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魔物資源活用機構  作者: Ichen
精霊たちの在り方
1152/2959

1152. 別行動:魔法の練習とシャンガマックの盲点

※一日開いてしまいましたが、今回は、前回ドルドレンたちの話ではなく、同日のシャンガマックの話です。

 

 緑色の透明な風が吹き上り、青空へ弾けて、金色の(つぶて)になって降り注ぐ。


「おい!」


 その様子を見上げ、ぽかんとしているシャンガマックに、獅子が大急ぎで飛び掛かり、円陣の外へ押し出した。

 金色の礫は落下した勢いで円陣の床を打ち砕く。円陣は砕かれた後、ウォッと唸りをあげて揺らめき、傷つく前の状態に戻った。


 円陣の枠から突き飛ばされて、草むらに腰をついた騎士は、その様子に目を丸くして、びっくり。



「あっ」


「お前は。逃げない奴があるか!自分のかけた魔法で」


「ごめん。あんなになるとは」


 慌てて謝るシャンガマックに、獅子は人の姿に戻って、その横に膝をついた。尻もちをついた状態の息子に背を屈め、額に手を置いて、少し上に押し上げる。


「ケガしていないか」


「大丈夫だ。ヨーマイテスが助けてくれたから」


「助けてくれた、じゃ済まない。あれを食らってお前、かすり傷で終わらないぞ」


「ごめん」


 焦げ茶色の大男は、謝ってすまなそうに俯く息子に、小さな溜息をつく。『何か食べるのか。腹は減ったか』どれくらいの頻度で与えれば良いのか(←食事)分からないから、とりあえず聞いてみると、息子はちょっと考えて頷く。


「待ってろ。鳥を持ってきてやる」


「何から何まで、有難う」


 ヨーマイテスはすぐに獅子に変わり、急角度の斜面で上がる、木々の中へ飛び込んで消えた。



「ああ。俺はぼんやりして。危なかったんだな。あんなふうに見えるなんて、思いもしない。あれが何かも分からないのに。

 ・・・・・この本の通りにすれば、とヨーマイテスは言ったけれど。

 誰でも、俺が()()みたいに出来るなら、これは危険な気がするな(※慎重でのんびりな意見)」


 シャンガマックの片手に、小さな本、一冊。


 あの墳墓で手に入れた、この本は魔導書。

 ヨーマイテスが読んでくれて、シャンガマックに読み方を教え、続けて言わないように注意を受けた。そのことを守り、何度も区切って練習した後。


『魔法陣の中で、呪文を唱える』ことと、シャンガマックが最初から携えている、精霊の力で『魔法の大きさを変える』ことを教わる。

 ヨーマイテスが相手をしてくれると、張り切っていたのだが。まだその段階ではない。


 この魔法陣で練習し、感触を覚えたら、魔法陣がない場所で使う方法を覚える。

 その最初の魔法を、昨日の午後も、今日も朝から・・・練習しているのだが――



 うーんと伸びをしたシャンガマックは、そのまま青い草の上にバタンと倒れる。空を見つめ『疲れる』小さな呟きを落とした。


 想像以上に気力と、集中力を使う。精霊に助けてもらう、これまで使っていた結界より、使っている。

 自分で最初から最後まで、結界の力を、全部出し入れするような感じ。


 大の字の状態で、草に沈み、青空を眺め、魔法の指導なんかを受けている状況に、ぼんやりと『よく考えたら凄いことだ』と感じる。あまりにも急な展開で、驚きながらも急かされて。


「はぁ。運命が動き出したんだな」


「バニザット!」


 ビクッとして、父の怒鳴り声に慌てて体を起こす。見ればすぐ側に、鳥を置いた獅子がいて、顔が微妙に怖い(※何となくだけど)。


「ああ、ビックリした」


「俺だ。ビックリしたのは。倒れているから」


 側に来て、フンフン、息子の顔に鼻を付けて臭いを嗅ぐ獅子(※臭いで確認)。シャンガマックは苦笑いで、獅子の鼻面を撫でて『大丈夫だよ』と言うと、立ち上がる。


「ちょっと疲れて」


「食べろ。疲れるのも終わる」


 獅子はそう言って、魔法陣に鳥を運び、そこで青白い炎を出した。シャンガマックはじっとそれを見つめる。父は呪文も何も関係なく、こうしたことが一瞬で出来るんだなと、しみじみ感じ入った。


 鳥が丸焼きになるのを待ちながら、魔法陣の中で寝そべる獅子に、シャンガマックは寄りかかる(※もはや獅子ベッド)。

 フカフカの(たてがみ)に顔を寄せて、小さい溜息をついた。


「そんなに疲れるのか」


「うん。疲れ方が、今までの生きている人生にない。体力じゃないな、気力だ」


「食べ終わったら、やめておくか」


「うーん・・・いや、頑張ろうかな(※小声)」


 目を閉じて片腕を伸ばし、獅子の首に巻き付けると、シャンガマックは『はあぁ』と疲労した声を出して、(たてがみ)に埋もれる(←クセになった)。



 自分の鬣に埋もれて、見るからに疲れ切った息子に、ヨーマイテスは悩む。


 ギールッフで鎧の姿をした息子は、無尽蔵なくらいに魔物相手に動き回っていたが・・・魔法では、これっきしのことで、疲れるのか(※疲れ知らない父)。


「ヨーマイテス。ヨーマイテスはどうして魔法を覚えたの」


「ん?」


 鬣に埋もれたまま、質問をしてくる息子に、振り向いても顔が見えないので、どんな具合で訊ねているのか分からない。率直に答えた方が良いのか。とりあえず『生まれつき』と答えておいた。


「ミレイオも?ミレイオは敵を弾き飛ばす」


「ああ・・・でもミレイオは、サブパメントゥの力としては弱いぞ。最低限だ」


「そうなのか?あんなに強いのに」


「何言ってるんだ。ミレイオは強くない。あいつは人間に似せて・・・いや、ここまでだ。とにかく、サブパメントゥは()()()ある。俺もだ」


 そうなんだ、と力なく呟いた騎士に、その質問の意味を訊ねると『俺がどれくらい頑張ると、同じくらいになるのかと思った』と答えが戻った。


「それは。大変、という意味でか」


「うん。俺が結界を使う時は、精霊の力に頼っているから。俺一人の気力で、魔法の動きを使うのは」


「精霊の力を()()方法だと思え。魔法が先じゃない。精霊の力の動かし方を増やしているだけだ」


 首に回していた腕を解き、シャンガマックはその言葉に起き上がる。獅子は息子を見て『そう思え』と、午後の日陰に入った場所で、空を見た。


「お前は人間の力でどうにかしようとしていたか。それじゃ、限界は早い。そうじゃない。力を貸した相手を、使いやすく仕分けるんだ。

 過去のバニザットは、だからこそ、()()()()()を手に入れた」


「魔法使いのバニザットも」


「そうだ。あの男は、自分の力の範囲を貪欲に増やした。お前のように最初から、精霊の加護を手に入れはしなかった。それを受け取れば、精霊からの力は強くても、()を得られないからだ。

 お前はお前。精霊の加護を最大限に使う、魔法として力を動かせ」


 へぇ・・・そう考えるんだ、とゆっくり頷くシャンガマック。


 ふと、良い匂いがして、炎の中の鳥が焼けたと知り、シャンガマックは父にお礼を言って食事にする。父の教えてくれることを、反芻して理解を深め、自分なりの魔法の使い方を考える。



 肉を食べながら、いろいろ考えて、父が持ってきてくれた水(←革袋に入った水)を飲み、魔導書を見つめてから。


 腰袋に入りきらずに飛び出ている、作り物の羽に目が留まる。これも、何か意味があったような(※教えてもらった時、眠くて聞いてなかった)。


 日陰でじーっとしている獅子に、肉を切って持って行き、『食べる?』と訊ねると口を開けたので、食べさせてから、獅子がもぐもぐしている様子を見て微笑み、(たてがみ)を撫でてあげる。獅子は尻尾がパタパタしていた(※喜)。


「ヨーマイテス。俺はもう一度、聞きたいことがある」


「何だ」


「この前、眠くてちゃんと聞けていないことだ。これ。この羽」


 もぐもぐしている獅子は、肉を飲み込むと、息子が見せた羽にちらっと視線を向けて『魔法で使えるようになる』と答えた。


「これは何か。ごめん。本当に眠かったから覚えてない」


「まぁ、それはいい。それは魔性を引き離すような品だろう。

 お前が魔法を覚えて、それで何か触ったりするんじゃないか。多分、そんなところだろう。お前の剣と似ているから、龍の骨が入っているかもな」


 そんなことまで分かるのか、と驚いて、シャンガマックは碧の目の獅子をじっと見つめる。

 目が合って『何だ』と訊かれたので、もう一切れ肉を見せると、やっぱり口を開けたので食べさせてあげた(※獅子尻尾振る)。


「ヨーマイテスは、何でも知っているな。見ただけで分かるのか」


「ふむ。お前には時々、思わされるが。お前は()()()()()()()のか。そっちの方が疑問だ」


 俺?俺が分からないって何だろう、ときょとんとすると、獅子は息子を見て『分からなさそうだな』と頷く。



「教えてくれ。何が分かっていない?」


「砂の城。お前、ザッカリアでも見えたものが、見えなかっただろう」


「あ。そうだ。俺だけ見えなかった」


「昨日もそうだ。お前は山脈のあれらを見て、確認する時。動いた相手は限られていた」


「え?」


「お前の目に映っていなかったんだろう。お前が歩き回って見ていたのは、()()だった」


「何だって」


 父の話では、シャンガマックが通り過ぎた、目もくれない相手が多くいたと言う。目もくれないとは、と思ったらしいが、全く見えていないとすれば理解出来る動きだと、ヨーマイテスは話した。


「そんなに?見えていないって、どうして。じゃ、見えている相手と、どこが違ったのか」


 獅子はその質問には答えず、そこは大したことじゃないように飛ばす。飛ばして、息子に必要な()()を伝える。


「俺は、あの墳墓でも言ったはずだぞ。『見えるものを忘れろ』と(※1132話参照)。

 お前は見えていない。言い方を変えれば、見たいものだけしか受け取っていない。それは習慣だろう」


「何と。ヨーマイテス、あの墳墓の戦いの時。俺は()()()()()()()()ものがあったのか」


 訊ねる騎士に、獅子は少しだけ首を傾げる。見つめる漆黒の瞳に『何かあるのだろうか』と呟いた。


「お前のまとう『精霊の力』は相当だ。それがあって、あの程度の相手に苦戦するとは、(にわ)かに信じ難かった。

 しかし、使いこなせていない様子から、それでなのか?とも思ったんだが。

 どうも、それだけじゃなさそうだな。

 あの墳墓で、見えていなかったものについては、『魔物の本体』だ。そこかしこにいた。お前は()()()()()()()()だけが、そうだ、と思っていそうだけどな」


 目を丸くする騎士に、獅子は教えてやる。今更の事だがと前置きし、今後に生かすように伝えてから、あの場所に何があったか。話を聞くシャンガマックは、ビックリする。


「そんなまさか。俺は結界を縮めた時以外」


「そうだ。お前が体から結界と距離を取ったら、お前を締め付けにかかる腕があった。お前の()()()()らしい、赤い風。それは一部でしかない。

 腕は、棺桶から床や壁を伝って出てきては、お前を潰しにかかった。相手はお前を絞って、お前から奪うつもりだった。

 お前の攻撃の仕方が変わったから、一度で終わらせようと、最終的に棺の蓋が開いた」


 結界の使い方も一辺倒だ、とダメ出しされて、騎士は凹んだ(※それは自信あったのに)。



「俺は。魔法が使える範囲が、狭くて」


「おいおい。そこで沈むな。お前を悲しませるために話したんじゃない」


「だけど。この十数年間。俺は魔法を、自分なりに研究してきたのに」


「お前が知れる範囲は、今、増えている。それで良いだろう。俺もいる」


 うん、と力なく頷く凹んだ騎士に、獅子はちょっと同情(※息子可哀相)。鳥を全部食べて、元気を出すように言い、素直に頷き、フラフラとお肉の側へ戻った息子の背中を見つめる。


 どうも自分は、息子をよく傷つけている気がする・・・(※何となく)。感覚の違いだろうが、もうちょっと励まし方を変えた方が良さそうに思った(※父なりに努力)。



 ヨーマイテスの思考では、息子の持つ力は申し分ない。


 精霊の加護をあれほど得た人間なんて、会ったことがない。

 過去のバニザットは加護など得なくても、ありとあらゆる相手の力を呼び込んだが、息子は一点集中型で相手がナシャウニット。

 世界の精霊の最高位に君臨する相手・・・なのだが(※父的には『あれぇ?』って感じ)。


 『子孫で・先祖』の関係だから、どちらのバニザットも、それ相応の容量を持っていると捉えても、(あなが)ち行き過ぎではないと思う。それだけの力を持っていれば、自然と使えても良さそうなものなのに。


 なぜなのか。俺のバニザット(※所有物)は、()()()()魔法の使い方が中途半端。使えて結界(※1個)。

 その結界も、極端に強力で範囲が広いか、自分に集中させるしか出来ていない(※他にも技はあるはず)。


 確か、過去のバニザットは()()()()()()操っていたようなことも聞いた(※モノが違う)。

 俺のバニザットは、これまで何をしていたのか(※サボってるみたいな印象)。



「うーむ。磨けば光るだろう(※願望)。野心もないし、成長が遅いのかも知れん。

 俺のバニザットは、純粋で無欲でカワイイから(?)過去のバニザットの貪欲で強欲(※対照的)な要素が全く無い分、教えてやらないと気が付きもしない・・・ということか」


 これは、出来るだけ急いで育てないとならない気がする。ヨーマイテスの碧の目が見つめる、しょんぼりした息子の食事風景は、彼の本来の能力に沿っていない。


「仕込むにも、危なっかしい。自分の魔法をぼけっと見ているくらい、分かっていない。

 使えば強力なのに、威力も知らない。最初っから、みっちり教育する必要がありそうだ」


 思っているよりも、息子を鍛えるのに時間と根気が必要と気づき、ヨーマイテスも溜息をついた。



 この日。シャンガマックは昼食後。


 父に付き添われて、不要なほどの密着状態で魔法を教わり(※危ないから見張る)魔法を実行するたびに、円陣の外に突き飛ばされては、安全を確保され、終わる夕方にはへとへとだった(※打ち身で体が痛い)。

お読み頂き有難うございます。

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