの道をヨーマイテスが()()()くれたことを、言わなきゃ」


「魔物の質が変わったのは、まぁな。いつ教えてやっても良いと思うが。

 俺が()()()ことは早く話すべきだった(※感謝対象と思う)。通り過ぎたら、恩恵も薄れる・・・あいつらは、あの崖で転落するところだったのに。感謝どころか、喚かれて不愉快だ」


「ミレイオは、仕方ないよ。ミレイオとヨーマイテスは、相性が()()()良くなさそうに思う」


「相性?そんなもの、あるわけないだろう!あいつ相手に、どれだけ俺が面倒だったと思うんだ。

 ミレイオは女みたいだ。煩く小さいことで喚いて、よくあんなに喋るなと、毎度うんざりする。何かにつけ、ああ言えば、こう言うだろ?お前と大違いだ」


 はーっ、と大きく溜息をついて、腕に抱えた息子を抱き直す(※縫いぐるみ状態)。


「お前が息子で俺は救われた。本当だぞ」


「有難う。ちょっと複雑だけど、でも俺は息子にしてもらえて良かったよ」


 道の修復については、後で俺が話しておく、とシャンガマックが言うと、ヨーマイテスは無表情で頷き、息子の頭をナデナデしていた(※ひたすら可愛がる)。


 シャンガマックは、ここへ来るまでの道を思い出す。


 実はウシ。洞窟地区近くに浮上した。馬車が来ていないから、戻った形で道を辿り、それで旅の馬車の前から来たような具合。

 洞窟地区近い場所から、旅の馬車が通る道は、穴のような陥没が目立ち、いくらなんでもこれは通れないぞと、ヨーマイテスが一旦、影の中を伝って地中を動き、道の陥没に土を加えた。


 父が道を直している間は、ウシと待機していたシャンガマック。戻ってきた父に『もう平気だろう』と教えてもらい、それから馬車に会いに進んだのだった。


 陥没の理由は、『これから分かる』。皮肉そうに笑った父の言葉から、()()()()()によるものかと感じた。




 昼頃――


 洞窟地区一歩手前で、馬車は昼にする。洞窟地区の白い地面は始まっていて、見える全ての土が白い。ここから続く道がまた狭くなることから、馬車を停めるところがないため、手前で昼食。



 父に『行って来い』と促され、シャンガマックは皆に参加し、食事を受け取って久しぶりに仲間との会話を楽しむ。

 ザッカリアがいない理由、イーアンがいない理由、ロゼールが来た理由。全部を聞いて、自分の現状を伝え、それから父の道の修復の話と、これから出会う魔物についての懸念を話した。


 皆は、道の修復にも、魔物の質が変わったことを告げた彼にも、思いがけない内容で驚き、シャンガマックにあれこれ質問した。シャンガマックも分かるところは、何でも答えた。


 魔物の質が変化したことは、皆が感じていることでもあり、今後の注意点だと話し合う。


 シャンガマックは総長に、一昨日の魔物はどう倒したかを訊ね、彼の動きと相手の様子を聞き、それに魂消た。『まるで、イーアンみたいなことを!』と驚き笑った部下に、ドルドレンは苦笑いで首を振り『まだまだ足りない』と悲しそうに答えた。


「でも。その方法が()()()。それは大きい意味の知識ですよ。魔物と似たような方法でも倒せる。それは大切な最初に一歩です。民間人にもやはり、教えた方が良いです」


『魔族』の名は出さなかったし、『相手は成長未熟の可能性あり』とも言わなかったが、シャンガマックにとって、総長の必死な試みは、魔族に対し、充分()()()()()()の一つに感じられた。



 それから、昼も終わる頃。シャンガマックは『洞窟の精霊に歓迎されていないかも』そのことも伝えた。

 総長に『クスドからもらった鱗を用意しておいて』と頼み、ここからは、シャンガマックも馬車に乗ることにした。


 ヨーマイテスに伝え、渋々、了解してもらい、シャンガマックは久しぶりに荷台に移動。

 喜んでくれるロゼールとフォラヴと一緒に、本当に久々、僅かな時間とはいえ『支部にいる時のような日常』の一片を、過ごす。


 ()()()()()()()を、父に聞いた後であっても―― シャンガマックは、今この時間を大切にした。



 馬車が出発してから、数十分後。

 前の馬車が速度を落とし、寝台馬車もそれに合わせて速度が落ちた。『洞窟地区よ』と御者のミレイオの声が聞こえ、寝台馬車の3人は外を見た。


 そこは、右手側に真っ白なすり鉢状の景色が広がり、そのすり鉢には、黒い穴がいくつも見える。穴は屋根を持つように隆起していて、凹んだ下ろし金に似た印象。


 下りる道はなく、馬車を寄せるところもない。馬車は通過することを躊躇いながら、ノロノロと進んだ。通過してしまいそうな場所まで来て、一旦、手綱を引く。


「どこから下りるのだろう」


 呟いたドルドレンは、右手方面一帯が、かなりの角度で傾斜している様子を見つめ、『とてもじゃないが下りられない』と困る。


「困りましたね。ここは多分。ちょっと離れた場所に馬車を置いて、歩きかも知れないです」


 バイラは、自分の馬で駆け下りるにしても怖い、と総長に言う。ドルドレンもそう思う。馬だけでも、足が取られそうで心配がある、穴も開いた硬そうな白い地面。


「ドルドレン。道はないと、ムバナの町で聞いたぞ。直には下りれない」


 止まった馬車から出てきた親方が、御者台の横に立って『道を通していない』ことを伝える。

 こうなるとやはり、先まで進んでから、馬車を置いて出かけるしかないのかも、と話し合っていると。



 荷馬車の前を歩いていた仔牛が・・・(※イヤな予感)トコトコ歩いて近寄ってきた。


 思った通り。仔牛はドルドレンの側まで来て、口を開けると、低い声で『何をボケっとしてるんだ』とケチをつけた。

 可愛い見た目の仔牛が、可愛くないことを重い声で言うものだから、タンクラッドもちょっと引くが、とりあえず、停止した事情を伝える。


「馬車が下りられない以上、通過するより(ほか)ない。どこにも道がないから」


()()()()()()奴らだ」


 親方の声を遮って、仔牛は可愛くない言葉を続ける。眉を寄せるタンクラッドに、止まった馬車を下りてきたシャンガマックが横に行き、解説を手伝う。


「ホーミットは、()()()()と思っていないんです。言い方はその、少し気になるかも知れないけれど。ホーミットは、下りる方法を知っています」


「バニザット、俺の言い方が、気になることなんかないぞ。奴らに合わせるな(※父は自己中)」


 仔牛が注意したので、シャンガマックは笑って『そうだね』と答える。


 気分を害したような仔牛の文句を、軽く()なしている部下を見つめ、ドルドレンはしみじみ『俺の部下は、変わっている者が揃っている』と実感する。

 それは親方も同じ。総長の部下は、誰もかれもが()()が違う、と思う。


「うーむ。では。ホーミットに任せる。下りないと話も聞けない」


「仕方ない。俺が、お前たちの言うことを聞くなんて、そんなことはしなくたって良いんだが。バニザットのためだからな(※ここ大事)。お前たちも()()精霊に会わせてやる(※上から)」


 一々、けち臭い上に、上から目線の言い方。


 知っているけれど―― ドルドレンもタンクラッドも(※横にいるバイラも)『彼はどうして、こんなに性格が歪んでいるのか』と、今日も感じる。会うたびに感じる。ミレイオが無理なわけだと、それも実感する。


 でもシャンガマックは、ニコニコして『有難う。皆のために』と喜んでいた(※父好き)。



 こうして、ホーミットが力を貸してくれることになり、彼と相性が抜群に悪いミレイオは、絶対に近づかないよう、タンクラッドがミレイオの側に付く。シャンガマックは、ウシに戻る。


 ドルドレンは、どうにか耐えられる範囲なので(※いろんな人いるから、と思う)さばさば性格のバイラと共に(※こっちも人生経験豊富)生意気な仔牛(?)の指示に従う。


「ドルドレン。いいか、最初に教えておこう。攻撃されたら、かわせよ」


「攻撃?『歓迎されていないかも』とは、シャンガマックにも聞いたが」


()()()は、お前たちに会いたいわけじゃない。誰でも歓迎してくれるわけじゃないんだ。だが、攻撃し返すな。(こじ)れる」


 ホーミット仔牛はそう言うと、馬車の前を少し歩き、右側斜面の極端に(えぐ)れた場所へ踏み出す。


 それを見たドルドレンがすぐ『そこは馬車では無理だ』と大声で知らせると、仔牛は頭を、くいっと向けて『黙って見ていろ』と可愛くない返事を返した(※ドルの目が据わる)。



 仔牛の体はそこそこあるにしても、抉れた箇所に下り始めると、そこに隠れて見えなくなった。


「あれは。あのウシの大きさだから、通れるのでは」


 バイラの心配そうな呟きに、ドルドレンも同じことを思う。『どうする気なのだろう』彼は見ているように言ったが、特に何が変わったわけでもない。


 少し待っていると『早く来い』と怒鳴られた。バイラとドルドレンは苦笑いで顔を見合わせ、仔牛の消えた抉れ場所まで進んだ時、目を丸くする。


「さっさと動け。お前たちの目に映らないだけだ。俺が()()()やっている間に、通れ」


「こんな場所が」


 驚きながらも、ホーミット仔牛に叱られたので、バイラは馬を動かし、イライラ仔牛の立っているところへ進む。ドルドレンもビックリしながら、手綱を取って馬車を進ませ、()()()()()()()()へ。


 まじまじ見ながら通るそこは、広い坂道で、坂道は舗装され、仔牛の下りた(えぐ)れた場所ごと、石畳の緩い坂に変わっていた。

 石畳の広い坂道は、すり鉢の洞窟群の前に渡されていて、大きな螺旋を描きながら、すり鉢の壁に沿って下方へ続いていた。



「私たちの目に映らなかった・・・そう、彼は言いましたが。これは。もう自然洞窟群には思えません」


「本当だな。まるで一つの、風変わりな町のようだ。洞窟が住まいの入り口で、石畳が渦を描いて」


 バイラは総長を振り向いて『こんなに立派な道を、()()()()()()()()()にしている理由と、()()()()()()理由は何でしょうね』と不思議そうに訊ねた。ドルドレンも想像もつかないので、少し笑って首を振る。


「行けば分かる。話を聞くんだろ」


 ホーミット仔牛は、二人の会話にざくっと切り込みを入れて、苦笑するバイラに『お前じゃ無理だが』と少し理解するような言い方をした。

 バイラが、何のことか?と思って仔牛を見ると、可愛い顔の仔牛は先を歩きながら『()()()見えるはずもないんだよ』と渋い声で教えてくれた。


「そうなんですか。では、ミレイオやフォラヴだったら」


「あいつらなら・・・ミレイオはどうか分からん。『妖精』なら、見えたかも知れない。しかしまぁ、まだ()()()()みたいな妖精だから」


「そんな言い方をしないであげてくれ。フォラヴが気にする」


 仔牛の呟きに、シャンガマックの声が注意する声が混じり、仔牛は黙る(※息子に弱い)。バイラも総長も、ちょっと笑いそうになったが、顔を伏せて我慢した。それに気が付いたか、仔牛はさっと振り向いて命令(※笑われるのキライ)。



「もうじきだぞ。しっかり、()()()よ」


 ハッとするバイラとドルドレン。

 緩い傾斜の白い石畳に、ホッとして進んでいたが、その注意を合図のように、ボンッと音がして飛んできた石を凝視。


「バイラ、走れ!」


「馬車は?」


「守る!お前は走れ!」


 ドルドレンの叫び声と一緒に、バイラは馬を走らせて下へ向かう。ホーミット仔牛も、逃げるようにタカタカ走って付いて行く(※息子の安全大事)。


 ドルドレンの声に反応した後ろの職人が出て来て、ミレイオとタンクラッドが馬車の側面に立つ。

 飛んできた石は馬車を威嚇するように、上を(かす)めて洞窟の一つに投げ込まれる。それを見たタンクラッドは剣を抜いた。


「ダメだ、タンクラッド!攻撃してはいけない」


「ぶつかるぞ!何なんだ、こいつは」


「ミレイオ、タンクラッド。これが精霊だろう、攻撃せずにかわしてくれ」


「どうやって?うわ、また飛んできた!」


 下方の洞窟のどこかから、ボンッと再び音がして、岩石が馬車をめがけて飛ぶ。ミレイオは瞬時に、力を出して岩石を空中で砕いた。

 砕けた石の破片が、バラバラと落ちてゆくのを見て、ドルドレンは『ミレイオ!』と頼むように注意する。


「『かわす』って、これくらいはさせろ(※豹変ミレイオ)!」


「あ~・・・ま、そうだな。では、そのくらいで」


 やりようねぇぞ、と少し怒っているミレイオに、それもそうかと頷くドルドレン。タンクラッドも困惑がちに剣を抜いたまま、『()()()()()だけなら、良いんじゃないのか』の意見を出す。


「分からないのだ。これでも『攻撃し返している』と見做されたら」


「思わないだろう。防御だ、こんな程度。お前も剣を持て」


 親方は、ドルドレンにも剣を持つよう指示。仕方なし。ドルドレンも剣を出して抜く。


『馬車を守れよ』親方はそう言うと、次に飛んできた岩石二つの内、ポンと跳んで一つを叩き切る。ミレイオがもう一つを潰し、さっと顔を下に向けた。



「連続か。頑張れよ」


 青白い隈の浮かんだミレイオの、うんざりした顔が、一斉にぶちまけられるように弾けた、岩石の群れに向けられた。

お読み頂き有難うございます。

今回で2度目のスフレトゥリ・クラトリ同行(二度目だったような・・・)。

鎧牛から仔牛に変わるので、仔牛の絵を描きました。




   挿絵(By みてみん)




ホーミット仔牛、と皆が呼んでいる、仔牛状態のスフレトゥリ・クラトリ。

シャンガマックも中に入っていますが、主に喋るのはヨーマイテスなので、この仔牛が意見しています。

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