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魔物資源活用機構  作者: Ichen
精霊たちの在り方
1213/2964

1213. 舞い込む『お告げ』 ~町役場で

 

 旅の馬車は、広い川に架かる橋を渡り、向こう岸に到着。


 町は、この橋の少し先にあり、橋の(たもと)は左右に続く道が敷かれている。町はこのまま直進で、壁代りの樹木が接近して植えられている様子が、遠くから見えた。



「ムバナの町です。川はありますが、()()()干上がるんですよ」


 困ったことに、と笑うバイラは、馬を進めながら少し振り向いて、通り過ぎた川の事情を話す。ドルドレンは川幅が広かったことから、そんなに干上がるように思えないと答えた。


「あれが干上がる?今は普通に流れていたぞ」


「広いだけで本当に、浅いから・・・あれは、少ない水量ですよ。秋がない、テイワグナです。次の雨期が来る前に、川底が見えるくらいまで水が涸れます。年に二回、この辺は雨期が来るから、それ以外は少ないかも」


「川の深さは?底が見えるとは」


 そんな風に見えなかったので、深さを訊ねると、『せいぜい深くて50㎝』とか。橋が架かっているのは、雨期に対応したためで、普段なら、足を取られることさえない深さのよう。


「そう言えば。船・・・ないのだ」


 言われてみればと思って呟く総長に、バイラはカラカラ笑って『船底がすり減る』と首を振った。


()()()()()()船はあるでしょうね。でもここは、一般的な船なんて浮かべられないです。引っかかるところも多いし、魚も大きなものが棲まないから」


「無意味」


「そうです。漁でも出来れば、それなりに船も用意するし、網なども見える場所にあるでしょうが。

 でも・・・町に入れば、魚は食べられるかもしれません。加工魚ですが、ヨライデからも入る食材が多い地域です」


 そうなの?とバイラに聞くと、バイラは荷台の方に顔を向けて『もしかすると、ミレイオはこの辺を知っているかも』と答えた。

 彼は旅をしていたことがあるそうですし、と続けたので、ドルドレンも思い出して頷いた。



 こんな話をしながら、町の入り口に到着。植樹が左右に分かれた形で、入り口と分かる。門などはないが、見張り台はあった。入ってすぐの見張り台に、男の人が二人いて『旅の人?』と訊ねる。


 バイラが応じている間、ドルドレンは通過した入り口に、あの()()()()の跡を見た。


 しかしそれは、既に崩れていて、恐らくコリナリ村と()()()()だっただろうと分かるものの、粒々した鈍い光が見えたことから、甲虫の翅が埋め尽くしている、もう『用済み』のものと判断出来た。



 ドルドレンの気づいたことは、そこを通過した荷台から見ている職人二人も同じで、虫が砂を被って埋まっている様子を眺め、二人は『気持ち悪い』とぼやいていた。


「やっぱり来ていたのね」


「そうみたいだな。こっちが先、ってことか。村人の話では『ムバナから来た』と言ったみたいだし」


「変な相手よね・・・普通の男の姿に見えたわけでしょ?村人や、この町の人には。

 でもドルドレンが見た時はもう、バケモノじみていたらしいし、私が見た時は()()()()()()だったのよ」


()って、言っていたろう。擬態みたいなもんじゃないのか」


 崩した体を変化させるのは、蛹の中身が溶けているのと同じで、と。親方は、何てことなさそうに教える。


「魔法使いって感じじゃないわよね」


「そこだけ見れば、な。しかしやっていることは、魔法とあまり変わらんように、俺は思うがな」


()()が、何でも気体的な形でもないし、不可思議現象ばかりでもないだろうよ』と鼻で笑った親方は、揺れる荷台の中で立ち上がり、荷物を引っ張り出す。


「何してるの」


「ん?場所開けてるんだよ。お前が買い物すると、物が増えるから」


 何よ、それ!と笑ったミレイオも立ち上がり、笑って荷物を整え始める親方の横で、『()()()()()じゃ入らないわよ』とケチを付けながら、一緒に片付けし始めた。



 二人仲良く(?)荷物を整えている間に、馬車は宿屋の通りへ入る。


 見張り台の町民に教えてもらった3軒ほどの宿の内、バイラは良心的な宿屋を選び、表に立っていた宿の主人に話しかけたら『空いているよ』の返事。そんなすんなりした流れで、馬と馬車は宿の裏庭へ。


 馬車を下り、皆は宿へ一旦入る。いつも通り、部屋と人数の代金を支払い、一泊予定で風呂の時間や食事内容を訊ねると、お宿のご主人は笑顔で『運が良いですよ』と言う。


「お客さんたち、()()()()()()お風呂あります」


「断水だったのか」


「そうなんですよ。今朝、やーっと川に水が増え始めて・・・川。そこの。通ったでしょ?あれ?来たの、()()()()()()じゃないよね?」


 違う、と首を振るドルドレンに、彼らの顔をサーッと見渡した主人は頷く。『テイワグナ人、二人ですものね』と言いながら、通ってきた川の話を続ける(※テイワグナ人認定=子供・警護団員)。


「昨日一昨日は、完全に断水でした。風呂もさすがに水が張れないから。料理で精いっぱい。

 今日の朝、川に水が入り始めたと役場から連絡があって、それでさっきですよ。断水が終わったの」


 細い流れが筋を引く程度まで、川は水を失っていたという。あまりにも急に水が消えたから、どこかで地下水が滞ったかと、町の人間も心配したらしかった。



 宿屋のご主人はこんな話をしてから、お昼時なので食事処を教えてくれ、旅の一行はお礼を言って、まずはお昼。


『通り一本向こうの大衆食堂が、安くて早くて美味しい』らしいため、大柄な二人がいる旅の一行は、いそいそ大衆食堂へ向かい、割と人の多い店屋で席をもらい、そこで食事にする。


 途中、店屋の女性が入れ代わり立ち代わりで来たが、ミレイオが瞬間で追い返し、昼食は滞りなく食べることが出来た。


「ちょっと、人間が増えると()()だものね。毎度のことだけど、面倒で慣れないわねぇ」


 町はこんなのばっかり、と笑って食べるミレイオに、ドルドレンたちは何も言えない(※イケメン集団)。鉄壁の守護に感謝し、黙々と食事を進めた。

 タンクラッドだけはいつもの如く『どうして、こんなおっさんに話しかける気になるんだか』と分からなさそうだった(※貴重な無自覚イケメン)。


「ここじゃ話せないわね。馬車に戻って、午後の行動決めましょ。食材も買わないと」


 コリナリ村では一食分。ロゼールがまとめ買いしてくれたから、少し余分はあるが、この先の道を見ると食品補充は必要。


「頭衣も買わないとならん。ええと、あとは何だ。水も?汲めるだろうか」


 ドルドレンも水不足は気になる。その辺は町役場へ行って聞こう、とバイラが言い『駐在所も寄ります』とのこと。

 ロゼールが同行して『ハイザンジェル王国魔物資源活用機構』からの書類も、ここの駐在所で写しを作ることになった。


「そうか。じゃ、ちょっと細かく決めないとな。戻るか」


 どっさりの食事を頂戴した皆は、店の人混みを縫って、表へ出る。店の女性は、名残惜しそうな目を向けながら、鉄壁のオカマに睨みつけられては、視線を逸らしていた。


「思うんだけど。全員、頭衣使った方が良いんじゃないの」


 扉をくぐったところで、冗談ともつかないことを言うミレイオに、皆が苦笑い。

 ロゼールとしては、総長たちは毎回こんな事でも苦労しているのかと、同情するだけ(※ロゼは普通)。

 遠征でも、そうした場面はあったけれど。『顔が良い・目を引く旅の一行』というのも、楽ではないんだ、と理解した。



 皆は馬車に戻り、買い物組と役場組に分かれる。お金を受け取り、職人二人が買い物。騎士4人とバイラが町役場。

 バイラは書類を揃え、ロゼールも機構の書類と、持参した剣と弓を用意した。町役場へは馬車で15~20分くらいなので、夕方前には戻るだろうと予定して、『戻ったら、夕食前に報告』と決まった。


 食品店は別の通りの、市場の並びが安いらしいため、そこまで出かける。

 バイラが言うには、『市場は頭衣などもあるから、その場所だけで買い物が済む』様子。ミレイオとタンクラッドは荷馬車を出し、ドルドレンたちは寝台馬車で出発した。



 目的地に着くのが早いのは、役場行きの馬車。寝台馬車は、午後の道が空いているのもあって、すいすい町役場まで進み、少し話したところで役場へ到着。


「道が空いていた」


「朝と夕方は混むでしょうね。市場があるから・・・ここは収穫物が少ない町だから、近隣からの持ち込みで町を成り立たせています」


 馬車を下りて、馬を繋いだバイラと騎士4人。町の午後は意外に静かだと話しながら、役場に入ると、こちらも静かで何となく違和感。役場内は広く、建物も大きいのに、見える範囲に職員と客人が5~6人。


「こんなに人、いないの」


 ぼそっと呟く総長に、バイラも『過疎化もあると思います』と少し笑った。

 田舎町は人が少ないもので、それに加えて魔物騒動も始まったわけでと、説明すると、総長も頷いた(※そうだよね、と)。


 くっ付いてきた3人の騎士は、がらんとした役場内を見渡して無言。あまりにも静かで、息をしている音さえ、大きく思えた。



 バイラが受付に話しかけ、自己紹介と駐在所の場所を訊ねる。受け付けのおばさんは、顔の良い皆さんを見て、心なし歓迎の意味もあるのか、不要なほどの笑顔を向けてくれ、すぐに町長に知らせに行ってくれた。


 待つこともなく。おばさんと一緒に奥の部屋から町長が出て来て、一行を横の部屋へ通す。町長は小柄なおじさんで、テイワグナ人と別の国の人が混ざったような、ちょっと変わった顔つきだった。


「ハイザンジェルから。遥々ようこそ、こんな田舎まで来てくれて有難うございます!

 私はサリ・ハマラダです。このムバナの町長です。メニ・イスカン地区は地区長がいるので、私はここだけ。暇なんですよ」


 アハハハと笑う、気さくな町長さんに、ドルドレンたちもつられて笑うが、うっかりしていると雑談のみになりそうな雰囲気から、さっさと業務に入る(※おじさんが気さく過ぎて脱線する)。



 ここからざっくり。すぐに脱線したがる町長と、頑張って会話を続け、どうにかこうにか、必要なことを伝えて、欲しい情報を聞き出した。


 駐在所は役場の裏で、建物は渡り廊下で繋がっている話だったため、バイラは最初の方で退席。駐在所へはロゼールも連れて行った。


 残ったドルドレンとフォラヴ、ザッカリアは、話がすぐに変わる忙しいおじさん(※町長)相手に、四苦八苦で情報のやり取りを続け、終わる頃にはげんなりと疲れ切るほどだった。


 町長は話し終わっても引き留めて、宿の手配がとか、一緒に夕食とか、あれこれ楽しそうに決めようとしていた。ドルドレンは丁寧にお断りして、疲れた脳みそにもう一頑張りし、町長にお礼を言って、部下を掴み、町役場をそそくさ出る。



 馬車へ戻ってようやく、3人で顔を見合わせて笑う。『凄い喋る人だったのだ』ドルドレンの一言に、フォラヴもザッカリアも笑って同意する。


「一人で喋ってたよ。関係ないのに、俺にも聞くし」


「誰でも良いのでしょうね。ご本人も暇だと仰っていましたから、話したくて仕方ないのかも」


「会話にならない。答えが出る前に脱線するから、戻すのが大変だ。知恵を使った」


『頭が疲れた』と笑って水を飲む総長に、バイラとロゼール待ちの騎士たちは、おやつにしようとお菓子を出して、馬車の荷台で休憩に入る(※会話で疲れた)。


「気が付けば。もう三時ですか。あの方が話しているから、進みませんでしたものね。ミレイオたちはもう買い物が終わったでしょうか」


 フォラヴは役場の外壁にある日時計を見て、買い出しに出た職人はもう終わってるかもと言う。

 妖精の騎士の落ち着かない感じに、ドルドレンは少し考えてから訊ねる。


「行きたいのか。神殿へ」


 空色の瞳は、さっと総長の質問に目を向けて、ちょっと躊躇ったように長い白い睫毛を伏せた。


「ハディファ・イスカン神殿の妖精。()()()()()()()わけではないようだったが」


「はい。町長のお話では、皆を守ってから消えたとか」


 ――魔物の近況を教えてもらっている会話の時。

 町長は、脱線がてらなのか、フォラヴを何度かちらちら見てから『()()()()()()()雰囲気の妖精がいるんですよ。ご存じかな』と、突然、その話を振ってきた。


 でもその妖精は、最近。神殿に魔物が出たことで、神殿へ来ていた人々を守り、そのまま妖精は消えたという話。町長は一度だけ見に行ったことがあり、それは綺麗な顔をした妖精だったと話した。


 詳しく聞こうとしたが、町長は『警護団の報告書で上がっている』と言ったので、これはバイラが恐らく教えてくれると判断し、この話はそこで終わった。



「バイラが戻るまでは」


「ええ。はい。もう少し情報をもらって」


「フォラヴ。妖精は()()()可能性が高い。それでも行きたいか?」


「あの・・・ええ。そうですね。気になって」


 滅多にない、妖精の騎士のそわそわしている様子に、ドルドレンとザッカリアは目を見合わせて、少し同情する。

 妖精はあまり出会わないから、成長し始めたフォラヴに合わせてやりたい気持ちはあるが、()()()()()()以上、向かうと決めるのも難しい。


「総長!」


 どう答えてやれば良いのかと、首を傾げたドルドレンの背中に、バイラの元気な声が掛かる。お、と思って振り向き、バイラとロゼールが出てきた姿に手を振った。


「ちょっと収穫ですよ!どうしようかな、私はもう少し、仕事をしてから宿に戻るので・・・どうでしょう。ロゼール。あなたから話しておいてくれますか」


「はい。()()、ですよね?」


 ニコッと笑ったバイラに、ロゼールは自分から話しておくと答え、バイラは総長に『夕食までには戻ります』と挨拶し、手に持っていた弓矢と剣の箱を荷台に置くと、また駐在所へ戻って行った。



 彼を見送った騎士の4人は、何か土産的な報告があることから、馬車を出す前にロゼールに話を頼む。


「はい。俺はよく知らないんですが。まずは妖精の話です。

 ここから先に行ったイスカン地域に、古い遺跡があって。そこに親切な妖精が棲んでいたそうですが。でもその妖精が、この前、神殿を襲った魔物を()()()そうで」


「ん?妖精が()()()?魔物を」


「そうです。報告書にはそうありましたね。って、俺は読めなかったですが、バイラさんが教えてくれました。で、倒した魔物の体に変化があって、助けてもらった人たちは、それをこの町に持ち込んだそうですよ」


「何と。そんなことが!なぜ持ち込んだのだ」


「バイラさんは、各地にある警護団に報告書で『魔物製品』の話を回しているんですね。その話はもう、かなり有名みたいです。

 イスカン地域は情報が届くのは遅いようですけれど、その話を知っていて、変化した魔物の体・・・要は、イーアンが使うような形なんじゃないかな。それを持ってきて『これで何か作れないか』と相談したらしいんですよ。妖精が地域に良くしてくれていたから、最後のお守りみたいに」


「最後の?」


 さっと口を挟んだフォラヴ。悲しそうな目に、ロゼールは少し驚いて『もう、そこに()()()からだよ』と急いで教える。何かフォラヴに辛い話なのかと察し、ロゼールはすぐに付け加える。


「妖精は『消えた』と書いてありました。魔物を倒した後、少しずつ薄れて、そのまま消えてしまったようで。

 でも、死んでしまったわけじゃないから・・・それは、魔物の変化した体を持ち込んだ人たちが、話していたようですよ。どこか別の場所に行ったんじゃないかって」


「ロゼール。話を戻してすまないが、その、持ち込んだものは?」


 ああ、そうだと頷いて、ロゼールは資料の紙を何枚かめくり、一枚の紙きれを出した。それは地図で、ドルドレンたちは地図を覗き込む。ロゼールは地図の一ヶ所に指を当て、そこからすーっと線を引く。


「こっちに、加工する町があるらしいんですね。町で紹介状を書いてあげたようで、彼らはその町へ向かったんです」


 ドルドレンはじっと地図を見つめる。誰かの描いた地図・・・ムバナの町から、ロゼールの示した『町』までの間に、何個も黒い丸が。見つめる灰色の瞳に気が付いて、ロゼールは教える。



「これ。町の手前は、『洞窟だらけなんだ』って言っていました」


 すっと上がった灰色の瞳を受け止めた、ロゼール。総長の静かな笑みを見て『目的地ですか』と、ふと訊ねると、彼はニッコリ笑って『その通りだ』と頷いた。


 フォラヴもその話に、少し何かを考えているようで、不安そうな表情は既に彼の顔から消えていた。

お読み頂き有難うございます。

ブックマークを頂いて、とても嬉しいです。頑張ります!宜しくお願い致します!

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