表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
力の属性
1144/2961

1144. 別行動:山脈の人々 ~到着と問い

 

 テイワグナに出発した旅も、六十七日目の午前。

 ドルドレンたち(※主にフォラヴと親方)が、妖精と精霊を助け、再び道を戻して、次の町ヒンキラへ向かう頃。



 白と青と黒に包まれた絶景に、シャンガマックは到着していた。雪が残るこの場所に立つと、テイワグナの猛暑が信じられなくなる。


 影の中から見える、牙のような山脈の頂に切り取られた青空。白銀の山頂が輝くそこは、ハイザンジェルとテイワグナの国境近くだった。ヨーマイテスに連れて来られ、あっさりと着いた山々の足元に広がる黒い影の中で、シャンガマックは感動していた。


「素晴らしい。美しいな」


「そうか。寒いとか。そうしたことはないのか」


「少し寒くはある。だけどヨーマイテスが一緒だから。この()()()()した毛が」


 そう言うと、背中に乗せてもらっている騎士は、大きな獅子の背中上も覆う、長く豊かな(たてがみ)に、ばふっと埋もれた(←クセになる)。


「俺は体温がない。何がお前を温めるかも分からんな」


「温かいよ。体温がなくたって、これだけの毛があれば気持ち良い」


「お前は・・・無欲だ」


 そんなことはない、と笑顔で鬣に顔を埋め、幸せそうにスリスリ頬ずりするシャンガマック。

 自分は恵まれているなと毎日思う。こんなに大きな獅子の父親がいて(?)こんなに楽しい体験が出来る。

 優しいし、力強いし、何でも知っている。どこへでも連れて行ってくれるし、知恵も沢山教えてくれる。

 謎めいた戦士のような姿でも、雄々しい獅子の姿でも。どちらのヨーマイテスも大好き(※ネズミ忘れてる)。



 ――シャンガマックが、まだ子供の頃。部族で山猫を飼っていた。


 大きな山猫が人を襲ったので、それは悪い霊が憑いたとされ退治された。困ったことに、その子供が後からひょこひょこ現れた。

 子供の山猫は、当時、幼い兄弟の多かったシャンガマックの家が、世話をすることにした。


 あの時の山猫を思い出す。ショショウィを見た時も、思い出した(※976話後半参照)。

 ショショウィは山猫型の精霊なので、大きさも雰囲気も近いが、触るのに難しい。だから、ヨーマイテス(※獅子状態)のように抱き締めることが出来ると、嬉しい思い出が蘇る・・・・・


 獅子をぎゅーっと抱き締めて、頭も埋まるくらいの量の(たてがみ)の中で深呼吸(※子供と一緒)。シャンガマックは、本当に幸せだった。



 もう到着しているので、下りても良いのだが。


 言い難いヨーマイテス(※山脈の人影探しに来たはず)。息子が・・・よく分からないが幸せそうなので、『着いたんだぞ』も言えなければ、『下りないのか』も言えない。


 ひたすら首を抱き締めて(※苦しくはない)ぎゅうぎゅう腕を締めては、嬉しそうな深呼吸が聞こえる。


「太陽の匂いがする・・・!」


「そんなわけないだろう。俺たちは、殆ど影に居たんだから。夜の間に動いて、夜中にお前を寝かせて、朝方にこの近くまで移動したんだ。太陽なんか受けてもいない。大体、俺が太陽の真下なんて(※正論)」


「いいんだ。俺がそう思うんだから(※決め付けるシャンガマック)」


 幸せそうに遮られ、黙るヨーマイテスは、息子が何かを思い出していそうだと理解する。

 そして多分、俺と()()()()()()()なのではないか・・・それを思うと眉が寄る(※獅子だから顔分からない)。


「おい。バニザット。そうしているのも良いがな。お前、俺とその辺の動物を一緒にしていないか」


「していない。昔、シコバという名の山猫がいた。とても可愛かった」


 一緒じゃないか!と怒るヨーマイテスに、シャンガマックは続きを聞くように言い(※父は黙る)話を続ける。


「怒ることじゃない。シコバは、俺の大好きな山猫だった。名の意味は『白い花』だ。白い体で、本物の花みたいに可愛かった。

 俺も、シコバも子供だった。よく一緒に遊んで、それは人間の友達と何も変わらなかった。シコバは俺の友達だったし、兄弟だった」


「それと。()()()()()()()()()()()()()理由は、どう」


「ヨーマイテスは、俺の父だ。人間の父も勿論いるし、人間の家族もいる俺だが、ヨーマイテスは異種族でも俺を息子と呼んで、大切にしてくれる。

 俺もヨーマイテスが、同じように俺の父として大切だ。種族なんてどうでもいいんだ。愛情があることを伝えたかった」


 満足そうに喋り終えた息子は、そこで話を終えて、再びぎゅうぎゅう・・・・・


 どうもピンと来ないけれど、『ヨーマイテスを、家族と看做しての行動』とした意味か、と捉えることにした(※分かるのそれくらい)。


 もう、深く考えても、バニザットの感覚と違う部分もあるし、小さなことで困るのも望まないので、ヨーマイテスは諦める(※息子に対してだけ理解ある)。


 到着しているにも拘らず、騎士が一向に背中から下りようとしない上、嬉しがって(たてがみ)に頬ずりを続けるため、獅子は暫く、その場で佇んでいた。



 そして―― 嬉しいには嬉しい。だが。


「おい。もうそうして、何十分も経つ」


「ん。そうか、そんなに(※放心)。それじゃ、早く行かないといけないな」


 いい加減、動かないと、と言う父に、シャンガマックは目的を思い出して背中から下りる。

 お礼を言って(※(たてがみ)堪能)山の雰囲気を見るために、山影の外へ出て、岩壁の間を這う川原で、薄氷を踏みながら移動し、(そび)える高さを見上げた。


「この上?上なのか。総長はそう話していた。確かに山の形が奇妙だ。

 少ししか見えないが・・・周囲に比べると、ここだけ、山肌の上の方が削れているような」


「そうだろうな。俺も、上は見ていない。しかしあの、ハンパな低さ。『男龍共が消した』と聞けば、なるほどと言ったところ」


 ヨーマイテスは、何てことなさそうに答える。

 褐色の騎士も、それを聞きながら頷く。男龍が山を消した話を、総長とタンクラッドさんに聞いた。


 一瞬で山の頂が消えてしまい、その内側の窪みには、何十人もの人影があった。出てきた事実にも驚かされるが、山を消した男龍を前に、総長たちはどれくらい、畏れを持ったかと思う。


 そんな凄まじい相手と、自分たちは関わっている。シャンガマックには、真横にいる父・ヨーマイテスも同じ、想像を超える相手。自分が共に生きる意味を思う。



「行くか。ここから見ていたところで、(らち)も明かん」


 ヨーマイテスは、山を見上げたままの息子に、そう声をかけると、人の姿に変わった。

 この姿の変え方も、毎回見ていて、毎回感動する。イーアンが龍になるように、光に包まれてポンと変わる(※簡単そう)のではなく、ヨーマイテスはめきめきと体の部分を変化させる。生々しいというか、肉体的な(おそれ)を感じるのだ。


「何をぼんやり見ている。来い。お前を抱えて移動する」


 獅子じゃ掴めないからな(←肉球)と呟く父は、褐色の騎士の体を片手に抱えると、山の亀裂に入り、その崖を跳び上がり始めた。


「お前は獅子の方が好きか」


 蹴り跳びながら訊ねるヨーマイテスに、どうしてと聞き返す騎士。ちらっと見た碧の目が、面白くなさそうに見える。


「俺が獅子の時は、首に抱きつくだろう。さっきもそうだ。最近、そればかりだ(※ビミョー)」


「気持ちが良い。フカフカしていて温かいから」


「この俺の姿だと、温かくないからか(※温度の問題)。今も俺がこの姿になるところを見ていた。獅子の方が良いみたいに思える」


「それは違う。姿を変える場面が素晴らしいと、いつも感動している。だからつい、見てしまう。

 それに人の姿の。このヨーマイテスも大好きだ。とても強い、とても荘厳な印象がある」


 うっかり誉められて、機嫌が直るヨーマイテスは、危うく足を踏み外しそうになり、急いで蹴り上げる(※父照)。


 何も答えないで、表情も変わらず、現場を目指して上がり続ける父に抱えられ、シャンガマックはニコッと笑った。


「俺もここまで、仲良くなった相手がいない。だから、もしかすると、表現する態度が充分ではないかも知れない。

 だけど。俺はヨーマイテスが好きだし、それは獅子でも人の姿でも、どちらでも同じくらい好きなんだ。どちらも尊敬している」


「分かった」


 焦げ茶色の大男は短く返事をし、表情を一切変えずに上へ上へと近づく。


 シャンガマックは抱えてもらっているだけで、何も大変ではないが、あまり長く喋ると舌を噛みそうなので黙った。

 ヨーマイテスも黙っているが、でも、自分を抱えている腕の力が強くなったので、きっと父は喜んでくれていると判断した。


 大男は金茶色の髪をなびかせて、疲れも知らずに進む。表情には出ないし、尻尾もない姿(※人)だから、全く判断に難しいが、心の中ではとても喜んでいた。



「着くぞ」



 何かを感じたようなヨーマイテスは、さっと顔つきを変えて警戒するように横を見る。

 どうしたのだろうと驚いた騎士に何も言わず、それまでより強く、ドンッと蹴った岩壁から、向かい側の岩壁へ跳び、その岩壁に向かって吼えた。


 仰天するシャンガマックは目を丸くして、しがみ付く。突然吼えた父は、その咆哮によって岩壁に穴を開け、中へ滑り込むように飛び移った。


「この上だぞ。ん。どうした」


「いや。ちょっと驚いたから」


「何がだ。今更」


 可笑しそうに鼻で笑って、ヨーマイテスは息子を腕から下ろすと、彼の顔を見て『怖いか』と訊ねる。騎士は首を振って『怖くはない。畏怖がある』そう答えて微笑んだ。父も微笑み返し、頭を撫でた。


「これからも起こることだ。慣れるだろう」


「うん。一緒にいれば慣れると思う」


 フフフと笑った大男は、彼の背中を押し、真上の岩盤を見せる。『いいか。この上。そこに、人の気配がある。しかし、誰一人生きていない。とは言え、死んでもいない。お前は壊すことを望まないな?』確認を促す。


 総長の話していたことをそのまま繰り返され、頷く騎士。緊張するが、ヨーマイテスは何か案がありそうなので、任せる。

 ヨーマイテスも小さく頷くと『だろうな』ふっ・・・と、上に向けた目を細めた。



「もう一つ。確認してやろう。()()()気にしない。だが、お前は気にした。

 それを思えば、お前が決定した方が良い。これは恐らく、ドルドレンたちでは及ばん。お前に訊くのが正解だ」


「何を?何かとても、大きなことのように思う」


「どうだろうな。しかし、教えてやる。

 お前はこの人間の形をしたものが、()()()()()ことが出来ると知ったら、どうする」


「何だって?」


「焦るなよ。もう少し教えてやろう。簡単に言えば、こいつらは抜け殻だ。中身がない。生きるための中身がないんだ。

 それを戻すことが出来るだろう。だが、簡単じゃない。こいつらの人生の時間が戻ったとして、こいつらの()()まで、お前は考えられるか、どうか」


「それは」


 シャンガマックは鳥肌が立つ。どういう意味なのか。まるで『命を戻せる』ような話を、父はしているのだが、続きを考えるとは、一体。


 上を見たまま話していた焦げ茶色の大男は、息子の問いかけに、彼を見つめた。


「こいつらが。命を取り戻したとして。それが良いことかどうか、だ。俺には分からん。

 ・・・・・人間には、住処や食事、四六時中、他人と居たがる性質がある。体も弱い。それらが、この場所に封じられた人間たちにも、あっただろう。

 命が戻ったとして、()()()()は、今言ったことが問題なく、手に入るのかどうか・・・に、よるんじゃないのか?」


 サブパメントゥの大男の声は低く、シャンガマックの耳には、普段の彼を相手に話しているように聞こえない。もっと、遠い存在に問われたように思えた。

 その内容が、急に自分に許可を示されたようで、唾を飲む。



「バニザット。お前に訊くのが正解と俺が思った理由は、ドルドレンは甘いからだ。『希望』と『甘さ』の違いが見えていない。『可能性』と『希望』も違う。

 タンクラッドは付き合いがないから知らないが、あの男はここの状態を知れば、()()()()()()ようにも思う。棲み分けを理解していそうだ。

 ミレイオは・・・分からんな。手を出さないことを選ぶとも、そうじゃないとも言える。サブパメントゥらしくないヤツだし。


 バニザット。お前は、彼らとまた違う。甘さもあるが、魂の行方を感じている。

 お前は、自分の中に同時に発生したとしても、未熟な甘さより、()()()()に重きを置く。俺を選んだように」



「ヨーマイテス。俺は、彼らの・・・今、この上にいる人々の()()を決めるのか」


 恐れたシャンガマックの表情に、大男はゆっくり首を横に振った。


「違うな。この上にいるのは人間の形をしていて、人間じゃない。意味が分かるか?

 生きていない。死んでもいない。それは命じゃない。人間でもない。再び命を戻せば、そこから先に時間が続く。

 お前が決めるのは、()()()()()()()で、命を戻すかどうか。そこだ」


 命と存在。それを感覚的に捉えた時、人間(自分)サブパメントゥ()に、はっきりとした違いがあることを、シャンガマックは理解する。問われた意味も、しっかりと理解した。



「分かった。まずは彼らを見てからだ。見てから決める」


 答えた騎士に、その理由を訊ねるヨーマイテス。見てからでは、情が湧きそうだろう、と言うと、騎士は否定した。



「生きていくことが出来ない状態であれば。俺は、その体に命を戻してほしいとは思えない。

 それは俺の一存ではないはずだが、この場においては俺の判断である以上、俺が見て決める」


 シャンガマックは的確に条件を告げる。父はそんな息子の顔を見つめ、彼の頭を撫で『俺の息子よ』と頷いた。


 ヨーマイテスはもう一度、腕に騎士を抱えると、真上の端の方に吼えて穴を開け、そこへ跳び上がった。

お読み頂き有難うございます。


シャンガマックの幼少時の思い出、ヤマネコの「シコバ」。絵を描いたのでご紹介します。



挿絵(By みてみん)



仔ヤマネコの時から一緒だったので、シャンガマックはシコバをとっても可愛がりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ