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魔物資源活用機構  作者: Ichen
精霊たちの在り方
1166/2958

1166. 旅の七十一日目 ~ザッカリアの直談判

 

 雨の中で遭遇した未知の物体(?)鎧のウシを、馬車の後尾に付けることになった馬車の一行。


 明らかに危険な旅の様子で、いつ誰に攻撃されるとも分からない、嫌な心配が消えないドルドレンは、ミレイオを御者台に呼んで相談した。



「え?私が。嫌よ、あいつ嫌いだもの」


「でも、この馬車でさえ目立つのだ。そこに馬車とほぼ変わらないウシが付いているとは。

 ホーミットは、サブパメントゥだから、きっと気にならないと思うのだ。どういうわけか、シャンガマックも丸め込ま・・・いや、気にしていない様子だし」


「だからって、私が言いに行くの、嫌よ~ そら、イーアンじゃ、喧嘩になるだろうけど。あんたが言いに行きなさい(※押し付け)。ほら、手綱貸して!」


「だって!ダメ、ダメだ。手綱を返してくれ(※ドル必死)。

 俺じゃ、というかな。俺もタンクラッドも、むろん部下たちもバイラも、サブパメントゥの事は知らないから『知らないことにケチ付けている』と思われる。

 知っている人が(=ミレイオ)物申した方が、多分聞き入れ」


「聞かない。ぜーったいあの男が、()()()()なんか聞くわけない。在り得ないから。うん、私は今。何も聞かなかった。何にも聞いていない」


 ぶんぶん、首を振って、目を閉じたまま、現実逃避に入るミレイオ。ちらっとドルドレンを見て、呟く。


「嫌よ、イヤ。私だって、イーアンと同じくらい、ホーミットは嫌なんだから・・・ん?あら。はーい、何~?」


 後ろでイーアンがミレイオを呼んだので、ミレイオはさっさと御者台を下りて、戻ってしまった。


 残されたドルドレンは、頭を抱えて悩む。バイラは横で、一部始終を聞いていたが、悩む総長に同情。

 何とかなりますよ、と何の案もない状態で励ますしか出来ないが、励まされるドルドレンも『何とかなってくれ』と願うだけだった。



 荷台に戻ったミレイオは、イーアンに『やんなっちゃう』苦笑いで、今ドルドレンと話していたことを伝える。

 濡れた服をぱっぱと払って、呼び戻してくれて良かったと笑うと。イーアンはちょっと真顔。


「ミレイオは。()()()はどんな感じなのでしょうか」


「何よ、いきなり。あんたまで、まさか」


 ええ?嫌そうな顔のミレイオに、イーアンは話を聞いてくれと頼み、渋々頷くミレイオは、続きを促す。

 聞けば『ヒョルドに会った時』イーアンは、彼の姿を見た人間が、誰も気が付かなかったことを話した(※569話前半参照)。


「それと同じことを。私にしろっての」


「いいえ。前にミレイオは『操る力にはいろいろある』と話していました。だから、聞いてから」


「うーん・・・私は無理。そういう系統じゃないのよ。ホーミットは出来るかしらねぇ?どうだろう。あいつも、そんな感じじゃない気がするんだけど」


 馬車の壁に寄りかかり、思い出そうとして目を瞑るミレイオは、暫く考えて『ないかも』と教える。


「私も、あの男の力って、見ている範囲しか知らないの。付き合いなかったし(※ホント)。私もあいつも、壊す方向の操るなのよね。ヒョルドはそうじゃなくて、幻覚みたいな操り方をするでしょ?

 コルステインも・・・頭の中に入り込んじゃえばね、幻覚紛いのことも出来るらしいけど、力の種類が少しずつ違うからねぇ」


 そうなのね、と頷く女龍。サブパメントゥも広いのだ。龍の力の範囲に種別があるように、どこも同じなんだなと思う。


「で、何?もし見た目が誤魔化せれば、って話?」


「そのつもりでした。ホーミットのあの性格では、何も気にしないでしょうし、あれでも『譲歩してやってる』ような言い方でしたから、多分、本当に『迷惑(※はっきり)』なんて、考えもしないと思うのです」


「あんたも言い方がキツイわねぇ。相手が相手だから」


「これでも遠回しに言っています。シャンガマック付きじゃなかったら、とっとと追い出します」


 笑うミレイオに、イーアンは目が据わったまま『あれじゃー、目立つ以前に()()』とぼやく。


「そうね。ここはまだ、誰もいないから救いだけど。ちょっとでも人目に付くようなことがあったら、悲鳴が上がるわ。どうにかしたいところ、っちゃ、そうなんだけどね」


「それにです。『雨が上がるまで』とホーミットは言ったのです。雨が上がったら、またシャンガマックと、どこかに行くつもりなのでしょう。シャンガマック、返しゃしません」


「うー・・・ん。それ、諦めるところよ。あの子、何がどうなったのか。ホーミットと相性良いんだもの。あの子もあいつと一緒が良さそうだし。うえっ、気持ちワルっ」


 ぶるっと肩を震わせるミレイオに笑ったイーアンは、『相性って分からない』と頷いた(※私も絶対ムリと思う)。



 しとしと降る雨越しに。

 イーアンたちの馬車の後ろを進む、寝台馬車の荷台では、向かい合う形で付いてくる恐ろしいウシを、フォラヴがちらちら、落ち着かなさそうに見ていた。


 背中に乗っていたシャンガマックは、説明後にはすぐに消えてしまい、どうもあのウシの中にいるような具合で、そうなると、単に巨大なウシが馬車の後を歩いているだけの状態。


「ですけれども。()()()()()()()なんて、初めて見ます。私だけではありませんよね・・・・・(※そう思う)」


 話しかけた相手のザッカリアも、心配そうに後ろのウシを見つめる。


「もうちょっと小さいならね。後はさ、あの鎧。カッコイイけど、怖いよ」


「はい。問題は、地元の方がこれを見たら、と思うと。私たちが誤解される可能性が」


 ザッカリアは、ウシを見つめながら。そして、怖いホーミットを考えながら。

 でも。ギアッチの教えを思い出す。


 ギアッチは、『どうして同じことをした、ビルガメスは怖くなかったのか』と、ある晩、ザッカリアに()()()()を指摘した(※1068話最後参照)。

 差別は、怖れる気持ちから生まれている。それを自覚したのは、その日だった。

 それから数日後に空へ行って、自分が誰だかを知った。そして昨日、ビルガメスとミューチェズに会った。

 自分は。恐れがあったから、差別したんだと思う。恐れは、自分を知らないから出てくる。

 だけど今はもう。自分が誰かを知った。頼るだけじゃなくて、自分もしっかり、空の一員だと知ったのだから。



「イーアンは・・・ホーミットと仲悪いから。俺が」


 ぼそりと呟いた子供の声に、妖精の騎士は振り向き『今。何か仰いましたか』と訊ねる。レモン色の大きな瞳が、意を決したようにさっと向けられ、『俺、ホーミットに話してくる』突然に宣言。


 いきなりの宣言にビックリして、フォラヴは考え直すように(※危険と判断)言ったが、ザッカリアは『俺は空の一族だ』ちゃんと向かい合えるだけの立場はある!とか言っちゃって・・・聞かない。


「ダメですよ。あなたは何を話すのです」


「これじゃ、皆が困るよって言うの(※まんま)。俺だって、対等なんだ。言える」


「対等かも知れませんが、あの方相手にそれは」


「フォラヴ。待ってて。俺が何とかするから」


 ダメです、いけません、と止めても、ザッカリアは頑固。後ろのウシに向かって『俺の話聞いて!』と単刀直入に叫んだ。

 驚いたフォラヴが、行かせまいとザッカリアを抱き締めて『危ない』と頼んだのも空しく。

 子供の声に、ハッとした親方が振り返るのも遅く。


 ウシの口が開き、影の向こうで暗い炎が揺らぐ明るさの中、碧の目が光った。


「俺に話か。いいだろう、乗れ」


 手招きした焦げ茶色の大男の奥に、シャンガマックがこちらを見た顔を目に映し、ぐっと顎を引いたザッカリアは、うん、と頷き、フォラヴの腕を解いてポンと跳ね、ウシの口に飛び乗った。


「ザッカリア!」


 フォラヴが叫んだのと同時くらいで、ウシは口を閉じる(※食べちゃったみたいに見える)。

 親方が馬車を止めて走ってきて『何だ、ザッカリアは』と、ウシとフォラヴを交互に見たが、妖精の騎士が泣きそうな顔で事情を伝えると、親方は黙った。


「うーん。ケガするわけじゃないだろうから」


 親方は、ウシが歩みを止めたので、少し考え『進みながら待とう』とフォラヴに言うと、すんなり御者台に戻ってしまった。前で、イーアンとミレイオにもわぁわぁ言われているらしかったが、それも少しして治まる。


 フォラヴは、親方がザッカリアを信頼して任せたのだと思い、苦しい胸を掴みながら、子供の無事を祈った(※相手は一応、仲間のはず)。



 中へ入ったザッカリアは、背を屈めながら奥へ進む。気持ち悪いくらい、生々しい。眉を寄せて怖い気持ちを我慢しつつ、すぐに広がるお腹に入った。


「ザッカリア。よく来たな」


 笑って迎えてくれたシャンガマックに、ホッとして、とりあえずシャンガマックの横にへたり込む。


「何だ。着いて早々、倒れるのか」


 嫌味な笑い方をする大男に、シャンガマックは注意する。『そんな言い方しないであげてくれ。子供だから、勇敢だ』このウシの口に飛び込むんだから、と言うと、大男は黙った(※注意は聞く)。


「どうした。話を聞くから、言ってみろ」


 シャンガマックが優しく笑顔を向けると、ザッカリアは大きく息を吸って、訴えをすぐに伝えた。


「これ。このウシ。大き過ぎるよ。鎧もあるし、普通の人が見たら、俺たちが魔物みたいに見えちゃう」


「わざわざ、そんなことを言いに来たのか。どうにもならん。()()()はこういう代物だ」


「だから、何とかして、って頼みに来たんだ。何か出来るでしょ。小さく見せたりとか。

 ホーミットは前、ネズミや獅子になっていたよ。このウシも、見た目が違えば平気なんだから」


「ザッカリア。()()()はサブパメントゥじゃない。こいつ自体に、自分を動かす能力はない」


 うっ、と言葉に詰まる子供。シャンガマックとしては、ザッカリアの意見は尤もだ、と感じる部分。


 ただ、父が用意してくれた思い遣りでもあるし、雨の間だけ、どうにか自分が対処すれば済むかなと(※多分ムリ)考えていたのだが。


 レモン色の瞳が、シャンガマックに向く。切実な訴えの目に、シャンガマックも悩む。


「シャンガマック。何とかして。一緒にいるのは嬉しいんだよ。だけど」


「バニザットに言ったって、どうにもならん。ザッカリア。物分かりが悪いぞ」


「このウシじゃ、皆怖いんだよ。()()()()()()()()から、分からないんだ。だけど怖い気持ちって、大変なんだよ。ウシが悪くないのに、ウシも悪くなっちゃう」


 何となく、子供の言葉に心が少しだけ動いたヨーマイテスは、黙って子供の目を見つめる。怒っていないのに怒っているみたいな厳しい顔に、ザッカリアは段々泣きたくなってきた。


 目を潤ませて、怒っているみたいな大男に『だって』と呟く。


 横で見ているシャンガマックは、ザッカリアが可哀相になって、肩を抱き寄せると『泣くな。大丈夫だよ』と慰めた。



 別に怒っていないのに・・・なぜか自分が悪い感じになっている、この状況。ヨーマイテスは、あまり気分が良くない。


 はーっと仰々しい溜息をつき、金茶色の髪の毛をかき上げると、こっちを見た子供に、面倒臭さ丸出しの表情を向けた。


「お前の頼み。俺が聞いてやるほどのこともないんだが。

 要は、見た目の問題だろう。これでもマシなのを選んだのに、まだうるさく言われるとは」


「だって」


「ザッカリア。泣くな。涙が落ちたぞ。男なら泣くな。仕方ない。俺がお前たちの意見を聞くなんて、気分が良いもんじゃないが、バニザットのためだ」



 そう言うと、え?と顔を向けた息子とザッカリアの前で、大男は両腕を体内の壁に付け『お前の体は遥かな魂の始め』と唱えた。


 その声は何かを変えたのか。ヨーマイテスがそう言っただけで、別に何も変わらなかった。


「今のは」


「バニザット。その子供、馬車に返してやれ」


「え。ダメだよ!まだ俺の話、聞いてもらってな」


「良いから戻れ!お前の用事は終わった」


 イライラした大男が強い口調で遮ると、我慢していた涙がわっと溢れ、ザッカリアは震えて泣き出した。


 ビックリしたシャンガマックが、急いで抱き締めて『怖くない。大丈夫だ。もう、戻るんだ』と慰めるが、子供は首を振って『俺が。ちゃんと話すって、言ったんだ。だから、帰れない』泣きながら粘る。


 シャンガマックはさっと父を見て『怖がっている』と注意。むすっとするヨーマイテス。


「俺は」


「ザッカリアは子供だ。ヨーマ・・・いや、ホーミットが思うほど、心も強靭じゃない。

 頑張って言いに来たんだから、気が張り詰めている。泣いても仕方ない」


 息子にここまで注意されるとは思わず、()()()()()()()()()のにと、顔を背ける大男。


「ホーミット。尻尾。出してくれ」


「何?」


 震えて泣いている子供を抱いて背中を撫でるシャンガマックは、尻尾を見せてやってとお願いする。子供だから、きっとそれで喜ぶと思う。

 くさくさした顔で、舌打ちした父は。尻尾をぴょんと出した(※破れかぶれ)。


「ほら。ザッカリア、見てみろ。ほら!」


「あ・・・尻尾」


 苛ついている尻尾はバタバタ床を打つが、ザッカリアは大男の腰辺りから出た、長い獅子の尻尾に釘付けで、涙の目が見開く。


「凄い。尻尾が出せるんだ」


 子供の声がちょっと嬉しそうに変わったので、シャンガマックは父を見て、うん、と頷く。ヨーマイテスはもう、やけっぱち。息子に願われた以上、うんざりしながら、耳も手足も変えてやる。


 思った通り。子供は大喜びして、自分からヨーマイテスに近づき、良いとも言われていないのに、機嫌悪そうな尻尾を触って喜ぶ。


「凄いね!カワイイや」


「カワイイ?カワイイだと?」


「全部が獅子だと格好良いけど、ちょっとだけ獅子のところがあると、そこはカワイイと思うよ」


 顔がお怒りのヨーマイテスに、シャンガマックは笑うのを堪えて、凄いな、とザッカリアに言い直す。子供も笑顔で『凄い。ホーミット、こんなことも出来るんだね!』もう、涙も消えて喜ぶだけ。


「触っても良い?耳とか、手とか」


「触るな。尻尾があるだろ」


「でも、耳がとってもフカフカしてるから。触りたいよ。ちょっとだけ」


 唸るヨーマイテスに、許可はなくても腕を伸ばして、ザッカリアは耳に触る。『わぁ!フサフサ!暖かいね!』カワイイ、とまた言うので、ヨーマイテスが睨む。


「褒めてるんだ。子供だから、そういう表現になってしまう」


 すぐにシャンガマックが付け加えると、ちょっと怯えたようなザッカリアも頷いて『褒めてるんだよ』と、怖い顔の大男に言う。


 この後。我慢するヨーマイテスに、すっかり『カワイイ』と思ったザッカリアは、笑顔で腕や足も触り、獅子の腕にぎゅっと抱きつくと『暖かいし、強そうだし。良いな!』と嬉しそうに目を閉じた。


 その様子にシャンガマックは、どうかな?と父をちょっと見ると、父は不機嫌そうでも、嫌がってはいなさそうだった(※子供懐いた)。


「時々。俺、ホーミットにこうしても良い?」


 子供は獅子の腕を抱き締めて、見上げる。見下ろす碧の目が、何か断ろうとしているのに気が付き、『時々だよ。ちょっとで良いんだ。耳・・・触りたい』頼みながら、片腕を伸ばしてフサフサの耳もナデナデ。


「たまに。だ。たまーに」


「有難う。ホーミットは優しいね」


 思いがけず気に入られて、大男は何も言わなくなった(※嬉)。それはシャンガマックが見ていても分かるので、良かった良かった、と胸をなで下ろす。



 この後。


 外を見てみろと、命じられ、ザッカリアとシャンガマックが外へ出ると、馬車の荷台にいるフォラヴが『素晴らしい頑張り』と微笑んだ。


 理由は、鎧のウシが()()()姿()で馬車の後を歩いているからだった。

お読み頂き有難うございます。


本日は、仕事の都合で夕方の投稿がありません。この朝の1回の投稿です。

どうぞよろしくお願い致します。いつもいらして下さいます皆様に、心より感謝して!


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