1185. 次に向かう場所と道のり予定
次の目的地が曖昧になった、旅の一行。
レゼルデに石を渡したイベントを終えた後、とりあえずお食事。昼食時の話は、そこに移る。
だが行き先なんて、特にない。必要に応じて動き回っているため、昼食中は相談も答えが出ないままに終わる。
片づけを終え、いざ出発・・・の段階で、タンクラッドは『荷馬車の御者をする』と言い出し、ドルドレンは『良いよ』と代わってあげる(※親方は気分で御者をする)。
「連動も終わっただろう?イーアン、連動はまだあるのか」
タンクラッドが御者台に長い足を片方かけて、乗りかけながら訊ねる。イーアンは、進んで来て首を傾げた。
「これで終わりではないか、とは・・・男龍も話していましたが。断言出来ません。
今回は、連動に向けて皆で移動しました。ドルドレンたちが、周辺の方々に注意を促したこと、これも一つ、必要で生じたように思いました。
でも連動が近かったから、これも叶いましたことで。万が一、次回があるとしても、移動にそれを意識しなくても。遠い場所の可能性がある為です」
イーアンの話でドルドレンは頷く。『そうだな。2度目はリーヤンカイで、3度目はヨライデだったのだ。もし次が来ても、国外の可能性もある』とりあえず、ここから先は、連動を移動予定に入れないでおこうと決める。
「俺は、キキに手紙を出さないとならん。石も送らなければ」
タンクラッドは総長に、ワバンジャの用事が先延ばしになっていることを言う。ドルドレンもそれを思うと『先にキキへの手配を済ませる』と答えた。
でも、この辺り。近隣に郵送施設どころか、民家の一つもない地域。なので、この話はバイラに振る。
バイラは地図を出して、現在地を確認した後、少し額に手を置いて、辺りをキョロキョロし、また黙り込んで考える。その様子に、皆が心配になる(※人里なさ過ぎる気がする)。
「うーん」
頭を掻きながら、バイラが唸った後、困ったように笑顔を向ける。皆はその笑顔の意味を察する。バイラは伸び始めたヒゲのある顎を擦りながら『そうですね』と呟く。
「どっちへ行くかによるんです。ヨライデ方面へ進めば、小さい村と町には出ます。でも、結構小さかったからなぁ・・・郵送施設が出来たとも思えないし」
続けて、『来た道を戻ると』旧街道ではない方の道先に、町はあると教える。だがバイラの顔つきから、あまり気乗りしないのも分かる。
「あの人の領地なんですよね。こちらは本来の街道だけど、主要にした道は、この道に入る前の三叉路でした。その先は海から離れて、内陸に続く道です。で、暫くはあの人の」
「あのおばさんか」
ドルドレンが眉をひそめ、それは確かに嫌である、と呟く。イーアンも目を閉じている(※拒否を示す)。
御者台に座ったタンクラッドの顔つきが苛立ちを含み『ババアの土地なんて、胸糞悪い』の悪態をついたので、ザッカリアが『そういう言葉は言っちゃだめだよ』と注意した(※親方ムスッとする)。
こうしたことで、皆は意見を出し合い、地図を囲んで暫く悩み、結局のところ、このまま進んでヨライデ方面の、小さい村や町の付近へ向かうことにした。
「そこから、ヨライデ方面を背中にして、戻ってくるような形で、上の道・・・これですね。中を通る道を戻りましょう。
大きく逸れますが、地図上で説明すると、ワバンジャのいたインクパーナの上を通ります。
遠回りだけど、そこからこう、下に続く道に入れば、また海へ向かうので。あの十字路当たりですよ」
「『インクパーナ手前』の十字路か」
タンクラッドに確認されて、頷くバイラ。日数で言えば、1週間~10日は見ないといけないだろうが、目的地のない旅なので、それで良いとドルドレンは了解した。
「でも。俺たちが連動の対処で、見に行った手前。集落もなかったぞ。人が見えたのは、飛んで少ししてからだった。村や町は見える範囲になかったのに」
「はい。下るんです。右側に下りていく斜面があって、そこをずーっと下るとあります。上空からだと、どう見えるのか。角度的に見えないかも知れませんね」
バイラが言うには、馬や馬車で通れば、迂回するような具合の道を進むことにより、高低差のある場所へ入る話だった。
話を聞いている分にはピンとも来ないので、とにかく出発することにする。
「もし。村にも町にも郵送施設がないなら、オーリンに運んでもらうことになるな」
手綱を振った親方の、ぼそっと呟いた言葉。馬車に乗り込む手前、皆はそれを聞いて『それなら、今そうすれば』と思ったが、誰も口にはしなかった(※行き先に目的ないし)。
オーリンも少し瞬きしてから、『俺が今行こうか』と言いかけて、女龍に腕を引っ張られる。
女龍の表情が『いいから』って感じで、オーリンは何も言わずに了解し、二人で荷台に乗る。先に乗っていたミレイオも『施設、無かったらお願いね』と苦笑いしていた。
ドルドレンは寝台馬車の御者になってやり、フォラヴとザッカリアを荷台へ乗せる。バイラは先頭なので、荷馬車の後ろに付く寝台馬車の御者は、無口な時間。
でも賑やか。荷馬車の後ろのミレイオ、オーリン、イーアンは、よく笑う。言い合いも辛口だが、ケンカになりそうなところで(※龍族二名)ミレイオがガツッと止め、また笑ってを繰り返す。
そんな3人を見ながら『仲が良いなぁ』と、ドルドレンは朗らかな思いに包まれる、静かな御者時間を過ごす(※以前のシャンガマック状態)。
手綱を取りながら、レゼルデに聞いたことを思い出し、ビルガメスの言った言葉を思い出し。実は聞きたかったことは、聞けていないな、と思いながら――
*****
シャンガマックとヨーマイテスは、闇の中を移動中。
暗闇だと・・・段々、眠くなってくるシャンガマック(※お疲れ)。うつらうつらして、鬣に突っ伏す。これを何度か繰り返し、とうとうヨーマイテスに『眠いか』と訊ねられた。
「ごめん。ちょっと疲れて」
「洞窟までもう少しだ。サブパメントゥの中を移動しているから、早いんだ。それまで持つか」
「うん」
落ちたら大変だなと、ヨーマイテスは背中でぐらぐらする息子を気にかけながら、走る足を止めない。たまにズルッと落ちかけて、慌てて背中を揺らす。
もー!って思うところだが、その度に息子が『ごめん』と謝るので、イライラも治まる(※息子可愛さ)。
そんなこんなで、どうにか洞窟に辿り着き、ヨーマイテスは息子を洞窟に下ろすと『食事をするか』と訊ねた。しかし、息子は寝ていた(※下りたと同時)。
「疲れたか。まぁな。相手がファニバスクワンじゃ。『空の城』もあったわけだし。無理ないか」
息子が腕に抱えていた袋が、ぼそっと落ちているのを脇に寄せて、獅子は息子を銜えて(※食われかねない口)丸まった自分の体の上に乗せる。そのまま、少し寝かせてやることにし、獅子も目を閉じた。
シャンガマックは無意識で、乗せられた獅子の体に反応して腕を伸ばし、いつものように鬣に潜り込んで寝息を立てる。
獅子はそんな息子の眠り方が好きで、こうしていられることを嬉しく思った。
独りで過ごした時間は短かったはずでも、息子が危険と隣り合わせの時間は、本当に気が気ではなかった。
「お前が無事で。それで、充分なんだ。だがお前は、ファニバスクワンに祝福まで受けて、戻ってきた。お前は俺の自慢だ」
満足そうに呟いた獅子は、目を開けずに少し笑う。抑えつけられていた力を解放した精霊が、バニザットを満たすこと。
あの、気位の高いファニバスクワンに、土産も貰ったという・・・獅子はフフッと笑って頭を起こし、眠る騎士の顔をペロッと舐めた(※獅子的行動)。
「昔のバニザットじゃ、言い負かして受け取るようなものだろうに(※性悪)。お前は素直さで受け取ったか。お前らしい」
ヨーマイテスは、ファニバスクワンのことを詳しくは知らない。
だが、老バニザットは精霊という精霊は、何でも知っていた。その話も出たことはある。ヨーマイテス自体が、ファニバスクワンと出会ったことは、ほぼない。あるとしても、意図していなかった。
そもそも、あれほどの力のある精霊が相手では、ヨーマイテスに限らず、サブパメントゥは側に寄ることも出来ない。寄れば崩れる。だから避ける方が普通なのだ。
「(昔の)バニザットは、何にも躊躇しないでどこでも行ったな」
呟いてから、獅子は小さく息を吸い込む。この話。起きたら、してやろうと決めて、今は、息子の温度を感じながら、ようやく得た安堵の時間を楽しむことにした。




