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魔物資源活用機構  作者: Ichen
力の属性
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1131. 旅の六十四日目 ~指導する人

 

 イーアンは一晩考えた。朝一で、ベッドを降りて、荷台でゴソゴソ。幾つかの袋を用意し、イオライで以前、買った小さな缶も幾つか用意。


 それから、作ったままになっていた、手袋を2つほど出して、荷物準備は完了。



 準備が済んだので、いつものように食材と調理器具を運び出し、教える内容を考えながら焚き火を熾し、料理を始める。

 昨晩は、ミレイオも馬車に泊まっていたが(※必然的にドルは大人しく眠る羽目になった)疲れているのか起きてこないので、朝食を作っている間は、思いがけず一人で考え込む時間を得た。


 ――多分。イェライドなら理解する。


 そう思えた。勘みたいなものもあるが、彼は誰より早く、ああしたものを『武器』として使えると判断したのだ。そして使った。


 だから、安全な扱いや注意点など、宿屋に来てくれた際には丁寧に説明した。彼はきちんと聞き、ちゃんと理解出来るまで、何度も繰り返し、細かい点も訊ねた。

 あれだけ身を入れて聞いてくれるなら、きっと閃きがあっても、注意は怠らないだろう。すぐに実験などはしないはず。



 お空へ行って、戻って来て午後。イェライドに教えることに決めた、イーアン。オーリンにも話しておこうと思う。

 イェライドは家族がいて、子供もいる。安全が第一である。誰が相手でも安全第一だけど、教えるには一番リスクが高い『最初の人』ポジションは、こっちも煩いくらいに、きちっと伝える必要がある。


 それで、その後の安全が守れるなら。慎重に越したことはない。


「よし。頑張りますよ」


 お鍋まぜまぜ、イーアンは片手の拳を握る。授業が出来るような勉強、一回もしたことないけど。

 異世界ではお役に立てる、我が身のささやかな知識である。


 気合を入れて『授業』に挑もうと、決意したイーアンは、ちょいちょい味見して、味の調整にも手抜かりなく終えた。



 こうして朝食の時間。遅くに起きて来たミレイオは『ごめん』と笑う、挨拶が最初。

 最近、連続でやることがあったから、どうにも起きれなかったねぇと、中年らしい苦笑い。


「今日はサブパメントゥ行くかな。ちょっと体力回復して来ないと」


 ヤバイなぁ、年だなぁと、イーアンがよそってくれた料理を受け取りつつ、ミレイオは本当に疲れが溜まっていそうな顔で言う。

 それはタンクラッドも一緒。皆、疲れが抜け難い。タンクラッドも、首をゴキゴキ鳴らして『あー』と気だるそう。


 ドルドレンとフォラブは、とりあえず無事。バイラは30代だが、仕事上、精神的に疲れが蓄積している様子で『眠い』と何度も呟いては、困ったように笑っていた。


 イーアンは龍気頼みなので、龍気さえ戻れば、普通の人間の時のような疲れは少ない。これで龍気なかったら、きっと自分は真っ先にへたばっている気がした(※胃も壊したことある)。



 皆で疲れた疲れた言いながら(※呪文)朝食を終えて、今日の予定を話し合う。昨日と同様で、バイラもドルドレンたちも撤去作業。殆ど壊したという話なので、イーアンは午後の呼び出し待ち。


「他にも解体が必要な場合は、きっと呼ぶことになると思います」


 バイラは『民家も多分、解体になるだろう』と言った。隣接地は共倒れになっていて、そういう家屋は、一度全部どけないと、新しく立て直すことも出来ない話。イーアン、了解。そして自分の予定も報告。


「私の予定ですが、今日は午後。炉場にいると思います。イェライドに()()の説明をしたいのです」


 そのため、オーリンも呼ぶと言うと、ドルドレンたちは詳しく聞きたがった。

 さっくりと、内容と発端の思いを伝え、皆が同意してくれたので、午後は炉場と決定。

 タンクラッドとミレイオも炉場作業なので、『午後ね』の挨拶と共に、朝食片付け後に出発する。


 何を、どうするつもりなのか。オーリンとも相談したい。その時間もあるから、イーアンは早く空へ向かった。



 *****



 朝の食事は、南の遺跡方面も同じ。


 朝方、シャンガマックが目を覚ました時には、満天の星空の下で眠っていたのが、岩棚の下に転がっていて、ベッドも消え、ヨーマイテスは居らず、おまけに何かが焼ける臭いで目が覚めた(※魔法が解けたシンデレラ状態)。


 何だろうと目を擦ると、岩棚奥の暗がりから『起きたか』と声が掛かった。振り向くと獅子がいて『あれを食べろ』の指示が出る。


 あれ?どれ? 岩棚の影から出て、煙が見えた方に顔を向けると、昨日とは違う水鳥で、枕くらいの大きさのが、青白い炎に突っ込まれていた(※羽付き丸焼き)。


 昨日の1m以上の鳥に比べれば、見た目は小さいのだが、でも量が凄い。

 昨日は大きいのが一羽だったのに、今日は小さいからか、炎の中に6羽くらい積まれていて、これまた儀式めいていた(※そうとしか見えない)。


 獅子に丁寧にお礼を伝え、シャンガマックは側にあった折れ枝で、丸焼きの鳥を引っ張り出すと、ナイフで切りながら頂戴した。

 近くに水もあるので、水と肉が揃っている。これで塩があれば最高だ、と思う朝食(※純粋に肉味)。


 ヨーマイテスは暗い影に入っているので、幾つか肉を切って運び『食べる?食べない?』毎日は食べないかな、と思って、どうするか訊ねると、普通に口を開けた。


「食べても別に、具合が悪くなったりはしないんだな」


「しない。どうともならない。食事の必要もないし、食べて影響もない」


 獅子はもぐもぐ食べて、尻尾はパタパタしていた(※喜)。それが可愛いので、シャンガマックはちょっと笑って、父の側に肉を持ってきて一緒に食べた。


 鳥は、飼育でもしないと、胸肉くらいしかまとまった肉は食べれない。走り回る地上性の鳥なら、足も肉はあるが、水鳥にそれはない。

 でも6羽分もあれば、健康な成人男子でも、そこそこお腹はいっぱいになる。


 獅子にあげる度に『俺ではない。お前の食事だ』と言われるが、一緒に食べるのが嬉しいシャンガマックは、朝食を少しずつ獅子にあげて、大きな口がちっちゃな肉でも、きちんともぐもぐしているのを見て楽しんだ(※飼育員気分)。



 食事を終えた後、獅子は息子に今日の助言を与える。


「お前はこれから。あの遺跡へ行くだろう。中へ入ると、殆ど床がない。しかし、地下がないから落ちることもない。

 割れた床の上を歩けないだろうから、お前は壁沿いを伝う。そうすると、上から見て分かるだろうが、左に伸びる屋根があったな。あの屋根の下は通路だ。通路の先が墓だった場所で、そこは段が上がる。

 数段上がったところに、一部屋があり、その部屋の中はがらんどうだ。

 その中を見て、お前はすぐに気がつく。棺は置かれていなかったことを」


「置かれていない?墓なのに」


「そうだ。棺はお前を迎えるように、段を上がって目にする、奥の壁に()()()()()


 立っている・・・どんな状態の棺か分からず、褐色の騎士は眉を寄せる。その漆黒の瞳を見つめ、獅子は静かに教える。


「もっと正確に言えば、棺は壁に埋め込まれている。蓋はされているが、壊された跡がある。しかし、蓋は外れていない。

 なぜなら、お前のような相手を奪うために、その中に()()からだ」


「奪う?俺のような。居るとは?生きているみたいだ。でも壊されかけたなら」


「お前は学者に、『墓荒らし』の話を聞いた。半分合っているが、半分は間違えている。

 墓荒らしは入った。宝も持ち出されただろう。だがその奥の墓の蓋を、自分の手で開けられた者はいない。()()()()()()()、その者は息絶える」



 騎士は、ごくっと唾を飲み込む。


 自分がこれから向かう遺跡は、魔性のものかどうかは知らないが、その系統がいる。それは今も尚、誰かを待ち続け、目当ての誰かが訪れると『奪う』ことを続けているのだ。


 墓荒らしは、入って荒らして戻れたわけではなかった。


 中には『無害と判断されて戻れた』運良い者もいたかもしれないが、()()()()()()()()()()()()は、その場で死んだ。ヨーマイテスの話は、そうした内容だと理解する。


「バニザット。お前を送り出すのは、お前なら大丈夫だと分かっているからだ。

 俺はドルドレンに伝えた。お前の体も心も、傷つけさせないことを。お前は傷を受けることはない。

 行け、バニザット。倒して手に入れろ。お前の新しい力を」


「おう」


 獅子に号令を受け、褐色の騎士は気を引き締めて答える。すぐに立ち上がって、腰に剣を帯びると、遺跡へ向かって岩場を下り、木々の傾斜を進んだ。


 見送った獅子は微笑む(※顔変わらないから分からない)。


「お前なら大丈夫だ。結界を張って、すぐ。相手が魔法使いだと気がつくだろう。

 お前の相手じゃないぞ、バニザット。精霊の加護を受けたお前の敵なんて、()()()()そうそう、いやぁしない」


 ハハハハと笑った獅子は、面白そうに大きな頭をゆっくり振ると『どれ。俺の息子がどれだけ強いか。一つ、観戦しに行くか』そう言って影に紛れた。



 *****



 空から戻ってきたイーアンは、午後の炉場に入り、皆さんに挨拶をするとイェライドを見つけて『お話が』言いかけてすぐ、彼が頷いたので、イーアンも微笑む。


 オーリンが後から来て『馬車の側が良いか』と、二人を呼んだ。イーアンは心得たイェライドと一緒に外へ出て、オーリンの出してくれた荷物を、若い職人に紹介した。



「あなたの武器となる道具。どのような威力だったか、それはミレイオに聞いています」


「そうか。魔物退治には結構使えた。相手に寄るだろうが、この前のヤツは上手く作用してくれたよ」


「そうだと思います。皆がああした性質でもないのですが、それはもう、()です。私も勘でした。

 簡単に言えば、虫みたいだからこうかな、って。その程度。でもその程度でも『即、動こう』と思えるものです。そこが大切です」


「恐れるより、な」


 イェライドは親しみを込めた笑顔を、女龍に向けると『俺はイーアンの行動が分かる』と頷く。彼は頼もしいな、とイーアンもオーリンも感じた。


「では、早速始めましょう。これを見て下さい。あなたの使う道具『屑袋』の中身と似通わせたものを、私も用意しました。

 質が違うと、効果も威力も違いますね。同じような粉末で、同じような量ですけれど。はい、オーリン、頑張って」


 そこまで言うと、女龍はオーリンに振る。ちょっと笑った龍の民が引き受けて、その粉末を小さな硬い紙筒に入れた。自分の小型の黒い弓に筒を置いて、そこに石を添えた。

 この弓は、魔物材料以前に、彼が作ったもの(※403話参照)。



「ディモが作った長筒。ミレイオの銃も・・・あれらと似ている」


 原型みたいなもんだなとオーリンは言って、イェライドにちらっと目を移し、自分の小型の弓の作りを簡単に教えてから、『これであの場所を撃つ』と指差すと、石がどこに飛ぶかを教える。


「どうなるのかな」


「今すぐ分かるぞ」


 訊ねたイェライドに、ニヤッと笑ったオーリンは弓の弦を引いて弾いた。パンと音がしたと同時に一瞬小さな光が見え、その1秒後に狙った場所でガツッと音が聞こえた。


「何だ、今。何が起こった」


「言ってみれば、お前の作った屑袋が小さくなって、一点集中で作用している。ってだけの話だよ」



 実はオーリン。僅かな量で済む『火薬玉』は作っていても、薬莢は作っていないのだが、イーアンと相談した結果、役目として()()()()を用意した。


 イーアンの知っている火薬とは、今回素材が異なるが、現象は似ている状態を起こす『屑』の、その他・配合粉末。


 これを一般の人々に回すには、安全と質の保存のため、筒に入れようと決めて、医者が使う、針入れの紙筒に、火薬に似た粉末を入れた。

 この紙筒は、昨日の内にイーアンがバイラにお願いして、役場に臨時駐在してくれる医者に貰った物で、お医者さんが針を買う時に針が入っている、硬い紙の筒だった。


 この筒を小さく切った片側に、薄紙を貼って用意。そこに、粉末を入れるところから見せたのが、今の実演。

 何度か練習して『このくらいの大きさ・このくらいの量』を確認してからの代物。



「イェライド。見てくれ。()()が加わるだけで、威力は全然、桁違い。

 この意味は分かるな?お前にこれを話しているのは、お前がこうしたことに、勘が良いと思ったからだ。ちゃんと、安全を推奨して使って、決して()()()にならないよう案内しながら、魔物退治のために利用すれば」


「分かるよ、オーリン。有難う。凄いよ、凄いな。こんなになるのか」


 ディモの長筒でも驚いたのに、とイェライドはその破壊力に『致命傷』の意味を感じる。上手く当たれば、魔物も一発で死ぬかも。人が相手であれば、手軽な凶器。これを教えてもらう自分は、責任を負うと理解した。


 そしてイーアンはもう一つ出す。『これ。見たことないと思うのです』薄い黄色がかった半透明の妙な紐。オーリンは笑わないように顔を押さえる。


「あのですね。これは魔物の体の一部です。私はそれを塩漬けにし、使う時に塩抜きして」


「腸詰みたいだな」


「当たりですよ。これは魔物の腸です。解体して使えそうだったから、塩漬けにしたのです。それを塩抜きし、生乾きの時から作業できますため、こうして()にしました。

 はい、オーリン。これ着けて」


 またかよ、と笑うオーリンは受け取って、両腕を通し、肩に引っ掛けたその『腸』を装着した姿を、眉を寄せて笑う複雑そうなイェライドに見せ、『笑ってるけどな。よーく見てろ』と冗談めかして告げる。


 そして、オーリンは矢を放つ。擬似火薬不使用の、ただの石が矢の代わり。


 奇妙な腸紐を装着した格好に笑っていたイェライドが、真顔になる。『何、それ』めりこむ石と、崩れた壁の亀裂に言葉が出ない。


「こういうことも出来るんだ。魔物、上手く使うと。金属抽出だけじゃない。イーアンは普通の動物素材相手で作る使い道と。似たような試しを、幾つもやってみた。

 これ、お前笑っていたが。この()()()()()『強化装備』で、ハイザンジェルの騎士は、魔物との戦闘に挑んだ。普通の力の限界なんか超える」


 黙るイェライドは、壁の亀裂と、弓職人の体に付いた紐の綾を交互にゆっくり見ると、イーアンに顔を向けて『俺も出来るだろうか』と呟いた。女龍は頷く。


「だから。あなたに教えています。あなたはきっと出来ます」


「頑張るよ。俺が出来ることは。他には?他にもあるんだろ?教えてくれ。()()()()()()()



 イェライドの言葉に、オーリンは微笑む。


 彼は前もそう言った。父親が殺されたからと言って、その現場に近づきたくないとは言わなかった。

 今、学べるならそれを学ぶ、と不適な笑みで挑んだ若い職人に、オーリンは満足。


 今日は炉場にいるし、自分も何か作業したかったので、この際だからと、弓の強化部品を作って教えることも、午後の教えに付け加えた。


 イーアンも、彼のような若い職人から生まれる、意欲と頼もしさに心から感謝し、『他には』教え甲斐ある生徒に馬車の中を見せる。


 イェライドの午後は、知らない世界を案内されるように、全てが面白くあっという間に過ぎた。

お読み頂き有難うございます。

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