1198. ビルガメス所懐・世界の統一について
お空のおじいちゃんは、夜に一度、目覚めた。
起き上がらず、長い睫毛をパサパサ動かしてから、少しだけ金色の瞳を外へ向ける。
「ふむ・・・あれも分からんことを」
静かなイヌァエル・テレンの夜風は、ぼんやりと発光する男龍を誘う。大きな男龍は夜風に誘われて、ゆっくりと体を起こすと、外へ出た。
「イーアンもまだだと言うのに。だから、か(※暢気)。ヨーマイテスも、シャンガマックも動いていない。また、姑息な手に出るなぁ」
月明かりに煌めく長い髪と、一本角。オパール色に輝く体を、明るい夜空に浮かばせ、ビルガメスは夜の散歩に(※飛んでるけど)出かけた。
「どうするかな。ドルドレンは、物分かりが悪いわけではないのだが、どうも理解が遅い。
しかし、タムズにそれを言ったら怒られた(※前のこと)。言うに言えん(※聞かれたら面倒)。タムズもドルドレンが好きだから・・・それは、まぁ良い。
直にドルドレンを狙っても、今回の仲間は助け合うし、離れても戻ってくる。これはルガルバンダに聞いた過去話と大違いな点だ(※前回酷過ぎた)。
ミレイオもタンクラッドも、あれ(←ドル)を守ってやるだろう。そこまで俺が気にしなくても、良さそうではあるが」
とは言え。ビルガメスは夜空をゆったりと飛びながら、その美しい体を月光に晒して、心地良い風に目を閉じる。
――ガドゥグ・ィッダンにある、過去の部屋。
そのうちの一つに、ビルガメスが生まれる、もっと前。ずっと時代を遡った創世記を見せる部屋がある。
そこで創世記の情報を見た時。オリチェルザムが、何やら勘違いしていそうな場面を思い出す。
精霊の作ったこの世界に、魔の力が参入した。
これは均衡のために避けられないのだが、精霊は面白くないわけで(※簡単に言えばそう)条件を出したのが、これらの展開。母を含む、ズィーリー、イーアンの登場(※空目線⇒彼女たち重要視)。
この時、オリチェルザムは、自分だけが中間の地の誰かと『一手間ある』ことに、ケチをつけた。
――そう。空を当てられてた種族は、龍族と空の族に分かれるが、二つは似通い、同じ魂を二つに分けたようなもの。能力も存在も異なるが、質の違う双子のような状態。
そして地下はサブパメントゥのみ。サブパメントゥは属性がまた特殊で、彼らは彼らとしてしか存在しない。
中間の地に棲む、精霊や妖精とも異なり、精霊や妖精は、中間の地のどことは決まっていないが、地下へは降りない。地下はサブパメントゥの世界。
妖精と精霊に関しては、その力の範囲が広くあり、中間の地にのみ棲むものと、中間の地と空の合間に存在するものと、空とは異なる空間に居続けるものなど。
代表する大いなる力の妖精と精霊は、この別の空間にいるため、世界としては、特にどこに関与もしていないとも言えるし、全てに関与しているとも言える。
簡単に言えば。魔の参入が可能な場所は、中間の地だけで、それは属性が近いことも条件に合う。
サブパメントゥは闇の世界であり、決して善良ではないが、魔ではない。
これは非常に大きな特徴で、例えば人間のような、感覚の曖昧な生物からすれば『魔』に感じたとしても、サブパメントゥに『魔性』はない。もし感じるとすれば、それは人間の中の『魔』が、相手を探し反応している状態である。
これは精霊にも妖精にも、また、在り得ないのだが(※ここ強調)龍族においても、無論なこと。魔性はないのだ。
『魔』の質を動かせるのは、中間の地の人間だけ。人間は『愛』を持つが『魔』も同時に備える。
だからこそ、魔物の王に属性のある場所をあてがうとなると、中間の地だった。
そうすると存在としては、属性共通とはいえ別種二つがいるわけで、それでどちらか一つに絞る話が出来た。それが『愛』か『魔』のどちらか。
オリチェルザムは、この話を告げられて何を思ったか ――
「そもそも。なぜ最終的に統一をさせるための動きかは。これぞ、謎だ」
この時だけは、均衡が崩れるのだ。
精霊の都合だろう、とおじいちゃんは思うことで追及しない。
この世界を作る手前のことまでは、誰も知らないのだ。あくまで創世記までが、ガドゥグ・ィッダンで知ることの可能な限界。
「ニヌルタは何やら・・・別の読み方も知っているようだが。あれも喋らんからなぁ。
まぁ、あれの宿命もあるから、言えない部分もあるだろうとは思うけれど(※おじいちゃん的には全部知っておきたい)」
考えていたことが脱線したので、ゆらゆら飛びながら、おじいちゃんは脱線部分まで戻る。
「オリチェルザムは、勘違いしているな。あれは」
中間の地の存在として成り立つため、同じ土台の相手に勝つ。勇者のみが、魔物の王を倒す権利を持つからだ。
「それは正しい(※暢気)。しかしなぜ、空にも地下にも手を出したのかと思えば、やはり勘違いしていると思わざるを得ん。またやりかねん。いや、やるだろう。勘違いなんだから(※魔物の王勘違いで動く)」
どう解釈すると、そうなるだろう・・・・・ おじいちゃんは、創世記の話を、何度か丁寧に繰り返し租借したが、どうやっても勘違い出来る気がしない。
だが、魔物の王は、どうも『空・地・地下』の三者が揃った時が勝負とでも思っていそうなのだ。
「そんな言い方。精霊はしていなかったぞ。だが、オリチェルザムの動きは、まさにそのまんま。間違えている」
別に三者が揃わなくても、統一の時は来る。今回は、イーアンもそれ専用みたいな女龍だから(※イーアン特注)これなら、と・・・『龍王早め』に、って皆で急いでいるのに(※ビルガメス素)。
――全ての存在が、同じ時間に立った時。どこが世界を守るのか。得るのか――
「確かに。そうは告げているが。『全ての存在』が『各自の世界の統一者・3名』とは言っていない」
『全ての存在』とは、自分たちに当てられた世界を意味している。これが同じ時間に重なった時、均衡がこの時だけ崩れて、どこの世界が統一権を得るのかが決まる。
「揃わないうちは統合がないと言うなら、どこかの事情で誰か一人欠けたら、それだけで統合しないのに(※重要さの意味欠く)。
そんな不安定な話、精霊がわざわざ最初にすると思っているのか(※思ってる魔物の王)」
世界の統一が、最終変化なのだ。
この世界にとって、そこが重要で、手前で間に合わなかったら、龍王も、サブパメントゥも、下手すると、勇者も魔物の王も、誰もいなくたってその時を迎える ――と、いうような話だったのだ。
世界の統一に、参加したければ。『そうであれば』、各自の世界の統一を果たした者が、新しい幕開けに挑める。
しかし、これが簡単じゃない。当然なのだが、その世界の統一者になるために、揃えるべきことを全て揃えていなければ、最終変化の続きを開く幕開けの舞台に立てるはずもない。
「それに。二度目でもあそこまで攻撃したことを考えると。
『3度目で全てが重なる』と精霊が告げた意味を・・・絶対、勘違いしているだろう」
オリチェルザムは、三回来る動き全てに、『世界統一の扉が待ち構えている』とでも誤解したのか(※大当)。
そして、二度目の時。イヌァエル・テレンを攻撃した、魔物の多さと勢いは、理由が見えなかったことから、あの時も考えたのだ。
オリチェルザムの中で、空も地下も、その世界の最強が代表として現れる、と思っているような。
『空と地下で、強くなりそうな可能性のある対象は、先に倒しに掛かり、それが間に合わずに、相手が強さを伸ばしてしまったら、それ以上に強い者が出てこないように様子を見る』のではないか、と結論が出る。
どうもよく分からない感覚だが、これくらいしか、男龍たちには思いつかなかった(※魔物の王の意図に矛盾が多い)。
「サブパメントゥも攻撃したんだ。あそこに光を持ち込んで、コルステインが怒らないわけがないのに。愚かな(←魔物の王)」
初回と二度目。女龍にしてやられたオリチェルザム。
今回は先に倒そうとでもしたのか、イーアンが龍になる前にも狙った。が、最近は、強くなったイーアンのいない隙を狙うような動きに変わった。
ハイザンジェルでの魔物出現範囲が終わり、テイワグナに舞台が移ってからは、ヨーマイテスも探し出して倒そうとしていたが、それも無理があったか。あっさり終わる。
津波の時。コルステインだけを倒そうと試みたようにも感じたが、やはり、あっという間にコルステインに遮られて、以降、コルステインを避けているふうに感じる。
ビルガメスはここで、魔物の王の考えそうなことを、頑張って考えてみる(※オツムの具合を合わせるおじいちゃん)。
「オリチェルザムが。中間の地に立つ存在となった・・・と仮定して。ないと思うが。
その自分を超える、空と地下の誰かが並ぶことを嫌がっている。の、だろうな。全世界の統一者になれないと思って。
基準を自分の視点で、何か決めているのか(※そう)。基準なんて誰も知らないのに。
空の頂点。地下の頂点。中間の地の頂点。それぞれの頂点に備わるものを、判断して決定する相手を、俺たちは知らされていない。均衡が崩れる以上、精霊の判断でもないのだ」
魔物の王の動きを見ていると、『自分自身の想像した基準』を懸念して、攻撃を仕掛けているように思える。
どんなに違う方向で考えてみようにも、どうしてもこれくらいしか思い浮かばないので、多分そうなんじゃないか、と見当をつけている。
どうも、魔物の王はよく分からない・・・首を傾げるおじいちゃん。
思うに、その勘違いから、今回もイヌァエル・テレンに攻撃を仕掛けそうだと判断したが。
『女龍が強い以上は仕方ない』と思えば、これ以上強くさせないように、居場所を荒らすとか(※単純)龍気を渡す相手を減らすとか(※そうはいかない)。
多分、ズィーリーの時も、そうだったのだろうと思う部分。
ズィーリーがヨライデに入る前に、イヌァエル・テレンに攻撃してきたのだ。誰一人、入れないはずの、イヌァエル・テレンに、何をしたのか。一度だけ突破してきた、魔物の群れ。
突破した理由は、魔物の王だし、何かしらやらかしたのだろう、としか思わないにしても。
「女龍がそう成ると思っていそうだよな。初回も二回目も、結局は勇者に倒されているせいで、続きを考えていないのか。
『龍王』の存在を知っているはずはないから、まぁ、誤解しても仕方ないが」
そんな誤解のせいで攻められるとして。今回は男龍が少なく、これは問題と思っていたのだ。
そこにイーアンが来た。イーアンが守ると言い始め、そこから徐々に・・・・・(※おじいちゃんの頬が緩む)
「誰も。龍王などと、ほんの少しも思わなかったのに。イーアンが来たら、全員が心を奮い立たせた」
夜空に浮かぶように飛ぶ、ビルガメスは微笑む(※魔物の王の動き忘れてる)。
少しの間。ビルガメスは自分がとても好きになった女龍の、これまでの言葉や動きを思い出して浸り、すっかり気分が良くなったところで、家に戻る。
帰り道。ふと、魔物の王に動きがあったことを思い出し(※忘れる人)あれはどうするかな、と最初の問いに戻った(※ひたすら暢気)。
「俺が気が付いている時点で、まぁ。問題のある範囲ではないか。
オリチェルザムが送り込んだ魔物は、ドルドレンを狙うのだろうが、あれしき、タンクラッドあたりが倒せないはずもない。
ドルドレンが自分で倒せれば、そうしてもらいたいところなのだがな。ドルドレンも甘えん坊だから(※勇者=甘えん坊認定)。まだゆっくり成長している。促すのも俺のすることではないし」
学びながら、愛を大きく強くする。そんな勇者でも良いのかな、とビルガメスは微笑む。
「どうせ、俺と向かい合うなら。ドルドレンが良い。ドルドレンは龍王に譲るだろう。
俺はあいつを守ってやろう。俺の統一した後、中間の地も丸ごと。俺の手で大切にしてやろう」
中間の地の存在として成り立つ、相手。それが『愛』のドルドレンであることを願って。
戻ったビルガメスは家に入り、動きのあった魔物の王のことは、少し様子を見ることにした。
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