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魔物資源活用機構  作者: Ichen
精霊たちの在り方
1204/2964

1204. 地下水脈と精霊救出

 

 影から出てきたミレイオとヨーマイテスに、戦い終わった二人は驚く。

 暗さの戻った鍾乳洞。ドルドレンの首元だけが、ビルガメスの毛の発光で、静かな柔らかい光を持つ。



「ミレイオ!どうして」


「あー・・・のね、えーっと。ほら、これ。あんたの剣。見つけたから、持ってきたんだけど。もう、要らなさそうね(※今持ってきました感を出す)」


「有難う、やっぱりそうだ。鞘は何ともない」


 受け取ったドルドレンは、ミレイオが自分の剣を届けてくれたので、すぐに鞘を見て無傷であることを確認した。これについては『後で話そうと思う』と伝え、鍾乳洞をまずは出ようと、言うと。


「まだだな。お前、精霊を助ける気はあるか」


「え?精霊」


 ヨーマイテスは川の上流に顔を向けて『精霊だろうな。いると思うが』と呟く。これはミレイオも知らないことなので、親父を見上げて『助けるってどういう意味?』と続きを訊ねた。


「閉ざされている。お前たちが倒したこいつ。これのせいだろうな」


「早く助けてやらねば。可哀相に」


 ドルドレンは思い出す。あの時は妖精だった、サバケネット地区の話。魔物を封じ込めた妖精は、出るに出られなかった。

 ワバンジャの話も同じ。馬の魂が、その墓に魔物を閉ざしていたという。


 ここでも同じようなことが起こったと思うと、急がないとどうなるか。それが気持ちを(さら)い、ドルドレンはすぐに奥へ歩き出す。それを見たヨーマイテス、彼の引きずる足の様子を訊いた。


「ドルドレン。お前の足は」


「大丈夫だ。ホーミットのおかげで、あの嫌な痛みはない。傷自体は痛むが、こんなことはハイザンジェルでは()()だった」


 ドルドレンは歩きながら答え、その答えを聞いた大男は、ミレイオをちらっと見た(※『ほらな』って感じ)。

 その目を嫌そうに受け止めたミレイオは、ささっとドルドレンの前に進み『私、暗いところ見えるから』と、騎士の片腕を取って、自分の肩に回してやる。


「有難う」


「足、痛み始めたら言うのよ。サブパメントゥって、()()()あげることは出来ないから」


「どうするのだ」


「抱えるわ。重そうだけど」


 ハハハと笑ったミレイオに、ドルドレンも笑って『掴まらせてもらうだけでも、違うよ』とお礼を言った。


 二人の後ろを付いて行く、ヨーマイテスとシャンガマックは、そんな、前の二人の背中を見ながら、どちらともなく目を合わせる。暗がりに碧の目が光り、シャンガマックは彼が少し微笑んでいるのが分かる(※慣れ)。


「有難う・・・ホーミット」


「何がだ。何もしていないぞ」


「総長の足を守ってくれた。今も気にしてくれたし。俺の力を使うことで、総長の冠の使い方を学ばせる方法も教えてくれた」


 自分の思う以上のことを言ってくれる、カワイイ、カワイイ、バニザット。


 ミレイオとは大違いだ、と心から感謝して、見上げて小声でお礼を言った息子を抱き寄せると、そのまま片腕に乗せた。


「あ。いいよ。俺は怪我もしていない。歩ける」


「朝。怪我しただろう。口の中(※舌噛んだ)」


 それは怪我じゃないよと笑う騎士に、ヨーマイテスもちょっと笑って首を振り『俺がこうしていたいんだ』と低い声で伝える。


 父の思い遣りは、いつでも受け取ろうと思っている褐色の騎士。その言葉に素直に頷き『うん。じゃあ。総長に悪いけど。俺は無事なのに』と頭を掻きながら、太い片腕に抱えてもらうことにした。


 ちらっと振り向いたドルドレンの目が丸くなるが、ミレイオがすぐに、さっとその顔を戻させて『あっち、見ないの』と小さい声で、お母さんのように注意した(※自分も見たくない)。



 鍾乳洞の中は平らではなく、ドルドレンは何度も足を滑らせた。片足が利かない分、体重の掛かり方に偏りがあり、グラッと来るたびにミレイオが掴んで支えた。


「すまない」


「何言ってるの。あんたの傷、私見ていないけれど。あんたがその状態って、あんまり楽そうじゃない位は分かるわ」


「そうでもない。ここが濡れていて滑るから」


 微笑むドルドレンの顔から、強がりには思えない。ミレイオは彼が、ずっと戦ってきたからこそ、経験で『平気』の範囲を定めているんだろうと理解する。

 とはいえ、可哀相に思う。早く手当てをしたいところ。後ろを歩く親父に『あとどのくらいだと思う?』と訊ねてみる(※振り向かない)。


「精霊か。そうだな・・・お前たちの足なら、10分あるかどうか」


「そう」


 ミレイオはそれ以上は聞かない。ドルドレンにも、ホーミットの声は聞こえている。ドルドレンはミレイオを見て『有難う』と気遣いにお礼を言った。


「帰り。すぐに出してあげるからね」


「助かるよ。歩いて戻ることを考えると、さすがに気が沈む」


 とにかく精霊を助けるのが先・・・ドルドレンはそう言って、歩く足を緩めなかった。ミレイオも頷いて支えるだけ。足を取られそうなところは気にしてやって、自分に体重をかけさせた。



 後ろで彼らを見ているシャンガマック。歩けるのに、抱えられている自分の状態に、申し訳なさが募る。そっと父の耳に顔を近づけ、こっちを見た碧の瞳にまずはビーム(※本人そんなつもりないけど)。


「下りても良い?」


「気になるのか」


「うん・・・やっぱり。少し、その」


「まぁいいだろう。お前は優しいから(※息子優しいの好き&ビームに負ける)」


 シャンガマックを腕から下ろしたヨーマイテスは、息子の背中に手を添えて『暗いから見えないだろう』と気にする。


「大丈夫だ。総長の作る、僅かな明るさで、見えている」


「お前まで滑ったら困る。気になって仕方ない」


 やはり抱えた方が良いと思う父は、ちょっと息子を引き寄せたが、『大丈夫』と断られた。見上げた息子の顔が笑っていて『そんなに心配要らない』と言われると、自分の行為が息子を信用していないみたいで、ヨーマイテスは黙った。



 こうして二組が歩き続ける、暗く狭い鍾乳洞の道は、数百mくらいで突然、見た目が変わる。


 何度も曲がるように奥へ引き込まれる角を過ぎたが、最後の屈折を抜けたすぐ、ミレイオが声を上げ、ドルドレンも立ち止まった。後ろのシャンガマックとヨーマイテスも、彼らの反応を理解する。


 目の前に、大きな空間と滝。そして決して自然では作られない、奇妙な形の大きな()


 卵は滝を流れたすぐの溜まりに、下半分が浸かった状態で、不思議なことにその卵を境に、背面の滝の水量と、卵を通過した後の水量が著しく違った。

 それは目に見えて顕著で、4人は水位の段差が、地形によるものかと最初は思ったのだが。


「ドルドレン。俺は近づけない。ミレイオ、お前もこっちへ来い」


「私も?私は大丈夫じゃ」


「ダメだ。ミレイオ、お前は俺と。バニザット、お前はドルドレンと共に。しかし、力の属性が精霊でも分からん。ドルドレンは中性だ。彼を前にして、お前が平気かどうか確かめるんだ」


「同じ精霊じゃないかも、と言う意味か。分かった」


 ミレイオと入れ替わりで、シャンガマックは父の助言に従って総長の横へ。ミレイオは、精霊に影響があるとは思えない自分だけど、親父が言うならその方が可能性があることを知っているため、仕方なし下がった。


 横に来たミレイオに、ヨーマイテスは『お前の存在は特別なんだ。分かりにくいのは俺も同じだ。毎回、こうした時は気にしろ』と教える。これはそうかも、と思えることには受け入れるミレイオ。頷いて『分かった』と伝えた。


 総長の横についたシャンガマックは、彼の一歩後ろに立ち、再びドルドレンと組む。


「総長。足、すみません。俺も何も準備もなく」


「謝るな。俺が迂闊だったのだ。お前に助けてもらえなかったら・・・ホーミットがいなかったら。俺はもうここまで来れなかった。感謝しかないぞ」


 大きな心の総長に、シャンガマックは一度俯いて感謝し、それからすぐに顔を上げて『俺が支えます。精霊はこの卵型の石の中です』と教えた。

 その卵の形をした石は、異様に震える。震え方が激しくなり、訴えているように感じる。気配が精霊と分からない場合は、怖くなるくらいに。



「最近。精霊との関わり方が連続している気がする」


「そうですね。俺は知らないけれど、何か意味があるのかも」


 ドルドレンは卵のある水の状況を見つめ『これ。中に入るのだろうか』と部下に訊く。

 褐色の騎士も、少し考える。水は前後に分かれて、多い少ないがあるけれど。迂闊に入って、卵の影響で何かあっては逃げられない。


「お前。何のためにさっき、バニザットに学んだんだ」


 後ろから低い声で指導が入り、ドルドレンが振り向くと、ミレイオのうんざりした顔の上に、ムスッとしているお父さんがこっちを見ている顔。父親があれじゃ、ミレイオは永遠に仲良くなれないと思える(※自他共に感じること)。


「俺の冠のことを話しているのか」


「他にないだろう。お前は()()()()()()んだから、それを使いこなすだけだ」


 ちょっと凹むドルドレン(※これしかないって宣言された)。すぐにシャンガマックが総長の背中をさすって『総長しか持っていない力ですよ』と励まし、さっと父を見て目が合う。父は、息子に注意を受ける気がした(※当)。


「そんな言い方しないでくれ。総長は、彼しか知らない力を、誰に学ぶことも出来ずに身に付けるんだ。そんなにすぐには、応用も難しい」


「本当のことだぞ」


「制限があるみたいに感じてしまう。少しずつ手に入れるから、もう少し見てあげて」


 ミレイオ。シャンガマックの言い方に『凄い努力』と脱帽(※自分絶対イヤ)。ちらっと後ろに立つ親父を見ると、親父が固まっているので、ホントに効果あるんだ、と理解した。


 シャンガマックは萎れる総長を覗き込み『さっきと同じようにしてみます。総長の剣で』と提案。『割るのか』ドルドレンはちょっと方法を相談。それは、シャンガマックも分からない部分。



「あ!ねぇ、この前さ・・・タンクラッドが似たような状況だった、あれ。ドルドレン、ほら!妖精が土中で、根っこの塊か何かで、魔物を押さえていた話」


 ミレイオがハッとして教えたことで、ドルドレンも『ああ!』と思い出す。フォラヴにも親方にも、そう言えば聞いた内容。

 シャンガマックは別行動中で知らないため、ドルドレンは搔い摘んで『サバケネット地区の妖精を助けた話』を聞かせた。


「タンクラッドさんが、あの剣で。割ったんですか。よく、中が無事で」


「彼はそうと決めたら何も迷わん。フォラヴも、自分の力を信じただろう」


 つまり、()()()いても・・・目を見合わせて黙る部下に、ドルドレンも、うん、と頷く(※普通悩むよと思う)。


「ある意味。あの二人の度胸が似ているから、叶ったようなものである。しかし、ここでも同じかも知れん。俺は、あの卵型の物体をどこまで斬るのか、そんなことも調整の仕方がまだ分からないが。

 とりあえず『切れた』と感じたらすぐ、剣を離す。お前は、その続きを対処してくれ」


「どうすれば良いのか、俺も総長も不明なままですね。分かりました。上手く行く方に賭けましょう」



 ドルドレンは、腰袋のベルトに下げ直した鞘から剣を抜き、ついさっき、シャンガマックと共に続けた動きを、ここでも行う。


 冠から精霊の気配が伝わる。震えてぐらぐらと揺れる卵の不安定な様子は、気配を合わせて感じれば、助けを求めているようにしか感じられない。


「待つのだ。もう出られるぞ」


 何も分からないうちに、突然魔物に襲われたのかと思うと、気の毒でならない。ドルドレンの中に愛情が膨れる。恐れや悲しさを取り払ってやれたらと、高まる愛情が、ドルドレンの剣を伝う。


 柔らかい光が少しずつ剣身を走り、ぐんぐん輝きを増す。それはまるで、最初の頃にイーアンが見せた、白いナイフを生きたように動く、あの光のようだった(※82話参照)。



 ――思えば。アゾ・クィの魔法使いを倒した日。


 あの日も、冠があったから、腕でタンクラッドの剣を返し、この剣でシャンガマックの大顎の剣を貫いた。イーアンを助けたい一心だった。


 ティティダック村でも、力尽きた龍のイーアンの代わりに、この命を懸けて倒そうと動いた時、冠の力はイーアンに再度龍気を与え、俺の剣は魔物を切り裂いた。


 この前のリーヤンカイでも、タンクラッドの命懸けの勢いと覚悟に、俺も寄り添うと覚悟した時、彼の剣は遥か大きな力を解放して、時空を閉ざすほどの威力を放った。


 そして、さっき。シャンガマックが精霊の力を注いでくれた、精霊の力そのものを増やした、俺の力。


「愛か・・・愛情。龍の愛。精霊の愛。例えそれが奪う相手でも、俺の力は()()()()



 横にいるシャンガマックは精霊の力を少しずつ溜め始めているが、今回は卵の中の精霊に使うつもりなのか、ドルドレンの剣に回す分は少ない。


 それでもドルドレンの長剣には、精霊の薄緑色をした風がひゅるひゅると絡みつき、ドルドレン自体の愛の力と混ざり合って、光は眩しいほどに上がる。



 ミレイオは側で見るのが初めて。さっきは影越し。今は真ん前でその光を見つめる。『きれい』呟いて、感じる、周囲の力の漲り方。

 ふと、振り向いて見上げると、親父もミレイオを見ていて『分かるか』と訊ねた。


「あれが勇者の力だ。ギデオンの時より()()()()(・・・)はないが、あれを何度も見た」


「そうなの。あれが勇者の。分かる気がする、他の力の感覚と違う」


「そうだ。あいつしか動かせない。あいつしか、あの力を持つことは出来ない。しかし、あいつの力は、この世界の全ての種族に通じる」



 ヨーマイテスが教えた直後。

 ドルドレンの剣は、彼の片腕を振り上げた勢いで真上を照らし、鍾乳洞に太陽でも落ちたように輝くのと同時、跳躍したドルドレンが卵の上に剣を突き立てる姿を映し出す。


「うっ!硬いっ!」


 意外と硬い!驚くドルドレンは、すぐに突き立てた剣を手前に引いて、切り削る状態で、剣の刃を滑らせる。

 もしかして、精霊がすぐ真下にいたんじゃないかと気が付いて、慌ててそうすると、剣の刃と光がなぞった線は瞬く間に弾け飛び、中から青緑の霧がふわーっと噴き出す。


 ドルドレンは、引いた剣をぐるっと回して、卵の殻の上を切る具合で切っ先を走らせると、そこも剣を伝う光が走り、次々に光に続いて溝が割れ弾けた。


「総長、戻って!」


 シャンガマックの声を合図に、ドルドレンはポンと片足で後ろへ跳躍し、剣を片手に一回転して部下の横に着地。ここからはシャンガマック。


 この前のファニバスクワンの時のように、自分の腕に集めた精霊の風を、卵に打ち込むように放つ。金色の粉を散らす緑の風が、ぶわっと卵を包むと、中の青緑の霧は輝いた。


「反応した。待ってろ。もう少し」


 シャンガマックは励まして、再びもう片手に集めていた風を、卵へ向けて投げる。上部が弾け始めた卵の中からどんどん青緑の霧が噴出して、シャンガマックの精霊の風を受け止める度に、明るく変わる。


「凄い、シャンガマック!精霊が応えているのね!」


 ミレイオにも分かる、精霊が反応している様子。ヨーマイテスは息子(←バニ)が優秀なので、自慢そうに『日々、頑張っているからな』と練習の光景を思い出して、口端を吊り上げた(※ミレイオ無視)。



 シャンガマックが相手の様子を見ながら何度か繰り返すと、とうとう、卵から噴き出し続けた霧が、空間の全てを覆い、その煌めく柔らかな明るさの中で、黒々した卵は崩れ落ちる。

 その後すぐ、崩れた黒い影の中から、ぎゅーっと伸びた青緑色の長い体が現れた。


「あれは」


 ドルドレンの言葉に、長い体をうーんと伸ばした先にある、小さな頭がくるっと振り向いた。

お読み頂き有難うございます。

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