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魔物資源活用機構  作者: Ichen
精霊たちの在り方
1169/2960

1169. 午前の道の続く場所

 

 朝食の話題が海上の魔物と、海域に広がった渦だけに絞られて、肝心の『戦い方間違えた』まで行きつかないまま、旅の馬車は出発した(※時間切れ)。



 反省会とした内容ではないが、何をするべきだったかは、皆の共通意識に言葉として置いておくべきだったなと、ドルドレンは思った。


 奥さんは龍気消耗したので荷台。

 空へ戻ったら?と促してみたが『行ってすぐ、何かあっては大変』との返答で、荷台で回復するつもりらしい。


 どう回復する気なのか訊ねると、この前もらった『グィードの皮』に包まって、トワォを呼ぶようなので、荷台には親方とイーアンの二人。


 何気に複雑なドルドレンだが、止むを得ないので了承。したら、有難いことに(?)オーリンがいるので『俺も龍気あるから、良いんじゃないの』とオーリン付きとなる。心なしかホッとする(※親方の目が据わっていた)。


 ミレイオは、寝台馬車の御者で、フォラヴとザッカリアは、いつも通り荷台にいる。

 『洗濯物が濡れた』とミレイオがブーブー文句を言っていたのもあり、出発前、濡れた服を馬車の横に紐で吊るして、移動している(※見た目が家庭的な馬車)。


 バイラは馬車の前を進むが、道は一本だけ。ひたすら海沿いの道へ向かうだけなので――


「バイラ」


 ドルドレンは呼んでみる。振り向いた警護団員に『並んで話そう』と言うと、にっこり笑ったバイラはすぐに馬を並べてくれた。バイラは良い人である。



 さっきの戦闘の話を再び始め、少ししてから『もっと全体を見ないとダメかもね』との反省点を話し合い。

 ドルドレンはふと、過ったことで脱線する。それを言うと、バイラは『ん?』と顔を向けた。


「施設ですか」


「そうなのだ。ニカファンの領地に入っている、警護団施設。寄らなかった。良かったのか」


「渡すものはないので、大丈夫です。どの地域でも一応、施設近くへ行ったら、私が置いて来ている資料はあるのですが、それはヒンキラで渡しましたし。

 ニカファンとヒンキラ。近いのに警護団施設があるの、変だと思いませんでしたか」


「思った。他の地域は皆、離れているのに」


 バイラが教えてくれたのは、『あれは貴族がそうさせたから』の理由。あの辺り一帯、地区別関係なく、貴族の領地だから、ハウチオン家が自分の管理に警護団施設を置いたようだった。


「そんなことも関与するのか」


「普通は嫌がるんですけれどね。警護団施設があっても、貴族に得することはないので。見た目もきれいなものじゃないし(←施設武骨)。仕方なく置いてやる、そんな印象なんですけれど。

 ハウチオン家は、何でも自分の思い通りにしたかったんじゃないでしょうか」


「うん。そんな気がする。あのおばさん、そういう感じなのだ」


 ハハハと笑ったバイラは、『だから、ヒンキラの施設に渡しておけば、ニカファンも見ると思う』と答えた。


「ニカファンで本当に魔物退治でもあれば。私も寄らないではいなかったでしょう。でも、魔物じゃなかったし、私たちは立ち寄っただけですから」


 そう言うと、バイラからも質問。『あのハウチオン家。ミレイオの後ろ盾・・・そう話していませんでしたか』ミレイオの名前は出なかったのかと訊ねるバイラに、ドルドレンはさっくり頷く。


「何にも。あのおばさんは、ミレイオのこと。一言も口にしなかった。

 これは、話したと思うが、俺たちにさえ『恥さらし』と言ったのだ。ハイザンジェルから回ってきた連絡も、適当にしか受け取っていないのかも知れない」


「ミレイオ・・・出なくて良かったですね(※見た目)。アリジェン家は、ご本人が来てくれていたから、あんなに手厚い歓待をしてくれたってことか」


 だと思うよ、とドルドレン。『パヴェルは、人が好いのだ。大貴族だけど、()()()()()()()はなくて』彼はオーリンも大好きだし、と教える。


 パヴェルとの出会いも話してあげると(※674話参照)バイラはびっくりしていた。

 貴族が謝りに変装してまで訊ねてくるなんて、信じられないと驚いているので、ドルドレンも同意しておいた(※あの人くらい、と思う)。



「それにしても。本当に何もないな。もう数日、この海を向こうに眺めているが、すれ違う馬車さえない」


 ドルドレンは晴れた午前の風景に、綺麗だけど人っ子一人、動物一匹いないね、と言う。


「街道ですが。往来は非常に少ないでしょうね。元々、ヨライデから続くだけの道でしたから。この道沿いではない場所に、村や町があります。主要街道じゃないんですよ」


「そうなのか。『街道』と言うし、あの貴族の前の道を、真っ直ぐ来ただけだから、町もあるのかと」


「いえいえ。途中、こちらに入る手前で、別の道が伸びていました。民家はそっちですね。同じような幅だから、気が付かなかったかもしれません。動物に関しては、この前の話です。魔物が出るから」


 バイラは横の林を見て、右手の奥に続く、緩い上りの傾斜の先を指差す。左側前方に海が広がり、左方面は海へ下っている。


「この右手奥は小山になっていますね。動物がいるとしたら、こうした場所だと思います。だけど、いつ魔物が・・・どこから来るか分からない以上、動物も移動し続けているかも」


「住処を追われるとは。食べる対象も変わってしまう。人間はどこでも、人を伝って動きさえすれば、何とかなるが。動物たちは移動しただけでも、生き死にに関わるな」


 今朝みたいに、唐突に魔物が群れで溢れ返ったら。それだけで殺される動物もいるだろうし、逃げて、食べるものがない場所へ行き着いてしまう動物も出てくる。


 ドルドレンも悲しそうに眉を寄せ、小山の続きに向かう林を見上げた。『可哀相である』早く平和にしなければと思う。


 この時、ドルドレンもバイラも、ビルガメスが話していた『この道を進むなら』の言葉を、すっかり忘れていた。



 *****



 同じ頃。洞窟外で朝から練習に励んでいたシャンガマックは、父に休憩を言い渡され、一息ついていた。


「疲れたか」


「少しずつ慣れてきている。そうでもないかな」


「バニザットは、俺といて楽しそうだな」


 何をいきなり、と笑う騎士に、獅子は『笑うことじゃない』と注意。うん、と真顔に戻した息子に、獅子は続ける。


「昨日。戻っただろう。お前は皆と共にいる時間を、引き延ばそうとしなかった」


「うーん。一時的に戻ると思っていたからだ。今は魔法を覚えないといけない」


「俺は外に出ていないが、お前はあまり、彼らと話をしなかった気がする。違うか」


「少し話したかな。昼時だし、食べながらだとそう、情報交換もままならない」


(自分)と一緒にいて楽しそうだな』と聞いたのに、息子はそこを答えないので、ヨーマイテスはむすっとする(※つまんない)。

 でも息子は、丁寧に答えているだけとも分かるから(※一応分かるようになった)話を変えた。


「まぁ、いい(?)。情報交換とは何だ」


 仲間と何を話したのかを訊ねる父に、シャンガマックは、最近の状況を聞いたことを教える。『貴族の領地に行ったとか。精霊と妖精が一緒にいたとか。これからヨライデの方へ、連動対処に向かうとか』そんな話だったと言うと、父は黙る。


 じっとしている獅子に『何か気になるのか』と訊ねると、獅子は首を揺らす。


「連動か。それは分かるな。あの道を通っている以上、向かう先を男龍にでも聞いたんだろう。お前は行かなくて良い。行っても出来ることはない」


「気になるけれど。でも行こうとは考えていない。対処できるのは龍族だけと聞いたから」


 そうだ、と頷く獅子は、続けて教えてやる。『精霊と妖精か』バニザットはどう思った、と最初に問い、息子が首を捻って『一緒にいるなんて不自然に思う』と答えると。


「そう思うだろうな。だが、そんなおかしなことでもない。滅多にないだろうが、同じような派生をした場合は、似ている環境で同じような質を持つこともある。

 違う場所で誕生した場合は、交わる場所にいることは出来ないもんだろうが、その妖精と精霊は、条件が重なったんだろう」


「不思議だ。力の相殺がありそうなのに」


「お互いに力を使い合えば、そうかもな。だがな。それを言うと、お前の仲間は()()()()()()()()と思わないか。

 女龍は龍族の頂点だ。龍の民もいる。それなのに、妖精もいれば・・・コルステインに、グィードの皮一枚で、女龍は近づく。距離が近すぎるくらい、近いだろう」


 あ、そうか、と目を丸くする息子に『これからも、そういった()()()は目にするかもしれない』ことを教える獅子。


「絶対に無理、と言うわけじゃないんだ。男龍はあの妖精を触れないだろうが、イーアンは触れる。タンクラッドはコルステインと寝て、女龍にも触れる。妖精にも、精霊の力の強いお前にも平気だ。

 ザッカリアはまた別の種だが、昨日会った時、前回よりもずっと強力に変化していた。本人も周りも気づいていないようだったが」


「え。ヨーマイテスは大丈夫だったのか」


「バニザット。俺はお前にさえ、こうして触れられるようになったんだ。女龍も角じゃなければ触れる。()()()が、あの子供に苦手なわけないだろう」


 複雑だよと言う息子に笑って、獅子は立ち上がる。『そろそろ始めるか』休憩を終えて、獅子と騎士は魔法陣に立つ。


「あの辺り・・・あいつらの馬車があった場所。あの辺は妖精も精霊もいる。精霊は棲み分けしていたはずだが、魔物で場所に変化があっただろう。

 ()()()いるか、()()()()()()いるか。もしくは()()()()()いるか・・・今、話したように、何かと混ざっている状態もあるだろうな」


 何かを見通すような父の言葉に、シャンガマックは彼を見つめる。


「気にするな。お前がそうした場面と出会うのは先だ。今日も明日も俺といるんだから」


 碧の目を向けた獅子に、そうだねと笑顔で頷く騎士は、皆と一緒にいない時間に、何があるのかを少し思い巡らせるものの、自分が『現状すべきこと』を意識し直す。


「さっきの。もう一度やってみろ」


 向かい合わせに立った獅子に、騎士は了解し。片腕に真緑の光を集めた――



 *****



 馬車が通過する午前の道。だーれもいなければ、なーんにも出てこない。


 バイラと話しながら進んでいたドルドレンだったが、朝の早起き(※夜明け前)と戦闘の疲れで、少しずつ眠くなる。バイラも眠たげな欠伸をして『少し眠い』と笑う。


 真っ直ぐな一本道は、ゆっくり先が曲がり、馬車はゴトゴト晴れた道を進んでいるが、そのまま眠ってしまいそうで、ドルドレンは御者台に立ち上がった。


「ああ。寝そうだ」


「ハハハ。私もです。今日は、風も丁度良いし、晴れているのに少し涼しいから」


 うーんと伸びをする総長に笑って、バイラも首を回し、両腕を空に向けて伸ばす。


「後ろも寝ているぞ」


 皆大人しいな、とドルドレンが笑いながら振り向く。

 寝台馬車の御者台は、荷馬車に隠れて見えないが、ミレイオの声がずっと聞こえるので、フォラヴかザッカリアが一緒に御者台にいると分かる。誰かと話していないと眠るな、と苦笑い。


「イーアンは、大丈夫でしょうか」


「うん、()()()()()に龍気の回復は、少しずつなのだ。時間が掛かる。

 馬車の中にグィードが出てくるとは思えないし、きっとトワォだ。タンクラッドもオーリンもいるから、何かあれば教えてくれる」


 ドルドレンがそういった矢先、馬車の後ろが開いて、誰か出てきた。見ればタンクラッド。タンクラッドは進む馬車の横を歩いて、御者台に乗り込む。


「どうだった。イーアンは」


「寝てる」


「え。オーリンは」


「あいつも寝ている。オーリンは夜遅くまで起きていたとか・・・まぁ。理由はさておき」


 苦笑いする親方に、ドルドレンも(むせ)て笑う(※予想つく)。

 オーリンは荷台に転がっていて、イーアンは転がしておくわけにいかないから、『二階のベッドに寝かせておいた』そうだった。


 ドルドレン。ちょっと気になる(※親方が抱きかかえて?って)。その灰色の目に、親方は『他にどうしようもないだろう』と切り捨て、フフンと笑った。


「お前は()()気にするのか」


「それほどでもない。でも(※親方は横恋慕&天然二股の印象)」


「オーリンと一緒に、転がしておいた方が正解か」


「ダメ」


 だろ?と笑う親方は『龍気はトワォが来て、癒してくれた』と続け、オーリンもいたから、思ったよりは龍気も戻ったんじゃないかと話した。


「荷台にいたら、俺もつられて寝そうだ。お前と外にいる方が良い」


「そうか。ミレイオと話しているのは?フォラヴ?皆が眠いだろうに」


「ん。ん?ミレイオ?一人だぞ。あいつは御者台で、本を読んでいる」


 親方の答えに、ドルドレンは『彼が話している声がした』と言うと、親方は鳶色の瞳を総長に向けて『()()()()()()()()()()()』と、もう一度言った。


 二人は目を見つめ合う。お互いの思っていることが一致し、ゆっくりと荷台を振り返る。



『またか』親方の一言で、ドルドレンは額に手を置いて、眉を寄せた。前を進むバイラも、二人の動きに振り向き、目を見開いた。


「総長。馬車が」

お読み頂き有難うございます!

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