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魔物資源活用機構  作者: Ichen
精霊たちの在り方
1210/2965

1210. 別行動:獅子の両腕の力

 

 昨日、泣かせてしまった息子(※傷心)を慰めるため、ヨーマイテスは、これまで誰も入ったことのない、自分だけの狭間空間に連れて行った後、船を出して空を飛んだ。



 テイワグナ中の空を動き回ってやり、遠くに見えるヨライデや、ティヤーの夜の風景を楽しみ(※主にバニ遊覧)腰袋に入れてあったと、息子が取り出した干し肉を二人で食べ(※ディナー延長)少し寒いと言う息子をずっと抱き締めてやって(※かなりデート)寝落ちした息子を連れて帰った(※健全)。



 特に眠らなくても平気な体のヨーマイテス。なのだが。朝になって、何やら体に違和感がある。


 どうしたかと思ったが、ふと『龍気?』呟いて、眉を寄せる。あの船の龍気か?と疑問を持った。


 しかし、あの船は元々、龍気の塊ではあるものの、どういうわけかサブパメントゥが乗れる。今頃、何が出るはずもないし、まして、今の自分は、ちょっとそっとのことで影響はないはず。

 とはいえ。かなり長い時間、乗っていたのは確かだし、もしかすると、龍気に当たり過ぎたのかと考える。


 ここまで思ってから、でもやっぱり、と戻る。

 それもおかしい。この程度の()()は以前もある。こうなると何が理由なのか。船でないなら、他に自分に影響するものなんて、そうそうないはずだが――



「おはよう」


 考え事をしていると、(たてがみ)の中に顔を埋めていた息子が起きて、ニコッと笑う。『おはよう』と挨拶を返した獅子は、さっと顔色が変わる。まさか――


 顔色が変わったところで、毛が生えている獅子の顔。気が付かないシャンガマックは、伸びをして『昨日。俺は寝てしまったのか』と笑い、体を起こして水を飲み、昨晩の嬉しい気持ちを話し出す。


 うんうん、聞いているヨーマイテスは、楽し気な息子の話に相槌を打ちながら、まさかの疑問がむくむく膨れる。


「どうしたの」


 凝視するように見ている碧の目に、息子は首を傾げて『何か心配か』と訊ねる。そんなことはないと答えたが、息子は『さっきからずっと、首が揺れている(※頷いてるタイミングずれてる)』と指摘。


「ヨーマイテス。疲れている?ヨーマイテスは疲れ知らずだと思っていたが」


「疲れるわけないだろう。サブパメントゥなんだから(※隠)」


「でも。何だか。少しいつもと違うような。眠っている?俺ばかり寝ている気もする」


「お前と違うんだ。人間のように『習慣化する体質』がない。心配要らない」


 そう?と頷きながらも、父の答えに不安そうなシャンガマックは、手を伸ばして、獅子の額に触れ(※熱)よく分からないので、眉を寄せて悩む。額をナデナデしながら、『朝食は要らない』と伝える。


「何で食べない。取ってくる」


「いいよ。休んでくれ。それほど、腹は空いていないんだ」


「ダメだ。バニザット。お前は食べなければいけない」


 いいから、と顔を近づけて断り、獅子の目を覗き込むシャンガマック。父が何か、戸惑っているのは分かる。でも、言えないのだろうと理解して、促してあげることにする。


「ヨーマイテス。いつも俺に付き添っているから、自分の時間がないだろう。俺は今日、一人でも構わない。ここで練習して、森にも入らない。だから」


「何を言ってるんだ。お前を一人にしないぞ。何かあったらどうする」


「ないよ。ここで何かあったことなんて・・・ビルガメスが来たくらいだ。平気だよ」


「俺には、()()()()()()


 遮るように答え、さっと目を逸らした獅子に、シャンガマックは考える。この言い難そうな雰囲気は、多分()()()だ、と感じた。


 じーっと見ていると、獅子はちらちら目を合わせ(※ビーム弱い)『そんなに見るな』と注意した。


 シャンガマックは溜息をついて、両腕を伸ばし、獅子の首を抱き寄せると、鼻を付けて真っ向から目を見る。獅子はイヤそう(※逃げられない)。


「こら。バニザット(※注意)」


「何も悪いことをしていない。抱き寄せて目を見ているだけだ。俺に言えないことがあるのは、気にしない。でも分かる。()()()だろう、それ」


「バニザット。勘繰るな」


 イヤイヤする獅子の頭をぎゅっと寄せ(※逃がさない)『そうじゃないのか』と見つめ続けると、父は折れた(※勝者バニザット)。


「お前に言うことじゃない」


「俺が聞けないことか。ヨーマイテスが、俺のことで悩むのは避けたい」


「そうやって、俺を困らせるな。お前かどうかも分からな・・・いや」


「俺?何か俺が理由のこと?だから話せないのか」


 言いかけて『違う』と口を閉ざす獅子に、褐色の騎士は首を振って『それなら言ってくれ』と頼む。自分を心配して何かあるのかと思えば、()()()()()の可能性。そんなことは言ってくれなきゃ、と詰めた。


「言ってくれ。俺が理由なんて、ダメだ。何があった。俺は何をすれば良い」


「まだ分からん」


「ヨーマイテス」


 しっかりがっちり、獅子を押さえて、目を逸らさないように言うと、獅子は溜息。


「言わせるな。本当じゃなかったら、俺は自分がイヤになるだろう」


「そういう内容なのか?どうすることが一番なんだ。俺が出来ることを教えてくれ」


 じっと見て、絶対に自分を放してくれない息子を前に。ヨーマイテスは何度も言おうとして、黙る。


 まさか。まさか―― 息子が、サブパメントゥ()に影響しているとは。

 まだ、懸念の範囲でしかない、このことを、決定でもないのに言えるはずもない。



 この両腕に組み込んだ、命懸けの魔法の道具。


 これは、老バニザットの魂と知恵を介して、精霊ナシャウニットと交渉した結果、手に入れたものだ。


 これがあれば、精霊の加護が強くても、触れることが出来、共に動ける、と。

 龍気にも、()()()()とやられない。無論、妖精の高位の存在にも、そう簡単には影響を受けない。


 これを両腕に埋め込む代わりに、死ぬ可能性も半分以上あった。そのまま、消えて無くなる。耐えられなければ、俺は消えた。

 ナシャウニットが、バニザットを守ろうとする俺を信じたことで、交渉が出来た結果。命懸けの行為だったが、俺の気持ちの強さが勝った。両腕にはバニザットを守るために、触れることの出来る力を得た。


 そして同時に、他の種族の力を引き込んで、自分の力に乗せることも。『ガドゥグ・ィッダン発動の原因』でもある、両刃の剣とも言える、この両腕の力。



 なのに。もしかすると俺の体が、これまでにない()()を得ている可能性も、今は見える。


 バニザットと毎日一緒に過ごす、最近。

 精霊の加護に対して、耐えられる体ではあるものの、元々の俺の体『サブパメントゥ』がなくなったわけじゃない。そのことを、今、体の違和感によって思い出す。それくらい、今まで何ともなかったのに。



「ヨーマイテス」


 何も言わない獅子に、暫く待ったものの、シャンガマックは名を呼んで答えを求める。『どうした』両手に挟んだ獅子の顔が、何かとても重い雰囲気を感じさせて不安が募った。


「バニザット。俺は。いや・・・参ったな」


「言ってくれよ。俺は息子だ。あなたが俺の父親なら、俺はあなたを守りたいと思うのも、助けたいと思うのも普通だ」


「ああ、バニザット。俺の息子よ。仕方ない。お前に言うには難しいが、俺の確認に付き合うか?」


「どこだって行くよ。何かする必要があれば、話してくれ。出来るだけ頑張るから」


 褐色の騎士に、事情は何一つ分からない。でも約束できることは『ヨーマイテスのために動く』それは確実だ、と伝えて立ち上がる。



「早い方が良いなら。今すぐ出よう。何がどうなって、ヨーマイテスが疲れているように見えるのか。心配だ」


「そうだな。お前に心配かけさせても・・・よし。乗れ」


 背中に乗せることも一瞬、考えるヨーマイテスは、自分が何かに怯えているように感じて、頭を振って余計な思いを振り払う。息子の影響と決まったわけではない。それを意識する。


 そして、こうしたことにすぐに答えが出せるのは、老人の方のバニザット。なのだが――


「俺だって。何でもかんでも頼るわけじゃない。何も知らないわけじゃない。これからは頼る相手が違う。俺の頼る相手はたった一人」


 振り向いた相手は、自分の背中に跨り、漆黒の真っ直ぐな瞳と目が合う。


「バニザット、俺が頼るとすれば、それはお前」


「勿論だ。俺は応える」


 父の独り言は、決意の前兆のように聞こえて、理由は聞かなくてもシャンガマックは、彼の呼びかけにどう応じるべきか、そんなことは決まっている。



「走るぞ。サブパメントゥの中を。落ちるな」


 父の声と同時に揺れた背中。闇に向かって飛び込んだ、金茶色の獅子の(たてがみ)に掴まり、シャンガマックは父のために、自分が出来ることは何でもしようと、固く誓った。

お読み頂き有難うございます。

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