1194. 旅の七十六日目 ~ロゼールを迎えて
飛び入り参加にも似た、急にも急過ぎる『ロゼール』の登場。
翌朝。ミレイオが戻ってきて、早い時間にいつも通り(※忘れてる)洗濯物を荷馬車に置いてから、食材と調理器具を出し、焚火を熾していると。
寝台馬車の扉が開いた。そこは気にしないミレイオ。
ちらとは見たが、扉が動いたのを見ただけ。バイラかなと思いつつ、そのまま火を大きくしていると『おはようございます』の声。聞きなれない声に、さっと顔を上げて、わーっと笑顔が浮かぶ。
「おはよう!やだ、いつ来たの!?」
「おはようございます、ミレイオ!真夜中ですよ」
「わぁ、嬉しいっ!お出で!抱き締めさせて頂戴」
お祖母ちゃんが孫に会ったように喜ぶミレイオは腕を広げて、そう言いながら、笑うロゼールを抱き締めた。
「ロゼール、あんたが来るなんて!大丈夫?寝てて良いのよ。私はいつも朝は作るの」
「そうなんですか!それも食べたいけど。でも、俺も料理出来ます。手伝いますよ」
「良いのに~(嬉)!側に座りなさい。ここ、ここ座んな。暖かいわ。夜はどう?冷えなかった?今、火を熾したのよ。朝は簡単なの」
ミレイオはオレンジの髪の若い騎士を嬉しそうに何度も見て、その柔らかい波打つ髪をわしゃわしゃ撫でては『嬉しいわ~』と何度も言った。
こんなに歓迎してもらって、嬉しいのはロゼールの方。もう照れて仕方なくて、エヘッと笑いながら、出ている食材を見て『下準備やりますよ』と手を伸ばす。
「あんた。料理も出来るんだ。そうか、そうだった。あんたが作ったって、料理も食べたっけね」
「はい。料理好きなんです。ヘイズには負けるんで・・・あ、そうだ」
ちょっと待ってて下さい、と慌てて立ち上がったロゼールは、少し躊躇いながら、何度か荷馬車を見て、それから荷馬車へ行き、そっと扉を開けると、中から荷物の袋を持ってきた。
「これ。支部を出る前に作ったんです。イーアンいないから、彼女の分も残して・・・ミレイオも一口食べてくれますか」
「ええ~!あんた作ったの?凄いじゃないの!そうか、そうよね!パヴェルの家で食べたわ」
イーアンが教えてくれた『ケーキ』だと(←この名前、ここでは違うけど)紹介しながら、ナイフで切ったお菓子をミレイオに差し出すロゼール。
覚えてるわ、と荷物に入っていたお菓子の美味しさを伝えて、一切れ貰い、口に入れたミレイオ。
「うーん、美味しいわっ!イーアンがいたら、あんたに跳びついているわよ。ザッカリアもこれは大好物ね!」
「イーアンみたいに作れると良いんですが。俺は料理じゃ、ヘイズに負けるんで、お菓子を上手く作りたくて。イーアンたちが旅から戻ったら、美味しいお菓子を作れるようになっていたいんです」
「あんた・・・イイコねぇ」
健気~とミレイオは首を振り振り、ロゼールの頭を抱きかかえて、髪の毛にキスをすると『せっかく作ったんだから、自分でも食べなきゃ』と勧める。ロゼールも頷いて、恥ずかしそうに一切れ食べる。
「うん。美味しいと思います。でも、イーアンの作ったのと、まだ違うんだよな」
「イーアンさ。ちょっとの間、留守なんだけど・・・絶対、あんたに会いたいわよ。何日居られるの?」
ミレイオは料理を始めながら、ロゼールに日数を訊ねる。滞在日数もあるだろうから、無理強いは出来ないので、確認してみると。
「曖昧ですね。1週間程度、って感じで」
だそうだった。詳しく聞いてみれば、送り出した方も(←隊長&執務)日数の見当がつかない分、多めに見積もっている様子。
「そうなんだ。じゃあ、もしかすると会えるかなぁ・・・分かんないのよね。あの子、昨日から留守だし。そう、シャンガマックも暫く留守なのよ。会いたかったわね」
「ああ、聞きました。オーリンは事情を言い辛そうでしたが。何かあったんですか?無事には無事で」
「うーん。無事ね。困るくらい無事よ(?)だけどそうね。ちょっと、気に入られた相手がマズイかな」
苦笑いしつつ。調理するミレイオは、やんわりとホーミットという地下の存在を伝え、彼に気に入られ、また、シャンガマックも彼を慕うから『魔法の練習でさ』と。さらりと不自然なことを自然に伝えた。
「ああ~・・・シャンガマックらしいや。魔法ですか。そりゃ、そうなるかも」
ロゼールの納得した顔に、ミレイオが驚く。平気なの?と訊ねると、『シャンガマックって、そういう人ですから』と頷かれた(※さっくり)。
「シャンガマックって。騎士修道会に入る前に、アイエラダハッドの方とか、旅したことがあるらしいんです。それも遺跡目当てだったみたいだし・・・・・
騎士修道会に入ってからも、晴れた夜は外に出て星図を作っているの、何度も見たことあります。
彼は占いもするんです。騎士修道会では、ああいった部族的な騎士が占うの、土地柄もあるんで結構、騎士の中では有名でしたよ。
彼の部屋も、薬草とか、魔術に使うのかな。そういうので、ぎっしり。床に魔法陣が描いてあるし。だから『掃除しなくていい』って、掃除担当は入室拒否されたんですよね。今は片付いていますが」
若い騎士の話に、ミレイオは『へえ』としか言えない。若い騎士は続けて話す。
「彼は力が強いし、戦えば強いから。別に魔法を使う必要ありませんでした。
だけどずーっと追いかけているので、きっと興味は尽きなかったんだと思います。そういう話はしたことないですけれどね。
相手が誰でも、彼は物怖じしないし・・・まして、魔法を教えてくれるってなったら。
シャンガマックは相手の中身に用がある人なんで。悪い人じゃなければ、相手が誰でも抵抗ないと思います」
ロゼールの登場で、これまで読めなかった、仲間の裏事情(?)も見えてくるミレイオ。
たった今、話を聞くまでは、少なからず心配だった、褐色の騎士の事。
でも。前からそうで、それも身内から見れば『そうなりかねない』と普通に流されるなら、もう心配ないなとさえ感じる(←うちの親父相手に)。
そう思えばこれは面白い機会かも、と笑うミレイオ。二人で朝食を作り、味見させて、ロゼールが喜んで、この時間にあれこれ話を聞いてみる。
話がどんどん盛り上がるにつれ、普通の声量で会話も楽しく交わされる。
料理が出来る頃には、続いてバイラも出てきた。楽しそうな二人の向けた笑顔に、警護団員も手を挙げて挨拶。
朝の挨拶をして、ミレイオはロゼールに、バイラを紹介。バイラも興味津々で、オレンジの髪の若い騎士に、笑顔で自己紹介。
「私はテイワグナ共和国警護団の、ジェディ・バイラです。ようこそ、テイワグナへ!」
「わぁ。本当にテイワグナの人だ!俺はロゼール・リビジェスカヤです。北西支部の、ダヴァート隊の騎士です・・・って、ええっと。ドルドレン・ダヴァート総長の」
「ハハハ。分かりますよ。大丈夫です。総長のお抱えですか!あなたが素晴らしい動きをすると、昨日教えてもらいました」
ロゼールは、『男前の男らしい』バイラに褒められて、照れながら頭を掻く。黒い髪、茶色い目、色の濃い肌。色白のロゼールから見ると、逞しい大人の男。
「いえ。俺なんて、全然」
褒められた返事にそう返しながら。ミレイオに座るように促されて、焚火を囲みながら3人で話す。
煮込みに入った時間で、ミレイオが『盾は持ってきたか』と訊き、ロゼールは頷いて取りに行く。すぐに戻ってきて、満足そうなミレイオに『装着するよう』促された。
「今ですか」
「そうよ。煮込んでいる間。あんたの動きが見れるじゃないの」
「え、動くんですか?」
「もう眠くないでしょ。ちょっとだから、バイラに見せておやり」
バイラは、不思議な形の2つの盾を見つめ、これをミレイオが作ったと聞いて感心する。その上、ロゼールが両腕に、その奇妙な盾を通した姿の意外さに驚く。
「これ・・・こうして使うんですか?」
バイラが質問すると、ミレイオが立ち上がって、ロゼールに急に踏み込んだ。目を丸くするバイラの前で、ロゼールはすぐ、ミレイオの踏み込みを、跳び上がって回避する。
「えっ」
「この子、凄いのよ。私について来れるんだから」
何の溜めもなく、ポンと跳んだ若い騎士は、くるっと一回転して馬車の屋根に下りる。
それを見たミレイオが、続けて馬車の壁を一度だけ蹴り、同じ屋根の上に跳んだが、ロゼールは跳んだと同時に蹴りを回したミレイオの足に飛び乗り、それを足場に、馬車の下へ跳ねて逃げる。
追いかけるミレイオの腕が素早く伸び、ロゼールの片腕を掴んだ。その瞬間、ロゼールの体が空中でぐにゃっと曲がって、ミレイオの腕を逆に引き寄せ、その背中に貼りついた。
背中を振り上げたミレイオが、着地するのと同じタイミングで、ロゼールも身を翻して飛び退き、馬車の壁に片腕の湾曲した盾を突くと、その回転で向きを変えて、ミレイオの頭上に跳ぶ。
跳んだ彼の足首を掴むミレイオの片腕に、ロゼールは全身で絡みつき、小柄とはいえその重さに、ミレイオが一瞬腕を沈めると、その隙にロゼールはミレイオの首に体を移動し、するっと背中をまた取った。
「ハハハ、もう良いわよ」
自分の首に両手を絡めた騎士に、肩越しにミレイオが笑う。ロゼールもすぐに腕を解いて笑い『すみません』と謝って下りた。
唖然として見つめていたバイラは、ハッとして拍手。拍手しながら立ち上がり、首を振りながら『凄いですね!』と褒めちぎる。
「人間じゃないみたいな動き、とは聞いていたけれど。本当ですよ!こんな動き、初めて見ました。
ミレイオも、似ているような体の動きをしますが、また違うような」
「でしょ?ロゼールって、鎧が使えなかったのよ。鎧なんか着けたら、こんな風に動けないからさ。
武器もなのよ。手が塞がるから、この子に武器は邪魔なのよね。だからいつも、素手だったらしくて」
ミレイオはロゼールの肩を抱き寄せて、『それで。あんた用の盾、作ったのよね』と微笑む。ロゼールも嬉しそうに頷き『これで初めて、自分らしく戦えるようになった』と答えた。
バイラ、大絶賛。ミレイオの盾も常識を超えた機能と、使い手に合わせた強さと、その芸術的な見た目が素晴らしいが、それがぴったり似合う、若い騎士の身体能力にも恐れ入った。
「これは頼もしい!こんな凄い人が、一時的でも参加してくれるなら。魔物も盗賊も、もっと倒しやすいですよ」
「遠征時。ロゼールは、隊にいなくてはならない、存在でしたから」
バイラが大喜びで(※パフォーマンス大好き)ロゼールを絶賛していると、後ろから鈴のような声が聞こえた。ロゼールが立ち上がって笑顔で迎える。
焚火の側にフォラヴも来て、『夢ではなくて何より』と、友達のいる朝食に感謝を伝えた。
「眠れましたか?」
「熟睡だよ。あっという間に目が覚めて。昨日まで調理担当だったから、早く起きちゃったんだ」
「ハハハ!空の旅の翌日も、調理担当気分でしたか」
ロゼールの返事に笑ったフォラヴは、お鍋の匂いに『美味しそう』と微笑む。ミレイオも、そろそろ食事にしようかと腰を上げ、まだ来ない皆を起こしに行った。
ミレイオが声をかけて回ると、すぐに荷馬車の扉が開いて、跳ね出すようにザッカリアが走ってきた。
「ロゼール!!」
「ザッカリア!久しぶり!」
本当にロゼールだ!大喜びして跳びつくザッカリアを受け止めて、ロゼールは彼の顔を見て満面の笑みを浮かべる。
「少し大きくなった?また、背が伸びただろ。お菓子持ってきたよ。お前が好きだから、イーアンに教えてもらって作ったんだ」
「本当!?俺、パヴェルの家で食べたんだよ(※927話参照)。凄い美味しかった!だから、手紙に書いたでしょ」
「あの手紙を読んで、もっと美味しく作ろうって頑張ったんだ。朝食の後、食べてみてよ」
ザッカリアは嬉しくて、ぎゅうぎゅうロゼールを抱き締め、笑うロゼールに頭を撫でてもらう。
が、ザッカリアとロゼールは身長差がそうないため、何となく兄弟みたいに見える(※ロゼール身長170~175くらい&年齢差20近いのに)。
「おお。来たな、ロゼール。どうだ、テイワグナは」
「あ!タンクラッドさん。おはようございます!初めて外国ですよ!」
起きてきたタンクラッドにもイケメンスマイルを降り注がれ、胴体に貼りつく子供ごと、近づいてきたタンクラッドに抱き締められる、ロゼール。
「夜中に着いたのか」
「はい!あの、コルステインに会いましたよ。夜だったから会えて。俺に挨拶してくれました。
あの人、凄い格好良いですね!タンクラッドさんの彼女って感じですよ!お似合いですね!」
「う。む、そうか。そう・・・だな。有難う」
そばかすの朗らかな笑顔のロゼール。強烈な『彼女』の一言を、朝一番で食らった親方は、強張る笑顔で頷いた(※後ろでミレイオが笑いを押し殺す)。
「ロゼール、おはよう」
戸惑う親方の助っ人のように、すぐに総長が出て来て、笑顔で朝の挨拶。続いてオーリンも眠そうにやって来て『どうだ?具合は』と笑いかけた。
皆がそろったので、ミレイオは朝食を配る。ロゼールもお手伝い。『遠征だと、イーアンもこうして手伝ってくれたんですよ』と言いながら、若い騎士は懐かしそうに、総長や友達、職人の3人を見つめ、新しい出会いのバイラに微笑む。
食事を受け取り、皆で朝の食事を始め、会話は丸ごとロゼールのことに集中した。
ロゼールの仕事・機構の動き・魔物製品の状況・ハイザンジェルの状況・テイワグナへの関与に必要なこと・・・ロゼールが話し始めると、向かいに座ったドルドレンは、食事をしながら真面目に耳を傾ける。
途中何度か、ザッカリアがつまらなくなって『違う話にして』と話の腰を折っていたが、フォラヴが丁寧に止めていた(※『ちゃんとお食べなさい』って)。
ロゼールが話し終えた頃には、食事もおかわりを済ませた時間で、騎士は早速、持ってきた物を紹介することにした。
「龍で運んでもらったもの。持ってきます。見ながら説明しますが、30分くらい、時間はもらえますか?」
「今すぐ見せてくれ。お前の到着を待っていたんだ」
ドルドレンが頷いて促し、オレンジ色の髪を揺らして微笑んだ若い騎士は、すぐに荷物を取りに行った。
お読み頂き有難うございます。
明日は朝1回の投稿です。夕方の投稿は多分ありません。
お昼前に活動報告を出して、そこでご挨拶の予定です。
明日11日。ここを開示です。これまでいらして下さって、ずっと読んで下さっている皆さまに、本当に本当に心から、とっても感謝しています。本当に有難うございます。ずっと支えて頂いていました。
どうぞこれからも宜しくお願い致します。




