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魔物資源活用機構  作者: Ichen
新たな脅威の調べ
1225/2962

1225. 別行動:至宝の取扱い・お風呂報告の魔物話

 

 ふむ、と星空を見上げた、焦げ茶イケメン。寝そべった獅子の姿を人に戻して魔法陣の上に座り、火の近くで食事をする息子に『体は平気か?どうしたの』と訊ねられた。



「お前に言おうか、悩むな」


「そう?言えないなら言わなくても」


 そうじゃないんだよ、と大男は少し笑って、息子の側へ行くと、火の温度を上げて、少し焼け具合の調整をしてやる。今日はお魚。


「いいよ。充分、焼けている。食べられるから。それより体は」


「体は平気だ。火が通っていない場所。俺に渡そうとするだろう。お前が食べる方が大事だ」


「どんな状態(←焼け具合)でも、一緒に食べたいよ」


 はい、と魚の身を取って、ヨーマイテスの口元に差し出す息子に、仕方なし口を開けて、ヨーマイテスはモグモグ。微笑む息子は、自分の分の魚も骨から外して食べた。


「俺は。バイラが教えてくれた根茎もあるし。ここには、いっぱいあるからな。他に食べられるものがある、問題ない。ヨーマイテスも食べよう」


 それで?と話を戻す息子。ヨーマイテスはモグモグしたのを飲み込んで、息子をじーっと見つめると『風呂に入ったら教える』と言った。今話すと、あまり望まない方へ動きそう。



「うん?風呂の後。そうなのか。長い話なのか」


「そうでもない。だが、まぁ。話すなら、風呂の後か、風呂でだな」


 いいよ、分かったと笑顔を向けたシャンガマックは、隣に座るヨーマイテスに、魚の切り身を差し出し、彼が食べると、彼の両腕に視線を向けて、そっと浮き出た模様を撫でた。


「もう。()()()だと良いが」


 呟いた息子の声に、心配が籠っているのが分かる。ヨーマイテスは息子の顔をちょっと撫でて、自分を見させると『大丈夫だ』と教える。


「少しでも変なら言ってくれ。すぐに対処したい」


「分かってる。でも今は本当に大丈夫だ。お前のおかげだ」


「俺じゃないよ。先祖の知恵のおかげで」


 お前だって言ってるんだ、と笑いながら、大男の両腕は息子を抱きかかえて、膝に乗せて抱き締める。ナイフが危ない(※お魚切り分け中)シャンガマックは、急いでナイフを手で包み、嬉しそうな父の笑顔を見上げた。


 ナイフ、拭き拭き。鞘に戻して、ニコニコしている機嫌の良いヨーマイテスを見つめ、彼が本当に嬉しいんだと分かるので、シャンガマックは『今日頑張って良かった』と心から思う。



 ――ヨーマイテスの、腕の()()


 その力を左右することが出来るのは、自分。もしくは精霊そのもの。


 シャンガマックは自分に出来るのかと不安だったが、彼の腕の模様の中で生きている『ナシャウニット』と同調することを覚えた。


 それは自分が力を預るような具合なのだが、ヨーマイテスの受け取った分が減ると問題もあり、自分と触れ合えなくなるので、最初の試みは『ギリギリの量まで減らして預る』ことをやってみた。


 が。これはすぐに失敗と分かる。ヨーマイテスは力のずれた状態で、シャンガマックに近寄れなくなった。


 慌ててシャンガマックは精霊の力を集め、ヨーマイテスの腕に注ぎ、彼はうんうん呻きながら、苦しかったのだと思うけれど、迂闊に減らした分を補充した。



 この一回目の試みが怖くて、シャンガマックは二の足を踏む。しかし、体調の悪そうな父は、全然、諦めもせずに『別の方法を試す』と言い始め、違う本を引き寄せて、そこにあることを行えと言う。


 二度目の試行は、非常に難しそうだった。結果的には、これで良かったのだが、シャンガマックには理解もおぼつかず、失敗する可能性の方を案じた。


 父は丁寧に、何度も戸惑う息子に確認し、『やってみろ』と告げる。


 シャンガマックも気合を入れて、父に確認をした手順と方法を使った。それは、彼の力と常に繋がる状態にして、『生きている力』を自分と交流させ続けるような、()()作りだった。


 シャンガマックと離れているから、同じナシャウニットの力は一つに集まろうとして、ヨーマイテスの体に負担を掛ける。常に行き来が可能な通路があれば、シャンガマックが母体のような状態で、力は安定を得るだろう、としたこと。



 通路となる架け橋を作るのに、数時間かけて、最後の最後。夕方も終わるくらいに、シャンガマックが気が付いた。


 父と、自分の間を動いている力。

 それは本当に生き物のように。なわばりを好きに行き来する猫のように。自由で、軽々とした力の流れ。


 ビックリして父を見たら、疲れ切った碧の瞳が微笑みを浮かべた。父にもそれが分かったので、シャンガマックは笑って抱き付き、『上手く行った』と大喜び。

 抱き返す父も、息子の努力に感謝して『帰る』の言葉が出た。今戻らないと、今日もここから動けない・・・そう呟いた父の声に、シャンガマックは父がどれほど大変だったかを理解し、彼を労った――



 そして、ヨーマイテスは疲労した体で、息子を乗せて戻ってきた魔法陣。

 いい、と言っても、ヨーマイテスは魚を獲りに行き、10分ほどで戻った獅子の口に魚付き。


 すぐに火を出してくれ、魚を置くと、獅子はバタッと寝そべった。慌てる息子に『少し休む』と言うと、獅子はそのまま目を閉じる。


 強い父の弱々しい姿に慌て、死なないでと泣きそうな声で頼むシャンガマック。獅子は薄目を開けると『少し休むだけだ』それをもう一度言って聞かせ、すぐにすーすー寝始めた(※久しぶりの疲労)。


 ヨーマイテスにしても、この今感じている体の状態が、サブパメントゥ性か、精霊の影響か、よく分からない。

 正確には疲労とも違う、脱力に似た体。地下に戻るのはいつでも出来るため、とりあえずは息子の側で休むことにした。



 それがさっき。

 シャンガマックは、こんな大重労働を頑張ってくれた父に、感謝で一杯。お風呂で洗ってあげようと決め、食事を終えてから、少し回復した父と一緒に、風呂へ移動した。


 ヨーマイテスは『背中に乗せて連れて行ってやる』と言ったが、息子は笑顔で断り続けたので、二人で暗い森の中を歩く。



「歩かなくても連れて行く」


「近いから。歩くのは好きだよ」


「俺に気を遣っているだろう」


「常に」


「どういう意味だ」


()()()()()からだ。無理はさせたくない」


 愛してるって・・・すんなり言われて、ヨーマイテスは黙った(※嬉)。何て嬉しいことを平然と言うんだ、と心の中で呟く(※言わない)。



 シャンガマックに、照れは既にない。


 ヨーマイテスの告白は思いがけないことだったが、聴けたことには感謝しかない。

 彼のこれまでを思えば、自分はいつでも、彼をちゃんと愛していることを伝えて、安心させたかったし、常に大切であると教えたい。


 それは家族として当然だし、親子ならいつでも言えることだと分かっていた。自分もそうした愛情の中で育まれたのが、ここへ来て活かせることが嬉しい。


 ヨーマイテスに必要なことは『安心して良い、信頼を寄せても、決して裏切られない』そうした『愛』そのもの。


 それが分かっているだけに、自分しかそれが出来ないことと、また自分もそうしたいと強く思う気持ちに、シャンガマックは素晴らしい運命の展開に感謝しつつ、ヨーマイテスの存在を、一生愛して、大事にしようと決めていた。



 微笑みながら、暗い夜道をゆっくり歩くシャンガマックの背中に、そっと大きな手が添えられる。

 横を歩く父を見上げると、僅かな星の明かりに煌めく、碧の瞳が見える。ニコッと笑うと、父も微笑んだ。


「その言葉。時々、聴かせてくれるか」


「毎日言う。ヨーマイテスを愛しているよ、って。もういい、と言われるくらい言うだろう」


 ハハハと笑うシャンガマックに、ヨーマイテスも少し笑って『お前に言われて嫌な時は来ない』と教えた。

 シャンガマックは息子の立場。でも、ヨーマイテスを見ていると、自分が『愛する』ことで、彼の心を守らなければと、そう感じる。ヨーマイテスを育てるような気持にもなるのが、不思議だった。



 二人は温泉に着き、シャンガマックが服を脱いで中へ入ると、ヨーマイテスも少し考えてから、やっぱり入ってきた。


「お湯は、気持ち良かったか?」


 最初に入った風呂の感想を、シャンガマックが訊ねると、横に座った大男は、息子の目を見て『よく分からない』と正直に答えた。笑うシャンガマックに、『本当によく分からないぞ』と続けて念を押した。


「でも、お前は俺に『一緒に入れ』と言うだろう?」


「そうだね。言うよ。髪を洗おうよ」


 肯定されてすぐ、頭を掴まれ、不服ながらも息子に従うヨーマイテスは、長い豊かな髪を湯の中で洗われる(※こんなの意味ない、と思う)。


「ヨーマイテスの髪は長いね。ずっと伸びるのか」


「考えたこともない質問をするな。分からん」


「ハハハ。そうか。気にしているようにも思えない。人間は伸びるんだ。だから訊いた」


「お前。それ伸びているのか?今も?」


「そうだよ。ミレイオは伸びないのかな。また違うの?」


 ミレイオも伸びている気配がない(※スリーブロック)。いつも身綺麗にしているから、手入れがまめな人なのだろうと、シャンガマックは思っていたが。思えば彼も、サブパメントゥ。


「伸びるわけないと思うぞ。バニザットの質問は、いつでも俺の想像を超える」


 ヨーマイテスの真面目な返事に、ちょっと笑って騎士は続ける。父の長い金茶色の髪を手で梳いて、パシャパシャと湯で流してから、大男を見上げた。


「それで。さっきの話だ。何を言おうとしたの」


「ふむ。そうだな。もう話しても良いか・・・あのな、ドルドレンたちが戦ったぞ」


「総長たちが戦う。ヨーマイテスが気が付いたということは、相手が危険だったのか」


 ビックリして立ち上がろうとした息子の肩を押さえ、ゆっくり湯に座るように戻すと、不安を浮かべた顔に『もう終わっている』と結果を先に伝える。


「俺たちが、先祖の部屋にいた時間か」


「そうだな。あの頃。どっちにしろ、俺たちは中途半端な状態で、動けなかっただろうな」


「どんな相手だったのか、それは分かるのか」


 落ち着かなさそうな息子の頭を撫でて、ヨーマイテスは彼をあまり不安にさせないように、言葉を選んで話し始めた。



「お前が心配しているから、先に結果から言おう。ドルドレンたちは、思うに無事だぞ。

 特に大きな力が動かなかった。ドルドレンも、勇者の力を出していない。そういう相手じゃなかったのかもな」


「無事・・・だと思いたい。ああ、気になるな」


 やっぱり風呂の中で話して良かった、と思う息子の反応。

 食事中だったら、今から確認に行くと言いそうだと踏んで、風呂の時間に持ち込んで正解だった。


 父の想像通り。怪我をしていないと良いけれど、と眉を寄せて心配する息子の肩を抱き寄せて、ヨーマイテスは『お前に()()()』と囁く。シャンガマックは、一瞬、きょとんとしたが、すぐに理解した。


「あ、あれか」


「そうだ。ちょっと待てよ。こっちか。こっちだ、ほら・・・少しずつ。馬車だ。見ろ、何か食べている」


 父はこうして時々、遠方の皆を見せてくれる。両手指先を合わせて輪を作り、その中に遠くの見たい対象を映す。

 頼もしい父の能力に感謝して、シャンガマックは輪の中を覗き込み、ぱっと笑顔が浮かんだ。



「あ!総長だ。食べているってことは無事か。あ~、良かった!

 ミレイオと、タンクラッドさんと、バイラとフォラヴ。あれ?ザッカリアがいない(※ロゼールが一時参加したことは知らない)。ザッカリア、どこだろうか。イーアンも、この時間にいない」


「そうか。お前は知らないのか。イーアンは留守だ。ファニバスクワンと会っただろう、あのすぐ後で、空に行ったままのようだ。何か用だろう(※ミレイオ情報=『留守』のみ)。

 ザッカリアは、どうなのやら。あいつもちょっと得体が知れないからな」


 父の言い方に、何かを知っていそうな気がして、ちらっと見ると、父の碧の目が息子の視線を捉えて、首を傾げる。『知らないって言っただろ』と繰り返された。


「まぁ。皆があの状態だ。ザッカリアがいないにしても、大事件じゃない。

 落ち着いたか?あいつらは無事だ。だから食事もしている。話を続けるぞ、今日彼らが戦った相手の話だ」


「うん。教えてくれ。ヨーマイテスが気がついているんだから、それなりに強敵かと思ったんだが」


 大男は腕を下ろすと、息子の冷えた肩に湯をかけて(※甲斐甲斐しい)若干、飛ばした感じで話してやった。

 話を聞いていたシャンガマックは、何度も驚いて、5分程度の父の情報を聞いた後、暫く言葉が出てこなかった。


「どうした。意外か?」


「いや、だって。道具?武器じゃない『道具』を使うとは。イーアンがいるわけでもないのに」


「イーアンがどうかは知らん(※キョーミない)。だが本当だぞ、ドルドレンは道具で倒したんだろうな。最後の最後、何か大きな熱が全てを包んだ。あれはあの場所にいる、()()()でもない。

 ザッカリアは近い効果の能力のようだが、広範囲じゃなさそうだしな。

 お前たちは物を使う。それくらいしか、俺も想像が付かんな」


 ビックリして、父の説明をもらっても、まだ『何をしたんだろう』と、そこが気になって黙りこくる騎士に、ヨーマイテスはちょっと笑う。


「おい。バニザット。そこで止まるな。俺が伝えようと思ったのは、そっちじゃないぞ」


「ああ・・・そうだな。うん、良いよ。それで」


「放心するほどのことか。まぁ良い。そっちで驚いたのは、とりあえず忘れろ(?)。

 魔物のことだ。お前とドルドレンで倒した、蟲だらけの奴がいただろう。あれと、今日の魔物は近いかも知れないな」


「何だって?今日もあの、魔法使いみたいな、でも違うような(※混乱)相手」


「バニザット。俺とお前は、過去のバニザットの記録で()()()()()?今日・・・俺たちが()()()ことは」


「あ」


 ハッとしたシャンガマックは、父の碧の瞳を見つめ、自分の気が付いた()()が正解と知る。『まさか』呟く騎士の血の気がサーッと引く。


「慌てるな。まだ決まったわけじゃない。だが、似ていると思わないか」


「似ている・・・状態が」


「だろ?ただな、端くれ程度の様子でもあるんだ。もしも()()だったら、こんなもんじゃないだろうな」


「ど、どうして。端くれって。分かるのか?ヨーマイテスには何か感じる?」


 焦るように内容を知ろうとする息子が、大男の腕を掴んで必死な顔で見上げるので、ヨーマイテスは暫くその顔を見つめ(※カワイイなぁと思う)頷く。


「気配を感じるわけじゃない。単に、本の中の話と合わせたら、そう思っただけだ。

 過去のバニザットの部屋にある、あの『石ころ』。彼はどこへでも行けたし、どう行ったか知らないが、()()()()()()の物を、手にして戻った男だ。

 となるとな、魔物の王が似たような『石ころ』を手に入れられたとしても、あまり不思議はないと思わないか?」


「思わないけれど・・・困るよ」


「そうだな。困る。()()()()んだ、そんな奴らに邪魔されるのは」


「ヨーマイテス。邪魔の意味は分からないけれど、どうして()()()だと思ったのか、それを教えてくれ。見分ける方法になるかも」


「うん?単に成長具合だ。中途半端だろう、本体が。バニザット、俺は何て言った?あの『石ころ』は石じゃなくて・・・?」



「種」



 ぞわっと背筋に冷たいものが走った、褐色の騎士。自分の口から出た言葉に、恐ろしい想像が広がった。

 そんな息子の顔を見つめ、ヨーマイテスは静かに彼の頬を撫で『心配するな。俺がいる』と教える。


「ただな、相手が魔物以上の奴らとなると、ちょっとな。戦い方を変えないと面倒そうだ。

 それは分かる。ふーむ、ドルドレンたちにも教えてやっておいた方が良いかな。どうだ?バニザット」


 教えなきゃ!腕に縋りついた息子に、父は嬉しそうにナデナデすると『それじゃ教えてやるか』と微笑んだ(※頼られる幸せ満喫)。


 それから不安で一杯の息子を抱えて、長湯を終えると、洞窟に戻って『明日な』と寝かしつけた。



 ヨーマイテスの今日。

 腕の至宝は、息子と共に『生きている力』として操り、自分は息子の愛を()()()()受け取れる認識も生まれ、満足した想いに浸れる一日だった。


 今後、魔物以外に『魔族』が現れるにしても――


 もう何も恐れるものはないと、心から思う。

 大きな獅子は、疲れて眠る息子をぎゅうっと包んで、その満足に笑みを浮かべながら、静かな夜を過ごした。

お読み頂き有難うございます。

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