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魔物資源活用機構  作者: Ichen
護り~鎧・仲間・王・龍
123/2943

123. 出会う

 

 そんなこんなで朝は最高だった。

 昨日は大変だっただけに、よく頑張ったご褒美かもしれない、と素直に感謝する。



 明け方も時折、腕に抱く温かで柔らかい素肌を堪能した。何度でも良いんじゃないか・・・と思うが、あんまりすると変態扱いされて嫌われそうなので、そこは自粛する。


 夜明けの薄光で見えるイーアンは、当人が気にするように、少しは瞼も腫れているが――


 彼女はもともと微妙な二重だし、ちょっと一重が重く見えるくらいなら、そんなに気にしなくてもと思える。泣き腫らすと大変だ、とそればかり気にして困っていた。だが、眠っている時は可愛いものだ。


 このまま、俺の腕の中で眠り続けても良い。誰かに伝言を頼んで(※扉は開けない)、今日は2人きりで部屋に閉じこもっても()()のような。 ・・・・・ありだよ。 昨日は本当に危機だと思ったんだから。



 そんな幸せに浸るドルドレン。


 愛する人との危機を乗り越え、自分が寝ている間に、愛する人から自分を求めて、ベッドに入ってくれたこと。その後は言葉通り、身も心も絶頂の時間をもらった。



 もう、誰にも会いたくない。 今日は2人っきりで、お互いの声しか聞かないで過ごしたい。イーアンの顔だけ見れたら最高だ。瞼が腫れようが顔が腫れようが、イーアンはイーアン。可愛いから構わない。


 そんな妄想に耽りつつ、ドルドレンは早く結婚したくて堪らない衝動に身悶えしていた。




 目の覚めたイーアンは、自分をじっと見ている灰色の瞳を最初に見た。嬉しそうで、優しい目。


「おはよう」 「おはようございます」


 温かな唇がちょっとキスして、微笑みの中で挨拶が交わされる。この人を疑った自分が、本当にどうしようもない被害妄想、とイーアンは改めて情けなくなる。


 ドルドレンの大きな手が、イーアンの顔にかかる髪をそっと耳にかけ、頬に置かれる。熱いくらい温かい。その気持ちよさに目を閉じる・・・目・・・ 目?


「あ、目!」


 慌てて顔を隠すイーアン。 ――やばいわ。腫れているのよ、蜂に瞼刺された状態よ。この明るさではまずい。



「イーアン。大丈夫だよ。そんなに隠すほど変わっていない」


 上掛けの上から頭を撫でるドルドレンが、少し笑って励ます。そうなの?と思うものの、手元に鏡もない。風呂場へ行けばあるけれど、ここの鏡はあまり鮮明じゃないので、自分の状態はちゃんと確認できない。


 うーん、うーん、と唸るイーアンに、ドルドレンは笑い声を漏らす。『大丈夫なのに。でも気になるなら食事はここに運ぼう』と服を着始めた。



 ここでドルドレンは思い出す。


 今日から()()()()がいるんだということを。

 下手に部屋から出て、鉢合わせてまた面倒な事になったら、せっかくの仲直りに水を差すかもしれない。



 ――ここは使いだな。



 扉を開け、『おい。誰かいるか』と少し大きめの声で声を掛けると、まだ部屋にいる騎士が数名、自室から顔を出した。


 ドルドレンは彼らを呼んで『イーアンの体調が良くないので、食事を持ってきてくれないか』と伝えると、集まった騎士たちは『ああ・・・昨日大変だったんですよね』と総長をじろっと見てから、『良いですよ。可哀相に』とあてつけがましい言い方をして食堂へ行ってくれた。


 ドルドレンは複雑な心境だったが、これは数日、甘んじて受けねばならないと自分に言い聞かせる。



 間もなく、朝食を運んだ騎士が来て、ドルドレンが礼を言って受け取った。『イーアンに、無理しないでとお伝え下さい』と部屋に聞こえる声ではっきり言われ、嫌な気分でドルドレンは目を逸らす。


 ともあれ、イーアンとの朝食は、無事に部屋で食べることが出来た。


 イーアンは確かに、普段の目よりもぽてっとした感じだが、まぁそんなに本人が言うほど見れない顔ではないと思う。頬や鼻などは別に変わりもしないし、単に瞼が気になるのだろう。

 しかし、これほど泣かせてしまった事は、ドルドレンの中で大きな教訓になって残った。



 食べ終わると、イーアンは『今日は工房へ行かないと』と言う。毛皮を柔らかくしなければいけないらしい。アティクが手伝ってくれる、と話すが、『ん? アティクは顔を見られても良いの?』とドルドレンは内心思った。


 ダビとシャンガマックには、もうちょっと待ってもらって、明日、顔が復活したら・・・・・と一人で喋っている。彼らには顔を気遣うのか。 アティクは?彼は論外?分かる気もするが。


 結局、イーアンはドルドレンに『食事以外は工房にいるつもりだから』と、アティク以外の人の訪問がないよう、外で誰かに会ったらそう伝えて欲しい、と頼まれた。


 ・・・・・アティクの存在は一体。 疑問だが、聞かないことにした。思うにイーアンの中では、動物とかと一緒なんだろう、と決定する。この対応は【男や人間の枠以外】な気がする。



 イーアンはチュニックに着替えた。ドルドレンが困った顔をしても『作業は汚れるもの』と言うので、仕方なく許可する。汚れる作業が済んだら着替えるように、とは言っておく。


 本当なら、一日部屋に二人で籠もって・・・と言いかけたが、休みでもないし、多分誰かしら自分を呼びには来る。イーアンが工房に籠もる(※顔のため)のも間違いなさそうだし。


 溜息をついて『近いうちに休みを取って、どこか出かけよう』とイーアンにキスをした。イーアンは微笑んで『そうしましょう』と答えた。



 二人は部屋を出て、ドルドレンはいつも通り『昼に迎えに来る』と工房前でイーアンを抱き締め、『今日は裏庭で演習指導だ』と教えた。


「もしかしたら、表で作業してるイーアンを見に来れるかもな」


 ドルドレンはイーアンの額にキスをして『疲れないように』と微笑み、イーアンの頬を撫でてから仕事に向かった。




 最初に暖炉の火を熾したイーアンは、昨日描いた絵を見つめ、時間があったら簡単に額を作って飾ろうと考えた。ドルドレンに見せて、自室の壁に掛けたい。


 それから窓を開けて表を見ると、冬も最初の方だからか、毛皮は凍っていないと知る。凍るほど寒かったら外へ置けとは言わなかったかも、とアティクの判断に感謝した。加工中の毛皮は凍ってほしくない。

 アティクが来るまでどれくらいの時間が要るのか分からないので、とりあえず始める事にした。


 手が冷たくなるので、予備で持ってきていた革の手袋を着けて、青い布を羽織り、窓から外に出る。



 畳まれた毛皮を一枚広げ、自分の胸くらいの高さの杭を使って、皮を柔らかくする。左右に引き、全体を杭にこすり付ける。 ――これが一番きつい作業かもしれない、と思うが。魔物は全く・・・大変でもない。


 この前の毛皮もだが、以前の世界の動物に比べれば鞣しはずっと楽に進む。これは助かる、と有難く丁寧に作業を続けた。

 鞣革だともっと頑張らないといけないけれど、これは毛皮で使用する。そこまでこの作業を粘らなくても大丈夫だと思う。



 湿っているので、少し離れた草の上に広げて置く。1枚、2枚、3枚、と並べて、終わった順に並べると、少しずつ、草むらが魔物絨毯の状態に変わっていく。ちょっと可笑しくて、フフ、と笑った。


「ね。それなあに?」


 後ろでハスキーな声がした。イーアンの工房の後ろ・・・というか、工房は建物の端なので、横側から声をかけた人が現れる。振り向いたイーアンは目を丸くして、その人を見入った。


 ニコニコしながら、茶色い艶のある長い髪を揺らして、こちらを伺うように背の高い()()()が近づいてきた。



「昨日もここにいたでしょ」



 イーアンよりも20cmくらい背が高い。180は越えている身長。化粧をした肌理の細かい白い肌。美人という名詞がこの人にある気さえする。赤いような茶色いようなオレンジ色の瞳で、赤い唇を優しそうに微笑ませている。

 ビックリしているイーアンのすぐ近くに立って、イーアンを見下ろし、殊更微笑んだ。


「あなたの名前。聞いても良い?」


 後ろで手を組んで、首を傾げる()。これがハスキーで低いけれど、自分の声より女の人みたいな気がする。


「イーアンです」


 ごくっと唾を飲んで、イーアンはどうにか答えた。本当に男の人なのか、近くで見ても全然違和感がない。

 彼は目をちょっと大きく開けて『イーアン』と名前を繰り返した。



「私。ハルテッド。ハイルとかハールでも良いのよ。兄もいるけど、彼は後で自分から名乗るでしょ」


「はるてっど」


「そう。昨日ここへ来たの。総長の子供時代の友達で、騎士に志願したから北西の支部に少しいることになって。イーアンは女の人で騎士なの?」


「いえ。騎士ではなくて保護された者です。私はあの」


 どう、自分のことを紹介してよいか分からなくて、イーアンはきょろきょろしながら、言葉より何か見せたほうが早いのかと見回した。その様子に、彼は少し笑った。


「あなた、可愛いわ。多分年上よね。可愛いって言われたら嫌かな。ねぇ、この髪って天然?」


 仕事から髪の毛の質に話題が移る。話題の飛び方が女性並みで驚く。

 言葉もなく固まり続け、頷くイーアンに、ハルテッドはちょっと考えてから、すうっと手を伸ばして髪の毛を触った。



「ごめんね。勝手に触って。本当だ、柔らかい」



 ――この人。この人って。女の人じゃないのよね?そうよね?誰かそうだと言って。女の人みたい。


 ハルテッドの距離が近いが、全く男の人に思えない。胸(作り胸とは聞いたが)があるし、顔が綺麗だし、腰の辺りなんか男じゃないみたいで。

 彼はそんなイーアンを気にもしないで、腰を屈めてイーアンを覗き込み、思いつくまま質問をする。


「あんまり女、女、してないよね。素敵だけど、でも化粧はしないの?」 「持っていないです」


「化粧品持っていないの? ああ、この辺は店ないからか。化粧したら、もっと綺麗になりそう」 「いえ。似合わないです」


「体が細いのね。あれ?それ絵じゃない?」 「はい。体に4つあります」


「え~、面白い。私の友達にいるけど、この国の人じゃないの。イーアンもよね」 「はい(世界が違うとは言えない)」


「見ても良い?」 「胸ないから見せるの抵抗あります」 「ちょっとだから」 「そのうち」


「うん。じゃそのうち。ねぇ、今仕事中?」 「はい。毛皮を加工して」


「イーアンは戦う?」 「いいえ。私は見ているだけで」 「一緒に行くの?」 「そうです」



 いくつかの質問の最後。うん、と何かを納得してハルテッドは体を起こした。


「ドルドレンが相当大事にしているから、どんな人だろうと思ったら。なるほど、変り種」


 ――変り種って。誉め言葉として、それはどう喜べば良いのか。 


 イーアンはどうして良いか分からなくなり、この人の表現に笑ってしまった。目を細めたハルテッドが、自分の顔にかかる髪の毛を耳にかけ、ニコリと笑った。



「イーアン。気に入った」



お読み頂き有難うございます。

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