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魔物資源活用機構  作者: Ichen
力の属性
1141/2959

1141. フォラヴに相談

 

「あんた。フォラヴに何か」


 ミレイオは驚きながら、腕を伸ばしてフォラヴに縋ろうとする女に訊ねる。女は何度も頷いて、黒い馬が夕闇の中を近づいてくるのを、待ちきれないように焦る。



「何なんだ。俺に用かと思えば、フォラヴ?コルステインのことは、どうしてくれるつもりだ!」


 憎々しげに吐き捨てるタンクラッドに、また怯えて目を瞑る女。ミレイオも、触って平気か分からない相手なので、直には触れないが『ちょっと離れなさい』と女に手を払って教える。


「こいつにもう、用ないんでしょ?フォラヴでしょ?」


 だったら離れて、と困った顔を向けると、女は理解したようで少し親方と距離を取る。


 それはそれでムカつく親方。『責任取れ』と、キーキー文句を言う。ドルドレンが来て、そっと親方の腕を引き、自分たちの方へ引き取った(※親方は怒りっぱなし)。


 タンクラッドは憤慨中で、ドルドレンに『お前だって俺の立場なら』と八つ当たりし、分かる分かると流す総長の横、さっとイーアンを見て『イーアン、お前なら分かるだろう』とか何とか。


 イーアンもじっと親方を見つめ、『私。コルステインの立場ですから』冷えた低い声で返す(※自分近寄れもしないから、いつもはじかれ系)。


 イーアンにまで、どういうわけか冷めた目で見られ、親方は首を振って『何言ってるんだ』と、イーアンにも誤解をするなと近寄るが、イーアンは『してませんよ』の返事と共に、つるる~っとオーリンへ逃げた(※オーリンの背中の後ろに隠れる)。


 俺が何した、俺はとばっちりだと怒り続ける親方と、彼を宥める総長を後ろに。



 近くへ来たバイラとフォラヴは馬を下り、騒ぐタンクラッドと、見知らぬ女性を見てから、ミレイオに事情を訊いた。


「急に。そうでしたか」


「あんたと話したいんじゃないの。見て、ほら」


 女はフォラヴの側へ来て、おずおずしながら見上げ、両手を組んで頭を下げた。フォラヴは微笑んだが、ミレイオを見て『彼女は会話は』と言葉を発さない点を訊ねる。


「喋れないんだと思うけど・・・頭の中でも会話出来ないわよ」


「それは困難ですね。どうしましょう」


 フォラヴは彼女の頼み込むような表情を見つめ、少し考えてから『場所を変えましょうか』と話しかけた。さっと後ろを見て、まだ騒いでいる様子を確認し『別の場所で』ともう一度言うと、女は了解した。


「ここですと、タンクラッドが怒りそうですから。少し離れます」


「そうね。そうして。何か食べれば、落ち着くわよ(※食わせれば鎮まる親方)」


 笑って送り出したミレイオは、バイラに『お疲れ様』とねぎらい、彼の話は夕食時に皆に話してと頼んだ。

 そして(やかま)しい親方の横を通り、焚火にかかった鍋を見て『出来たわよ』と聞こえるように言う。

 親方は、一時的に止まった(※空腹)。



 フォラヴと女が、離れた場所へ移動した後。焚火を囲んで皆で夕食。バイラの話を聞きながら、むしゃくしゃしてたタンクラッドも少し、謎でも解けたような表情に変わる(※多めに食事もらった)。


「それじゃ。もしかすると、あの女は」


「って可能性もありそうでしょ。あんたさぁ、何だっけ。『時の剣』と似たような力なんでしょ?何でもあり、みたいな」


 ミレイオに言われて、タンクラッドは嫌そうに『適当な言い方でまとめるな』と注意した。無視するミレイオは続けて質問。


「あの女、あんたに触れなかったわよね。だから、触るのはマズイんだと思う。

 だけど、あんたが何か変だから、どうにか自分の目的に使えるかもって」


「変って言うな!使えるとは何だ!」


 親方の横に座るザッカリアが、怒る親方を見上げて『あんまり怒っちゃダメだよ』と注意。さっと向いた剣職人に『怖いよ』と悲しそうな顔をすると、剣職人は仏頂面で頷いた(※子供と動物に弱い男)。


「でも。タンクラッドの能力は、少々風変りです。あの女性がもし、精霊か妖精なのであれば」


「あ、イーアン。彼女は多分、精霊です」


 何かを思いついたような女龍の言葉を少し遮り、バイラがぽろっと伝える。イーアンは『え?』と顔を向ける。皆も『え?』。バイラは皆の視線を集めて驚き、少し見渡してから笑った。


「精霊だと思います。そんな気がします」


「バイラは分かるのか。イーアンも分からない。ミレイオも分からない相手を」


「ええっと、そう訊かれると自信はないですけれど。精霊の雰囲気だから・・・だけど、ショショウィとも違いますね。また細かい分類は、複雑なのでしょう」


 総長に訊ねられたバイラは、テイワグナで精霊と思われている姿を説明する。人の形だと、似ているけれど色が違うとか、色に特徴的なものがあるとか。全く人の姿じゃないなら、もっと自然を模している。


「だから、精霊と思われている相手で、ショショウィみたいな姿の方が知らない類です。ショショウィは雰囲気こそ不思議ですが、パッと見てすぐ、動物かと思いますものね」


「そうなのか・・・じゃ、妖精だと思う相手は」


 タンクラッドに質問されて、バイラはちょっと考えてから『そうですね』と一般的な認識を伝える。


「フォラヴは言われてみると、妖精の雰囲気かな・・・だけど彼も見た目は、『()()()()()()麗しい人』でしか。そう、ですから彼は、人の範囲です。

 妖精は、人の姿でしか認識されていないと思うのですが、ただ、花びらや羽があるとか。

 ああ、そうだ。動くと光る、って概念も。こう、月の光で水面がキラキラするような、あんな具合の光り方をしていると教えられますね」


 バイラは、妖精は子供のように無邪気で、よく笑うし、ふざけたり遊んだりもするが、精霊はそうしたことがないような、そんな話もしてくれた。



「これという決定打はないにしても。そうか。テイワグナの国民らしい・・・雰囲気で感じ取れるのか」


 タンクラッドに言われて、バイラも『そうだと思う』と答える。タンクラッドも、何となく理解出来た。


 ノクワボも精霊の類で、ショショウィも地霊。そしてあの女も。共通点らしいものが、見て分かる形ではないが、彼らは多様なのだ。そして妖精のような幻想的な印象ではなく、もっと現実味のある姿なのだろう。


「フォラヴ。大丈夫なのかしら?あの女は妖精でもダメってことじゃないの」


「そこはどうなのでしょうね。私が相手でもフォラヴは何ともありません。私が平気ということは」


 ミレイオの呟きに、イーアンは『フォラヴの姿が人間である以上は』無事ではと答える。


 皆は、焚火を囲んで食事を進める間、ずっとこの話を続けた。

 タンクラッドも少し落ち着いて(※腹8分目)ちらっとイーアンを見る。目が合って、女龍が見つめ返したので、手招きして呼んだ。


「お前に頼みがある」


「何でしょうか」


「コルステインを呼び出して、俺の代わりに事情を話してくれ。あいつはお前なら話を聞く」


「あらやだ。私に(なす)り付けて」


「あらやだ、とは何だ。親方が困っているんだから、どうにかしろ」


 無理を言う親方に、イーアンは、えええ~~~と嫌そうにするが、結局、押し切られて渋々。コルステインとお話してあげることになった。


 仕方なし、親方付き添いでコルステインと話すため、食後のイーアンは馬車の暗がりへ。

 ドルドレンとザッカリアとバイラは、ミレイオのお手伝いで夕食を片付け始める。オーリンは弓作り。



「フォラヴ。帰ってこないわね。大丈夫かな」


 どうしたかな、と食事を皿に移しながら、ミレイオが気にする。ザッカリアもちらちらと林の方を見ていて、『何か見えるよ』と教える。


 どこどれ、とミレイオが見ていると、離れたところでフォラヴを見つける。『戻ってきたのかしら』あの女、どうしたのかねぇと言いつつ、ミレイオはちょっと迎えに出る。



 フォラヴが暗い中を歩いてきて、ミレイオに食事を抜けたことを謝った。


「いいのよ。食べれるなら、食べて」


「あの方は今夜。私と一緒に過ごします。お食事は申し訳ないのですが、タンクラッドに(※処理係)」


「ん?それは良いけど。どこで寝るの。あんた、野外で寝るなんて無理でしょう」


「それなのですが」


 ミレイオには話しておきます、と妖精の騎士は言い、ミレイオから皆へ伝えてと頼んだ。


「あの方は、今日私が見た祠の、精霊でした。

 そして、不思議なことなのですが、彼女の・・・大切な人と呼ぶべきか。その祠の後ろに立っていた、大きな木。それが彼女の大切な、妖精だったのです」


「へ?何?よく分からない。バイラに少しは聞いたけど。祠、壊れてるんでしょ?倒木で」


「そうです。地震で大樹は倒れてしまい、妖精は何かに閉ざされてしまいました。恐らく、です。

 聞き出して、彼女の反応だけで判断していますから、正しいかどうかまで言い切れません。

 彼女の祠は、倒れた木の衝撃で崩れ、屋根が壊れ、彼女が住まいとしていた場所が消えました。妖精も現れません。困った彼女は」


「誰か。助けてほしくて、ってこと?タンクラッドに頼みに来たのは」



「これも推測です。タンクラッドは、何かを取り除く力があるのです。それは私でも感じます。あの方の側へ行き、力を使うと、きっと彼は私の力を消してしまうでしょう。彼がその気になれば。


 あの女性は、それに気が付いたのです。ショショウィに比べると、反応が敏感です。

 彼女は、ここより離れて動けないため、同じ地霊の類だと思いますが、能力が高い精霊かも知れません」



「あ・・・じゃあ。タンクラッドに頼んで、妖精を助けてもらおうと」


 はい、とフォラヴは頷く。でも、女性は会話が出来ない。

 人の言葉は話しかけられ続けて理解出来ても、自分が話すことはしなかったのだと思うと、伝えた。


「あら・・・そうなのか。ちょっと気の毒ね」


「本当に。コルステインが怖かったようです。コルステインの名も存在も知りませんが、イーアンを怖がっていたので、続いて分かった反応から『翼のある大きい人ですか』と訊ねると頷いて。

 それは思うにコルステイン、と。とはいえ、妖精を助けたくて、彼女は必死で」


「うわ~可哀相。タンクラッドが、バカみたいに怒鳴り散らしたから。すごい怖がっていたの。

 コルステインが来てさ、あの女を見て、やきもち妬いて帰ったから。それであいつも怒ってさ」


 それを聞いて、同情するフォラヴ。女性に同情。ミレイオも同情。


 とにかく。こうした経緯を知った以上は、ミレイオはフォラヴに『どこで寝るの』と、それは確認。布団持って行くか(←母親の心境)と言い出して、フォラヴは笑って断る。



「いいえ。大丈夫です。彼女は土地の精霊で、私も()()()()であれば問題ないため、彼女の用意して下さる『葉っぱのベッド』で眠ります」


「そう。葉っぱ、キレイなのにしてもらいなさいよ。で?どうやって助けるつもり」


「それは明日。朝にタンクラッドにも協力して頂きます。今夜はさすがに」


「言えないわねぇ~」


 二人で笑って頷き合い、ミレイオは了解してフォラヴの安眠を祈る。フォラヴも皆に『では、朝食時に』と微笑むと、また暗い林へ戻って行った。



「ふぅん。不思議なことも、あるもんね。精霊と妖精って一緒にいられないと思ってたけれど。

 次々に例外が出てくる。っていうか・・・例外じゃないのか。私が知らないだけで」


 面白そうに呟いたミレイオは、妖精の騎士が見えなくなってから、馬車へ戻り、ドルドレンたちに話して聞かせる。皆、精霊が可哀相だと口々に同情した。


 コルステインと無事に仲直り(?)した親方を置いて、お役御免で戻ってきたイーアンも話を聞き、女性の行動に気の毒がった。


「私は近寄ることも出来ませんけれど。もし何か力を貸せるなら、私は何でも」


 そう言ったイーアンに、ミレイオは微笑み『龍の力は強くて難しいかも』と角を撫でた。


 この夜、フォラヴ以外、オーリンもミレイオも馬車で休む。旅路が動き出した途端の出来事に、皆がそれを意識した夜になった。

お読み頂き有難うございます。

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