表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
護り~鎧・仲間・王・龍
115/2942

115. 今後の相談

 

 風呂から戻ったドルドレンの驚きようは相当だった。


 何故か部屋の扉は開き、中から男複数人の声が聞こえ、走り寄るとクローハル(天敵)とブラスケッドとポドリックが真っ先に目に飛び込んできて、パドリックとコーニスとヨドクスが壁際に立っていた。


『イーアン』と叫んだすぐ、続く部屋に目を向けると、奥のベッドに青い布に包まって不安そうに座り、こっちを見ている視線と目が合う。


 どういうことだ?と血相を変えて、自分の部屋に普通に居座る輩に怒鳴ると、『報告どうする、ってさっき聞いたら、後で俺の部屋で~ってお前が言ったんだろう』とクローハルが冷めた目で切り捨てる。



 ハッとするドルドレン。言った。確かに言った。――風呂入る前だ。俺の部屋に来たら紙(委託契約書&南西からの報告書)だけ渡そうと思っていたから。


「お前危なかったぞ。クローハルの後ろに、俺がいたから良かったようなものの」


 ブラスケッドが失笑するので、ドルドレンの目が皿になる。

 慌ててイーアンに駆け寄って両手で頬を包み、『何があった、なにされた、どこさわられた』(最後の方が思考で質問していない状態)と問い詰める。

 イーアンは『大丈夫。ビックリしましたが何も』と困惑しつつも答えた。


「てめえ」


 クローハルに向き直るドルドレンの灰色の目が、怒りに煮え滾る。クローハルが立ち上がった。周囲は観客。


「そんなに大事なら、絶対離れなきゃ良いだろ。風呂でも何でも」


 クローハルが真顔で答える。ブラスケッドの目が細くなる。ポドリックが『ほぉ』と小さく漏らす。ドルドレン重力増加。『近づくなと言っていたぞ』洗いざらしの黒い髪が目深に垂れる中で、突き刺すような瞳が銀色に輝く。



「無理があるくらい分からないのか。男のど真ん中に女がいるんだ。年とか見た目じゃない。女だぞ。

 それも魔物相手の俺らの()()だ。好きにならない奴なんかいるかよ」



 クローハルがイーアンに顔を向けて『好きにならないでいられる奴。いるのかよ』もう一度、悲しそうに呟いた。


 ドルドレンの睨みつける態度は変わらない。ブラスケッドが立ち上がって、クローハルの背中を押した。



『なんだよ』クローハルが嫌そうに片目の騎士を睨むが『よく頑張った。出るぞ』とニヤついてブラスケッドがクローハルを廊下へ出した。以外にあっさり従う伊達男。

 二人が廊下に出て、ブラスケッドが扉を閉める前に『おい。明日俺たちに伝えろ』とドルドレンに言った。




 部屋の中が鎮まる中。ドルドレン含む全員が目を見合わせる。誰ともなく咳払い。


「報告だ。視察の南西支部の報告書と特別講義資料。デナハ・バス先のルシャー・ブラタ工房と年間契約の書類を渡す。読め」


 ドルドレンが白髪交じりの黒髪をかきあげたまま、片手で机の上の紙を数枚取って、ポドリックに渡す。


「私、よく知らないんですよね。鎧工房、なんで改めて委託契約に出かけたんですか?」


 ポドリックに渡った紙を、後ろから覗き込んだコーニスがそう言うと。『ああそうなんだ。私が療養で知らなかったのかと思った』とパドリックが横から口を挟んだ。ヨドクスも『発注関係に携わらないから、私は知らないままでしたよ』とポソリと呟いた。


「特別講義って。何だこれ」


 ポドリックは南西支部の資料に目を近づけて、『あれ?これお前たちの報告と違うんじゃないか?』とドルドレンに言う。



 ドルドレンはイーアンを呼ぶ。彼女が立ち上がったときに寝巻きである事を知り、やはり座らせる。


「イーアン。そっちの部屋で返事してくれ」 「はい」


 咳払いをしてから、『説明する』とドルドレンは簡単に順を追って話し始めた。時々イーアンに同意を求め、『そうです』と向こうの部屋から帰って来る返事を確認して。

 ある程度話した後、今まで鎧を購入していた工房 ――デナハ・デアラを切った話もした。


「この計画の当初は、魔物製鎧を老舗のデナハ・デアラに委託しようと考えていたが、あまりに態度が横柄なので、今後デナハ・デアラからの購入を一切中止した。騎士修道会全体の防具が対象だ。それは既に店側に伝えてある。


 代わりに。腕の良い、伝統鎧を作る親子工房を見つけたので、これからはそちらからの購入にする。イーアンの鎧も作ってくれる」


 デナハ・デアラを騎士修道会から切った、という即決には驚いたが、部隊長たちもデナハ・デアラの態度の大きさにはあまり感心していなかったため、それならと理解した。



「ええっとね。全体の話をまとめると。要は総長は、これまでの魔物退治に、今後新しい動きを加えるために計画した、ってことで合ってますか?」


 感心した様子のパドリックが質問する。ヨドクスも『動きと言うか。生産性を見出した・・・って意味でしょうか』と理解を深めて訊き直した。


「そういうことだ。無駄にしていたのが勿体無くなるかも知れん」


 ドルドレンがそう答えると、ポドリックが太い眉毛の奥から総長を見上げた。


「お前の口から、魔物相手にそんな言葉を聞ける日が来るとは。()が変わったんだな」


 少し微笑んでいる大男に、ドルドレンは肩をすくめて『()が変わったなら乗るべきだろ』と認めた。


「じゃあ、この特別講義というのも、計画が始まっているから受け入れたんですね」


 それでか、と資料を見ながらコーニスが頷き、『うん。でも。何か聞いた話と違う気もしますけれど』と独り言を落とす。


「それは北の支部のチェスが書かせたんだろう。裏書で講義の内容を一応書かせたから、資料を綴じる際には裏を表面に向けておけば良い。一応、『北の報告書が間違えている』意味ではそれも貴重な資料だ」



 ドルドレンはイーアンに鎧と剣を求め、部屋から出さないようにして受け取る。


 見たかもしれないが、と前置きしてから、それらはイーアンとダビが一週間で制作した試作である事を伝え、自分のベッドの上に置いた。

 部隊長たちが、やや興奮気味に驚きを言いあう中で『イーアン、試しても?』とドルドレンが質問すると、『そうして下さい』と了承の返事。


「誰か、ナイフ持っているか」


 ヨドクスが『果物ナイフですよ、良いですか』と短いナイフを渡した。ドルドレンは少し口角を上げて『これは大事か』と訊き返す。

『別に』とヨドクスが意外な質問に首を振って答えると、ドルドレンは頷き、右手に握って鎧の前に立った。


 そして果物ナイフをかなりの力で鎧に向かって振り下ろす。ガギッと大きく部屋に響く音の後、握られたナイフの先が折れているのを部隊長たちは見た。ナイフの先ははじけ飛んで真上から降ってきた。床に落ちた刃先を拾うパドリック。


「この色。この硬さ。もしやこれは」


 嫌なものを思い出すように(※トラウマ)パドリックが、面白そうに笑みを浮かべる総長を見る。『そうだ。お前が追い回されたアレだ』そうドルドレンが笑った。



「ということだ。イーアンは魔物の体の優れた部分を回収し、それを使って我々を守る道具を作る。彼女が一人で出来ないところはダビが協力している。剣はダビによるものだ。イーアン、ソカもくれ。

 そして彼らによって出来た試作を、工房へ回して複数制作してもらうのだ」


 ありがとう、とイーアンからソカを受け取り、ドルドレンがソカを見せる。


「これはギアッチが使う武器だ。今回は試作でイーアンがこれを使った。魔物2頭の首を、一瞬で風のような速さで落とした」


 奇妙な生々しい黄色がかった透明な本体に、何かがキラキラと輝いているソカ。『そちらからで良いからソカの説明をしてくれ』ドルドレンが声をかけると、イーアンは話し始めた。



「それはこの前の大きな、支部の裏庭にいた魔物の腸です。伸縮性に富んで非常に強く、およそほとんどの酸と発熱に耐えました。凍結は試していませんが、もし凍結に弱ければ対処を考えます。


 巻いた状態で触れるのは大丈夫ですが、引っ張って伸びた本体には触れないで下さい。剣と同じ硬質の皮が刃として付いています。本体が縮む力で刃が対象物を切り裂き、元の長さに戻ります」


「刃は落ちないのか」


 そうなんだ、と呟いた後、ドルドレンが質問すると『はい。私、刃に穴を開けて本体に編みこみましたので』と返事があった。


「こんなのよく思いつく」 「恐ろしい」 「いや、ダビらしい」 「これは負ける気がしない」


 部隊長が感心と恐怖を綯交(ないま)ぜにした言葉を漏らす。パドリックは本当に怖がっている。



「こんなところだ」


 ドルドレンは場を終わらせる。『こうしたことだから、近いうちにイオライセオダにも契約で向かう』と告げ、大型の遠征にはイーアンが同行することと、戦法説明講義については、ギアッチを派遣することを話した。



「イーアンの工房の名は、ディアンタ・ドーマン。北西支部の、魔物性物質企画制作工房だ。以降、この計画の中心になるだろう」


「違うぞ、ドルドレン。北西支部のではない。騎士修道会の、ハイザンジェルのディアンタ・ドーマン工房だ」


 椅子から立ち上がったポドリックが、嬉しそうな顔で友を見つめた。大きな手を黒髪の騎士の肩に置いて『協力しよう』と約束した。


 コーニスもヨドクスも『目的があるって戦い甲斐が違いますね』と案に賛成してくれた。パドリックは一人怯えていたが『少なからず私も力になりますように努力します』と渋い顔で賛成した。


 全体に伝える時は、イオライセオダで契約をした後、と決まり、部隊長は就寝の挨拶をして出て行った。




 彼らが出て行った部屋で、イーアンがドルドレンの側に来た。


 ドルドレンが見たイーアンは、いつも通り ――体の線がぼんやり分かる薄い生地の、透かし模様で飾り襟と裾が付いた、膝上の丈―― の寝巻きを着て、素足に、毛皮(※魔物製)で作った短い丈の部屋靴を履いている。


「もしかしてその格好で」 


 イーアンが腕にぴたっとくっ付いて『そうです。ドルドレンしか来ないと思っていたから』とすまなそうに答えた。


 ・・・・・この格好ではなぁ、とドルドレンも額を押さえた。俺限定だから気にしないで(むしろ賛成して)いたのに。透けているわけではないが、どう見てもお誘い系の格好だ(※婦人服への偏見)。



 腕に絡むイーアンを、よいしょと抱き上げてベッドへ連れて行く。膝の上に座らせて、黒い螺旋の髪の毛を指に巻きつけ、『イーアン』と瞳を覗き込む。申し訳なさそうな表情が、ちょっと気の毒。


「仕方がない。俺も迂闊だった。俺が風呂から出たら来るだろう、としか考えなかった。イーアンもしばらく怖い目(←初日のノーシュ回想)に遭わなかったから・・・いや、良いことなんだけど」



「クローハルさんは、『女性は誰でも』って人だと思うのですよ。だから彼の態度は性質かなと捉えています。

 ただ、彼の言うことも一理ありです。私は男所帯に例外で生活しているわけですし、そうした目で見る人もいらっしゃるでしょう。その自覚がちょっと足りませんね。

 今日みたいな万が一に備えて、目立たないようにチュニックを」


「駄目だ。イーアン。イーアンが安心して生活できない方がおかしい。

 イーアンの理解はある意味助かるが、しかしそれは、女性よりも男性の(さが)を擁護してしまう、問題を含む解釈でもある。それは違う」



 だから、とドルドレンはイーアンの顎に指を添えて上を向かせ、『自分の好きな服を着て、自分の自由を楽しんで良いのだ』と軽く口付けした。


「俺はそうしてほしい。イーアンは生活態度も考え方もきちんとしている。おかしな奴らのために遠慮してはいけない」



 ――喜ぶとちょっと問題あるけどね。ちょっとというか、かなり心臓に悪い問題が。


 ドルドレンがイーアンを優しく見つめ、抱き寄せている体を撫でると、イーアンも頷いてドルドレンの体に腕を巻きつけ、抱き締めた。


「ありがとう。ドルドレン大好き」



 よしっ、と1分後を決定したドルドレンは、イーアンを抱き上げて、そそくさ蝋燭を消した。



お読み頂き有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ