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魔物資源活用機構  作者: Ichen
精霊たちの在り方
1160/2958

1160. 旅の七十日目 ~朝の連絡・ニカファン領地

 

「おお。おはよう。うん?・・・あ」


 ドルドレンは目を擦りながら、うっかり話しかけたことに気が付いて、欠伸を押さえつつ、やり直し。

 ベッドに寝転がったまま、手に持った連絡珠を額に付け(※付けなくても良い)改めて挨拶。



『おはよう。シャンガマック。今日は早いな』


『おはようございます。俺も普段、こんなに早く起きません。もっといつも遅くて』


 何だか、響く声が幸せそうな部下。ドルドレンはちょっと笑って『どうしている?』と訊ねた。


『はい。今、俺はヨーマ・・・間違えた。ホーミットと魔法の練習をして』


 今の何?と訊き返したが、部下はあっさり『何でもない』で断ち切った。


『魔法の練習、かなり練習時間が必要です。この場所がうってつけなので、もし大丈夫なら』


『ああ~・・・もうちょっと頑張るつもりか』


 はい、と答えたシャンガマックに、ドルドレンは少し考える。まぁ、呼んで()()()()なら良いかなと思い、『お前を呼ぶ時、どうすれば良いのだ』呼び方知らないよと伝えてみたら。


『タンクラッドさんが、コルステインを呼ぶみたいにしてくれたら。

 ()()()()()ですよ。俺の名前を心に連呼しても、俺は全く気が付きませんから』


『うむ。お前は最近。何か吹っ切れたような気がする。お父さんの影響か』


『それはまぁ、親子ですから(※最近親子)。でも俺は変わらないです。

 父の名を連呼して下さい。あ、そうだ。ミレイオに呼んでもらって・・・え?あ、ダメ?そうか』


 何やら誰かと(※一人しかいない)会話した様子。ドルドレンは、もうこの連絡も終わるのはすぐだな、と思った(※お父さんは長電話キライ)。


『ええっと。あのう、ミレイオには言わないで下さい。呼ぶなら総長・・・ん?ああ。そうだね。

 あと、イーアンも違うみたいで・・・ちょっと、ちょっとヨー、いや、ホーミット。()()なんて言わないでくれ。仲間なのに』


 どうもお父さんに、正確さに欠ける表現だとでも指摘されている様子に、ドルドレンは眉を寄せる(※愛妻VS獅子=犬猿の仲)。そして謎の言葉『ヨー』が気になる。


 とりあえず分かったからと伝えて、ちゃんと食事を摂っているか、衛生管理はどうかを訊ねると。


『もういいだろう。ドルドレン。息子がお前に俺を呼ぶ方法を教えた。適当なことで呼ぶなよ。

 バニザットの食事は問題ない。いつも鳥を食べさせている(※お父さん的には100%対応)。衛生は、体を拭くんだろ。()()()()の時、水のある場所で拭かせている。じゃあな』


 頭に、低く重い声が響き、一方的に通信は切られた(※いつも)。


 ベッドに引っ掛けた腰袋に珠を戻して、小さな欠伸をした後。


 奥さんが外で作る朝食の、漂う料理の香りを楽しみながら・・・ドルドレンとしては、お父さん曰く『俺が一緒(←そこ)』の、体を拭く現場を想像して、うーんうーん、朝から悩ましかった(※自分もタムズと、と願う)。



 起きちゃったので、ドルドレンは着替えて焚火の側へ行く。ミレイオとイーアンに挨拶し、シャンガマックから連絡があったことを話した(※この人たちに真っ先に伝える)。


 話した内容は、魔法の練習で暫くお留守であることと、彼はちゃんと食生活が守られている、そのことだけだったが――


「え。毎食、鳥」


「ちょっと、大丈夫なの?あいつ(←実父)人間が何食べるかなんか、分かってないわよ。野菜は?穀物とかせめて、ないの?お金持ってないの?」


「う。いや、そこまでは知らないが。いつも鳥を与えているとは」


「やめてよ~!動物じゃないんだからっ シャンガマックも、よく文句言わないで耐えてるわねぇ!」


 栄養偏るじゃないのよと、朝から喚くミレイオに、イーアンも垂れ目を垂れさせ『それが毎食では、()()()()()よ』と問題視。


 ドルドレンは気にならなかったけれど(※遠征で一人だと肉ばっか)二人は栄養状態を気にして、ああだこうだと、お父さんの武骨さに不満を口にしていた。



 朝食になっても、二人はぶちぶち言い続けていたが、ドルドレンは黙って奥さんの横で食べた(※自分には振ってこないから)。

 そして総長の静かな朝食に、皆も同じように倣い、男たちは無言で朝食を終えた(※下手に会話に入ると面倒だから)。


 出発する際、ドルドレンはさりげなく、文句たらたらの女子(※ミレイオ含む)に聞こえないよう、部下と親方とバイラに、シャンガマックからの朝の連絡を伝える。4人は総長に何も言わず、すんなり報告完了(※楽)。

 馬車は、今日も元気に出発した(※ドルドレンは奥さんに、御者台でも文句を聞かされる)。



 延々と『鳥食』についての講義を受ける、ドルドレンは思う――


 俺の奥さんは、自分が偏食でも多分、気にしないのだ。人に作る時や、他人の食生活を預かっていると、細々(こまごま)気にするだけで。


 だって、イーアンは言っていたことがある。『一週間、同じ食事でも死にはしない』と(※『そんな簡単に死にゃしませんよ』って)。若い頃、大荒れだった奥さんは、恐らく口に入るものなら何でも、生き延びるために食べたのだ(※壮絶なイメージ)。


 食事処のゴミ箱漁ったこともあるとか、半月間ブレズ(※パン)だったとか、消毒用の酒だけはヤバかったとか(※ドルに意味はよく分からないけど、思うに危険)話してくれたことがある。


 でもそれは、イーアンは『自分だったら耐える』というだけで(※耐え方半端ない)他人がそうであってはいけない・・・感じなのだろう。

 シャンガマックの健康を思えば、確かにまぁ。遠征でもこんなのあるよと思うが、奥さんとミレイオは許しがたい責任感の元に、こうして文句を垂れて――



「うーん。鳥だけじゃなくて。せめて()でもあれば」


 イーアンのぐるぐるする朝食案に、どうも卵が登場したようで(※卵+肉=タンパク質増えただけ)腕組みしながら、うんうん、料理の仕方を悩んでいた。


 この後、バイラの馬が来て『ニカファンの貴族の領地に入った』と伝えられた。


 風景が変わったなとは思っていたが。街道沿いとはいえ、家も何もない場所に、人工的に植えられた木々の列がある程度。とはいえ、これが()()()()()であるようにも感じる。


「館はもっと見えない所にあるでしょうし、警護団施設の入った領地はまだ先です。

 ただ、この辺から既に、ハウチオンの領地なので、少し気を付けます。ここで誰とすれ違うこともないでしょうが」


 バイラの話で、街道もひっくるめて領地らしいため、変な動きをすると貴族の範疇に入るようだった。とりあえず、ドルドレンとイーアンは了解したが、貴族に今や、大した面倒も感じないので気持ちは楽だった。


()()()()と面倒臭いですね。でも」


「そう。()()()()()が干渉だから、面倒である。だけど」


 二人は顔を見合わせ、多分、自分たちがどう動いても、特に咎められはしないことを思う。


 ホーション家は『ミレイオ』の名前が出れば、問題ない。ミレイオは嫌がるだろうけれど『それは、()()()()()()()()()と同じ』こればかりは仕方ないこと、と二人は済まなそうに笑う。


 そんな話をしながら馬車を進めていると。背の高い木が並ぶ道の左側で、動くものが視界に入る。木々や岩くらいしかない広い場所で、遠くで誰かが動くと『何か』とは思う。


 それが人なのかどうかは分からないが、ひたすら広い場所だから、人間が単体で歩き回るわけもない。イーアンは遠目が利かないので、ドルドレンに示された方向の気配を感じる。


「普通の人間のようです。悪くもなく、良くもなく」


「良くないのは困るのだ」


「言ってみれば、そう。というだけです。無害と言いましょうか。む。それも違うか」


 何それ~と伴侶に言われ、イーアンも眉を寄せて見えない方向をじっと見つめつつ『だって、言い方難しいのですもの』と困る。


「まぁ。普通の人でしょう。有害無害はこちらの判断」


「むぅ。イーアンは場慣れしている」


 違いますよ、と笑うイーアンに、バイラが振り向く。二人の会話を面白いなと思って聞いていたバイラだが、バイラは正解を知ったので教えてあげる。


「領地の使用人でしょう。馬に乗っていますから」


 砂埃が立っていることと、影が2つ見えること。太陽の反射が少ないこと。地図で見た領地の屋敷方面であることから、そうじゃないかと言うバイラ。ドルドレンは感心して、説明を求める。


「ええ。私たちを誰かが見つけたのでは。砂埃が立つので、急いで確認に向かっているように見えます。普通の人でしたら、一人じゃ危ないし、それで二人体制なんでしょう。

 使用人と見当をつけたのは、この道が大きく左へ曲がっていますね。左側に館がありますから『そちらから来た』と思うのが自然です。

 防具があれば、この太陽で光らないわけありません。となれば、体を防具に包む習慣のない人です。まず、護衛じゃないですね」


 へぇ~・・・感心しっ放しのドルドレン。イーアンもふむふむ頷いて『頼りになります』と褒める。


「でも。誰かが通ると分かるたびに、あんなふうに来るだろうか。ここは田舎だけど街道なのだ」


()()、によるんですよ。きっと、確認しておかないといけない()()でもあったのだと思います」


「それは魔物ではなく?相手は一応人間で」


「魔物ではないのでしょうね。確認に近づこうとする一般人はいないかも。でも人間だとしても、厄介な相手という意味はあります」


「ふむ。バイラ。まだ他の選択肢はないだろうか。待ち人かも知れない」


 ドルドレンはバイラの話を聞きながら、ふと、思ったことを口にした。バイラが『え』と訊き返す。ドルドレンの勘。ちらっと黒馬の騎手を見て『その可能性も』と伝えた。



 前方に見えていた影は少しずつ大きくなり、徐々にこちらへ進路を向けているのが分かるくらいにまで近づく。荷馬車の御者台にいるイーアンは『自分は後ろへ回った方が』と伴侶に言い、頷いたドルドレンにバイラが声をかける。


「私の馬に。馬車を止めないで移って下さい。そのまま荷台へ移動しましょう」


 ドルドレン、ちょっと『ええ?』って感じだったが、バイラは普通に腕を伸ばし、ゆっくり移動する馬車からイーアンの腕を掴んで、もう片腕で腰をひょっと持ち上げると、自分の前に乗せた。


「バイラは力持ちです。あっさり移動です」


「それを言ったら、イーアンは私を抱えて、空を飛びましたよ」


 ハハハと笑う二人は、じーっと見ている黒髪の騎士を気にせず、そのまま馬を下げて、荷台へ・・・(※ドル少々微妙で複雑)。


 うちの奥さんは気にしないのだ、と思いつつ、目の据わるドルドレンは、向かってくる2頭の馬に乗った人たちを待つ。


 馬はどんどん距離を縮め、砂埃が静まることなく、とうとう旅の馬車と向かい合う位置まで来た。


 なるほど。バイラはさすが、と思う観察眼。彼らは防具どころか私服だし、腰に剣は下げているけれど、自分の剣ではない雰囲気。中年の男性と若い男性の二人組で、どちらも戦う風には見えなかった。


 程よく日焼けした顔と、少し素朴なシャツや色の褪せた幅の広いズボン、擦り切れた表面の革靴を見ると、彼らが地元民で、雇われている人々と分かる。

 馬はすぐ近くで足を止め、そこからは歩いて馬車に寄ってきた。


「何か用か」


 ドルドレンが手綱を緩めずに訊ねると、使用人の中年の方が『ここはハウチオン家の敷地です』と開口一番、領地の宣言をする。

『それを知っている』と答えたドルドレンに、中年男性は馬の進みを合わせて話し出した。



「知っていますか。でもどうも、見慣れない馬車ですし。お顔立ちも」


「あなた方は何を聞きたいのか。ここは街道だ。通過している相手の身元まで、あなた方に話す理由があるのか」


 バイラが戻ってきて、珍客を馬車の後ろへ行かせない位置に合わせて、馬を歩かせる。


「ハウチオン家で、()()()()訊ねています。あなた方はもしかして」


「誰であっても。突然、通りすがりに尋問じゃ。こちらも答える気になれん。目的があってこの道を通過しているのに、その時間さえ勝手に使うのか」


 ドルドレンが正当な内容で返すと、相手も少し黙り、若者と中年男性は顔を見合わせ、困惑しているようだった。貴族の名を出して拒まれることが少ないと分かる、その反応に、ドルドレンは溜息をつく。


「俺たちは急いでいる。用事があって、こうして移動している。それくらい見て分かるだろう。

 尚且つ、敷地を横断していて止められるならまだしも、ここは街道だ。誰が往来しても良いはずだ。なぜ、身元を尋ねられる」


「『ハイザンジェルの騎士修道会』じゃないですか?」


 若い男性が思わず、口を出した。中年男性は『おい』と窘めたが、ドルドレンは首を傾げる反応を見せる。


「ハイザンジェル。騎士修道会。それがあなた方の目的か」


「魔物退治をしていませんか」


 ドルドレンは黙る。若い男性は、もう一人の連れに止められる前に訊ね、ドルドレンの表情の変化に『魔物退治をしている騎士修道会に相談です』と伝えた。


 若い男性の勢いで、ドルドレンは静かに頷く。


「魔物退治。そうなると、話は別だ」


 後ろから馬を進めて御者台に寄り添ったバイラに、黒髪の騎士は視線を向け、彼がちょっと左に目を動かしたので、フフンと笑った。



「話を聞きます。私は警護団のジェディ・バイラ。彼らに付き添う任務で同行している者です。

 私はテイワグナ警護団の責任がありますから、彼らに何かを頼む前に、私を通して下さい」


 二人の客とドルドレンを離すように、バイラは間に馬を動かし、まずは自分に用件をと伝える。ドルドレンは、やっぱりバイラはかっこいいなぁと思った(※頼りになる人イチオシ)。

お読み頂き有難うございます。

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