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魔物資源活用機構  作者: Ichen
精霊たちの在り方
1164/2959

1164. 精霊の話・ミューチェズお披露目・男龍の助言

 

 旅の馬車は、遅い昼食後、出来るだけ進もうと街道を急ぎ、夕方中頃には嫌な領地を抜け切り、先に水平線が見える場所まで着いた。街道から少し外れ、民家も何もない緩やかな下り、草の短い野原へ入る。


 水平線は夕焼けの明かりに光り、橙色と金色の糸を揺らしているように見えた。赤い空は穏やかに薄れ、白から夜の青へ変わる。



「この辺りにしましょう。草も多いし、う・・・ん?もしや。あ、良かった」


 バイラが短い草の中を進み、10mほど先で振り返る。『総長、川がありますね』小川だけど、手を洗うくらいには問題なく綺麗そうですよと、教える。


 馬車は小川の近く、木の下へ停まり、皆は夕食の準備。

 それぞれ、自由時間で男子の半分はお手洗い時間。川もあるので、少し手や腕を洗ったり、顔を洗うなどして、気持ちもようやくホッとする。


 イーアンはミレイオに『後で、うちでお風呂』と言われているので、その時間までおトイレ我慢(※ってほどでもないけど)。


「龍気は大丈夫?」


 貴族の家で、龍の姿になり、大地に溝を走らせことで、龍気を使った・・・と話していた女龍に、ミレイオは気になっていたことを訊ねる。イーアンはミレイオを見て『そこまで疲れなかったのです』と答える。


 食事を作りながら、『最近、温存していました』だからかもと笑うイーアンに、ミレイオは微笑む。


「無理はダメよ。ちょっと減ったなと思ったら、空に行っておいで。行けば、捉まるんだろうけどさ」


 ハハハと笑ったミレイオに、イーアンも笑って頷く。『数日開いていると、何かありそう』と言って、宵の空を見上げた。


「オーリンも()ですね。どうしているやら。バーハラーも気になるし、ミューチェズも気になるし。タムズの子供たちも」


「行ってきたら?」


 笑顔のまま、空を見つめて話す女龍に、ミレイオは促した。イーアンは首を振って『やるべきことが済んだら』とニコッと笑い、お鍋まぜまぜ、火加減を見る。

 そんなイーアンの横顔に、微笑みを絶やさないミレイオは、小さな溜息をついて『会いたい人がいるって大切なのよ』と、お母さんみたいなことを呟いていた(※姉から母へ移行)。



 夕食が出来るまで。空の話を切り上げたイーアンは、ミレイオと、ワバンジャの話をした。


 この二人は、親方やバイラ、ドルドレンから『貴族の仕打ち』を聞いただけなので、実際に食らっていない分(※苦痛の時間)まだ、落ち着いていた。


 ワバンジャたちが虐げられたことを聞いた時は、(はらわた)煮え繰りかえる勢いだったが、イーアンが龍になって取った行動で、少なくとも『解決』に近い状況を作れたことから、辛い話に留まることは控えた。

 辛いのは、聞いている側ではなく、当人たちなのだからと。


 なので、そこではなく。ワバンジャが最後にしてくれた話を、二人で考えていた。

 昨晩もやはり夕食の時に、皆が誰からともなく、ワバンジャの話を出したことで、夕食が終わるまでは続いた内容なのだが。


「どんなに話しても。全部、想像よね」


「はい。あの方は・・・一体、人間だったのか」


「今日もでしょ?会った時は、普通に」


「普通です・・・ね。()()と言えば、まぁそうなのですが。

 でも彼は、龍の私の言葉を理解しました。あれは、普通じゃないような気が」


 イーアンの首を傾げて呟いた言葉に、ミレイオも少し驚いて『あんた、龍の時って。ゴゴゴしか言わないじゃないの』と、聞いた途端にイーアンが悲しそうな顔をするような一言を投げた(※事実だけど)。



 こんな話をしていると、皆が集まってきたので、夕食にする。


 話題は所々で、『貴族は嫌だ』『使用人も変』『領地』『龍の力』『溝が出来た』・・・一日を振り返る語句が出て、至る所は『ワバンジャ』へ。


「どうやっても、彼の話になるな」


 親方が食べながら、少し笑う。皆もこの話に続く理由が、共通なので笑ったが、誰も答えは出せないまま。


「昨日な。コルステインに、ワバンジャのことを話したんだ」


 料理のお代わりをミレイオにもらって、親方が座り直しながら、自分の聞いた話をしようと少し考える。焚火のはぜる音の中、皆が親方の話を待つ。


 タンクラッドは順序を決めたようで、皆の顔をさっと見渡し『コルステインは、精霊なら分かるんだ』と教える。


「ワバンジャの事は勿論、知らない。だが、精霊の・・・何て言うかな。()()()()については知っていた。

 大きな精霊は、何でも出来るような話だった。多分、それが、俺たちの知っている精霊なんだ。俺たちが『精霊はこういうもの』と認識している姿。

 だけど、実際はそうした精霊は少なく、もっといろんな役目を持って、世界中に散らばっているとか」


「分かります。私も妖精の力を使えますが、範囲があります。それと同じ」


 空色の瞳を向ける騎士に、親方は頷く。『俺も、お前の話を思い出した』そう言ってニコッと笑う。


「しかし、『範囲がある』と自ら言う、お前と一緒にいるだけでも、どれくらい驚かされているか。

 ・・・・・ワバンジャの言っていた『魂が閉じ込めた魔物』の話。ワバンジャ自身が、精霊の力を使えても『祈祷師であって・戦士ではない』こと。

 これは、お前と一緒に助けた、あの()()()()()(※1143話参照)に似ているよな」


 親方にそう言われて、フォラヴは思い出す、ついこの前の出来事。あの妖精の持つ力は、自分と近いものがあったが、それでも魔物を封じるのみだった。


 それを皆に伝えると、総長が違う方向の質問。『お前も封じ込めることが出来る、という意味』そう?と訊ねられて、フォラヴは柳眉を寄せる。


「言い切れません。私は騎士修道会で、()()ことを覚えました。能力をどう使うか、その矛先が、私の助けた妖精とは違うような」


「そうか。お前は騎士だからな。封じ込めるよりも『とりあえず倒さないといけない』感覚」


 はい、と返事をするフォラヴ。『封じ込めるとなれば、自分もどうなるか』想像もつかないと話す。


 この流れで、バイラはしみじみ・・・自分がこの席にいることに感謝する。テイワグナ国民として(※これ大事)貴重な話を聞いている。


「私たち、テイワグナ人が信じ切っている精霊とも、妖精とも、違うのかな。

 タンクラッドさんが、コルステインに教えてもらったような力の差異を、どこかで理解していそうなんですが、印象はいつも漠然としたもののような」


 知識で信じていることと、現実は少し違う、というバイラ。その言葉にミレイオは『そりゃ、()()()()()()()人の方が少ないもの』仕方ないわよ、と笑う。



「でもさ。ちょっと違う話なんだけど。今日のあの、貴族の家の使用人。

 あの人たちもテイワグナの地元の人でしょ?何で、ワバンジャの部族を攻撃するのに、平気でいられたのかしら。ワバンジャの話していることは、全部が『精霊』よ?」


 ふと、思ったことをミレイオがバイラに訊ねる。バイラに皆の視線が集中。苦笑いするバイラは、食べ終えた食器を戻して、『んー・・・』と唸る。


「私は。いや、私だけじゃないと思いますが。()()()()()()()と思うので、あくまで推測ですよ。

 前も、ナイーアの事で同じような話を出したことがあります(※969、987話参照)。それと()()んですよね」


 こうした僻地では、差別は未だに続いているし、精霊を信仰していても、貴族が相手だと、()()()()()()()()()を判断しかねない、とバイラは話した。


「うーむ。そうかも知れん。イーアンが龍で現れてくれた、あの一瞬で。使用人は謝ったのだ。

 自分たちに、何か咎めるものがあったのやも知れないな。龍と雇用主じゃ、どう考えたって『龍』に従う」


 ドルドレンがその時の様子を思い出しながら、バイラに言う。


「はい。所詮、人間ですからね(ざっくり)。給料を左右されるような雇用主には、(へつら)うと思うんです。

 精霊信仰の部族を攻撃したり、痛めつけることに関して、彼らが(おこな)ったわけじゃないでしょうが、罰せられた話を聞いても『仕方ない』と、すり替えた・・・そう、思えなくもないです」


 私は無理ですけれど、とバイラは嫌そうに首を振る。そんな警護団員に、皆も頷く(※バイラは無理だろうなって)。



「ワバンジャの。誰も入れないと言ったあの言葉。最初に聞いた時、私もそうかと思いました。

 彼の大切な人々が、辛い歴史を歩んだのかと。そうした話は、私のいた以前の世界でも、山のようにありました」


 イーアンはそう言って、始まったばかりの明るい夜空を見上げる。


「私は・・・ワバンジャの態度を思い出して。彼が『出て行くように』しか仕向けない、大きな優しさが、切なくて仕方ありませんでした。

 酷い目に遭わされていたというのに、ワバンジャは、攻撃に対して攻撃を選ばないのです。今も。

 だから、これは()の力を使う場面なんだ、と。ドルドレンに聞かされた時点で、私が聞いた以上、()()()()()使うべきだ、と感じたのです」


 薄っすらと仄白く角を光らせている女龍の気持ちに、仲間は同じことを思う。


「お前で。良かったな、と俺は思う。これがビルガメスやタムズなら。ニヌルタたちなら」


 親方はイーアンの向かいに座っていて、イーアンに微笑んだ。『お前だから。優しい。ワバンジャと同じで、()()()攻撃しない』な、と笑みを深めた親方に、イーアンも微笑む。


「私も思いました。ビルガメスなら、あっさり。あの貴族の家も、使用人も、全員消したでしょう」


 と。イーアンが言い切ったところで。真っ白な光が夜空に弾け、暗くなりかけた空を覆う。



「えっ!これは。イーアン?」


「いえ、違います!でも」


 急いで目を閉じる一行の中、イーアンは目を薄めに開けて空を見る。


 龍気プンプン。『男龍です』誰かしら~・・・イーアンは立ち上がり、目を押さえている皆さんに『眩しい』と訴えられるので、翼を出して飛ぶ。


「ちょっと。眩しいので、明度を下げて下さい」


 飛んだすぐに、大きめの声でそう言うと、光はふわーっと静まり、出てきたのは重鎮。御大層な翼付きだった。


「あら。ビルガメス。お久しぶり」


「何が、お久しぶりだ。全然、来ない」


「終わるまで、って言いました。あ。あ・・・!あ~っ!!!」


 ビルガメスに口答え中、どんどん引っ込む明るさの中で、片腕に見えたのが『ミューチェズ!!』イーアンは叫んで大喜び。パタパタ飛んで、笑っている小さな男龍に腕を伸ばす。


「お前がちっとも来ないから。ミューチェズが寂しがった。一緒に来るには心配だったから、今ほら」


 後ろを示されたイーアンは、おや、と思う。万全体制なのか、アオファとミンティン付きだった(※こんな要らないはず)。


 それはともかく、ミューチェズを抱っこして頬ずりするイーアン。『あー、かわいい!はー、かわいい!ここで会えますとは』嬉しいですねぇ!と満面の笑みの女龍に、ビルガメスは満足。


 イーアンを片腕に乗せて、自分たちを見上げている、馬車の仲間の側へ降りる。


「元気か。上手く行っているのか」


「ビルガメス~」


 ここにも嬉しい人(※ドル)。両腕を伸ばして駆け寄り、降りてきた美しい男龍の足に抱きつく。笑うビルガメスに撫でられて幸せで一杯。


「すご~く久しぶりなのだ。会いたかった。俺が空に行けないから」


「そうだな。呼んでも、勇者が不在じゃな」


 ハハハと笑ったビルガメスは、イーアンの腕に抱えられた男龍を紹介。既にミレイオとザッカリアは、笑顔爆発。タンクラッドも笑みを湛えて近寄り、バイラとフォラヴも側に来る。


「俺の子供だ。ミューチェズという」


「カ~ワイイ~~~!!」


 ミレイオ、涙が出そう。何て綺麗な子なの!と腕を伸ばし『抱っこしても良い?』とビルガメスに聞く。


「お前が平気なら。ミューチェズは大丈夫だと思うが(※強いから、ってさり気なく自慢)」


 ビルガメスに似た小さな男龍は、明るい金色の瞳のミレイオをじっと見つめてニコッと笑う。


「うわぁ。私、今日死んでも良いかも」


 笑顔が崩壊するミレイオは、そっとミューチェズを抱っこして、間近に見つめる。『信じられないくらい、超カワイイんだけど』心臓がバクバクするわよと、さっきから危なっかしいことを言う中年に、タンクラッドは笑う。

 横からそっと、ミューチェズの小さなおでこを撫でて、自分を見た金色の瞳に微笑むと、ミューチェズもニコッと笑う。白い髪が美しくて、ナデナデしながら親方も感嘆の吐息。


「本当に可愛いな。こんなに可愛いと、すぐにビルガメスみたいになるとは思えん」


「それはどういった意味だ」


 ビルガメスに訊かれ、タンクラッドが笑って『こんなに小さいし、赤ん坊みたいなのに』そこまで大きくなるのかと、付け足すと、大きな男龍は当然のように頷いた。


「そういうものだ。男龍は10年もあれば、大人になる」


「10年でイケメンか~」


 ミレイオは何でも良さそう。ザッカリアが抱っこしたがって、ミレイオは渡してあげる。ミューチェズはザッカリアを覚えていて、『ザッカリャ』と名を呼んだ。


「あ!俺の名前。言えるの?頭良いね!そうだよ、ザッカリア。また遊ぼうね」


「ザッカリャ。あそぶ。ミューチェズ、あそぶ」


 ザッカリアも可愛くてたまらない。ミューチェズをぎゅっと抱き締めて『あー、空行きたいなぁ!』と頬ずりした。

 側で見ているフォラヴとバイラも、触るに触れないものの、神々しさも兼ね添えた小さな男龍に惚れ惚れする。『実に美しい子です』『はい。俺は今日、記念日でも良い』バイラの素の呟きに、ドルドレンが笑う。


 ドルドレンも抱っこさせてもらって、ミューチェズにちゅーっとしてもらい、メロメロしていた。


「ああ、イーアンに似ているし、ビルガメスにも似ている。俺はシアワセだ」


「あんた、それ何か変よ」


 ミレイオに突っ込まれているが、ドルドレンはミューチェズの可愛さに、我が子の如く喜ぶ。

 自分の自慢の子供が、皆に愛いっぱいに受け入れられ、ビルガメスも満足。で、気が付く。


「ふむ。そろそろ戻るが。あいつはどうした。精霊の加護を受けたシャンガマック」


「あ。シャンガマックは今、ホーミットと一緒なのだ。精霊・・・そうだ、ビルガメスなら知っているか」


 部下はさておき(※いいのか)。ドルドレンは、『もう帰る』という男龍に、ワバンジャの事を急いで話す。ビルガメスは聞きながら、何か思い当たるのか、少し首を傾げた。


「それは。お前たちにとって何かあるのか?」


「人なのに、人ではないような動き。精霊の加護を受けたシャンガマックとも違うような」


「ドルドレン。お前たちはこの後、恐らくその答えを見つける。この道を進むのか」


 ビルガメスは振り向いて、馬車の馬のいる方を見る。続く道は海に向かうので、ドルドレンはそうだと答えた。


「お前たちは、連動に対処するつもりだな。では、その手前で再び、精霊と関わるだろう。

 その精霊は、ドルドレンが今、俺に訊ねた男と似通う。しかし精霊だ。人間ではない。その者に聞くと良い」


 一行は、大きな男龍の言葉に唖然とする。いきなり、未来を予告されたようで、ぼんやりしていると、大きな美しい男龍は、子供をドルドレンから抱き上げて微笑んだ。


「それじゃあな。また会おう。イーアン、ちょっとは来い。分かったな」


「え」


 イーアンがびっくりして見上げると、男龍はもう発光し(※あっさり)子供と龍を伴って、白い星となって帰ってしまった。



 唐突に残された皆は、少しの間ポカンとしていたが。


 すぐに親方は『コルステイン!』と思い出して、そそくさ馬車に戻り(※コルステインは男龍がいる間、地下で待っていた)、続いてミレイオとイーアンも地下に向かう(※洗濯&風呂)。


 ドルドレンたちは、ビルガメスの不思議な助言のことを話しながら、片づけをした。


 ワバンジャの話はここまでで、次の『精霊』のことで、皆の頭は新たな好奇心に満ちた。

お読み頂き有難うございます。

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