1175. ガドゥグ・ィッダンと龍族と精霊の種類の話
ビルガメスとルガルバンダは、イーアンが戻ってから、少し話し合う。
イヌァエル・テレンの夕方は、燃えるような橙色の光に、澄んだ金色の光が映り込み、青い昼の空から夜の紺色混じりの空までが段々に重なる。
その複雑に混ざり合う美しい空の下、大きな男龍は、ルガルバンダの子供を2~3頭あやしながら(※手でぱたぱた払い飛ばし、戻ってくる子供にまた繰り返す)座った床から見上げる空に呟く。
「ガドゥグ・ィッダンの連動後。すぐだろうな」
「その下にあるものを、求められるとは思わなかった」
「その名を知る者は、中間の地にいるはずもないが。『空の城』とは、うまく名付けたものよ」
「そうだな。精霊たちはそう呼んでいるのかもな」
ルガルバンダも近くに座ると、お父さんに寄ってくる子供を転がし(※扱い雑だけど遊んでいる)大きくなった体で、お父さんの長い髪を噛む子供を捕まえて、イヤイヤして逃げていく子供に笑う(※ベイベ自由が好き)。
ビルガメスの大きな体に齧りつく子供は、ビルガメスが持ち上げてぎゅううっと腕に抱えると、やはり子供は逃げたがってジタバタし、解放されてイヤイヤしながら向こうへ行く。
「かわいいな(※可愛がっているつもり)」
「そうだな。俺が留守の間。子供を頼む」
「時間が掛かるか?」
ルガルバンダの答えに、ビルガメスは質問。そう掛からないような気がする内容だが。大きな男龍に訊ねられたルガルバンダは、少し黙ってから、彼の視線に目を合わせた。
「どこにあるのかが分からん。ガドゥグ・ィッダン全体の下なら、すぐだろうが。『真下にあって、下敷き』のような好条件とは限らないだろう?」
友達の答えに、ビルガメスは『ふむ』と頷く。言われればそうか、と(※おじいちゃんは他人事)。ルガルバンダは続ける。
「ガドゥグ・ィッダンも、場所を定めてそこに在るわけじゃないからな。偶々、そこだっただけで。
イーアンに聞いた話だと、精霊が求める石は元々、黒く透き通った石だという」
「それは」
「そうだ。『ナシャウニットの足跡』だろうな。精霊の力が消えないまま、ガドィウグ・ィッダンの下にあるんだから」
おじいちゃん、ちょっと考える。ナシャウニットがテイワグナに関与していただろうか・・・ナシャウニットくらいの精霊になると、もう一人か二人は同じようなのがいる。
「『ファニバスクワンの絵』も、可能性があるぞ。ナシャウニットか、ファニバスクワン絡みの石か」
ビルガメスに言われて、ルガルバンダは彼を見つめ『ファニバスクワンの絵』と繰り返す。おじいちゃんはルガルバンダに首を傾げ『その可能性があるとすれば』と呟いた。二人の目が、慎重な光を持つ。
「強ち、無いとも言い切れないか。
イーアンがしてくれた、精霊の話。これまで結界に使っていた石が、この前、割れたそうだ。そして今日、また魔物が近くに出たことで、割れたとか。
この前・・・とは、ヨライデ近くで起こった連動の3度目だろう。距離が近い。
今朝の魔物は、連動の余波で開いた『海底の亀裂』そこから生じている。コルステインが倒したらしいが、イーアンじゃ分からなかったかもな」
四本角を撫でたルガルバンダは『ファニバスクワンの絵』と呼ぶ石の塊であれば、龍気の増減に反応することを思い、話す。ビルガメスも頷いた。
「どちらにしても、連動の関係で、龍気の影響を受けたんだろうな。ガドゥグ・ィッダンの龍気の吸収は、中間の地では他が崩壊する」
ふむ、と空を見つめたビルガメスは、戻ったイーアンのことを少し考慮しながら、先を続ける。
「ふーむ、そうなってくると。お前では心配だな。ナシャウニット寄りの龍であれば、まぁ。俺達でも良いが。ファニバスクワンは」
「待て、ビルガメス。だからと言って、イーアンには任せられないぞ。
ガドゥグ・ィッダンを見せることになる。それにイーアンが、ファニバスクワンに対応しているかどうか、分からない」
ルガルバンダはさっと止めて、イーアンにそこまではさせないように、と伝える。
おじいちゃんとしても、そこは出来れば避けたいところ。
あの知りたがりのイーアンに、一度ガドゥグ・ィッダンの存在を見せてしまえば、確実に今後、何かしらあるごとに『あれを見せろ』と、可能性をすぐに繋げるに違いない(※イーアン注意報)。
「あれもなぁ・・・ズィーリーほど寡黙でなくても良いから、もう少し大人しかったなら、まぁ。話してやれないこともなかったんだが」
苦笑いするビルガメスに、ルガルバンダはせっせと首を振って『イーアンに求めるな』とざっくり切り捨てた(※根掘り葉掘り聞きたがる&一度断っても諦めないイーアン)。
「しかし、本当にファニバスクワンだとしたら。俺たちだと壊しかねないぞ。
ガドゥグ・ィッダンの下に閉ざされた年月を、未だに耐えている石に、龍族が触れたらどうなるか」
「それも。相性の悪い龍族がだろう?参るな・・・ん。んん?ズィーリー?はて」
腕組みして考えるおじいちゃんに、答えたルガルバンダ。ふと、思い出す。ビルガメスの金色の目が彼を見て『何だ』と続けるように促す。
「以前。ガドゥグ・ィッダンの関係ではなかったと思うが・・・ズィーリーたちの動きで。ファニバスクワンの話があった。その時は確か、バニザットが」
「バニザット。シャンガマックの家族(※長寿から見れば大別)だな?」
「そうだ。あの男が対処していた。あの魔法使いは、龍気以外の力は動かしたんだ。サブパメントゥの力に関しては」
「ヨーマイテスか」
理解した様子のビルガメスに、そうだ、と頷くルガルバンダ。
「バニザットは、ズィーリーの信頼を得ていた。だから龍気の絡むことに関しては、ズィーリーに」
空はズィーリー、地下はヨーマイテスに使い分け、他の力は自分が使う魔法で、多くを対処したと教える。ビルガメスはフフンと笑う。
「抜け目ない男よ。そうか・・・当時は中和の存在が、時の剣を持つ男だけだったからな。
今のヨーマイテスの力では、動かしにくいだろうが。今回のような場合でも、昔は対処出来たわけか。
しかし、今回。タンクラッドの力は使えない。あれを使えば、精霊に影響が出る。あの場にあるのは、龍気と精霊の力だ」
思い出話の機転に、大きな美しい男龍はゆっくりと頷いて、ルガルバンダが何を言おうとしているのかを察した。
「お前はもしや」
「そうだ。バニザット、今回のシャンガマックなら。
あいつは精霊の力、ナシャウニットの加護だが、精霊の力が仲間の内で一番大きい存在だ。彼に」
「そうもいかん。そのシャンガマック。ヨーマイテスとくっ付いている」
「ヨーマイテスと?過去だけでなく。現在もか」
驚くルガルバンダに、ビルガメスも苦笑い。
「状況だけ聞けば。親子のようだ。ヨーマイテスが育てている。あいつも次から次へと、こちらが思いつかないことを・・・まぁ、長い歳月を待って、ようやく動き出した目的のためだろうが」
「なるほど。それか。それで、あの力を得たのか。シャンガマックは精霊の強力な加護の元に居るから」
「近づくためだけではなさそうだがな。命がけの試みだったろうし。
ヨーマイテスの目的は一つだ。それはもう、はっきりしている。今はその話はさておき。
シャンガマックを使うにしても、ヨーマイテスが一緒となると、一緒に向かわれたら敵わん。連動どころじゃなくなる。
ヨーマイテスを引き離してからでなければ、シャンガマックを動かせないぞ。それにシャンガマックがどの程度、自由が利くのかも」
「ガドゥグ・ィッダンを探られては困るから・・・の話なのに。さっきから、『精霊の頼みの石』に尽力しているみたいだな」
ハハハと笑うルガルバンダに、ビルガメスも可笑しそう。『本当だな』どうでも良い話なんだが、と笑う。
「こうしたことも起こるだろう。仕方ない。ガドゥグ・ィッダンのことは、時が来るまでは伏せておくべきだ。
イーアンもまだ、始祖の龍ほどには届かん。まだまだ、だ。全ては時が満ちるまで。それまでは俺たちがこうして、なぜか精霊の小さな願いも聞いてやることもあるんだろう」
皮肉そうに笑うビルガメス。こんなこと在り得ないなと、一緒に笑ったルガルバンダに、『お前が行くのを変更する』と伝える。ルガルバンダも頷く。
「どうする。シャンガマックを呼ぶのか。しかし、彼に知られるぞ」
「どっちみち。ヨーマイテスがくっ付いている時点で、シャンガマックは、知らずにガドゥグ・ィッダンに入っているんだ。
思い出せ。この前、イーアンが『シャンガマックの意識がない(※946話参照))』と話したことを。あれは」
ビルガメスが促す途中で、ルガルバンダは大きく首を縦に振る。『あれか』そうだったな、と理解した。
「どうするつもりだ、ビルガメス」
「急ぎらしいしな。仕方ない。俺が行く。そしてヨーマイテスを呼び出す」
大きな男龍の言葉に、直に話すつもりなのかと目で問うと、ビルガメスは少し頷いて『その方が面倒がない』と教えた。
「親子の目的はどこにあるのか、はっきりはしないが。今はシャンガマックと親子らしいんだから。
恐らく、ガドゥグ・ィッダンを教えることはないだろう。中へ連れて行って利用するにしても、そこがどこかは喋るまい。それなら、ヨーマイテスに『お前は近づくな』と伝えてやれば良い。
そう聞けば。ヨーマイテスも、シャンガマックに『中の話を誰にもするな』と話すはずだ」
「そう。上手く行くと思うか?」
ゆっくり立ち上がったビルガメスは、夜の始まりに輝く星を見上げて『そうなる』と微笑み、そのまま空へ飛んだ。
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