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魔物資源活用機構  作者: Ichen
精霊たちの在り方
1215/2963

1215. 真夜中の想い ~ビルガメス版・ヨーマイテス版

 

 今夜も一人。淡い紺色に染まる雲が流れる中を、ビルガメスは夜空のお散歩。


 大きな6枚の翼を出し、ゆったりと暖かな風を切って広い空を飛ぶ、男龍。

 ゆっくりゆっくり、小さな島へ近づいて。その上空をくるーっと一回りしてから、また気の向くままに飛び続ける。


「イーアンはまだだな。()()()じゃ、時間もあってないようなもの」


 出てくる時が楽しみだ・・・独り言を落として、嬉しそうに眼を閉じ、毎晩イーアンがいる島の周辺を飛んでいるビルガメスは、静かに深呼吸してから広い海の上をすべるように滑空し、翼の先で水面を弾いて遊ぶ。



「誰が倒したのやら。タンクラッドは発動しなかったようだが。

 とりあえず、誰にせよ。オリチェルザムの出した魔物も倒したようだし。まぁ、大事(おおごと)にならんとは思ったが、良かった(※知ってるけど放置)」


 ついこの前のことなのに、すっかり前のように感じる(※自分関係ないから)。


 別に強くなかったようだけれど、それにしてもわざわざ送り込むとは。

 ()()()()()は、あまり強さがない輩を出す『意味』。何か()()でもあったのか。ドルドレンを片付けやすい、その隙間を縫った以外の『意味』・・・・・


 そこまで考えて、ビルガメスは考えるのをやめる。


「あれ(←魔物の王)の考えていることは、どうも分からん。俺が考えても、意味もないか」


 あまり、旅の連中を困らせるのも気になるから(※困らせる=魔物の王からすれば当然)と思えば、少しは手助けしてやるかなと考えてしまうが。そんなことを思って、おじいちゃんは笑う。


「ハハハ。俺が()()を守ってやろうとは。男龍の俺が。もうここまで来ると、気まぐれじゃないな」


 どうでも良いはずの相手なのに―― よくこんなに気にするようになったものだ、と自分が可笑しい。



「やれやれ。イーアンのせいだな。俺があいつを好きだから。

 困ったな、あいつが来てから俺はずっと嬉しい。いつも幸せだ。命を懸ける強い涙を見せたイーアン。お前の涙は、俺の生涯に何て熱を持ちこんだんだ。ズィーリーは冷めてたからな(※顔色変わらない人)。


  ふーむ。しかし困ったもんだ。あいつも俺が好きなのに、どうしてか素直じゃない(※おじいちゃん目線⇒相思相愛)。ドルドレンも良い人間だが、龍じゃないんだから(※遠回しに優劣)」


 男龍に、女龍と『結婚』なんて言葉はないけれど『ずっと一緒に過ごす』という感覚はある。始祖の龍は、イヌァエル・テレンで一生を終えた。多くの男龍と、多くの龍の民を守って。


 イーアンもそうなれば良いのに、と毎日思う、最近のビルガメス。


「ドルドレンも連れてくれば良いだろうに。あれも、子供が好きだ。

 ミューチェズを我が子のように喜んだ。ミューチェズは俺の子だけど・・・ふむ。自分の子がいなくても、ドルドレンなら皆を可愛がりそうだ。俺もドルドレンは好ましい。

 よし、旅が終わって・・・世界を俺が統一したら、ドルドレンもイヌァエル・テレンに住まわせてやろう(※勝手に決定)」


 それならイーアンも文句は言うまい―― あっさり素敵な思い付きで納得出来たので、おじいちゃんは心を満たされて家に戻る。


「ドルドレンか。イーアンだけじゃないな。俺は彼も好きなのか。

 フフン、面白いなあ。()()()()()()()ように、やはり見ていてやろうか」


 おじいちゃんは独り言をたくさん呟いて、ゆったりと家に入り、大きなベッドに横になると、旅の仲間の無事を祈って眠りに就いた。



 *****



 疲れて眠った息子を、どこに運ぼうかと考えていたまま、時間が流れて。


 ヨーマイテスは仕方なし。今夜はここで良いかと、老バニザットの部屋の奥へ息子を運んだ。夕食も摂らず眠ってしまった夕方、何度か声をかけたが起きなかった。



 ――『バニザット。昼も食べていないだろう。ん?朝もだ。何か食べないと』


 ヨーマイテスが眠った息子の肩を揺らして、そう言ってみたものの。息子は熟睡(※爆睡ともいう)して、全く起きる気配がない。

 少し寝かせてから起こそうと思ったが、寝ていても息子の腹が、ぐーぐー鳴っているのが気になって、もう一度同じように言ったのだが。



「起きやしない。よほど疲れたんだな」


 いつも全力で自分に付き合う、カワイイ、カワイイ息子に、ヨーマイテスは抱き上げて頬ずり(※サブパメントゥの愛情表現その①)。


 老バニザットが昔使っていた(※ウン百年前)ベッドに横にしたら、すごい埃がモワッと舞い上がり、慌てて息子を抱き上げて、埃を消し去った(※便利な『消滅』能力)。


 掃除しておけ!と吐き捨てて(※経年変化なのに)すっきりした寝床に、そっと息子を寝かせると、すーすー眠る息子の顔を見つめながら、ヨーマイテスは呟く。


「お前はいつも。自分を差し置いて、俺を優先する。弱い人間の体で、俺にそこまで気を遣う。何て、カワイイんだ。

 ミレイオなんかどうでも良くなるな・・・知恵の預け場所を、俺はなぜ見誤ったか(※遥か昔の話)。お前にすれば、何も問題なかったのに」


 いや、違うな、お前にしておけば()()()シアワセだったはず、と首を振る大男。



「お前は俺に真っ直ぐだ。過去のバニザットの、皮肉で嫌味な所も一切ない(※似た者同士だった)。

 まさか俺が。こんなに愛情を感じるとは。お前だけだぞ、バニザット。精霊の加護からの影響が、もし途絶えなかったとしても・・・いや」


 眠る息子の顔に話しかけていて、ふと、口を(つぐ)む。


 今日一日。探し続けた()()は見つけられなかった。

 息子に無理をさせるのも気になり、やはり老バニザットの魂に訊いた方が早いか、と何度も過ったが・・・真横で覚え立ての字を、ぶつぶつと口にしながら、懸命に見つけようとしている息子を見たら、それは言えなかった。



 ヨーマイテスはそっと。息子の淡い茶色の髪を、指でずらす。隠れた顔が出て来て、その寝顔に微笑んだ。


 ――出会って、僅かな期間だというのに。これほど大切に思うこと。

 誰かの愛情なんか、気にもかけたことがなく、()()()と感じたこともない、この俺が――



 大男の碧の目は、眠っている騎士を見つめているが、その目の奥には遠い遠い記憶が映る。


 どうでも良い記憶。全く、微塵も、寂しいとさえ感じたことがない、その辺の石ころ程度の『愛情』の価値。それさえ、言ってみれば()()だと思う対象、くらいのもので。


 ただ。自分の存在を軽んじられることだけは、怒りが沸いた。その記憶は強いが、『愛情』については、探ってみても何とも感じない。

『愛情』は、バニザット(息子)に会ってから、急に心に生まれた感覚・・・・・


 ヨーマイテスは記憶をぼんやり探りながら、少しずつ、その流れを口にする。言おうと思ったわけでもないのに、眠る息子に静かに喋りかける、過去。



「あのな・・・俺の親は。俺を嫌った。ミレイオのように。俺を嫌ったんだ。

 俺を創ったのに、俺が親より優れたせいだ。親は・・・笑えるんだが勝手に死にやがった。

 教えることをある日、拒んでから。俺を殺そうとして、出来ず。自分から消滅した。一瞬だ。あれも憧れの末の路か。愚かしいと、俺は鼻で笑っただけだ。


 バニザット。俺が人間でもないのに。父と慕い、想いを大切にし、俺を誰より愛してくれる。それが毎日伝わる。

 もしお前がな。もし、俺より早く死ぬなんて、そんなことが起こるなら。俺は迷わず死ぬだろう。お前がいないのは耐えられん。


 俺の親は、()()()()()()()()()()()()と告げ、死んだようなもんだ。そんな奴は死ねばいい。だが、俺の存在に泥を塗ったことは許さん。


 皮肉なもんだ。親のせいで、俺は同じ過ちは踏まないと思ったんだろう。あんな馬鹿馬鹿しい死は、勝手な期待に操られた末だとしか思えん。


 俺は、ずっと追い続ける、天地統一への願望があった。

 そこにお前の先祖のバニザットが入った。あいつは俺の気持ちなんかどうでも良かった。それは俺にとって、楽だった。何一切関係ない、目的だけの付き合いだ。


 それなのにな。あいつは死ぬ前に、何て言ったと思う?


 ミレイオ・・・俺たちの()()、あのバニザットと俺の()()を叶える最後の希望を、俺の子供として創れ、と言ったんだ。そしてその準備はされていた。


 俺は迷ったが、時を見て。目的を追うために子供を・・・ミレイオを創った。


 そうしたらどうだ、あいつも親と同じで、俺を嫌う。どうにもならないから手放したが。馬鹿馬鹿しさが俺にも。目的がある以上、完全に放すわけにもいかん。しかし、皮肉だ。


 なぁ、バニザット。お前は()()()だぞ。お前が俺の名を呼んで、俺の『知らない心』を生んだ。俺の何もなかった、殺風景な場所に・・お前は水を注いで満たして、俺を」


「愛してるよ」


 ぱっと瞼の開いた漆黒の瞳。固まるヨーマイテス。漆黒の瞳が、見る見るうちに涙を溜めて、固まる父の首に、腕を伸ばして抱き締める。


「ヨーマイテス。愛してるよ。俺はあなたの息子なんだ。ずっとだ。ずっとあなたが大切だよ」


「バニザット」


 息子の腕に抱えられた首。生まれて初めて、両眼から溢れる涙が頬を伝うヨーマイテス。

 溢れた流れを止めることが出来ない涙に、息子はゆっくりと頬を擦り寄せて『()()()()()()()()()温かいよ』と微笑んだ。


「ごめんね。途中から聞こえていた。誰にも言わないよ。大丈夫だ。

 俺の父は、サブパメントゥの知恵の宝庫。金の獅子。力強く賢い、大きな愛を持つ男。俺は誇りに思うし、それ以外に何もない。何も心配要らない」


「おお、バニザット。お前は。お前は、俺の宝。もう一度言ってくれ」


「ヨーマイテス。愛してるよ。俺はずっと愛してるよ」


「どれほど嬉しいだろう、バニザット。俺の全て。俺の魂。俺の存在はお前だ。お前を愛そう、ずっと」


 頬を寄せて泣く涙の溢れる目が、お互いの笑顔をびっしょり濡らして、サブパメントゥの父と人間の息子は、しっかり抱き合う。抱き合って、シャンガマックはしんみりと目を閉じる。



 そうだったのか―― 愛情深いヨーマイテス。


 それなのにと、思う告白に胸が痛む。同情だけではない、大きな寄り添いが、シャンガマックの胸を張り裂けんばかりに満たす。

 異種族の父を持った運命に感謝して、これからの人生を目一杯、彼に捧げようと強く思う。何度も思うことを、今日もまた、うんと強く。


 自分の精霊の加護を、取り除くわけにいかないとしても。父を守るため、それ以上の知恵を得て、決して離れないように生きる。


 ぐっと、ヨーマイテスを抱き締めてから『よし。探す』と騎士は頷いた。


 顔を離した父の頬が濡れていて、夜の明かりに煌めく。その顔に微笑んで、シャンガマックは父の碧の目を見つめ『一緒に生きられる知恵を見つけるんだ』と力強く伝えた。


「バニザット、俺の()()。お前と関わり、ミレイオを創った目的を」


「言わなくても良い。俺は知らなくても良い。俺はあなたを愛しているんだ。今もこれからも、それだけだ。

 何が目的だろうが、何が理由だろうが、あなたが今まで生きていてくれたことで、俺は充分だ」


 シャンガマックは涙を拭いて、ベッドから立ち上がる。そして自分を見た、サブパメントゥの大男の額に、ゆっくり口付けて『俺は一生、一緒だ』と約束した。何回も約束し、伝えることを今日も口にする。


「バニザット。お前という男は。過去のバニザット以上だぞ。俺の最高だ。()()()()()でもある」


 その言い方が父らしくて、シャンガマックは笑う。涙を拭いたヨーマイテスも笑って立ち上がり、褐色の騎士を抱き寄せて、優しく抱き締めた。


「お前の精霊の加護を側にしても、俺は一緒に生きてやろう。お前を俺と同じくらい、生きさせるためにも。だがその前に、()()()()()



 抱き締めた体を少し離し、自分を見上げた騎士の笑顔に、ヨーマイテスは笑った。騎士の腹が鳴り続けていて、二人は笑いながら寝室を出た。

お読み頂き有難うございます。ブックマークを頂きまして、とても嬉しいです!有難うございます!


明日の投稿予定のお知らせです。仕事の都合により、明日は朝一回の投稿です。夕方の投稿がありません。ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんが、どうぞ宜しくお願い致します。


今回。ヨーマイテスが、眠るシャンガマックに独白する部分。

『Because Of You 』~Kelly Clarkson という曲を聴いていて、幾つも重なる箇所がありました。

曲の内容や歌の経緯は、大変きびしい過去を綴っています。

ヨーマイテスは無自覚でも、その状態を心のどこかで知っている、その部分が書いている私に何度も涙を流させました(※自分で書いておいて)。


数百年経った現在、シャンガマックのくれる愛情に、生まれて初めて自分の愛情も確信し、生きる意味を改めて思う箇所は、有名な『Stand By Me』~BEN E.KINGの一曲がピタッとはまりました。


どちらの曲も素晴らしいです。もしご関心がありましたら、是非!

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