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魔物資源活用機構  作者: Ichen
精霊たちの在り方
1214/2964

1214. 舞い込む『お告げ』 ~市場では

 

 一方。お昼下がりの市場へ到着してからの、ミレイオとタンクラッドもまた、面白い情報を得ることになった。



 二人は食材店から始まり、水を汲める井戸を教えてもらい、水を補充し、側で箱を洗っているおばさんに話しかけられ、答えたことから、魚介の加工品を買うことになり、そのおばさんに教えてもらった服屋で頭衣を買った。


 ここまでは、ミレイオの楽しみの範囲。


 タンクラッドは付き合わされているだけで、食べ物はまだしも、衣服系は我関せず。

 とはいえ、放っておいてもらえるわけもなく、布を選ぶミレイオに『これ着けろ』『頭貸して』『どっちがいい』と遊ばれるように、何度も布を巻かれて不機嫌になったが、ふと、斜め前の店に目が留まった。


 そこからがタンクラッドの楽しみ。


 布を外して『お前の好きに選べ』と吐き捨てるようにミレイオに言うと、わぁわぁ文句を言うミレイオを後ろに、すたすたと目当ての店へ向かった。


 木の板で影になっていた店だが、覗いて見れば、剣やら盾やら。テイワグナらしからぬ雰囲気の物も多い。これは面白いなと中へ入り、暗がりに座る、同じくらいの年の男に話しかけた。


「これは。テイワグナの物に見えないが」


「んん?お客さんはどこの人だ。そういうあんたも、テイワグナ人じゃないな」


 ハイザンジェル、と答えると、彼は目を丸くして『遥々来たねぇ』と可笑しそうに言い、座っていた小さな椅子から腰を上げると、タンクラッドの手に持った剣を見て、同じものが掛かった壁を指差した。


「この辺はね。ヨライデから仕入れてるよ。あっちの鉱物はまた()()()と違うからさ。ヨライデから来る護衛が、こんなの買うんだよ」


「ああ、護衛用か。誰が使うのかと思ったが」


「最近は魔物も出るし、買う人が増えたよ。以前は、実用する仕事の連中しか買わなかったけど」


 剣に関心を持つ背の高い客に、店の男は脇の棚を見上げて『こっちは()()()()の剣工房だよ』と教える。タンクラッドは、近くに剣工房があることにハッとして『この町か』とすぐに訊いた。


「いや。ここじゃなくて。知らないのか。あのね・・・テイワグナの西では有名なんだけど、ウェ・リフ地区のスランダハイの町。知らない?川を渡ってきた?」


 店主はカウンターに戻ると、カウンターの下に置いてあった地図を出して広げ、タンクラッドに見せる。


「ここ、この町な。ムバナ。これが川だ。そこの川。で、ウェ・リフ地区はこっち。川沿いに山の方に上がるんだよ。ずーっと行くとさ、どんどん地質が変わってきて、見える範囲が白くなるよ。そうすると、傾斜が下りで見えてな。見たら驚くぞ、穴だらけ」


「穴?」


「そう。洞窟地区って俺たちは適当に呼ぶけど。すり鉢になった地形にさ、こんな具合で、ボコボコ、穴が開いてるわけ。全部、洞窟。中で繋がっているみたいだけど、迷うと出られないから、下手に入っちゃだめだよ」


「洞窟地区・・・そこがその、剣工房の」


「その先。洞窟ばっかのところは道は通さないから、脇をね。洞窟見ながら進む感じでね、北に向かうと町がある。その町が洞窟地区も管理しているよ。

 洞窟付近は鉱物が豊富だから、スランダハイの町は、剣工房とか武器や鎖帷子も作ってる」


 これには驚いたタンクラッド。一ヶ所に、武器防具の工房が集う町とは。もう少し詳しく、知っていることを訊ねてみると、店主はタンクラッドをまじまじ見て『買うの?』と一言。


「すまんな。俺は旅人で、自分の剣は間に合っている。だが、剣職人だ。だから気になる」


「えっ!あんた、職人か。どうりでデカイ手だなと思ったよ。強そうだなぁ」


「それはいい。テイワグナに来た理由も、()()()()()()の指導だ。ハイザンジェ」


「あー!知ってるよ!凄いっ、あんたなの?警護団員が話していたからさ。そんなこと出来るのかよ、って・・・わぁ、すげえ!うちにそんな人来てくれたのか」


 話を遮って興奮した店主に、『握手してくれよ』と両手で手を握られて、タンクラッドは苦笑いしながら、掴まれた手をぽんぽん片手で叩くと『とりあえず、情報をくれ』と話を戻す。



 そして親方は、ひょんなことから次なる目的地に『武器防具三昧』の楽しみが待つ、と知り、店主にお礼を言うと店を出た。が。


 ミレイオは、まだ斜向かいの服屋で布を選んでいて、もう行くぞと、声をかけると再び捉まった(※試着用親方)。


「どこ行ってたのよ!一人じゃ見れないのにっ」


「お前なぁ。そんな時間かけることじゃないだろう、たかが頭に巻くもの・・・おい!」


「動くなっ え~、この柄って巻いたら隠れちゃうの~?」


 柄が見えないとか、見た感じは良いのにとか、長さが気になるとか。どーでも良いことを気にし続けるミレイオは、親方の頭を取っ捕まえて、選び続けた布の束を次々に巻く(※数十枚)。


「鏡、あるだろう。服屋なんだから」


「別のお客さんが使うって、持ってっちゃったわよ(※独り占めしてた)」


「ミレイオ、もういい加減決めろ。あっちに盾があったぞ。ヨライデの」


「え?」


 やっとこさ、布ではなくて人間の目を見たミレイオ(※親方マネキン)。

 くさくさした親方は、頭から布を引っぺがして、布の束の(かご)にぼそっと投げ落とすと、さっと籠を持って『買っちまえ』と投げやりに会計へ。


「ちょっと待ってよ、これ要らないの。これもどうしようかなって」


「面倒臭いから、全部買えよ。後でドルドレンに、働いて金返せ」


「何言ってんのよ!無駄遣いはしたくないでしょ。それこっち貸して。これ要らないやつ。あ、待って!それ買う」


 面倒過ぎるので、ミレイオと(かご)を店員のおっさんに任せ、うんざりした顔で、親方は後ろに立って待つ。


 おじさんもミレイオ相手に、うーんうーん悩みながら(※会計しようとすると止められる)どうにかこうにか、ミレイオの迷いを捌き、10分後に無事、買い物終了。



「さすが客商売だ。お前を相手に、10分で片を付けるとは」


「どういう意味よ」


 荷物持ちの親方は、ミレイオに箱を渡されたのを持ってやり、横付けした馬車へ運んで積む。

 それから、ミレイオに時間を教え『絶対に15分以内で戻れ』と命じると、さっきの店を教えて行かせ、自分は馬車で待つことにした。


 待ち時間に、洞窟地区までの道を、地図で確認していたが、案の定。


「あ゛ーーーっ 戻らん!」


 15分を過ぎ、20分までは待ってやろうと伸ばしたが、それでも戻らない。苛々し始めて、もう少し・・・と思っていたら、30分越えた。


 一々、迎えに行かないと、戻りゃしないミレイオに舌打ちし、馬車を下りてずかずか剣の店へ入ると、振り向いたミレイオがお茶を飲んでいた(※馴染む人)。


「あれ?15分でしょ?」


「倍だ、倍っ!お前の感覚はどうなってるんだ!30分越えたぞ、さっさと戻れ」


「お。さっきの職人さんじゃないか。怒ってるけど、知り合い?」


「こいつ、キレやすいのよ。そんな顔してるでしょ?」


 ムカーッとした親方は、ミレイオの手にあるお茶を引っ手繰って飲み干すと(←自分が)ミレイオの腕を掴んで『戻るぞ!』と怒鳴り、ぎゃあぎゃあ喚くミレイオを引っ張って連れて行った。



「情報、まだ聞けそうだったのに!」


「お前は話が長いんだよっ 茶なんか飲みやがって。待ってる身になれ!」


「こんくらい待ちなさいよ。何よ、すぐ怒ってさ!そんなみみっちい神経してたらハゲるわよ、ハゲたら笑ってやるからね」


「そういうことを言うな(※ハゲは嫌)!」


 怒っている割には二人で御者台にいるので、言い合いは止まることもなく。この後も、宿に着くまで、二人はずっと言い合い続けていた。



 馬車が宿に入ると、裏庭の馬車にいたドルドレンたちが顔を出して『お帰り』の挨拶。もう夕方近いので、ドルドレンは距離があったことを労う。


「長かったな。遠いから」


「違う。こいつだ(※ミレイオ)。買い物が長くて敵わん」


「良いものを選んでるのよ!あんたたちが気にしなさ過ぎるから」


「お前はどうでも良い部分で悩むじゃないか!時間も気にしやしない」


 入ってきた時から大声で張り合っていたので、ドルドレンはそっと親方の側へ行って、腕を取って下ろし、ミレイオはフォラヴが引き取って、二人の中年にようやく静かな時間が戻る。


 ロゼールとザッカリアが、二人のためにおやつを用意して渡し、親方は口に食べ物が入った時点で、少し落ち着いた(※怒ると腹が減る)。

 ミレイオも苛ついていたようだったが、お茶とおやつで、大人の対応を持ち直す。



「バイラは仕事でまだなのだ。でも、バイラと一緒に動いたロゼールが持ち帰った情報を、先に聞かせてもらった。収穫が多かったぞ」


 ドルドレンが親方にそう微笑むと、親方も少し考えてから『俺の情報もまずまずだろうな』と呟く。

 親方は、市場で剣を販売する店を見たことを伝え、そこで聞いた話が次の目的地『洞窟地区』だったことを話した。


「この町から近いからなのか。俺も、洞窟だらけの先にある町の話を、ロゼールに聞いた。そっちには、金属を加工するところがあるという話で・・・覚えているか?本部で聞いたハディファ・イスカンの妖精」


 途中までは一緒だが、妖精の話が出て来て、親方も続きを促す。ドルドレンの話を聞いて、それからスランダハイの工房の話をすると、総長も関心を寄せる。


「同じだな。その場所だ。そして、妖精が倒した魔物の金属?だろうな。それもそこに」


「行くか。運んでいる人々が、何日前に向かったか、分からんが」


「うむ、俺もその方が良いような。あのな、ちょっと小声になるが」


 何かと耳を寄せると、ドルドレンは耳打ちして『フォラヴが気にしている』ことを伝える。

 寝台馬車に、ミレイオとザッカリア、ロゼールと一緒に引っ込んだフォラヴは、もしかすると今、彼らに話しているかもと言うと、親方は少し黙った。


「行きたいのか・・・・・ 」


「そうだと思う。そこにもう、妖精がいないから無駄足ではと、俺は思うが。言うに言えん」


「可哀相になるな。龍族みたいに仲間が四六時中、迎えに来るわけでもないし。

 バニザットや()()()()()、サブパメントゥが常に、側にいようとしてくれるわけでもない(※ここでロゼールの存在に悩む)・・・からな」


 言いながら黙りこくった親方に、ドルドレンはちょっと待ってから、うん、と頷いて『妖精はそんなに出てこない』と同意した(※何でいきなり、親方が沈んでるのか疑問)。


「そうか。行かせてやりたいが。どうしたもんかな。距離があるし、目的地から大きく逸れるしじゃ」


「うーむ。話し合おうか。フォラヴだけ行かせるわけにいかないが、誰かが付き添って確認に行くだけでも」


 龍で行くか。それとも、お皿ちゃんで一緒に行ってもらうか。『お皿ちゃん保有者が二人なのだ』今なら、ロゼール付き。それを呟いた総長に、親方はまた別方面で沈む(※ロゼールの価値が上がる気がする)。


「そうしよう。馬車ごと動くのは大変でも、飛んで往復する分には、時間も短縮する。俺たちが移動している間に、日帰りで行ってもらおう」


 ドルドレンはそう言って、親方を見る。親方は小さな溜息をついて頷き『そうだな。話し合って』と答え、少し一人になりたいと、荷台で横になってしまった。


 唐突に沈んで、横倒れてしまった親方に、ドルドレンはどうしようかと考えたが、彼は買い物で疲れたのかもと思って『後でね』と声をかけ、寝台馬車へ行った。



 思った通りで、寝台馬車ではフォラヴが打ち明け中。輪に加わった総長に、早速『ハディファ・イスカンへ』のお願いが出され、総長は、それを相談しようと思ったことを話す。


 幾つか案を出した後、龍を呼ぶのも難しいということで、お皿ちゃんで向かうことに決まった。


「もし近くに妖精がいたら、龍は嫌がるだろうね」


 ザッカリアは、別種の相性が難しいことに、眉を寄せる。フォラヴもそれは承知の上。自分は平気だけれど、普通の妖精に、龍を近づける気になれない。

 近くまで龍で行こうにも、どこにいるか分からない以上、安全な『お皿ちゃん保有者同行』が一番である。



 こうして、バイラが戻ってくるくらいの時間、5時近くには、翌日の行動が設定された。


 フォラヴはミレイオと一緒に向かう。ミレイオの方が何かと融通が利くので、二人で確認へ。バイラが戻ってきたので、このことを早速、相談すると、すぐに地図を見て場所を教えてくれた。


 ミレイオは、説明を受けながら、何度か目を細めて首をゆっくり傾げるように、疑わしそうな様子を見せていたが、とりあえずは場所の間違いがなさそうなので、示された場所を目指す。


 そして、親方も起きたので(※ちょびっと回復)皆で宿に入り、部屋の鍵を受け取ってから夕食へ。


 バイラの報告、近隣の魔物状況や詳しい近辺の情報を受け取りながら、一行は夕食を終え、この日は早い風呂を済ませて、就寝時間に入る。



 宿の部屋での夜。それぞれ、明日のことを考えながらの時間を過ごしたが、たった今、()()()()()一緒に動くことになったロゼールだけは、『明日のこと』その内容が、親方の機嫌取りだけに集中していた。


 どうしようかなぁと、気持ちが塞ぐ時間。タンクラッドさんは気にしているだろう、と思うと落ち着かない。


『ロゼール。乗る。コルステイン。行く。お前。一緒』


 部屋を暗くして待つように言われていたロゼール。暗い部屋で悩んでいたのだが、頭に響いた、その幻想的な声。


 暗い部屋の窓の向こうに、大きな黒い鳥が現れて、背中に乗れと言われたすぐ。冒険心が膨れ上がり、さっきまでの心配は吹き飛び、喜んで黒い鳥の背中に乗った(※心は少年)。


『コルステイン、凄いですね!鳥にもなるのか』


『掴まる。お前。落ちる。ダメ。速い。飛ぶ』


 喜ぶロゼールに、機嫌の良いコルステインは、大きな翼をぶわっと広げて、夜空の月に向かって飛び立った。



 そんな二人を見送る、別室のタンクラッド。

 切なさいっぱいで、大きな溜息をついて、ベッドに潜り込んだ夜。

お読み頂き有難うございます。

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