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魔物資源活用機構  作者: Ichen
精霊たちの在り方
1180/2964

1180. 連動4度目 ~渦巻く海

 

 体を伝わる振動に、サブパメントゥの上、地上の下に待つヨーマイテスは息を呑む。



「始まったか。バニザット」


 獅子は、不安で胸が苦しい。狭間空間は自分一人だけの場所で、他の誰も入れない。同じサブパメントゥでも決して入ってこれない。


 それもあって。遠慮なく、不安を丸出しにする時間。誰に見られもせず、誰に聞かれることない独占の世界で、ヨーマイテスはうろうろしては、立ち止まって溜息を大きく吐くことを繰り返す。


「ああ。バニザット。お前が行くなら、俺もと思うのに。

 俺が行っては余計に酷い状況を作るとは。お前に触るために、この力を手にしたというのに。何て皮肉なんだ」


 今後もこんなことがあるだろうかと思うと、獅子は眉を寄せて首をぶんぶん振る(※顔変わらない)。


「嫌だ。バニザットが一人で危険に向かうなんて、何度も見送れない(※仲間いるけどアテにしてない)。ちくしょう、どうするべきだったのか。

 いや、俺はこれから。もう、この腕の道具は一生外せない以上・・・俺がするべきことを考えねば」



 無事でいてくれと願うしか出来ない、大きな獅子は落ち着かない。龍気が漲るガドゥグ・ィッダン。


 新たな力を得たとはいえ、ヨーマイテスが近づけば、それだけでも被害が大きくなる。

 タンクラッドも、以前の『時の剣を持つ男』と同じような力を使いこなせるなら、若干はあの場所の龍気を消せるだろうが、相手がマズい。

 龍気を消すために『時の剣』が混ぜないといけない対象・・・『精霊の力だ』それじゃ意味ないんだよ、とぼやく獅子(※素)。


「俺もあいつも。混ぜ込む二つの力が同等くらいの量がないと、()()がどうにもならん。

 あの龍気に対応する量の、精霊の力なんて取られた日には、タンクラッドを生かしておかん(※想像⇒親方のせいで息子倒れる図)」


 ヨーマイテスは、どうにかして息子の側に行きたい。

 守れるなら、守ってやりたいし、代れるなら代わりたい。それなのに。そうしたら最後、真逆の結果を生むと知っていて、動きようのない今が辛くて仕方ない。


 不安が募るだけの時間に、再び振動が渡る。ハッとした獅子は、上を見上げて『バニザット、まだだぞ』と呟いた。


 ガドゥグ・ィッダンが消えてから。女龍が片付け終わったと合図してから。それから近づけ、と教えた。


「行くなよ。近づくな。お前の力がどれほど強くても、ガドゥグ・ィッダンは龍気を探して、何でも吸い込むんだ」


 バニザット~・・・うんうん、唸る獅子は、床に転がったり立ち上がってうろついたり、早く終われと念じるしか出来なかった。



 *****



 離れた場所。狭間空間よりもずっと下の暗闇の世界、サブパメントゥでも、大きな青黒い炎が()()を感じていた。


『うーん。龍。行く。グィード?』


 コルステインは場所が海であることを、明け方の時点で知っていた。しかしその海は、陸に近く、時間で水が低くなる場所でもある。振動が起きたので、連動が始まったのは分かる。そして、グィードも動き出したのを、今、感じた。


 海の水・・・()()どうなんだろう?と思うが、明るい時間に動けない、サブパメントゥの特性が強いコルステインには、どうにもならない。水が引いている間が、(イーアン)に動きやすい気がする。

 そんな、考えるコルステインの側に、同じような炎が近づき、それは話しかけた。


『コルステイン。行くのか。動くか』


『行く。ない。明るい。ダメ』


『海だ。中は暗い。行かないのか』


 行かない、と首を振るコルステインに、マースは何か言いたそうで、その場を動かない。どうしたのかと思い、訊ねると『まだ。タンクラッドを助けるがない』と答える。


『タンクラッド。動く。ない。龍。動く。お前。ここ』


 コルステインは、何となく。タンクラッドが出る感じがしない。

 自分は手伝えるかもしれないけれど、龍気がとんでもなく強いので、側に行けない以上は、何をするにも難しそうと判断。


 自分でもこうした状態だから、タンクラッドの不思議な力も、使うのに難しいような(※勘)。

 それをマースに伝えると、マースは納得いかないようでも、渋々諦めた。マースはタンクラッドに『有難う』を教えたいから、こういう時に手伝ってあげたいんだなと、コルステインは理解する(※1038話参照)。


『龍。頑張る。する。海。ない。すぐ。違う』


 海の水が引いている時間。コルステインはそれだけでも、何か手伝ってあげられたら、皆が楽だろうと考える。でも出来ない。

 どんなに、いろいろと手伝う部分を考えついても、結局は『龍気』の大きさが、自分の足止めをする。


 だから。イーアンが海の引いている時間を狙って、その間に『頑張る。イーアン。頑張る』しかないよなと思った。

 コルステインの鋭敏な感覚に、また振動が触れた。その振動は先の二度よりもずっと大きく、コルステインは皆の頑張りを、暗闇の世界から応援した。



 *****



 ドルドレンたちは龍を呼び、周囲に人がいないか、いれば、避難を喚起するために動き出す。


 午前の道。馬車に乗っていて、ドカンと突き上げる振動を感じた直後、イーアンが『行きます』と飛び立った。

 挨拶の暇もなく、道の先へ一気に白い光が飛んだのを見て、騎士たちも慌てて馬車を止めると、笛を吹いたのが、たった今。


「タンクラッド、バイラ。馬車を任せるぞ。どうせ俺たちに、何が出来る事態ではない」


「空しいような気もするが。分かった、行ってこい。ミレイオは」


「ミレイオもここにいてくれ。唯一、龍なしで飛べるのは、ミレイオだけだ。何かあったら知らせてほしい」


 ミレイオを連れて行くかと訊ねた親方に、やってきた藍色の龍に飛び乗ったドルドレンは『待機』を言い渡す。


「気を付けてね。一応、ここにいるわよ」


 馬車を動かさないで待機する、と答えたミレイオに、ドルドレンは背中を向けたまま『頼んだ』の返事をし、部下3人を連れてイーアンの向かった先へ飛んだ。

 少し遅れてオーリンも『やっと来たよ』と笑いながら、ガルホブラフにひらっと乗ると『じゃあね』の軽い口調で、飛んで行った。


「何かさ。オーリンだけは、いつも・・・何て言うの」


「あれは、ああいう性質なんだ。オーリンが真剣になったら、笑顔もへったくれもないぞ」


 苦笑いするミレイオとタンクラッド。今回は自分たちは『待ちの位置』と、バイラと一緒に馬車で待つ。他にすることもないため、3人は連動の正体について、思うことをぽつりぽつりと話し始めた。




 ヨライデ方面へ一直線に飛んだイーアン。目的地は体が感じる。凄い勢いで吸い付くような、見えない触手が伸びてくるような、そんな異様な感覚をびしびしと感じながら、強まるその方向へ向かった。


「あれですか・・・あ。え。ええ?」


 また白い筒が出ているのを見て、あれだなと思ったのも一瞬。白さが随分と濃いので目を凝らすと、海水を巻き上げていると分かった。


「うへ~ 海~・・・()()()()、って誰か言っていませんでしたか(←ルガルバンダ情報)」


 文句を言う時間もない。仕方ないと意を決し、イーアンは龍気を高め始める。


「あ。間違えました。グィードを呼ばないと」


 勝手に龍気を上げて、勝手に吸い取られても何の意味もない(※あんま分かってない)。そうそう、とグィードをまずは探す。グィードを呼ぶ時は『親方と二人で』が条件なのだが、今回はビルガメスが言いに行ったよう。


「ビルガメスがお遣いに。お遣いに出て下されば、私は待ち合わせということですね」


 この方が楽ちんだなと思うイーアンは、海の上に出て、上からグィードの影を探す。大きな龍なので・・・と思ったら、ぐんぐん体に龍気が増え出した。


「グィード。来てくれましたか。グィード、どこですか~」


 見えないのに、龍気が凄い。片や龍気を引きずり込む『白い筒』がある中、同時に漲る強い龍気に、イーアンは喜び、安心して、名前を呼んだ。それはすぐに答えが返り、どこかと訊ねたことを少々後悔した。



 見ている前で、渦のような海流の動きが現れ、これはもしやと思ったら、どんどん海流が白い筒の周囲を渦巻き始める。海流は右から奥から左からと流れ、それが大渦を作り出す。

 その範囲の大きさは、白い筒だけでも径で見たら1㎞ほどはありそうなのに、それを囲むくらいの渦。


 その渦のずっと沖。ぐわ~・・・と見えた、黒い影は海上には現れず、揺らぎながらイーアンの頭に声が響いた。


『イーアン。行きなさい。私の龍気を受け取り、()()()()に注ぎ込みなさい』


『グィード、有難うございます。はい。では行きます』


 大急ぎのイーアン、6翼を目一杯加速させて、白い筒の周りをぶんぶん飛び始めた。急がないと。急がないと。イーアンの頭には、不安がどっさり。


 突然出てきた渦潮に、この近海はどうなっているのか。ハラハラしても仕方ないが、この影響はきっと想像を超えている。


 範囲が大きい上に、渦潮によって、真ん中の白い筒がある海底も、見え隠れしているのだ。自然の作り出した渦潮ではない分、生き物にも地形にもあれこれ・・・『早くしなければ』慌てるイーアンは、龍気をガンガン出して、グィードが送る龍気を引き込みながら、白い筒に龍気を注ぐ。



 ふと気が付けば、潮流の上に吹く風が変わっている気がする。『も。もしかして』直径1㎞近くある、白い筒の周囲を、()()で自分が飛び回り、そして海には()()が発生したわけだから――


「いや~ん、何だかとんでもないことになりそうですよ~」


 どうしてこんな場所なんだよ~と、泣き言を言いたくなる。


 最初の場所は集落だった。周囲は平野で、ほとんど人もいない場所。その時は必死だったし、その後は倒れたから、どんな反動が起こったのか、イーアンは知らない。


 次の場所は山脈だった。男龍二人で、挟み込むようにして筒を消した。速度は関係ない消し方だったが、衝撃で山脈の上が削れた(※自然が)。


 三回目は知る由ない。きっと山脈の時の、ニヌルタとシムのような感じだったと思う。


 今回、四回目。この場所は厳しい・・・『海って』高速で龍気を注ぎながら、グルグルと白い筒を周回するイーアンは、陸地からさほど遠くないこの位置に、もうちょっと陸に近かったならと、無茶なことを思う。


「早くしなければ。早く消さないと。海にも影響が」


 海どころじゃないかも~・・・ちらっと見た空の雲が変な具合に変わってきている。風が起こっているわけだから、無理もないのだが、イーアンはそれを見て泣きたくなる。


「グィードの龍気。凄い量です。アオファの何倍もありそうな。これだったら」


 自分の体を大きくしたら、もしかしたらその分、放出量が変わって、龍気をもっと多く出せるのではないか(※ビルガメスの思ったとおり)。



「グィードもいます。今回、私も疲れる気がしません。こうなったら、()()()()()一気に龍気解放ですよ」


 大事な自然が掛かっていますからね・・・(←『ニヌルタと私は違う』の意味)!


 よし、と決めて、イーアンは白く眩く発光し始める。

 グィードはそれを見て『おや』と呟き、この様子を離れた場所で見ていた金色の瞳は、苦笑いして溜息をついた。

お読み頂き有難うございます。

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