1151. 辻で合流
「ニカファンの館を訊ねるのか」
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「インクパーナの谷の部族って」
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昼より手前。待ち合わせの辻に着いたミレイオたちは、キキに教えてもらった話を、ずーっと続けながらの御者台。
3人乗った状態で(※もう『目立つ』とか忘れてる)辻の手前で脇に寄せ、内容を全員で推察中。
「キキが持たせてくれた、この石。これだけ見ると、普通の岩石です」
イーアンは、タンクラッドの手の平に乗せた石を見つめ、そう言うと、親方を見上げる。親方は片手に持っていた手綱を下ろし、イーアンに石の中の金属を指差す。
「教えただろ。これが、あいつの使った金属。こっちが母岩だ。これは違う金属。見えるか、こうすると分かるか」
「母岩とか金属くらいの見分けは、ついていますよ」
そのくらい大丈夫です、と目が据わる女龍。親方は疑わしそうにイーアンを覗き込み『本当か。じゃ、これはどっちだ』爪の先で示した、石に走った細い煌めく線を訊ねる。
「それ?金属」
すぐに答えたイーアンに、タンクラッドは首を捻って、大袈裟に『そうか?』とばかりに目で確認。
「うーん。意地悪ねぇ。やめなさいよ。イーアンそれ、ガラスの元の結晶よ。金属じゃないわ」
「意地悪じゃないだろう。母岩と金属は分かるって言ったんだから」
ミレイオに窘められて、親方は言い返し、ちらっと横のイーアンを見る。見上げる目が半目(※ひどい人だ!みたいな)。
その顔に笑うタンクラッドが、イーアンの頭を抱き寄せてナデナデしながら、むすーっとしている女龍に『ちゃんと覚えるまで、謙虚になれ』と自分寄りの教えを説いた。
「ほれ。こっちおいで。意地悪なおっさんに抱え込まれても、イヤでしょ・・・にしてもねぇ。何だろう、『その部族の居住地域にだけある』って」
目の据わったイーアンを引っ張って(※イーアン座布団)抱え込んだミレイオは、片手を伸ばしてタンクラッドに石を渡してもらう。
抱えたイーアンの前に、原石を見せるように両手で持って、くるくる回して観察。
「ごらん、ここ。これがキキが話した『何の金属か分からない』ってやつよ。こっちと色、違うでしょ。反射が違うのよ。
母岩は柔らかいし、他の混ざったやつも硬度低そうだから、この金属だけがちょっと居心地悪いんでしょうね」
ミレイオに教えてもらいながら、イーアンもふむふむ学習。
横のタンクラッドも、キキから聞いた場所を想像しながら『そればっかり採れる』って変だよな、と呟く。
「違うわ。それしか採れないのよ」
――キキの疑問で、予てからあった『ある場所での採石』の不思議。
訪れた客に、ヒンキラの剣職人は、このことを情報として与えてくれた。
インクパーナと呼んだその場所は、旅の一行が道すがら通るには、範囲がかなり広いが、方角的には無理がない。ヨライデ方面ということで、バイラに地図で見てもらおうとなった。
話を戻して、キキがその場所で採石するたびに、いつも不思議に感じていたこと。
どうしてか、ある一種類の金属しか採れない。他の金属は微量で、混ざっていても僅か。
独学でやってきたキキは、最初の内『その金属』と、自分の『目当ての金属』を間違えていたという、悲しくも、情けない出来事に気が付かず、そればかりが採れるので助かると・・・かなり長い間、通ったという。
金属に明るくない、イーアンはさておき。
笑うに笑えないミレイオとタンクラッドは(※気の毒と思う)黙って聞いていたが、キキはその話の最中に、工房から原石を持ってきて見せた。
見て納得。そして、彼が作った剣を見せてもらって納得した、金属を使う職人の二人。
母岩は違うにしても、金属自体は間違えると思うほど似ていた。加工後の色もそっくり。溶かす温度なども近い。そりゃあ、そうかと頷いたが。キキは首を振った。
『変なんだ。俺が作った、この金属の剣だけは、絶対に錆もしないし、欠けもしない』
始めの内こそ、自分の腕か!と喜んでいたが、キキは徐々に『自分の再現したものが、間違えていたら』と気になり出して、あれこれ調べたところ、違うものだったという話。
『だからさ。多分、これ・・・今、聞いたから思ったけど。もしかすると、魔物材料の金属の特徴と似ているから。そうかも知れないじゃん』
その場所でしか採れていないし、その場所はそれしかない。『行ってみたら?』と、場所とそこにいる部族の事を教えてくれた――
「正直な人よね。イイモノ出来た~くらいで、落ち着かないっていうか」
「あそこまで注ぎ込んでいるからな。普段、『果物売り』って言ってたんだ。果物売って、生活繋いで。それで、剣作って。まぁな、極端にこだわると、そうなりがちなんだが」
そう。キキは、バイトをしている。年齢はシャンガマックと同じくらいだった。それを聞いたイーアンは、彼に同情し(※凄い分かる)お別れの際に、鱗を記念にあげた(※良いことありますようにって)。
ギールッフで配っちゃって、手持ちの鱗がなかったので、町外れという環境に目を付けたイーアン。
外へ出て、片腕を爪に変えた。爪の付け根まで出した(※先端から6m程度)ところから、一枚・・・鱗をぺりっと取って。
剥けかけていたし、痛みもないので『これどうぞ』と差し上げたら、大変恐縮してくれた。
もう一つ。魔物を退治したら、魔性を取るのに使えるナイフ。これを渡そうかと思ったのだが、キキは『それは俺は使わないかもね』と受け取らなかった。理由は聞かなかったが、何となく分かっていた。
「どうか頑張って。生活も豊かになってほしいです」
遠い空を見つめて、呟く女龍(※行こうと思えば、すぐの空だけど)。しんみりしながら、キキの今後の繁栄を祈った。
「タンクラッド!早かったな」
3人がキキの仕事の安泰を祈っていると、後ろから呼ばれる。馬車の外に顔を出したミレイオが、手を振り『もう行ける?』と訊ねると、ドルドレンの声が『行こう』と戻る。
「イーアン、こっちおいで」
「はい」
返事をしたイーアンは、停まっている馬車をさっさと下りて、ひょこひょこ後ろの馬車へ。ドルドレンが御者台に乗せてやり(※歩きは鈍い)ドルドレンの横に収まる。
「あんたと一緒でもねぇ」
「嫌なら、後ろへ行け」
行くわよ、とミレイオも下りて、荷台へ。そんなタンクラッドの横には、すぐバイラが付いて『お疲れ様です』と笑顔を向ける。タンクラッドは、この貴重で無害な人物に改めて感謝した。
「待ちましたか?さぁ、出発しましょう。時間も昼前だし、タンクラッドさんは腹ペコですね!ここから街道に入る手前で昼食に・・・あれ?どうかしましたか」
「いや。バイラはいいやつだなと思った(※素)」
え?驚いたようなバイラに、タンクラッドは目を閉じたまま、首を振り『何でもない』そう答えた。
前の馬車が出たので、後ろを進む寝台馬車。
イーアンはドルドレンに、何があったかを聞いて、ちょっとびっくりした。
ドルドレンの話では、ヒンキラの町には魔物が出ておらず、このサバケネット地区全体では、被害申告が出ていた。
被害内容は大きくないらしく、ヒンキラの町にある警護団施設から、被害地域へ対処が早いのもあり、被害は広がっていないという。
動きの悪い警護団だが、貴族に追い立てられているようで、無理やりでも行動に繋がっている話だった。
そして。ミレイオの予言が外れ『女性に追いかけられる危険はなかった』ことも謹んで報告。領地に女性はいたそうだが、皆さん、おばちゃん(※推定50代以上))で安全であった。
でもイーアンが驚いたのは、それらの話ではなく。
「あら。んまー」
「そうなのだ。んまー、である」
「あの・・・ミレイオの」
「そう。ホーション家なのだ。読み方が違うから、気が付かなかった」
「よく気が付きましたね」
それはザッカリア、と教えるドルドレン。『敷地に入って、植木が並んでいた』その花でザッカリアが気が付いたことを話すと、イーアンは感心していた。
「最初ね。『首都のパヴェルの家にあった』と言っていた。だから、首都と、ここヒンキラの気候は違うから、同じ植物じゃないだろうと思っていたら。
バイラが使用人に手紙を渡している時、近くにいた別の使用人に、ザッカリアは確認した」
「あら、それも。んまーって感じ」
「そう。んまー、だ(?)。ザッカリアは、自分が合っていると知りたかったのだ。
使用人に、単刀直入『パヴェルの家にも同じ花があった』と。
相手が、パヴェルを知らないかも知れないのに。彼としては、貴族同士だから一緒に思えたのだろう。
でも使用人が反応し、相手の名前を全部教えて、と。フォラヴが『パヴェル・アリジェン』と答えたら、使用人は『同じ種類』と答えた」
品種改良で、その敷地で作った木とのこと。
だから、同じ香りで同じ花を持っていたら、それは繋がりが見える貴族しかいなかった・・・『と、いう話』凄いだろう?とドルドレン。
「スゴイ。ザッカリアを誉めなきゃ」
「褒めたよ。度胸も序に褒めておいた(※子供だから出来ること)」
それでね、とドルドレンは続ける。
結局、それで使用人さんが情報をくれて、実はホーション家の親戚であることと、ヨライデ近くにある領地に魔物が出て・・・なんて、話もしてくれた。
「あら。やだ。どうしましょう。私、行きますか」
「いやいや、良いのだ。バイラがその後、戻ったのだが。『ヨライデ近い領地に出た魔物の話については、警護団が対処した』と言っていた」
バイラが封筒を渡した使用人さんは、続きの話を知っていて、貴族の領地に出た魔物は、そっち担当の警護団で、どうにか追い払ったことも伝えてくれた。
「追い払っただけ、とは言え。それで、追い払われたのだから、今は大丈夫そうなのだ」
でも、これから向かう先でもあるし、バイラが言うには『ちょっと高低差があるだけで、距離は変わらない道』を通れば、その領地を通過する。
だから、ドルドレンとしては、ヨライデ方面へ向かうのだから、そこも通過して、いれば魔物を退治するつもり・・・としたことだった。
「その前に、魔物の気配をね。そっち方面で、君やコルステインが感じて、退治するとなれば。それはそれで」
そうね、と頷くイーアン。貴族の話の方が世間が狭くてびっくりした、と言うと、ドルドレンも笑っていた。
「その領地。地名は何ですか」
「『ニカファン』という。切り立った山が連なるが、山脈ではなく、その辺りを囲むようにだけあるらしい。領地だが、貴族の館はもっとずっと、安全な街道沿いだそうだ」
「そんな場所にあるのですか。貴族の館には用ないのですよね」
「直に用事じゃないね。バイラがその領地の中の施設にまた、寄って状況を訊くくらい」
ああ~・・・そういうこと、と了解。
行く先で報告書も出すし、立ち寄れる場所で居場所を告げるバイラ。それもあるから、旅の無事に融通が利く。遠回りにならないなら、と判断した地域なので、寄る様子。
寝台馬車では専らこの話。荷馬車でもキキの話をしながら、お昼の野営地へ到着した馬車。
そしてお昼の時間に、騎士と職人たちは、自分たちが『同じ場所』の情報を得ていたことを知った。
お読み頂き有難うございます。
急で申し訳ありませんが、明日は一日お休みです。
左手がキーボードを打つ時に痛みを持ってしまい、明日はお休みしようと思います。
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