1219. 神殿の経緯・混じり物・フォラヴ懸念おとぎ話の魔族
お皿ちゃんで帰る道。行きとは違い、少しゆっくりなのは、旅の馬車が進む道を見つけるためと、フォラヴが高速に耐えにくい(←行きで判明)ことが理由。
時間は昼近く、まだ旅の馬車の通る道までも遠い時。それまで黙っていたミレイオが、フォラヴに静かに質問した。
「あいつが守っているの・・・意味あると思う?」
「それは」
「妖精。戻ってくると思う?って意味よ」
「きっと、戻ります」
そう、と小さく頷くミレイオ。背中を抱えてもらっている妖精の騎士は、ミレイオを見上げて少し後ろに顔を向ける。目の合った明るい金色の瞳は、少しだけ切なそうに見えた。
「気になりますか」
「そうでもないわ。ただ、ほら。サブパメントゥって、頭良くないの多いから。私みたいのは、珍しいのよ(※自分違うと主張)。
・・・・・待ってる、って思っちゃうと、ずっと待っちゃうのよ。あいつはそんな感じだったでしょ」
ミレイオの言い方で、本当は優しい気持ちが分かるので、フォラヴはくすりと笑って『大丈夫です』と答える。
「妖精は、そうした約束を無下にはしません。もしも破らないといけない場合でも、必ず知らせに来ます。あの子が待ちぼうけすることはないでしょう」
「そう。なら良いけれど」
――蛇の子供が話した、一部始終。
妖精と蛇の子供は友達で、ある時を境に付き合いが始まった。
付き合いが始まる前までは、あの場所は荒廃した遺跡のある、木々もないような岸壁そのもので、付き合いが始まってから、蛇の子供の幻覚を見せる力が『緑豊かな神殿跡』を映し出していた。
土地の人はそれをもちろん知っているが、妖精が棲みついたことから、緑の自然が育った・景色を包んだ、と捉えて神格化していた様子。彼ら土地の人に、サブパメントゥの存在は知られていなかった。
緑豊かな神殿跡の幻影は、蛇の子供が妖精用に作った、居心地の良さのため。
出会い。たまたま、光の中に上がって、死にかけた蛇の子供(※ちょっと抜けてる)を見つけた妖精が、光を遮るくらいの木の葉で包んでくれた。
近くに木がない場所に、離れた場所から数秒で緑の葉を引き集め、蛇の子供を光から守った妖精。近づくに近づけない間柄だが、これをきっかけに互いを気にするようになり、友達付き合いが続いた。
蛇の子供は妖精に来てほしくて、幻影しか出せないにしても、緑の樹木と小川のある神殿を見せた。すると妖精は、蛇の子供の贈り物を気に入ってくれて、そこに来るようになった。
最初は二人だけで話していたのが、迷い込んだ人間の子供の怪我を治したことから、妖精を頼る人々が増え、妖精はそれを拒みはしなかった。そして、棲みつくような具合に変わる。
妖精は、度々『帰る』ことを繰り返したが、すぐに戻っていた。蛇の子供も妖精も、ずっと仲良く暮らしていたのだ。
そしてこの前。魔物が海を上がって来たため、人が訪れていた神殿跡で、妖精は魔物を倒す。が。
この倒すは、実際は倒せていないと分かった。
魔物は逃げている。魔物が分解しかけ、落ちた部分が妖精の力で別の物質に変化し、魔物は海に入って消えたのが真実。これは蛇の子供が見ていた。
魔物が去った後。妖精は非常に疲れたようで、人間に短い挨拶をすると、空気に消えるように姿を消してしまった。蛇の子供は、頭の中に『また会いましょう』と響いた声が、妖精に聞いた最後の言葉――
聞いた話を思い出し、黙りこくる時間が過ぎる、ミレイオとフォラヴ。
「お名前を聞きませんでした」
「うん?あいつの?ああ、そういうものよ。言わないの」
フォラヴが空色の瞳を向けたので、ミレイオは『サブパメントゥは名乗らない』と教える。
自分やコルステインは名乗っているが、これは珍しいことも。
そう。うちの親父(※某獅子)もシャンガマックに本当の名を教えていたな、と思うミレイオ(※この前『ヨーマ』って言いかけてた騎士)。
「そうなのですか。あの子は、彼の親しい妖精には」
「伝えたんじゃない。仲良くなると、言うもんだから」
それを聞いて、微笑むフォラヴ。『そんな大切な相手を、見捨てはしません』妖精は必ず戻ってくる、と呟いた。
「話、違うんだけどさ・・・あいつの気配が分からなかったのって、偶然、私たちが『サブパメントゥと妖精』の組み合わせだったから、かしらね」
ミレイオの言葉に、フォラヴは見上げた顔をそのまま、続きを促す。
「何でかな、と思って。幻覚も切れ切れだったでしょ?あんなじゃ、土地の人間も怪しむだろうに、って最初は感じたんだけど。
じゃなくて、私とあんたが丁度『サブパメントゥと妖精』だったから、あいつの幻覚とあそこに残っていた妖精の気配っていうか・・・それと混ざって不安定になったのかも」
「気配と、景色の不安定さ。その理由は、私たちの組み合わせの影響」
「うん。これがイーアンとかタンクラッドとか。例えば、人間のドルドレンやバイラとかさ。それだったら、ああは見えなかったのかなって。
ドルドレンたちは分からないけど、イーアンとタンクラッドなら、『別の気配』に気が付いただろうし」
「それは、彼らが龍気で、私たちはあの場に馴染んでしまう同族だから?」
そうかな、ってとミレイオは頷く。でもこれが、コルステインくらいの力の持ち主なら、同じサブパメントゥでも、また違う反応だろうと思うことも、言い添えた。
「複雑のようで、そうでもない感じがしてきますね。私たちは、そう。思えば。
これは以前、イーアンと話していた時も、言いそびれたのですが。私たち、旅の仲間。あなたも、オーリンも含め。バイラは立ち位置が違うので、彼以外。
皆、純粋な状態で『その種族』ではありませんように思います。これは何か意味があるのでしょうか」
「え?どういう意味」
ミレイオも実は感じていたこと。
小さなことではないにしても、答えのない『混じり物』の自分たちの集まりを、フォラヴが意外な場面で話し出したことで、彼の意見を訊ねる。
「ミレイオはサブパメントゥなのに、光も龍も平気。女龍に変わる前のイーアンは人間でした。
私も妖精なのか人間なのか、この存在はどちらも兼ねています。ザッカリアも空の一族とはいえ、彼も人間の体。オーリンは龍の民なのに人間として育ち、人間として生きているはずのタンクラッドだって、元から龍気を持つような話です。
シャンガマックも人間ですが、精霊と関わりが深く、精霊の力の中で成長しました。総長だけは人間のままと思いますが、彼は『勇者』という唯一の特殊なので」
「そうね。私も同じように思う」
「この旅の一行。純粋にその種族として、これまで生きていた経歴がありません。
ここまで分かると、『この状態でなければいけなかった』とさえ思うのです」
うん、と頷くミレイオ。フォラヴとこうした話をしないので、彼が何を考えているのかを知る、大切な時間に感謝する。
「私たちの世界は、混じり合う時間を迎えています。
様々な種族が、これまでお互いに干渉しなかった場所で出会い、戸惑いながらぶつかりながら、近づくように仕向けられている。私たちの存在は、その最たるものではありませんか」
「あんたって。いつも静かだから分かりにくいけど。そんなことを考えていたのね」
ミレイオは腕に抱えた騎士を見つめ『そうだと思う』と同意する。フォラヴは頷き『自分たちが個人個人で、役目を探る旅でもある』そう感じる最近であると言うと、ミレイオも考える。
「すぐには。答えなんて出てこないだろうけど。存在の意味を改めて、旅の中で模索するべきかしらね」
「そんな気がしてなりません」
「少しずつさ。こうしたことを意識して動こう。私は同行者ってだけだと思っていたけれど、何だか違うような予感もあるのよ。フォラヴが話したとおり、私たちが最先端で学ぶ必要があってかもね」
「ミレイオが、ただの同行者なんて。冗談ではありません。剣の樋に名が記された10人ではないにしても、あなたがいない旅なんて恐ろしく思います。どれほど頼っているか」
それ、食事でしょう!と笑うミレイオに『洗濯も助かっている』と、フォラヴも笑って答えた。
真面目な話はここで終えて。
『神殿跡』の裏話も、妖精の倒した話から人手に渡った『魔物の残物』についても、土産話として仲間に伝えるため、ここから二人はその話で持ち切りになった。
馬車が見えてくるまでの間で、フォラヴはミレイオと談笑していたが、もう一つ、言えない懸念は消えないままだった。
海から上がった魔物を、妖精が倒しきれずに逃がしてしまった、それは。こんなところでも繋がるが分からないが、もしかしたら総長の倒した魔物だったのでは、と感じた。
魔物が分解して落とした、変質後の物質を見れば、その可能性があるかどうかも分かるだろう。
それがまず一つ、気になったこと。しかしこの続きの方が、ずっと心を占めている。
妖精が倒せるものか、それも知らないことだけに気にはなっているけれど。そこではなくて、相手の『魔物』の存在がこびりつく。
あの、総長が倒した相手の様子にも、少し気にはなっていたのだ。だが、気のせいもあるだろうし、自分が知っていることばかりでもないからと思った。
それが先ほど、あの子の話を聞いて『もしや』の恐れが増えた。
魔物ではなかったのでは―― 総長が倒した相手は、魔物の王が送り込んだんだろうという、タンクラッドの推察は聞いた。それはそうだとして。
でも。『魔物の王が送り込んだから、魔物』と決定でもない。そこは誰も知らない部分なのだ。
特徴が・・・魔法のようで魔法に感じられない力、狙う対象に悪意と利用を持つ、その話は、自分が子供の頃に聞いた『魔族』だ、と感じた。
人間だったであろうとも、総長は言っていたから、魔物の王に何かされた変化なのは分かる。だけど、能力と動きが、魔族の話を思い起こさせる。この世界にいない、『魔族』。
蛇の子供は話していた。海から上がった魔物は、幻覚も効かなかったし、妖精の力も触ったと。
私ならまだしも、純粋な妖精に魔物が触れて、何もないなんて。魔物か妖精のどちらかに、何かしらあるはずなのに、それが起こっていない。
総長に話を聞いた時も、思った。シャンガマックの結界に、何度もぶち当たり続けた話。
だからシャンガマックは、『魔法使いにしては変だ』と話していたという。
そう。彼の結界は、精霊の大きな力を集約して作るのだ。あれに触れられる魔物はまずいない。
イオライで獣頭人体の魔物を閉じ込めた時だって、あの魔物は結界の外へ行こうとしなかった。
ティティダック村の大型の結界の時、あれだけ巨大な魔物が出ようとしなかった。龍の力に耐えられるほどの精霊の結界を張る、シャンガマックの力。
この前の砂漠の城の話では、フォラヴは話しか知らないが、張った結界に、魔物に操られた相手さえ近寄らない。
そんな結界に・・・何度もぶつかる?
――魔族。魔族は魔法の塊だ。思念と魔法の塊が、形を持って動き出す。その一族が魔族で、彼らは一世一代、自分の子孫を残す時、幾つもの種を撒く。
おとぎ話の中の存在で、そのおとぎ話は自分の母国『妖精の国』『妖精の世界』でしかないものと思っていた―――
「あ、フォラヴ。見える?あれそうじゃない?」
ミレイオの声で、ハッとして顔を上げる。明るい金色の瞳がさっと向けられて、笑顔のミレイオが指差す先には二台の馬車。豆粒のように見える小さな馬車が、荒涼とした大地を、山のある北方面に進んでいた。
「やっとだわね!お腹空いたわ」
笑う明るいミレイオの言葉に、フォラヴも気持ちを変えて微笑み『私も』と空腹を伝えた。
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