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魔物資源活用機構  作者: Ichen
精霊たちの在り方
1186/2959

1186. ファニバスクワンの話~獅子談・男龍談

 

 結局。シャンガマックは夜まで眠った。


 午後に戻ってきてから、魔法の練習をするんだと喜んだのも最初だけで、戻る道に獅子の背に揺られた心地良さから眠気が襲い、下ろしてもらって眠り込んだ。


 ヨーマイテスは、食事もしないで眠る息子に、どうしたら良いのか考えたが、あまりにもぐっすり寝ているため、獅子の状態で包んであげて、そのまま放っておいたのが、さっきまで。夕暮れも終わる頃。



 もーいい加減、起きた方が良いだろうと、獅子は息子の顔を見て、何度かペロペロ舐めてみた(※獅子的行動)。

 息子は、最初の10回は気づかなかったが、その後、うんうん呻きながら(※ベタベタ)顔を拭いて、それでもしつこく舐めていたら、ようやく目を覚ました(※顔舐めに負けた)。


「うーん・・・ヨーマイテス。顔が濡れるよ(※やんわり注意)」


「文句言うな。お前がいつまでも寝ているから」


「え」


 ベッタベタの顔を手で拭い、それでも濡れている顔を(たてがみ)に押し付けて拭いた騎士は(※父は気にしない)洞窟の暗さと、外の暗さを暫くぼんやり見つめてから『今。何時だろう』と呟く。


「夜だ。午後に戻って、お前は寝ていた。午後一杯寝ていたぞ」


「そうなのか。ああ・・・勿体ないことしたな。つい、眠ってしまった」


 疲れていたんだろ、と獅子は言うと、食事を取ってくるから待つように伝え、騎士を置いて外へ出た。

 残ったシャンガマックは伸びをしながら胡坐をかいて座り、首をゴキゴキ。


「うーむ。考えてみたら。あの海の中。俺にとっては数時間でも、外の世界では1()()()()()が流れていたんだよな。

 俺の体には、そうした影響が出たのかな。それとも、魔法をたくさん使った疲れか」


 どっちもありそうだ、と呟き、シャンガマックは立ち上がって洞窟の入り口に進み、外を眺めた。

 外はもう暗くて、空には星が見えた。星をぼんやり見つめる褐色の騎士は、()()()()の出来事のように感じる、海の中の時間を思う。


 確かにそうだ。自分が龍と一緒に、連動の起こった場所についた時、空は雲が渦巻いて、風も治まりかけだった。あのまま天気が崩れるかもと、少し気にしたのを覚えている。


 でも、海から出てきた直後。ヨーマイテスは眩しそうで、空は晴天だった。

 海の中に居た時間は1時間あったかどうか。考えてもいないから、どれくらいかなんて、分からないが。それでもせいぜい、1~2時間だ。

 晴れ間が見えるくらいなら、そういうものかと思うけれど。極端に空も風も変わっていた。やはり時間は流れていた。


「怖いな。そう考えると。俺は・・・もしあのまま、もう少し長く居たら。2日3日経ったかも知れないのか」


「そうだ。お前のいた場所は()()場所だろうな」


 シャンガマックの独り言を拾う父は、洞窟の奥から出て来て、『魔法陣に下りるか』と背中を出した。頷いたシャンガマックは彼の背に乗り、魔法陣に下りてから、いつものように青白い炎で鳥を焼いてもらう(※身だけ)。

 ミレイオにもらった根菜と、平焼き生地も少し焼いて、それを夕食にしながら、横に座る父に質問する。


「俺が。最初にヨーマイテスと入った、俺の先祖の記憶の遺跡。あそこは1日も経たなかった。数時間一緒にいたのに」


「いつもじゃないんだ。いつも、同じように時間が流れているわけじゃない。曖昧だ、と言っただろ。

 時の多くを押し流す場所もあるし、少しずつ変わる場所もある。そして()()()、お前はどうも、魂だけが中に入った。体もその辺にあっただろうが」


「何?体と魂が別?」


 父の説明に、驚いて口から食べ物がこぼれたシャンガマックは、慌てて口を押さえ、小さく笑う獅子を見る。『俺の魂が』もう一度言うと、獅子は『食べていろ』と促して、内容を教える。


「お前は精霊に守られたんだな。俺も詳しくなんて知りようがない。

 だが、今回はそうじゃなかった。それは分かる。お前は自分の体と意識を持って出てきたし、倒れもしなかった。ファニバスクワンがいたからだろうな」


 むしゃむしゃ食べつつ、汲んだ水で飲み込み、騎士は碧の瞳に訊ねる。


「ファニバスクワンがいても。俺は1日留守だっただろう?」


「お前の話を聞いている限りだと。遺跡の敷地に入ってから、その円盤に乗るまでと、乗ってから帰るまでの時間が同じくらいだ。

 円盤は間違いなく、精霊の力の範囲だ。そこに居たから、『1日で済んだ』ってことだろうな。

 お前が魔法を海に打ち込んで、精霊の反応を求めた最初。受け取ったファニバスクワンの色に変わった光。

 ファニバスクワンは、お前が誰かを知らなくても、()()()()()()()()に、精霊の力を注ぎこまれたと感じたはずだ。

 それもあってお前を迎えて、お前に良くしたんだ。水を開けてやってな」


「あれ。待っていたら、潮が引くとは思ったんだ。龍が教えてくれて。

 だけど、海底が出るまで何時間かかるかと思ったら、ヨーマイテスが心配すると思って」


 息子の言葉に笑う獅子は、首をゆっくり降ると『そうか』と頷く(※嬉)。


「そうだな。あの海は、俺は知らんが。昔は、引き潮時に水がほぼ引いたようだ。これは、コルステインが知っていた。

 しかしな。あの遺跡のせいで(※強調)精霊の力も薄れて、塩の引きが悪くなった。とは言っても。

 昨日のあの時点でなら、お前が待っていたら、すでに遺跡はなくなっていたし、水は昔同様に引いたかも知れない」


「ん?遺跡のせいで精霊の力が薄れて・・・意味は分かるが、それと潮の満ち引きは」


「ファニバスクワンは水のある場所を持つ精霊だ。人間に頼まれたら、叶えてもやる。

 あの場所の潮の満ち引きを大きくしてやったのは、ファニバスクワンだ。これは、お前の先祖のバニザットが話していた。あの場所の話じゃないが、()()()()()同じようなことをしている」


 へぇ、とシャンガマックは感心する。芋を齧って、星空を見上げ、先祖の力を考える。何でも出来た男だとは聞いているし、自分が夢で逢った彼も、まさにそうした感じだったが。


「こうして話を聞かせてもらうと、彼は本当にどうしてそんなに、いろんなことを知っていたのかと驚く」


「あいつの知識と経験は、俺も分からん。秘密にする性格じゃなかったが、何でも喋るわけでもない。気が向いたら、話すような。自分と自分の目的以外に全く、と言っていいほど、関心を寄せない人間だったな」


 そう言うと、獅子はじーっと息子を見つめる。もぐもぐするのも終わった息子は、目を見つめ返して首を傾げ、指を舐めて『何?』と訊ねる。その顔が子供みたいで可愛いと思う、ヨーマイテス。


「いや。お前はあいつと全然違うから」


「うん。俺も頑張るよ。もっと」


「そうじゃない。お前はお前で良いんだ。俺はお前が好きなんだ」


「有難う。でも先祖のバニザットも好きだっただろう?」


「好きとかそういう相手じゃない。気持ち悪い」


 父の答えを聞いて、ハハハと笑う息子に、眉を寄せる獅子。『好きとか言うな。気持ち悪い』念を押して息子に注意し、食べ終わって口を濯ぎに行く息子の背中を見つめる。


「お前ぐらいだ。俺がここまで思うのは」


 何が楽しくて、老人を好きになるんだとぼやく、ヨーマイテス。そのぼやきが聞こえていて、戻ってくる顔が笑ってしまうシャンガマックだった。



 *****



 お空に戻ったビルガメスも、穏やかな夜。あの後、午後はお子タマと楽しく過ごし、夜には家に戻って、遊びに来たタムズと、タムズの二人の子供と一緒に過ごす。


「もうちょっとだけど。まだ安定しない」


 タムズは子供の大きい子を撫でて、龍の姿の子に微笑む。少し小さめのもう一頭の子も、お父さんの側に来て、それからビルガメスの足元に行く。ビルガメスに抱っこしてもらい、顔の近くまで持ち上げられる。


「どうしてだろうな。もう出来そうなもんだが」


「うーん。私も、この子たちは早いと思っていたんだ。でも、少し変わったと思うと戻ることを繰り返す。完全な人の形には、まだ成ったことがない」


「二人ともか」


 そうだよ、と頷くタムズ。ビルガメスは赤銅色と銀色の混ざる龍の子供を抱っこして、背中やお腹を見るために、くるくる回す(※観察)。子供はぶらんぶらんして、下りたがる。


「ビルガメス。嫌だと思う」


「嫌がっていないぞ。大人しい」


「私の子供たちは遠慮がちなんだ(※父似)。顔が嫌がっているよ」


 言われて、小さな龍の顔を見つめると、心なしか悲しそうだった。『何だ。男龍のくせに。こんな程度で』とおじいちゃんは叱り、もっと悲しそうな顔になった子供を床に下ろす。子供はフラフラしながらお父さんの元へ戻った。


「そんな言い方して。傷つくだろう。男龍だけど、今、頑張っているんだから。ビルガメスは、いつも自分が正しいようにして・・・・・ 」


「お前は子供の頃は、もっと大人しかったのにな。今じゃ、父親に似て」


「関係ないだろう!私が子供の頃なんか。父はとっくに死んでいるんだよ(←気にしない一言)」


 最近。何かにつけて、子供の頃を引き合いに出すビルガメス、と噂になっている(※男龍の中で)。びしっと注意して、面白くなさそうな顔に変わった大きな男龍に、タムズは溜息をつく。



「あのね。私は()()()()を聞きに来たんだよ。私の子供時代なんて、どうでも良いんだ。

 グィードが出ていたから、君も一人で向かったと話していたが。龍気は?置換したの?」


 ルガルバンダに聞いて、それを知った。そして以前も『()()()()じゃないぞ』と言われた時に、真似したなと思った、あの力。

 タムズの金色の瞳が、じっとビルガメスに注がれ、ビルガメスは余裕な表情で微笑む。


「だとしても変じゃない。前にもそう、言ったぞ」


「私ほどじゃないだろう?私がどうやってそうしているか、知らないはずだ」


「俺の体に宿った力を拡げた。それだけのことだ」


「私の言いたいことは、ここで終わらない。それくらいは分かるね?」


 タムズは話を流す。自慢をされても腹立たしいだけ(※おじいちゃん、何でも真似する)。困るのは、その続きであり、ビルガメスが実行したということは、()()()()()()()()()()()()という意味だと感じている。


「タムズ。お前は何を思う」


「私と同じことをする。それは中間の地で動ける時間を増やすという、その理由」


「気にするな。しょっちゅうなんか、行かない。ミューチェズもいるし(※これ大事)今はイーアンの力が大きい。俺が行くこともない」


「そう。何の意味もなかったと」


「どう捉えてもお前の自由だ。俺の行動は、俺が決めるだけの話」


 ビルガメスが先を誤魔化している。そうとしか思えないので、この話は一先ず止める。タムズは嫌味なくらいの大きさで溜息をつき、白々しい目を向ける大きな男龍に、ちょっと睨むように視線を戻す。


「まぁ。良いよ。きっと、今すぐじゃないのだろう。君はいつもそうだ。忘れた頃に、自分の手の内のようにして、あっさりと何もかも自分の好きにするんだから」


「お前は嫌味だなぁ。本当に父親に似て」


「だからね!関係ないだろうって、さっきも言ったよ。やめてくれ、私は私だ」


 全くもう!と怒るタムズに、おじいちゃんは『あいつも(←タムパパ)そういう反応だった』とまだ続けていたが、タムズに無視されて、強制的に違う話題に変えられた。



「ファニバスクワン。私はよく知らないけれど、ルガルバンダから聞いている。問題なかったのかね」


「うん?精霊のことが気になるのか。別に、特に何も。シャンガマックも石を手に入れたようだし、無事なんじゃないのか」


「君はそれだけなの?昔、ファニバスクワンと()()()あったんだろ?」


「そんなことか、お前の気にしているのは。一悶着も何も、俺たちのせいじゃない。ガドゥグ・ィッダンが勝手にそこに分裂して落ちたんだ」


 意外そうに言う大きな男龍は、何をタムズが気にしているのかも、よく分からない。ルガルバンダが何か吹き込んだのかと(←思い込み強い印象)訊ねてみると。


「精霊の力を閉ざす時間が長過ぎた。その上、今日は龍気三昧だ。もっと(こじ)れてもおかしくないと思うよ。ちゃんと説明しないと」


「お前なぁ・・・説明して怒らないなら、もうとっくに怒りは収まっているぞ。収まらなかったら、未だに根に持ってるんだ、あの精霊は」


「ビルガメスはいつもそうやって、()()()()()()()()()も他人事みたいに言うが。話を聞けば、精霊はとばっちりだ。そのせいで、龍族が嫌われて」


「おいおい。そのせいじゃない。何だかなぁ、ルガルバンダめ。また余計なことを言ったな」


 困ったやつだと(※ルガルバンダ)首を傾げるおじいちゃんに、タムズは苛々する。苛々するお父さんを心配そうに見上げる子供たちは、お父さんの腕にくっ付いて、宥めようとする。


「ほら、タムズ。子供が心配そうだ。怒るな」


「誰のせいだと思っているんだ」


 なんだか最近、顔を合わせれば喧しいタムズに、ビルガメスは呆れたように小さな溜息をつくと、最初から話してやる。


「話を中途半端に聞いたんだ、お前は。ちゃんと話してやるから、聞け。

 さっきも言ったが、ガドゥグ・ィッダンが勝手に落ちたんだぞ。それも相当、昔の話だ。俺が関わったとお前は言うが、ギリギリくらいで関わったんだ。ほぼ知らん(※投げ)。俺の若い頃だ。

 それもな、ガドゥグ・ィッダンが落ちてから、かなりの年月が経っていた。それを根に持って、ある時、上がってきたファニバスクワンが、『あれを退かせ』と言うわけだ」


「上がってきた。まさか、イヌァエル・テレンに」


「ここまでは来ない。来れないだろう。そうじゃない、途中までだ。ナシャウニットや妖精の女王の力もある。要はな、巻き込んだんだ。()()は水が主体だから」


「そこまでして」


 少し引いているタムズに、そう思うだろ?とおじいちゃんが続ける。


「ファニバスクワンは、元々、空の力には弱い精霊だ。あれの持つ場所、つまり『ファニバスクワンの絵』だ。あれを通じて、精霊は力を振るう。

 その上に、空の力が乗っかったもんだから、それで怒ったんだ。何も使えないじゃないか、とな」


「でも。何百年も我慢したというなら」


「だから『あいつが根に持っている』と言ったんだ。ファニバスクワンからすれば、我慢してやったんだから、さっさといい加減に退()かせと、そんなところだろう。

 こっちは、あいつの我慢なんか知ったことでもない(※龍族は気楽)。今になって何を言うのか、と驚いたくらいだ。そうしたら、俺たちの態度が気に食わないと、更に怒って帰って行った。()()()()()の話だぞ」


 おじいちゃんに聞いた説明に、タムズはどう答えて良いか分からず、少し黙る。

 その表情に、おじいちゃんは咳払いして『ルガルバンダは、どう伝えたか知らんが』と、鵜吞みにしないように教えた(※長寿の勝ち)。



「で?お前は俺に、()()()()してほしかったんだ」


 逆に質問されたタムズは、少し考える。


 ――本当は、ルガルバンダに聞いた話から、ビルガメスの横柄さが問題だと(※一同が思う)感じたことで、ファニバスクワンに『ガドゥグ・ィッダンが動かせない理由』とか、『相談に乗る(※タムズ観)』とか出来たんじゃないかと思ったのだ。


 因縁がある様子だし、それで少しでも誤解が解ければと・・・今は、世界の全ての種族が、交錯する時でもあるから。のつもりだったのだが――



 タムズは『そうだったのか』と独り言のように呟くと、両腕に子供を抱えて『お休み』さらっと一言伝えて、ビルガメスの家を出て行った。


 見送ったビルガメスは、ほらな、と可笑しそうに呟いてベッドに寝そべった。

お読み頂き有難うございます。

ブックマークして下さった方がいらっしゃいました!有難うございます!!とても励みになります!

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