表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
精霊たちの在り方
1183/2959

1183. 旅の七十四日目 ~精霊の石

 

 バシャンと音を立てて、海中から噴き上げられたシャンガマック。


 ビックリしたのも一瞬。大慌てで、落下する宙を掻く腕に、さっと何かがかすり、あっという間に、自分は龍の背に救われたと知る。



「おお、ジョハイン!待っていてくれたのか」


 有難う!と抱きつく褐色の騎士。龍は昼の光を受けてぐーっと空へ上がり、長い首で振り向き、乗り手の顔を見つめる。


「心配かけたな。お前は大丈夫か?俺が行ってから、そう時間はかかっていないと思うけれど」


 赤紫の鱗を撫でて、シャンガマックは頼もしい龍にお礼を言う。龍は少し顔を傾けてから、元の位置に戻し、違うというように首を横に振った。


「あれ?大丈夫じゃないのか。どうした」


 宙に浮いたままのジョハインは、何をどう伝えるべきか考え中。でもその答えを出す前に、さっと響いた声が、地上から空気を(つんざ)いた。龍もちらと下を見る(※知ってた)。


「バニザット!!」


「あっ。ヨーマイテス!ヨーマイテス!戻ったよ、石はある」


「早く降りろ!龍はその辺で放せっ!俺をめがけて降りろ」


 枝の大きな木の暗がり。真昼間なのに、父がいる。その影から叫ぶ父に、無茶言うなぁと、褐色の騎士は困る。


 降りろって言ったって、父までの距離は相当ある(※高さ50mくらい)。ジョハインはゆっくりと乗り手を見て、お互いの黒目がちな目を見つめ合うと、うん、と頷き、滑空した(※物分かりの良い龍)。


「ごめん。ジョハイン。待っていてもらったのに」


 いいですよ~・・・と示すような和やかな顔を向けて、地上にいる獅子の手前、体をねじった龍はシャンガマックを背中から落とす(※そっとのつもり)。



 わぁ!と叫んだ、落下する騎士が地上に落ちる寸前、暗い影から獅子が飛び出し、騎士を(くわ)えて(※食べられる気分)向かい合う木々の影に飛び込んだ。


 びっくり続きのシャンガマックは、影の草むらに下ろされて、獅子を見上げる。


「有難う。こんなに明るいのに」


「本当だ。こんなクソ明るい時間に」


「ごめん。でもどうして、ここへ」


「いつまで待っても帰らない。龍気も消えたから、俺は朝からここで待った」


「朝」


 父の言葉を繰り返し、シャンガマックは目を瞬かせると『朝』の言葉をもう一度、訊いてみた。獅子の碧の目は、息子の質問に何かを理解したように細まった。


「お前。中に、どれくらい居たんだ」


「え?いや。そんなにいなかった。と言うべきか。遺跡の中には入らなかった」


「何だと?詳しく話してみろ」


 ヨーマイテスは、読みと違うのか、少し間が開いてから詳細を確認する。聞かれたので、とりあえず何があったか、その流れをシャンガマックは教えた。



「ファニバスクワンに会ったのか。そうか・・・なら、まだ()()な方だったんだな」


 父の呟きに、何のことかと眉を寄せた息子を見て、獅子はゆっくりと短く伝える。


「バニザット。お前は、()()。海に挑んだ。そして、遺跡の影響を受けてはいたが、ファニバスクワンが動いたために、お前の時間は無駄に()()()()()()んだ」


「それは・・・どんな意味で」


「お前が入った場所は、すでに遺跡の中。行ってみれば敷地だ。『ファニバスクワンのいた場所だけ、絵が違った』とお前は話した。そこ以外は全て、時空の向こう。お前が入ったのは、ファニバスクワンの導きあってこそ。

 魔法陣の日々が、こんな形で活かされたか。よくやった」


 話ながら、段々安心してくるのか。ヨーマイテスの獅子の顔が和らぐ。褒めた言葉の後に続いて、座っている息子の頭を、大きな獅子の手で撫でた。


 ニコッと笑ったシャンガマックは『有難う。ヨーマイテスのおかげだ』と答える。獅子は何も言わないで、ゆっくり首を横に振ったが、その碧の目は嬉しそうだった。


「とにかく。影の中を動く。お前は俺の背中に乗れ。真昼間だからな。移動も影伝いで少しかかるぞ」


「どこへ。総長たちも心配しているから」


「馬車だ。お前が戻って、その石を渡さないとならんだろう。()()()()()なんだ」


 ちょっと、ふくれたようなぼやきで、獅子は面倒そうに返す。その言い方が可愛いな、と思う騎士。


 きっと、また『魔法陣の場所』へ連れて行きたいんだ、と分かる。一日ずっと、心配させてしまったんだから、今日は付き合おう(※いつも付き合ってる)と決めて、シャンガマックは獅子に『馬車へ』と促した。


 獅子は背に乗った騎士を振り向かず、そのまま影の深い場所へ進み、暗さをどんどん濃くしながら、気が付けば闇のような黒さの中を走り出した。


「魔法が役に立ったな」


 暗い世界に聞こえる、獅子の声。シャンガマックもそう思う。『ああ。こんな形で使うなんて』意外だったよ、と答えると、獅子は間髪入れずに伝えた。


()()()()、また練習しろ。使った魔法を俺に見せてから、次の魔法だ」


「え!次の。分かった、早く戻ろう」


 新しい段階へ進むと分かり、シャンガマックはパッと顔が明るくなる。

 獅子が振り向いたかどうかは、暗すぎる世界で全く分からない。でも、掴んだ(たてがみ)が一瞬、ふかっと手に被さったので、きっと彼は振り返ったと思った。


 ヨーマイテスは、背中の息子の声が喜んだのを聞き、さっと振り向いていた。


 その嬉しそうな顔を見て、ようやく心がホッとする。やっと。やっと帰ってきたと、それが心底嬉しい自分に、今は皮肉も思いつかなかった。


 獅子はサブパメントゥの闇の中を走り抜ける。精霊の力を宿し、体の中に、同じサブパメントゥの流れを持つ息子を乗せて。



 *****



 馬車で待機するドルドレンたちは、先日に別行動に出た時の場所から、少し進んだ先で一泊し、そこに留まって午前を過ごした。そしてもう、昼になる頃。


 昨日。シャンガマックが遅くなるとは聞いたが、全く戻らないまま、夜が来て、夜中になり、朝を迎えた時、さすがに『探しに行こう』とドルドレンが言い出したのだが。


 親方がそれを止めて『コルステインが教えてくれた』の前置きから、迎えに行かずに『ここで待とう』と決まった。



 ――コルステインは昨日の連動後。龍気が消えるのを待ってから、その場所へ行った。


 すると、強い龍気は消えていたものの、これまで、薄っすらしか感じなかった精霊の力を感じたという。

 そして、シャンガマックも精霊と共にあることだけは理解し、精霊が守っているなら平気だろうと判断した。


 コルステインの見た時間は、満潮時。

 それから干潮が来るまで、興味本位で、コルステインはその場を見ていた(※親方は気が付かずに一人で寝てる)。

 干潮を迎えた海をじっと観察し、コルステインは頷いて戻る。()()()()()()()()()()()()、それが分かったので、精霊がそこに居ると確信した――



 この話を明け方に聞いた親方は、コルステインが夜中に居なかったことを寂しく思ったが、そこは黙って(※またケンカしかねない)貴重な情報にお礼を言うに終えた。


 そうしたことで、ドルドレンたちは朝食後もその場に停留し、シャンガマックの無事を祈りながら、帰りを待っていた。



「コルステインが言うにはな。昔、昔だぞ。どれくらいかは知らんが。

 連動の起こった場所の海は、毎日、潮の満ち引きで、陸地が出ていたという」


 親方は馬車の荷台に座って、剣の柄を作りながら、皆さん相手にお話をする。


「それが、随分前から、陸が出るほどではなくなっていたそうだ。海底が見えるくらいに潮が引く、そんな場所だったから『本当は、コルステインも手伝いたかった』と話していたな。

 多分、現在。それほど水が引かないにしても、コルステインが手を出せば、どうにか水を引かせるくらいのことは出来る、浅瀬なのかもしれないな」


「コルステインは優しいのだ。海水を引かせるって、どんな力だろうとは思うが」


 馬車の荷台端に腰かけたドルドレンは、親方にそう言うと、彼の目を見る。親方は首を振って『俺は、コルステインが()()()()()()()()()までは知らない』と、好奇心旺盛な総長に笑った。


「恐らく、バニザットも潮の満ち引きの話をしていたわけで、引き潮まで待つ気だったんだろう。空の城も精霊の石も、あの付近の()()()()()と知ったのか。

 その辺は、あいつが戻ってからじゃないと、何とも言えないが」


「でも。例え待っていたとしても、現在は全部・・・引かないんだろう?水」


 親方に質問するオーリンに、親方も首を傾げる。


「どうなんだろうな。少し引いてくれたら、それで何とかなりそうだったんじゃないか?コルステインが確認した時は、既に、相当な水位の低さだったらしいから」


「水位と精霊の関係?何かあるのかな」


 オーリンはイーアンを見る。黙って聞いていたイーアンは、小さく首を振り『私はグィードの渦潮しか』と答える。『あれで海底も見えましたが、渦は水が集まるから深く思えましたよ』自分の見た状態は異例、と教えた。


「精霊の気とかさ、そういうのあった?」


「いいえ・・・そういう、あなた。あの時、どこにいらしたんですか」


「俺?総長たちと一緒に出てから、俺は周辺を一人で回っていたよ。君が『独り対処』って聞いていたし。変な被害、出てても困るだろ」



 ふと。皆、あまり気にしていなかったオーリンの言葉に、彼を見る。そうなのだ。昨日、オーリンはいつの間にか単独行動し、いつの間にか戻っていた(※自由な人)。


「何だよ。フラフラしていたわけじゃないぞ。俺なりに、被害調査だ」


「何かあったのか。聞くの忘れてたけど」


 総長に今更訊かれて笑うオーリンは、『大した被害はないね』と答えてから、連動の影響に思えた()()()は見た、と教えた。


「崖崩れ?どこで」


 総長他。騎士たちが廻った場所に、崖は特になかった。海に突き出る崖ならあるが、オーリンは『陸を回っていた』という。


「もっと先だよ。でも連動だろうな、原因は。崩れたばかりって印象だった。木なんかも、ガサッと倒れて転がっているような具合だ。

 ええとな、この道はヨライデに向かうんだろ?この道のもっと、ずっと向こうだ。ヨライデだと思うけど、大きい山脈の影が先に見えた。連動の場所からも結構、距離あるよ」


 そんな先まで?とミレイオが驚く。山脈の話が出たので、それはヨライデ国境かも知れないことを教え、かなり離れた場所まで、オーリンが見に行ったと、ミレイオが代わりに説明した。


「うん。でも、ガルホブラフだから。あっという間だ。緑が多い場所が見えたからさ、人間が住んでいそうかと思ったら。まぁ、ちらほら。ただ、崖自体は、集落みたいな集まりの手前だったし、そこまでかな」



 感心してくれたミレイオに笑顔を向けて、オーリンが遠慮がちに、大したことはないと答えた時。


 イーアンがさっと道の脇を見た。ミレイオとタンクラッドもそっちを見る。フォラヴが影に顔を向けたところで、『戻りました』の声がした。


「シャンガマック!」


 ドルドレンは彼の声に、急いで立ち上がり、影のある大きな薮の側へ駆け寄る。すぐに褐色の騎士が薮の向こうから出てきて、にっこり笑った顔を見せた。



「やっと帰ってきたな!もう、探しに行こうと思ったくらいだ。コルステインが事情を」


「すみません。俺もまさか、こんなに時間が経っているとは。ちょっと不思議な場所で・・・あの、これ。石です。これだと思います」


 戻ってきたシャンガマック。総長と一緒に薮の影を出ながら、自分の腰袋に入れた石を取り出した。


「これか。黒く澄んだ、どこか青緑に見える石」


「はい。これを・・・フォラヴに。ああ、フォラヴ!ほら、これだ」


 こっちを見た馬車の皆に、片腕をさっと上げた褐色の騎士は、目の合った空色の瞳に石を掲げて見せる。


 妖精の騎士の優しい笑顔が深まり、馬車を下りたフォラヴは、両腕を広げてシャンガマックを抱き締めると、笑顔を返した顔に、満面の笑みで頷いた。



「まさしく。あなたの力の証。()()()()()()()に成功したことを、祝福しましょう。

 有難う。シャンガマック。これこそ、そうですよ」


 妖精の騎士の喜ぶ顔に、シャンガマックも笑って頷く。そして、精霊の石を手渡した。

お読み頂き有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ