1228. 別行動:情報先送り・脇役ロゼールの範囲
※申し訳ございません。本日もこの回、朝一度の投稿です。仕事の都合で、夕方の投稿がありません。
どうぞ宜しくお願い致します。
洞窟に、朝日が差す頃。シャンガマックの胃袋が鳴る。
喉が渇いて、寝ぼけたまま、手をパタパタ動かす。手に当たった革袋を掴み、ゆっくりと目の開いていない顔に引き寄せ、栓を取って水を飲んだ。
光が当たる場所に寝ている、と分かる時間だと、獅子は既に暗い奥に移動して、自分一人で目覚めることになる。
暖かい日差しを受けた顔を擦って、少しずつ目を開け、眩しさにまた目を閉じる。
「うーん・・・寝過ぎたか」
「そうでもない。お前は昨日、頑張っただろう。好きなだけ眠れ」
「おはよう」
暗い奥から聞こえてきた低い父の声に微笑み、洞窟の入り口の光の中で、シャンガマックは朝の挨拶。
「おはよう、バニザット。腹は空いていそうだな」
父の声にハハハと笑って、騎士は頷くと『そうだね。ちょっと。鳴っていたな』と答え、片肘をついて上体を起こす。
「でも大丈夫だ。最近はたくさん食べさせてもらっているから、体が慣れてしまった。そこまで、腹は空いていないよ・・・今日は出かけないといけないから、もう行くか」
「ドルドレンに知らせる、あれか」
あれ?と、父の返事に止まる。目を擦って、暗い場所の父を見ようと目を凝らすと、向こうで手招きする獅子が見えた。
立ち上がってそちらへ行き、獅子の寝そべるお腹の辺りに腰を下ろすと、獅子は息子に伝える。
「ちょっと待つか。あの話」
「どうした?何かまた、違うことが分かったのか」
「そうとも言えるし、そうでもないとも言える。何だか俺も、よく分からないことが起きている」
「何が?話してくれ、総長たちに」
驚いた息子の頭に、大きな肉球をぼふっと乗せると『話すから慌てるな』と止め、息子が肉球ナデナデをしながら心配そうにする顔を見つめた。
「今。あいつらの馬車に、もう一人いる。そいつが誰だか、俺にはさっぱり分からん。ドルドレンたちの自然な様子から、多分知り合いだろう。旅の仲間じゃ、ないな」
シャンガマックは、誰の話かと、目を丸くする。
この前・・・蟲の魔物を鍾乳洞で倒した時、総長もミレイオも、何も話していなかったが。あの時は、そんな事態じゃなかったからか。
「そのくらいなら別に俺も知ったことじゃないから、気にもしない。旅の仲間じゃないやつは、バイラもそうだろ?ミレイオも本来は違う。まぁ、そんなことも、今回はあるようだろうから。
ただな、どういうわけか。新しく馬車にいるやつは、コルステインの家族と一緒に動いている。こうなってくると、下手に近づく気になれない」
「コ。コルステイン・・・家族?あの、津波の日に見た彼らか?青い炎の」
「うん?俺はその日は知らんが、そうだな。青黒い炎に変わる。コルステインよりは範囲も狭いし、強さも劣るが、全員、似た能力を持っている。
あの家族全員と、その新しいやつがな。何だろうな・・・何かあったのか」
「どんな関係なんだ。使われているのか?それとも知り合いとか」
「どちらにも思えるな。あの家族が一緒に、中間の地に上がること自体、珍しい。そこにあいつもいて、一緒に動いた。あれだけ大きいサブパメントゥの気が動けば、離れていても分かる」
一度、ここで黙る父の顔に、何か行きたくなさそうな感じが見え(※獅子顔つき変わらないはず)シャンガマックは訊き難いけれど、大切な事だけは押さえることにする。
「そうか。ヨーマイテスが動きを考えるくらいのことであれば、俺は反対しない。
だけど、総長たちに魔物の『種』の話を伝えるのは、早い方が良い。今日また、出遭わないとも限らない」
倒し方は分からないけれど、情報があれば違うと、騎士が言うと、ヨーマイテスもそれは分かっているようで、少し頷いた。
「今日はよそう。明日あたり、あの洞窟の精霊の話が出た場所に、ドルドレンたちは着くだろう。
その場所にいる精霊には、お前を合わせてやろうと思っていたんだ。どうせ明日は連れて行くんだし、その時でも良いだろう」
「有難う。でも、どうなんだろう。明日はその・・・コルステインの家族たちは」
「さぁな。これまでなら、日中に動く心配はなかった。俺もこんなに、昼間動くのは最近だ。
だが、あの家族が丸ごと『出て行こう』とする誰かがいるとなれば、話は別だ。日中でも、もしかすると、影伝いに出ようとするかもな」
「ヨーマイテスは、コルステインたちに会いたくないんだな?」
そうでしょ?と一応、確認。獅子はきちんと首を振った(※イヤ)。
何かがイヤなんだろう、とそれしか分からないが、父は単独で生きてきたのもあるし、嫌がることをさせたくはない。
フカフカ・ふわふわの鬣(※最近洗ってるから)に片腕を突っ込んで、首ら辺をナデナデよしよし、しつつ、シャンガマックも小さく頷きを繰り返し、それは仕方ないかと了解する。
「お前の気持ちに、俺は沿えないな」
いつも、何も言わずに頷いてくれる息子に、獅子がちょっと遠慮してそう言うと、息子はニッコリ笑って鬣に埋もれ、ぎゅうっと抱き締め『いつも沿ってくれている』と感謝を伝える。
無表情に『そうか』と呟いた獅子の尻尾は、バッタバッタ左右に振られていた(※大嬉)
*****
旅の一行は朝食後に出発。洞窟地区を目指すので、まずは道を正す。
大きく逸れてしまった場所から、洞窟地区へ向かう方が距離的には早くても、目的が増えたので、ひとまず馬車を戻す。
戻ってきたそこは、龍になったザッカリアが倒しまくった黒い地面。そこかしこキラキラしている。
馬車の手綱を引いて止め、『着いたよ』と、後ろに声を掛ける御者のドルドレン。
「タンクラッド、ミレイオ。ここは」
「着いた~?わーお、すっごい!タンクラッド、早く!袋よ、袋!」
「お前も持てよ・・・おお、想像以上だな。よしよし」
中年二人(※宝に滅法弱い人たち)は、少年のようにはっちゃけて、大喜びで袋片手に走っていく。
「元気である。宝と見れば」
「あの二人は、中年に思えません。馬車から飛び出して、颯爽と駆けてゆく姿に、満面の笑みが輝いて」
ドルドレンとバイラで苦笑いしながら、二人の中年のはしゃぎっぷりを眺める。
笑われようが何だろうが、目の前のお宝相手に余念はない。ミレイオもタンクラッドも笑顔丸出しで、がさがさ袋に入れて、嬉しい悲鳴を上げ続ける。
「ハイザンジェルにも送らないとな。馬車に積みきれないから」
「バッカねぇ。私がいるじゃないの。私の地下の家に入れておけば良いわ。トワォの海底僧院だって、そうだったでしょ」
「お前に渡すと、知らない間に選別されそうだ」
「失礼ね!そんなことしないわよっ」
黒い宝石をかき集める二人は、いつも通り言い合いを始め、しかし喧しくても手は動かす(※作業は続けられる)。
平和に見えるその風景に(※慣れた)ドルドレンとバイラは、彼らの働きっぷりを眺めつつ、洞窟地区の話をしていた。
洞窟地区は明日には通るだろうと、バイラが道順を確認しながら話していると、寝台馬車の後ろからロゼールが出て来る。停まっている馬車と、騒がしい表(←中年宝集め)に何かと思って起きたらしかった。
「おはようございます。すみません、遅くなって」
前の馬車の総長と、横に馬を付けているバイラに挨拶し、前方の地面にへばりついて言い合いしている、二人の職人を見つめ『あれは』と不思議そうに呟く。
「うむ。彼らは仕事中だ(?)。仲の良さは、あの通りである」
「あれ、喧嘩していませんか?どうしたんです」
「いつもあんな具合なんですよ。二人で買い物に行くと、もっと凄いことになりますよ」
バイラも笑っているので、タンクラッドさんとミレイオはあれで仲良し・・・と理解した。どう見ても、喧嘩しているようにしか、思えないんだけれど。
ボーっとしているロゼールに、総長はちょっと彼を見つめてから『横に座れ』と命じ、脇に置いてあった朝食の包みを渡した。
「あ。すみません、手間かけさせちゃって」
受け取った包みから、朝食の煮込みを挟んだ平焼き生地が出て来て、ロゼールは謝る。
総長は気にしないように言い、それからバイラを見た。バイラは頷いて馬を下げ、食事を始めた部下に、ドルドレンは話し始める。
「お前と話さないといけない」
「はい・・・昨日の夜、そう言っていましたから」
「言い難いな。お前のことでもあるし、しかしお前は巻き込まれているに等しい」
え?と顔を向けた部下の、そばかすのある童顔に、ドルドレンは困って眉を寄せた。ハイザンジェルにいさせれば良かったと、今更思っても何もならない。
タンクラッドたちが二度目の袋の交換をして、いい加減集めたようなので、『出ても良いぞ』の掛け声を合図に、ドルドレンは馬車を出す。
道に乗って北へ進む時間、横で丁寧に味わって食べるロゼールに、今朝、自分が何を考えていたかを伝えた。
ロゼールは総長をちらちら見ながら、頷いて、少し考え、それから食べ終えた包みを畳むと、答える。
「総長。俺にも聞きたいことがあります。俺は本当は、関係ないから、訊くべきじゃないかも知れませんが」
「言ってみろ」
「総長たちは、テイワグナに魔物資源活用機構の任務で出発し、魔物の材料を使う指導と、魔物相手に戦うことを目的に旅をしていますよね」
「そうだ」
「それは本当だと思うんですよ。だけど、それだけに思えなくて。コルステインが話していたことが、気になっています」
灰色の瞳はさっと部下の顔を見て、目は大きく見開かれる。小柄な騎士は小さく息を吸い込むと、短い言葉で的確に伝えようと、総長に目を合わせた。
「コルステイン。すごく昔から生きていると。それはそうかも、って思います。
でもコルステインの話に、過去のメーウィックさん以外で、何人か・・・この馬車の人たちと似た立場の人がいました。総長もその一人です。コルステインは、ドルドレンは勇者と言っていたので」
「うむ」
「その、この前。ミレイオも言っていたんですよ。総長のこと『勇者』って(※1202話参照)。イーアンは『龍』ですよね?あの絵物語そのものですから」
「ハイザンジェルの、だな」
「はい。別に『だから、どう』ではないんです。そうじゃなくて、俺が訊きたいのは、絵物語は本当に起こったことで、今また、繰り返されているのか、どうかです」
「それを聞いてどうする」
「俺は、コルステインたちの役に立っていた『メーウィック』さんが、過去の物語に出ていたなら、俺も今回そうなんですか?って。それを知りたいんです」
「おお、お前は・・・ロゼール」
こいつならそう言い出しかねない。そう思っていたことを、部下はすんなり言ってのけた。
――思うに、この続きは想像通り『自分も手伝う』だ。
俺の隊で、俺と一緒に育ったようなロゼール。俺から離れて、仕事ならまだしも、運命絡みの魔物退治と知れば、彼の性格から側にいようとするだろう・・・・・
総長の戸惑う顔色に、ロゼールは意を得たように頷く。
「そうですね?そうなんですね。昨日の夜。コルステインは、メーウィックさんがどんな風に動いていたか、説明してくれたんですが。
何度も、『馬車』『旅』『仲間』『魔物』の言葉が出るので、メーウィックさんと俺が同一人物と思っているコルステインに、『昔と今は同じ旅か』訊ねたら、あっさり肯定しました。
そこで知ったんです。ドルドレンは勇者だ、と言うし、タンクラッドは時の剣を持つ、って。イーアンは女龍で」
「他の連中のことも聞いたのか」
はい、と頷いたロゼールは、一旦、手元に視線を落とし、数秒黙ってから独り言のように続けた。
「俺は。旅の仲間じゃないのか、と訊ねたら、それは違うみたいでした。
だけど、コルステインは『お前は自分たちと一緒に動く』と言います。それを笑顔で言うから、メーウィックさんはコルステインたちと一緒に、勇者の旅を支えたのかと思いました」
「ロゼール。単刀直入に言え。お前はどうしたい」
小柄な騎士の俯いている顔を覗き込み、総長はここまで来たら彼の気持ちと擦り合わせるつもりで訊ねた。
深い森のような色の瞳が向けられ、その目の澄んだ色に胸が苦しい。
「俺はメーウィックさんの代わりに成れると思います」
「危険だぞ。それにお前の営業の仕事はどうする。お前しか動けないのに」
「これから考えます。だけど、意志を訊ねられたなら、俺は今伝えた以外は思い浮かびません」
ドルドレンは遣り切れない溜息を吐き出し、横に座るロゼールの肩を組んだ。
「何て答えれば良いのだ。やっと魔物が終わったハイザンジェルに、お前たちの無事を預けている総長が。わざわざ、魔物騒動中のテイワグナに来ることに、許可を出せと言うのか」
「皆で協力するのが、騎士修道会ですよ」
そうじゃないだろう、と組んだ肩を揺さぶり、ドルドレンは眉を寄せたまま、次の言葉が出てこなくて唸った。
いつもお読み頂いていますことを心から感謝します。
本日も、昨日同様でこの回一度の投稿です。夕方の投稿がありません。
ちょっと仕事が込み入っていまして、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。
どうぞ宜しくお願い致します。
いつもお立ち寄りくださいます皆様に、心から感謝して!




