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魔物資源活用機構  作者: Ichen
力の属性
1148/2958

1148. ヒンキラの町の夜・洞窟の夜

 

 着いた時間は夕暮れ。夏なので、日が沈むのが遅く、早く到着したような気もするが、それでも道草(←お助け)していたから、時間は7時前だった。



 バイラが町の門をくぐってからすぐ『あ。看板ありますね』と、通りの左に顔を向ける。


「総長。宿・・・こっちですね。このすぐ左を入った通りか。行きましょう。宿並びみたいです」


 通りの明かりに照らされた、立て看板をじっと見た後、バイラはすぐ先の路地を指差し、左に曲がると教える。


 馬車は黒馬の後に続き、少し進んでから、大きく左へ曲がる路地に入り、建物の影を抜けてすぐ、広場のような石畳の場所に出る。

 そこを通過して右に曲がると、馬車3台ほどがすれ違えるくらいの広い道。道の両脇は、宿と飲食店が並ぶ通りだった。


「シャンガマックがいないと、こういう時に困ると思っていたのだ。でもバイラが同行してくれたから、本当に助かる。世話になるね」


 徐に、左右の宿を見ながら総長が呟く。人通りの少ない夕暮れで、彼の呟きを聞いたバイラは振り向いて『来たのは、そのためですよ』と笑った。


「シャンガマックは言葉に明るいみたいですね。タンクラッドさんも、テイワグナの言葉を喋るし、ミレイオも少しなら話せるようですけれど」


「シャンガマックの底力、俺も定かではない。あれは、真面目で恥ずかしがり屋だから、自分からは言わないのだ。でも()()だぞ、思うに。何で騎士になったのか・・・・・(※いつも疑問)

 タンクラッドとミレイオは、何でも出来そうである。でもあの性格だ。自分から『やってやろうか』と思えなければ、恐らく、動くまい(※人間観察得意)」


 ハハハと笑うバイラに、総長も少し笑って『だからバイラが助かる』と、改めてお礼を伝えた。



「ここはどうか。最初の方は少し高い宿が多かったんです。この辺まで来ると、手頃な宿代に思えますね」


「風呂。あるだろうか。フォラヴがいると、風呂は必須だ」


「アハハ。それも仲間の特性の一つですね。ミレイオもイーアンも、風呂は大切そうですが。ええっとね・・・では、こっちかな。ここは風呂ありますよ、220リジェ。朝食もあるみたいですね」


「すまん。リジェは?ワパンだと」


 聞き返した総長に、ああ、とバイラは頷いて『250ワパン未満』と教える。『ここでもワパンは使えますよ』商人が動く町だから、きっと平気と言って、バイラは馬を下りた。


「私が聞いてきます。少し待って下さい」


「頼む。人数は7人だ。ベッドが広いなら、タンクラッドも部屋で休むだろう(※親方&コルステイン付き)」


 分かりましたと了解し、バイラは宿に入る。ギールッフの雰囲気ともまた違い、宿屋の様子はどことなく、開放的な旅行地のように思えた。


 暗い時間で分からないにしても、町は広い通りや、立て看板の置き方や、分かりやすい店の配置など、奥は居住区・民家の区切りも合わせ、訪れる人間を意識しているような気がする。


 石畳は、目地が滑らか。店屋も、古そうな場所はちゃんと塗装がされていて、見て分かる手入れ。

 看板はそこかしこにあるが、雑多ではなくて、統一した印象。見上げると、店屋の二階は、どこもベランダに鉢が掛かっていた。花で飾っているのだ。



「総長、ここで。風呂も見ました。今なら空いていますね。7人ですが、総長はイーアンと一緒でしょうから6室で」


 宿から戻ってきたバイラは、そう知らせてすぐ、自分の馬の手綱を引く。


「言うの忘れていた。有難う、そうだそうだ。別室なんて冗談じゃない。寂しくて寝られん」


 慌てる総長の言葉に笑ったバイラは、馬車を裏に入れるようにと誘導し、自分も馬を引いたまま歩き、宿の横から、裏庭へ入る。

 馬車を通し、馬を厩に繋いで干し草を与えてから、一行は宿へ入る。


 イーアンが下りてきたので、ドルドレンは側へ行って、自分を見上げたイーアンに微笑んだ。


「ドルドレン。さっきは」


「うん。大丈夫。よく理解した。君の強い愛を俺はまだ、ちゃんと理解していなかった。龍の力を得た、()()()()()()。それだけのことだったのに」


「有難う。でもね。あなたを消すって言いましたけど、多分私が消えます。先に」


 あの後考えた、とイーアンは驚く伴侶に言う。歩きながら、宿の中を通る廊下で、『消すことで魔物の手から解放するにしても、自分が爆発して死にたい』と思ったそうだ。


「なんつー、おっかないこと言うのだ!爆発なんて、絶対ダメだ」


「だって。同時に死ねた方が良いではありませんか。そこら全て(※巻き込む)吹っ飛ばす爆破です。

 どうせなら派手に行きますよ。最期だし(※最期=打ち上げ花火状態)」


 うん、と力強く頷く愛妻(※未婚)に、ドルドレンは目を丸くする。


「おかしいのだ、その思い切り。無謀に恐ろしい、思い切りである。イーアンは派手だから、そうなるのだろうが、ダメっ。絶対にいけない」


 ええ~~・・・嫌そうな顔で反抗するイーアンに、後ろを歩くバイラは可笑しくて、笑い声を一生懸命押さえていた。


 馬車の荷台で、イーアンが総長と何の話をしていたか、一部始終、聞いたタンクラッドとミレイオも苦笑い。

『死ぬの止められて、不満そう』と笑うミレイオに、タンクラッドは首を振って『()()()()()()()の感覚が、イーアンらしい』と頷いていた。


 ザッカリアとフォラヴは、前の方からイーアンが『死ぬ』発言をしているのが気になって不安そう。


 気が付いたミレイオは彼らに、『イーアンの死に方は派手みたいよ』と笑い、顔の引き攣る二人にちゃんと『私がそうはさせない』と小さい声で約束してあげた(←保護者)。



 廊下を通る間、物騒な最期の話に花咲かせ(?)カウンターが見えたところで、ドルドレンは『はい、もう終わり。もう、この話、してはいけない』と愛妻に注意し、お金を払いに行った。


 バイラはイーアンの横に来て、彼女の角をちょっとだけ触る(※今や皆さんが気軽に触れるアイテム)。ん?と見上げたイーアンに笑って『龍の女が死ぬなんて、困りますよ』と一応、国民としての希望を伝えておいた。


「シャンガマックへの解釈は、さすがと思うところです。私も学びます。

 でも()()()()発言も、テイワグナ国民には辛いですから、どうか()()()()方向で頑張って下さい(※希望を伝えて後は投げる)」


 バイラの訴えに笑うイーアンは、頷いて『良策を探す』と答えておいた。


 ドルドレンが戻ってきて、一泊して朝の食事は宿で取ることにしたと話し、この後は外で夕食。シャンガマックの事は、また明日の朝に皆に伝える。


 イーアンはここでも先に、『龍の女』であることを宿の人に暴露し、ちょっと拝まれてから(※毎度)握手もして(※記念)『私は夜、発光します』ここ・・・と角を示すと、宿の人は拍手してくれた(?)。


「光るけど気にしないで」


 ドルドレンに肩を組まれ、角をナデナデされている龍の女に、宿の人たちは皆が『親しみが湧く』と微笑んで了解していた。



 この夜。一行は、外の食事処で夕食にし、明日の予定を立てた。


 ヒンキラで寄らないといけない用事を持つのは、バイラとタンクラッド。ドルドレンの、本部と機構宛の手紙も出す。


 バイラは二通の封筒を届け、タンクラッドは、ギールッフで教えてもらった剣職人に会いに行く。長居することもないが、用は用として済ませておきたいから、『少し時間は取ろう』と決定。

 剣職人の工房住所を確認すると、逆方向なのもあり、時間を有効に使うため、二手に分かれることにした。


「いつも通り、みたいな感じだな。騎士はバイラと。職人たちは職人たちというところだ」


 馬車は交換。ドルドレンが寝台馬車、タンクラッドが荷馬車を預かり、朝食後に出発する。


 荷馬車は職人が乗るので、食糧と水を道すがらに購入する。各場所でかかる時間は分からないが、道のりと用事の数は同じくらいなので、大体昼前には用事が終わっているだろうと判断。

 待ち合わせを『町の出口』に当たる、街道に入る辻にした。食事が終わるくらいで、話がまとまったので、今夜はここまで。



「はい。では解散。風呂でも何でも、自由にどうぞ」


 ドルドレンは、食事処の会計時。バイラ、タンクラッド、フォラヴが先に店を出た後。


 カウンターに並ぶ菓子を見た子供にねだられ、ザッカリアに菓子を買ってやり(※『もうない』って言われた)それを見ていた、奥さんとミレイオにも買ってやることになり(※『私達も食べたい』と言われる)それなら俺も、と小瓶で酒を買った(※自分にご褒美)。


 店員の女性は、ドルドレンとザッカリアのイケメンぶりに、目が見開いて笑顔も出たが、横にいる角のある白い女(←人間じゃない)と刺青オカマ(←人間だと思うけど怖い)が妙に威圧してくるので、穏やかに頑張って対応した。でも、オマケのお菓子は一つ付けてあげた(※精一杯のアプローチ)。


 一つ余分のお菓子への礼は、見るなりミレイオが『あらありがと』で先に切り捨て(※店員無念)4人は、酒と菓子を抱えて宿へ戻る。



「あんた。明日『貴族の領地』って話だけど。気を付けなさいよ。()


 宿の中へ入ったミレイオは、ドルドレンを見上げてそう言うと、不安そうにレモン色の瞳を向けた子供にも『あんたも』逃げるのよ、と注意した。


 それから、各々風呂へ入り、部屋に帰って休む。


 ドルドレンは、貴族の領地に貴族がウロウロしているとは思えなかったが(※貴族は部屋に座ってるイメージ)。

 万が一のために、奥さんに『俺が呼んだら助けに来てほしい』と伝えておいた。

 奥さんは了解し『連動までは、空を休んでいるから大丈夫』と答えた(※保育お休み中)。


 ドルドレンはお礼を言って、寝るまでちびちび酒を飲み、『奥さん・爆死希望』の話について『縁起でもないから二度と言わないように』それも、ちくちく伝えた(※気にしてる)。


 それから眠る時も、イーアンをぎゅうぎゅう抱き締めて『死んだら大変』とトラウマのようにこだわり続け、イーアンはおえおえ言いながら、眠りに就いた(※苦しくないけど締められると、おえってなる)。



 *****



 遠い洞窟では、ヨーマイテスが両手指を突き合せた状態で、洞窟外に向けたその輪を見ていた。


「バニザット。もう良いのか」


「もう、良い。有難う」


 手を戻して、ベッド(←箱)に座らせた息子の側へ行き、顔をじっと見て、その頬を撫でる。


「寂しいのか。そんな顔だな」


「違うよ。疲れたんだ。今日は初めてのことをたくさん覚えた」


「そうか。でも、それだけじゃなさそうだ」


 大男は、ベッドに上がって横になった。座ったままの息子に寝るように言うと、騎士は頷いて溜息をつく。


「何だ。言いたいことがあれば言え。さっき食べた鳥じゃ足りないか」


「足りている。充分美味しかった。そうじゃなくて」


「イーアンの話か。ドルドレンが話したところを見て、お前は態度が変わった」



 焼き鳥(※文字通り)の食後。ヨーマイテスは洞窟の外を見てそこへ座り、外へ向けた手の内側に、『()()()()()()遠いもの』を映し出して見せてくれた。


 ずっと遠くにいる仲間の、窓の中の部屋。ドルドレンがイーアンと話しているところが見えて、シャンガマックは驚き、また笑顔がわっと広がったのだが。


 話していることも分かるぞ、と言う父の額に、頭を付けるように言われた。言われるままに額を当てると、どうもヨーマイテスが受け取ったものが聞こえていると知る。


 不思議な体験だが、面白がっている時間は短かった。頭の中に入ってきた、総長とイーアンの会話は、シャンガマックに驚きを通り越して、ささやかな衝撃を与えた。父は、そんな彼の表情を見つめていた。



「それだろ?さっきの」


「うん・・・でも別に、寂しいわけじゃない」


「俺が言ったとおりだった。イーアンを冷たく感じるのか」


「いや。そんなこと思わなかった。ただ、この前まで人間だったイーアンが。()()()()()を思うんだなと。

 龍になってから、まだ数か月だ。男龍たちに教育されているようだけど、彼女も四苦八苦で、人間の感覚との違いを学び、身に着けているように見えていた」


「元からだろう、あいつは。あの性格は元々、ああだった。そんなに驚くことじゃない」


 そうかなと顔を向けた息子に、ヨーマイテスは横になったまま首を傾げる。シャンガマックにそう思えない。


「彼女は優しい。命がけで皆を守ろうと、いつでも一人で傷だらけになるような人なんだ。

 普通の女性の時から、そうだった。最初から今も。戦うと人が変わるようになるけど、気持ちはいつも」


「だから。それがどうなんだ。同じじゃないか、俺の話と。

 あれだけ気が激しくて、普段も怒りの状態も、貫くことが同じなんて、普通の人間じゃないだろう。人間は()()()()()()()。感覚さえ揺れて、状況で移ろうだろう。

 イーアンは。笑っていても、怒りに我を忘れても、同じ場所から動かん。命のやり取りとなれば、決めた行動以外は取らない。人間の目から見て、優しかろうが冷たかろうが、絶対的な部分を動かさない。

 細かい部分は知らんが、見えたことから言えば、あんなの、『龍族』以外の何者でもない」


「ヨーマイテス・・・彼女のことを理解して」


「変なこと言うな。知らん(※イーアン嫌い)。ズィーリーもそうだった。ズィーリーの方が、そうした意味では()()も安定していたかもな。だが、内側は同じだ。何があっても、決めてあることは絶対に揺るがなかった。

 ズィーリーは。常に、顔が変わらない女だった。態度も。戦う時も顔が変わらん。違いは表面的な性格くらいだ。イーアンのように()()()()()()()()


 成るべきものが備わっていたんだ、とヨーマイテスは教えた。

 息子はどうやら。自分の思考と、イーアンが思ったことを比較して、自分に物足りなさを感じたようだった。


「もう寝ろ。疲れたんだろ?」


 獅子になったヨーマイテスは、息子を寄りかからせて休ませる。自分を比較するなと教え、黙って頷いた息子にそれ以上は喋らなかった。


 シャンガマックはこの夜。獅子の暖かい毛の中に埋もれて、うとうとし始める中で。


 自分はすぐにそう思えないことが多いけれど、きっと、自分にも『成るべきして、辿り着く姿』があるのかもしれないと思えた。


 そこに着くまで、一体どれくらい、こんな思いを繰り返すのか・・・・・


 まだ始まったばかり、ということだけは分かる。

 そんなことを考えながら、思考は途切れ、詰め込まれた一日は、ゆっくりと眠りに連れて行かれた。

お読み頂き有難うございます。

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