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魔物資源活用機構  作者: Ichen
新たな脅威の調べ
1220/2963

1220. 別行動:至宝の秘密

 

 真夜中に食事を済ませ、夜明けまで本を読んで、朝になってまたひと眠りした後。昼前に目を覚ましたシャンガマックは、父に『食事(※甲斐甲斐しい)』と案内された、外の暗い洞穴の中。



 そこはずっと上の方が開いていて、洞穴というには縦に開いたような印象の場所。


 シャンガマックたちがいる場所の真上に、煙突状の吹き抜けがある具合で、相当、上の方に見える空は水色。そこまでの間に、何か所も突き出る岩棚が見えた。


 この洞穴と、老バニザットの部屋は繋がっていて、最初に影から出てきたのが、ここの横穴だったと、昨日知った。



 煙のこもることない、快適な洞穴の中。暗いけれど外の明かりは、ぼんやりと頭上に見えるので、シャンガマックにもヨーマイテスにも不都合ない。


 父が獲ってきてくれた鳥を焼いてもらい、シャンガマックは身を切り分けて二人で食べる。


()()()()()食べるのが、一番だと思うぞ」


 獅子から人の姿に変わったヨーマイテスは、口に入れてもらった肉をもぐもぐしながら、一応大切なことは言う。


 シャンガマックも肉を食べて、うんうん、頷きつつも、また一枚切り身を取って『食べる?』と差し出す(※相手してない)。差し出されれば、口を開けるヨーマイテスは、少し眉を寄せて『ちゃんと食べろ』と息子に注意。


「食べているよ。でも()()()食べる方が好きだ」


「そうか。仕方ない(※あっさり折れる)」


「俺は足りている。卵や芋や、野菜は、魔法陣に戻ればあるし。体は心配要らないよ」


「俺が『食べている』ことに意味がないんだ。俺には何の影響もないんだぞ」


「分かっている。だけど、二人で食べる時間が嬉しいよ。ヨーマイテスは食べてくれるから」


 そうだな、と頷くお父さん。カワイイ息子の頭をナデナデして、また肉を差し出されたので口に入れた(※食べさせてもらう)。



 和やかな昼食を続けながら、シャンガマックは、さっきまで読んでいた本の内容を思い出し、父に質問する。


「関係ないかも知れないが。俺が今読んでいる本に、『生きる力を持つ魔法』の話があって」


「ふむ。何だか記憶にあるな。俺も読んだことがあるかも知れん。続けろ」


「魔法に閉じ込めるのかな。魔法なんだが、生きているんだ。だから」


「ん?ちょっと待て。俺が知っているのは、魔法で生きる力を延ばす話だ。お前の話はそれじゃないのか」


 ヨーマイテスはさっと記憶をたどり、『そうだよな。俺の知っている話ではない』と呟く。褐色の騎士は彼を見つめ『違う本かも』と言い、本があった場所は手付かずの状態に見えたことも教える。


「どこにあった」


「裏だよ。棚の裏の、瓶が並んでいるところだ。そこにも瓶の支えなのか、本が立てかけられている」


「あれか。あれは調合の・・・ふむ。まぁ良い、話せ。何て?」


「調合の話なのかな。言われれば、そう思えてくる。

 あのね、魔法があるだろう?でも、魔法自体が生きているわけじゃないんだ。生きている()()を、まずは魔法に変えて、それを別の対象に掛ける」


 息子は話しながら、ナイフで肉の焼けたところを切り取って、ヨーマイテスに差し出す。

 ヨーマイテスは首を振って『お前が食べろ』と言い、生っぽい部分を指差し『俺はこっちで良い(※息子、気遣う)』と教える。


「優しいな。有難う」


 手に持っていた肉を口に銜えて、シャンガマックはちょっと生焼けの部分を切ると、ヨーマイテスに差し出した(※生でも関係ない父)。大男は、ぱくっと食べて『こういう箇所を俺に回せ』と優しいことを言っていた。


「それで。別の対象に、魔法をかけた。その続きは?」


「うん。魔法が生きているものだから、()()()()()()でも生きているんだ」


「それには、何か意味があるのか。魔法を使ったことで、掛った相手に支障や有益が」


「『()()閉じ込めたか』によるみたいだよ・・・生きている魔法だから、死ぬというか、『消滅する場合もある』と書いてあったが。でも、宿主が生きている間は」


 生肉っぽい部分を切り取りながら、少し考えている様子の息子を見つめ、彼が肉を差し出した時の目に、ヨーマイテスはハッと気づく。じっと見ている漆黒の瞳は、父に先を続けてほしそうに見える。


「お前。もしや」


()()()と思った」


 はい、と出された肉を食べ、モグモグするヨーマイテスは、自分の両腕に視線を落とす。騎士も、彼の浮き出る模様の絵を見つめ、『生きているのか』と呟いた。


「ヨーマイテスは最初、それを『作った』と話していた。俺にはだから『道具』のような印象だったんだ」


「まぁな。お前に説明するのも、乗り気じゃない内容だったから」


「俺に初めて触った、あの夜。これを受け取るのに『生きるか死ぬかの賭けをした』とも話していたね」


「そうだ。どっちに転んでも・・・バニザット。そんな顔をするな」


「でも。もう、しないでくれ。あの時だって驚いたんだ。これからは」


「そんな顔をするなって。もう、しない」


 悲しそうな息子は肉を食べながら、段々落ち込むように沈む(※ガッカリすると分かりやすい)。


 困って笑うヨーマイテスは息子を引っ張り寄せて、自分の胡坐の上に座らせると『今、こう出来るのは、この腕のおかげ』と教える。



「分かっているけれど」


「大丈夫だ。話を戻すぞ。お前には『道具』として捉えられた、()()。それは間違っていない。『道具』だ。俺の至宝と呼んだ、そのまま。

 もう少し詳しく話せば、ナシャウニットの力を、過去のバニザットの魂の助力で、ここに受け入れたような具合だ」


「え。ナシャウニットに触れたのか?でも」


「そうだ。無事ではいられん。崩れかける一歩手前で体は蘇り、俺の想いが勝った。受け取ったのは、ナシャウニットの力・・・というには、意味が限定しているな。

『ナシャウニットが・問題ない・相手たち』に対して、()()()()()()()()()()()のようなものを受け取っているわけだ。つまり『この世の、ほぼ全ての存在に対して、抵抗力を持つ」とも言える。」


 唖然とするシャンガマック。そんなことが出来るのかと、父を見つめて口を開け、驚きの顔を撫でられた。大男は少し笑うと、焼けた肉を引き寄せて、獅子の爪を出して裂き、開いたままの息子の口に肉を入れてやる。


 モグモグしつつ、シャンガマックは質問。『よく大丈夫だったな。()()()俺の先祖の魂が?』それがなかったら、多分・・・と思うと、他に先祖の手伝う場面が思い当たらない。父は頷いた。


「そんなところだ。バニザット、過去のな。あいつが間に入ったから、ナシャウニットの力がこの形に変わった。魔法といった範囲ではない、と俺は思っていたが。

 考えてみれば、過去のバニザットが関与したんだから、魔法の要素はあったのかも知れん。その辺りは俺も説明は受けていない。

 この模様として浮き出ているのは、俺の力の部分。俺自身がこの状態で組み込んだ。一瞬のことだ。

 その一瞬が終わった後、俺は動けなかったから、細かい説明どころでもなかったな」


 シャンガマックの目が、じっと父を見つめる。『本当にもう、そんな危険なことをしないでくれ』小さく呟く声に、父は笑って『しないって』と答え、息子の頭を抱き寄せた。



「お前の読んでいる本。その中にあった、生きている魔法の話は、これのことかもな。だとすれば、()()()()()()探せるかも知れないぞ」


 そうだね、と頷いた息子が、まだ元気がなさそうなので、この後ヨーマイテスは、肉を切っては矢継ぎ早に食べさせ(※世話してるつもり)『もう食べられない』と断られるまで続けると、さっさと片付けて部屋に戻り、本を二人で読むことにする。


「早く読んで。早く試す。今夜は洞窟に戻る」


「ヨーマイテスは、夜は洞窟が良いのか」


「お前の()()だ」


 ハハハと笑うシャンガマックに、ヨーマイテスも本を見ながら笑い『3()()()()に風呂と決めた』ことを伝え、それまでに腕の『至宝』の扱いを探すと宣言した。




 ――そして2時間後。


 二人の周囲に本が何冊も置かれ、床に座って本と睨み合い、何かを見つけると互いに教えて、別の開いたままの本を並べ『これの意味が』『ここと同じ』『補足か別の現象か』などの言葉が行き交い続ける時間の末。


「ヨーマイテス、これだ」


 ここに、ヨーマイテスの腕と同じものがと、目を丸くしたシャンガマックは本を見せる。


「どこだ・・・ここの部分か。ふむ、ふ。む?うん?おい。これは」


「そう。ちょっと違う状態なのは分かる。だが、同じことだ」


「見せろ。お前、これ。この本は?」


 ヨーマイテスも驚いたのか、息子が開いて持つ本の背表紙を見ようと、本の背を押す。シャンガマックが開いたページををそのままに傾けてやると、ヨーマイテスは背表紙の文字を読み、眉を寄せた。


「どこにあった本だ」


「あっちだ。机の、石の標本が並ぶところ。これが一番下に。標本箱の一つかと思ったら、紙が見えたから」


「バニザット、手を見せろ。何ともないか」


「何?大丈夫だ。どうした」


 何か慌てた様子で父が息子の手を掴み、両手の裏表を確認すると、シャンガマックも驚いて『どこも変じゃない』と言う。ハッとした父は『あ、そうか。お前は精霊の加護が』そうだった、と我に返る。


「お前はこの程度、大丈夫だったんだ。忘れていた」


「どうした。俺に何かあると思ったのか?おかしなものはなかったよ。あそこには石しか」


「その石ころが問題なんだ。ここはバニザットの、過去のバニザットのな、使っていた場所だから。入れる者がいないし、あいつも自分以外で俺くらいしか入らないと知っていただろうから、何も防魔術がない」


 何か危ないものがあったような言い方に、シャンガマックが首を振って『つまり?』と先を促すと、父は碧の瞳を向けて息子を見つめ、淡い茶色の髪をかき上げてやってから『()()()()()()()()()がここにある』と囁いた。


「何だって?この世界以外?」


「そうだ。あいつ(←老バニ)のことだから、不思議でも何でもないが。まぁ、連れて来たのが『精霊の加護付き』のお前で何よりだ」


「教えてくれ。何がある。俺には何も分からない。この本に書かれているのは、確かに俺も、全く知りもしない相手のことだが、ここにそれが居るみたいな言い方だ」


「お前は勘が良い。そういうことだ。正確には居るんじゃない。()()()()()を閉じ込められている」


 目を大きく見開き、眉を寄せるシャンガマックに、大男はちょっと頷くと、自分の両腕を見て『応用か』と呟き、それから立ち上がって、石の標本箱の積まれた机の側へ動いた。


 シャンガマックも一緒に立ち、父の横に並ぶと、父が見ている平たい箱の積まれた場所を指差す。


「これだ。ここの一番下に」


「なるほど。お前はどうも、感じにくいんだな。砂漠の城でもそうだったし、南の墳墓でもそうだった。理由はまだ知らないが、お前にはこの『別の場所を告げる淀み』は気づけなかった、ということか」


 見上げる息子の視線を捉え、ヨーマイテスの大きな手が息子の背中を撫でる。


「俺は知らないで、危険に近づいたのか」


「そうとも言える。別の言い方も出来る。これが危険だと判断していない。お前に取るに足らない相手かも知れん。

 その辺りは、まだ分からないが、これ自体は普通に考えれば、()()()()()()


 不安そうなシャンガマックに、理由のほどは探らないにしても、自信を無くさないように伝え(※父気遣い)改めて石の箱に、ヨーマイテスは視線を戻す。



「この。石ころ。石じゃないんだ。種だ」


「石だと思うよ、石と書いてある」


「お前の部族の言葉では石と言ったら、鉱物の石。だが過去のバニザットは『石は大地の種』とも称した。そこに宿る、()()()()がある場合はな」


「何?宿っている・・・この、え。もしかして、今まで俺たちが調べていた内容の」


「らしいな。これは俺も、皆無に等しいぞ。だから気が付かなかった。俺たちが最後の一冊に当たるまでに読んでいた内容は、全て、この『石』からの応用で、過去のバニザットが記した記録だった、ってことだ」


「凄い人だな」


 そこで驚いている場合じゃないぞ、と苦笑いし、父は息子の驚いた顔を撫でて『この箱の中身は』と教えた。それは、老魔法使いによって封じられ続けている、この世界以外の存在。


「じゃ。この石の一つ一つにいるのか?」


「どうだろうな。そう見えるが。しかし奥行きを感じから、石に封じられているわけではなく、()()()()()()()()()で遮られている、別世界への通路に似たもんかもな」


 シャンガマックは、驚いて何も言えない。遥かな過去に、先祖が集めた『別世界の存在との繋がり』は、今も時を越えて、この部屋にある状態。


 父が言うには、精霊の加護があるシャンガマックだったから、特に影響を受けなかった話だった。普通の人間であれば、恐らくこの『石』に何かしら影響を受けて憑かれていたかも知れないと言う。



「俺の力を移した、方法。これの応用だな。

 今はまず、俺たちのすることは、俺の『至宝の扱いを得る』それだ。はっきりしたのは、俺の腕の中に、ナシャウニットの能力が生きている。

 お前の加護と通じるから、お前と俺は触れ合えるが『俺自身のサブパメントゥの属性が悲鳴を上げている』ってところだろう」


「どうすれば」


「お前が調整出来るか?お前は、ナシャウニットの純粋な力を受け取っている。

 俺の両腕にこもった、ナシャウニットの力を、お前が出し入れして調整する。生きている力であれば、確かに強力だ。しかし俺本体に及ぼす、持って生まれた属性同士への反発も」


「調整・・・普段、ヨーマイテスがサブパメントゥの状態で、楽に過ごせるくらいに。だけど、俺とも触れ合って問題ないように」


「だな。生きている力であれば、俺の意識に関係なくお前に反応しているだろうし、俺にも反応を緩ませることはない」



『大役だ』と呟いた息子の顔に、ちょっと笑って、ヨーマイテスは『とりあえず、確認』と言い渡す。


 そして早速、二人の新しい試みが行われる。二人で生きていくため、お互いの命を守るために。

お読み頂き有難うございます。

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