1195. 朝から報告 ~魔物製品新作
ロゼールが取りに行き、一度両手に抱えた荷物を運んで、皆の前に置く。
そしてまた馬車に戻ったので、ドルドレンも付いて行って、一緒に運んでやる。『かなりの量だったんだな』ガルホブラフから下ろした時は、そう思わなかったと言う総長。
「朝。ちょっと荷物解いたんで。ばらしちゃったから」
「これで全部か」
「そうです。総長が持ってくれているの、ええっと。その下の箱。網が掛けてある箱は、バイラさんの前に置いて下さい」
バイラ?訊ね返したが、ロゼールがニコッと笑っただけなので、警護団に見せるものかと了解し、ドルドレンは皆のいる場所に荷物を置くと、一番下の、網が掛けてある木箱をバイラの近くに置いた。
箱は横に長く、1mそこそこあるが、扁平で重くはない。きっと作った武器なんだろうなと見当をつけ、ロゼールに『全部、一度に箱を開けるか』と訊く。
若い騎士は自分の荷物を下ろした後、振り向いて『俺が』と答えた。
「じゃ。まず。最初っから見せますか」
ロゼールは、荷袋と荷箱を分けてから、自分が腕に抱えて持ってきた袋を最初に開けた。
「ほら。これ、ザッカリア」
「あーっ!お菓子!」
一発目にケーキ。ちょっと切ってあるのだが、ザッカリアは丸ごとと思い込んでいるから、気にしない。大喜びで受け取って、早速ミレイオに切ってもらっていた。
「食べながら聞いて下さい。イーアンとザッカリアに、ヘイズから渡されたものが、この荷袋です」
「と言うことは。食べ物だな。イーアン、いないのに」
ムスッとする総長は、どうして二人限定なのかと訊ね、即答で『どうせ皆、分けてもらうじゃないですか』と言われて黙った(※そうだけど、って思う)。
「で。これが。よいしょ。凄い絡まり方だな。どっこいしょ。はい、蓋開けますよ」
バイラの前の箱。網がしつこいくらいに絡まっているのを、苦笑いしながら外し、蓋の掛け金を取ったロゼール。その掛け金を見て、はっと気が付いたのはミレイオ。
「それ。普通、木箱って釘止めなのに」
「そう。この掛け金も作ってくれたんですよ」
誰が、と言わないロゼールは、気が付いたミレイオにぱっと笑顔を向けた後、箱の蓋を見つめるバイラに微笑む。目が合って、笑ったバイラは、次の瞬間に目を疑った。
「それは」
「はい。ハイザンジェルに、テイワグナから来た職人が防具工房を出しています。
その人に話したら、これを作ってくれました」
ロゼールが両手に持って持ち上げたのは、鎖帷子。模範演習で、親方に散々、斬られた鎖帷子(※936話参照)を買い替える時間もなかった忙しいバイラは、煌めく鎖帷子を驚いて見つめるだけ。
「完全に・・・鎖帷子ですよ。これは」
「うん。サンジェイさんっていうおじさんで。テイワグナの南から、ハイザンジェルに来たんですって。ハイザンジェルで最初は鎧工房に勤めていたんですが、相性悪くて自立された後は、馬の防具や盾なんかを作っています。
総長たちがテイワグナへ行った話をしたら、『あっちは鎖帷子』と教えてくれて。一つ見本に持って行けば、と持たせてくれました。これ、魔物の鎖ですよ」
「え~~~!!!」
ミレイオびっくり。バイラもびっくり。親方もさすがに顔つきが変わって、身を乗り出した。
「イーアンがいたら。凄い喜んだのに~!」
バイラに渡された鎖帷子に、職人たちが寄ってくる。オーリンも近くに来て『ホントかよ。こんな細かいこと出来るの?』と目を凝らして見る。皆で『あれが凄い』『ここが凄い』と褒め称える。
まさか、ハイザンジェルで一番最初の鎖帷子を作ったなんて、誰も思わず。ただただ、見事な鎖帷子に拍手。
魔物製の鎖帷子は、どぎついくらいの銀に輝き、その鎖も太い。縁に使われた青黒い金属は、イーアンが以前倒した虫系の魔物の翅。
繋ぎに使った鋲は鉄のように黒く、これは向こうで受け取ったばかりの、テイワグナの魔物の皮だと知る。
「素晴らしい。よくここまで、使い倒して」
呟いた親方の顔が笑う。オーリンも体を起こして腕組みし、『これ弓でもかなりイケるんじゃないの』と笑っていた。
驚き過ぎて声が出ないバイラは、鎖帷子を穴が開くほど見つめながら、ゆっくり撫でて、それから目の前のロゼールに顔を上げる。若い騎士はニッコリ笑った。
「バイラさん。テイワグナの警護団だし。これ、使ってみて下さい。
サンジェイさんは、作り方を教えてくれました。資料を持たせてもらえたんで、どこかの工房で」
「有難う・・・・・ 」
バイラは涙ぐむ。そーっと片腕を伸ばして、目の前で膝をついて笑っていた騎士を抱き寄せると、背中をぽんぽん叩き『本当に嬉しいです。感動と感謝で一杯です』震える声でお礼を言う。ロゼールはニコーっと笑うと頷いた。
「まだありますよ。これ。これは剣なんですが。こっちはイオライセオダ剣工房の剣」
鎖帷子の下に置かれた薄い板を一枚退けて、そこに並んだ3本の剣をロゼールは見せる。
親方が真っ先に手を伸ばし、鞘に入った剣を抜き払い、朝の光に剣身を煌めかせた。『面白いな。早速使ったか』サージが要領を覚えたなと、呟いたタンクラッドの嬉しそうな目に、ミレイオも一本、剣を手に取る。
「これ、前に首都で受け取ったのと同じ?」
「違うだろ。形は変わらないんだ、サージの場合。合わせる金属が変わった」
ここのところ?と訊ねるミレイオに、タンクラッドは指差して『テイワグナから送った白銀の金属が、これ』と教える。
「え。でも着くの早くない?これ、タムズが変えた金属でしょ?(※940話参照)」
日数が早過ぎないかと言うミレイオに、親方は『そうは言っても、あれしか思いつかん』と返事。そこは、ロゼールが間に入る。
「『パヴェル・アリジェン』って人が。『ハイザンジェル王印の送り状が通る時は、最短日数で動くようにした』と、機構に連絡がありました」
「こんなこともパヴェル?!ただでさえ、王様の荷物早いのにっ まだ金かけてんの?うっそ~!」
ミレイオは目を丸くする。金の力が半端ないっ そして、逐一出てくるパヴェルの影響力。
しかし、それで届くにしたって、集荷先からイオライセオダに届けて、それで工房で試作して・・・なんて、普通に考えたら、在り得ない速度。
「あの。試作分とかは、俺が運ぶんですよ。いっぺんにだと、どうしても郵送になるから。金属とか、魔物の体とか。届いたら確認に行って、それ小分けにして。俺は、週に2回は機構に行くので」
「お前は働くなぁ。イーアンもよく動いたが、お前は龍でもないのにエライぞ」
タンクラッドが感心して、若い騎士の頭を撫でる(※親方愛情表現ナデナデ)。ちょっと照れて頷き、ロゼールは『序なんで』と謙虚に答えていた。
「これは?開けても良い?」
オーリンが横に来て、焚火近くにある80㎝くらいの長さの箱を指差す。ロゼールが、ちょっと含み笑いを向けたので、勘の良いオーリンはハッとする。
もしやと思って木箱を開けると、『うぉ、やっぱ弓か!』そうかなって思ったんだよ、と喜ぶ。弓一式、それと平たい大きな箱にぎっしりと鏃が入っていた。
「友達がさ。『この前、テイワグナから来た材料使った』って、話していたから。あるのかと思ったら、友達の家にはなくて。全部出したみたいだから・・・あ~、これか~。すげぇな」
黒い弓は形が少し違う。ハイザンジェルの弓じゃない、その形にバイラが脇から見て『それは、テイワグナの弓』と呟いた。
「そうだろ?バイラが見てくれて、そう言ってくれたら完璧だな、と思ったんだよ」
「何で・・・どうしてですか?」
驚くバイラに、オーリンは種明しをする。『手紙、出したんだよ』と黄色い瞳を嬉しそうに細めた。
「パヴェルの家に泊まった時。2日目かな。資料館に行ったじゃないか。壁中に弓矢が掛かっていて。
あれ見て、違うんだなって覚えててな。その日じゃなかったっけ、皆で手紙書いたの(※927話参照)」
あの日に手紙に、弓の形が違うこととか、図を描いたんだとオーリンは話す。バイラは感心する。
「さすが・・・弓職人。見ただけで。図にして。受け取った友達の皆さんも、作れてしまうのか」
「テイワグナに普及しやすいだろ?まだ、弓工房見てないけど」
ほわほわオーリンの発言とは思えない、しっかり仕事をしている感じが、皆には新鮮。彼は意外にも(※失礼)重要なところを、ぺちっと押さえるタイプなのだが、今回は感心の目を向けられていた。
「その鏃はダビですよ。使って、って。これも魔物製です」
鏃も受け取り、ダビの話も出て。皆はわぁわぁ喜んで盛り上がった。
朝食の片づけをしながら、ケーキを食べつつ、お土産(※でもないんだけど)に喜んだ朝は、こうしてそろそろお開きへ向かう。
「他は?武器と、鎖帷子と。後は機構の資料だな。それと」
「総長の前にある箱。それが総長に見てもらうものですね。俺が戻る前に片付けてもらって」
「ぬ?何やら、嫌な予感がする(※当)」
ロゼールの言葉に、ピクッと反応したドルドレンは、嫌そうに部下を見ると、そばかすの笑顔で『仕事ですから』と胸を刺された(※やっぱり)。
「くそう。俺は外国でも、こき使われるのか。こんなに頑張ってるのに!」
ブーブー文句を言いながら、ドルドレンは包みを剝がした途端、目に入った『総長へ』と書かれた箱を開ける。
「ほらな。そうじゃないかと思ったんだ。何が機構だ!サグマンじゃないか!」
「総長しか覚えていないからと、話していましたよ。何か・・・やり残して出かけたんですよね?出発の何日か前、その記録付けるの、中途半端で出かけたって(※687話、694話参照)」
「お前は、そんな話を真に受けてっ!これ、俺じゃ分からんぞ。
イーアンに頼んで、タンクラッドに聞いて、オーリンやミレイオにもお願いして。あの時だって、結構、空欄埋めたのだ!
魔物の、どの部位でどの量で、何が作れたかなんて、俺が知るわけないじゃないかっ」
「でも。サグマンが。『総長は職人と出かけたから、ロゼールが帰るまでに記録付けさせて』って・・・・・ 」
部下の返事に、むきーむきー怒りながら、ドルドレンは蓋を地面に投げつける。
『勇者なのに』『頑張ってるのに』と、大声で文句を言うドルドレンに、皆は笑って見ているものの、総長職って大変なんだなと、しみじみ感じた(※同情)。
ロゼールは――
別に昨日まで、こうなるとは思いもしなかったのだ。正確には昨日の午後まで。
午後にオーリンが来て、弓矢他、情報を訊ねて来た。迎えた騎士たちは、オーリンが突然来たので、まずは理由を伺う(※普通)。
するとオーリンは、『ちょっと気になって、龍で戻ってみた』との話。
戻った事情はあるようだったが、とにかく製品の進捗状況を聞いて、総長たちに伝えると言うので、それならと執務室へ案内された。
ここから話が膨らみ、この日は厨房担当で入っていたロゼールも呼ばれ、演習中の隊長たちも来て、相談すること1時間。
機構から届いたばかりの封書の内容も報告事項に入り、ロゼールが次回に、機構へ届ける予定で職人たちから預かっていた品も、サグマンたちの都合(※これが総長宛)も、オーリンを介して届けてもらおうとなった。
が、ここで『俺は部外者なんじゃないの?』オーリンが一言。
製品の話くらいは自分も関わっているからと思うけれど、と前置きし、機構の手紙や動きについての書類を預るのは『総長に前、こういうのダメって言われてるんだけど』とか。あっさり断られた。
こうなると、一度乗り掛かった船(?)。じゃあ、誰かも連れて行けば良いのでは、とクローハルが言い出し、その場にいたロゼールに白羽の矢が立つ。
『お前は飛べる。何かあっても、空を越えて動けるのは、お前だけだ』
唐突で驚いたのはロゼールだが、今後の予定をテキパキ確認されて、執務の騎士と隊長たちに『お前が行け』と言われた。
慌てるロゼールは、急いで頭を立て直し『それなら』と一直線に厨房へ行き、ヘイズに事情を伝え、ヘイズに了解をもらってすぐ、防具工房と剣工房へ飛んだ。
往復するとそこそこの時間だが、防具工房で以前『鎖帷子』を見せてもらっていて、それは今が届ける時!と、取りに行った。
そして戻る道で、剣工房へ。ダビのいる工房に急用を話すと『この前、持たせた剣がそうだ』と言われて了解。
続いて、ダビに『じゃ、これ持って行ってくれる?(※フツー)』そう言われて渡された矢じりと弓矢一式。
お礼を言って戻り、すぐさま厨房へ向かってお菓子を作り、焼いてもらうのはヘイズに頼む。
この後、執務室に呼ばれ、あれこれ書類の説明を受け、『お前は一時派遣扱い』と決定し、1週間はとりあえず出張予定にしてもらった――
こうした流れで、ロゼールは準備したのだ。
片や、オーリンはと言えば。
朝に『イーアンは動けない』とルガルバンダに説明されたことから、数日間は見るような話だったので、こんな際だからと、ハイザンジェルに行ってみる気になった。
自宅工房の状態を見て、馬と山羊を預けた友達の家に寄り、意外にも弓矢が、相当数、生産されていることを知った。
テイワグナに送る目的で作られている、そのことも嬉しく思い、他はどうなんだろう、送るのいつなんだろうと友達に訊ねると、『そこまでは』の返事。
友達に礼を言い、挨拶して空へ戻ったオーリンだが、気になって『他にすることもないし』の気持ちで、北西支部へ出かけた。
オーリンは、北西支部しか面識はない。行けば誰かに聞けそうかと、魔物製品の状況全般を教えてもらいに動いたのがきっかけ。
ここまで来ることもない日常だし、総長たちに土産話の一つでもと寄ってみれば。
話はどんどん大きくなり、あれもこれもと、荷物に変わる中、とうとうロゼールまで預かることになった(※オーリンも意外)。
「まさか。こんなことになるとはね」
キーキー怒る総長を笑って眺めながら、オーリンは連れて来た荷物たち(※騎士含む)の朝に満足げに頷いた。
この後。馬車は出発する。郵送施設のある小さな町へ向けて、飛び入りのロゼールと一緒に。
そのロゼールは。最後まで『クローハル隊長が、総長の家の鍵を求めていた』話は出さなかった(※ずっとの予定)。
お読み頂き有難うございます。
いつもここへいらして下さいます皆様に、心から御礼を。本当に有難うございます!
どうぞ、これからも宜しくお願い致します。




