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魔物資源活用機構  作者: Ichen
力の属性
1124/2957

1124. 炉場の一日

 

 炉場に入ったイーアンは、ギールッフの職人たちに『あの日。見ていた』と感動を伝えてもらう。


 角に鈴がないことにも気が付いた皆さんは、『鈴が親しみがあって良かったと思う』とも、親しみアイテム評価の助言をしてくれた(※ビルガメスに『うるさい』と外されたことは言えない)。


 無事を喜んでくれて、戦った白い龍に感謝を伝えてくれた皆さんの中で、白い髭の職人が嬉しそうに目を細めて、ちょっと驚くことも教えてくれる。



「イーアンに、また会えて嬉しい。この前、夜の守り神にも会った。驚きの連続だ」


「え・・・(※コルステインとは言わないが)そうなのですか。大丈夫でしたか」


「美しい存在だ。初めて見たが、俺の子供たちにも伝えた。生きていて良かった」


 美しい大きな女で、男の体も持っている・・・白い髭の男とロプトンが、顔を見合わせて満足そうに言う。

 そして『晴れた夜のような体の色に、月の光の輝く髪、逞しく力強い鷲の手足と、黒い翼』に感動したその想いから――


「一生、崇拝する」


 ロプトンは若いが、その眼差しは熱い思いを宿した信仰心とも情熱とも見れた。


 白髭の職人『キーガン』と呼ばれた、50代くらいの(※実際60代)職人もしんみりと相槌を打って『死ぬ前に会えた。子に伝えたが、孫が生まれたら、これを語り継ぐ』しみじみ、異世界の王者たる、コルステインへの気持ちを言葉にしていた。


 なぜか・・・ガーレニーが気づかぬうちに横にいて、突然イーアンに『俺は()()を崇拝する』と囁く。

 頭上から降ってきた囁きに、ビックリして見上げるイーアンは『崇拝なんて必要ない』やめてくれ、とばかりに頼んだ(※ホントにビックリした)。



 ここでガーレニーが、テイワグナの男らしく(?)ざっくり堂々、質問。


「イーアンの夫は、総長か」


「はい。そうです」


「旅の仲間は限定されているのか」


「そうですね。なぜですか」


 最初の質問はさておき。ザッカリアのことだな、と思ったイーアンは『旅の仲間は()()()()()』と教える。それ以上は言う必要がないと思うが、自分も立場上(←龍)これ大事と、ここまでは押さえる部分。


「テイワグナの次もあるのか?ここが終わってもどこか、郷里(くに)ではなく続けて回るのか」


「必要があれば。なぜですか、ガーレニー」


「俺は一緒に行けるか。このテイワグナの中だけだが」


「ん?」


 イーアン固まる。この人、何の前触れもなく、何を、と固まるイーアンに、横にいた白い髭のキーガンが笑って『こういう唐突さが、ガーレニーの仕方ないところだな』と言う。ガーレニー、無表情(※微動しない人)。


 側で聞いていた、ドルドレンとフォラヴも固まった。

 ドルドレンとしては『来たか!』の警戒態勢(※『横恋慕2だ!』と目をむく旦那)。フォラヴは、彼の言いたい意味が分からないので、理由を待つ(※これが普通)。


 総長は必要ないくらいに大きな咳払いをして、さっとイーアンの前に立ち、自分を見たガーレニーに、がっちり目を合わせて、お断りする。


「一緒には行けない。間に合っている」


「人手の問題を聞いたぞ。仲間がよく足りなくなるようだが。本当に間に合っているのか?」


「ガーレニーは、()()()、作るのだろう」


 眉を寄せるドルドレンは、奥さんを死守(※まただよ~、って感じ)。

 ガーレニーは表情が少なくて、どう反応しているのか掴み難い。声も口調も変わらないので、すごくやり難いドルドレン(※『この人、生きてるんだろうか』と思うくらい反応薄い)。


 黒髪の騎士の守り方に笑っていたキーガンが、ちょっと横から言葉を添える。


「あのな。鎖帷子を作る工房が、テイワグナに3箇所。老舗っていうかな。あるんだ。その一つが、ギールッフだ」


「ふむ。だから、()()()()()()頑張ってほしい」


「それでな。残りの2箇所は、ティヤー近くと、ヨライデ近くだ。ガーレニーは、ギールッフの鎖帷子を俺に任せて、他の工房に()()頼みに行こうとしている。ギールッフ(ここ)では俺も作れるからだ」


「な。なん。何で?要らないのだ!そんなの、大丈夫だ」


「鎖帷子・・・だけじゃないと思うが。ここまで、開放的に受け入れないぞ。他の地域は」


 キーガンは、ガーレニーを見てから、黒髪の騎士に視線を戻し、ニヤッと笑ったが、その顔は本当に『普通に会いに行っても無駄』とおどけているようだった。


「ハイザンジェルもそうじゃないか?鎧工房で、いざ『鎧の質を変えてみろ』と言ったところで、受け入れないもんじゃないか?」


「あ。デナハ・デアラ」


 白い髭の職人の言葉に、ドルドレンより早く、眉間にシワを寄せたイーアン。


 瞬間的に頭に浮んだ言葉を、嫌そうに口にした。ドルドレンがさっと奥さんを見て『()()()()()()もある』と、そこに(こだ)らないように言う。


 イーアンの嫌悪感丸出し表情に、少し気になったガーレニーは訊ねる。『イヤな対応があったか』そうか?と遠慮がちに訊ねると、イーアンも目を一度閉じて、大きく息を吐いてから頷いた。


「否定的でした。まだ、魔物材料を営業で回った最初でしたから。総長のドルドレンが紹介して下さったのに、先方は、私の顔がどうとか」


「顔?イーアンの顔?何が関係ある」


 よせ、とドルドレンが追う質問を遮るが、ガーレニーもキーガンも、総長をちょっと見てから、もう一度イーアンに『なんて?』と訊ねる。彼らの顔つきに、心外そうな色が浮ぶ。

 イーアンは『私の顔が見慣れないから、信用できないと言われた』とうんざりしたように答えた。


「何て言い方だ。顔なんて、人それぞれだろう。龍の女に」


「いいえ。その時は角もなければ、皮膚の色も普通でした。ただの身元の知れない、顔の違う馬の骨でしょう」


「酷いやつらだ。職人なのか。そんなのがいるなんて。そこまで酷くはないぞ、テイワグナは」


 イーアンへの扱いに、酷い、と怒るキーガンは『テイワグナは、そんな理由で拒否はしない』としっかり教える。『持ち込んだ相手の見た目なんか、関係ないじゃないか!』他の職人も怒っている。


 思い出して、嫌な気分を顔に浮かべたイーアンに、『そんな目に遭ったとは』とガーレニーは同情した。

 横にいるキーガンも同じように同情し、首を振って『()()()()()は酷い話だ』それはいけない、ともう一度言い、『とは言え』と続ける。



「だが。他国の人間が、いくら尽力していると分かっていても。文化でもある『鎖帷子』への変更相談を、この国の職人も、すんなり受け入れられないだろうことは、想像するに難くない。

 断られるとしたら、それが理由になると思う。()()()、ガーレニーが一緒に行こう、と考えている」


 キーガンは、ガーレニーが直に説明すれば、きっとテイワグナに普及出来るだろうと言う。よその国へ行くなら、もうガーレニーに出来ることはないにしても、国内ならそれは可能であると総長に伝えた。



 この話の最中に入ってきた、親方とミレイオ。総長の、驚きと不満の()()ぜ顔を見て、イーアンの横にガーレニー、彼らを囲むように他の職人が立つのを見て、何かまた厄介な話かと視線を動かす。


 フォラヴがミレイオに気がつき『ガーレニーが鎖帷子普及に手伝う、同行願いを』と簡潔に伝えると、ミレイオは驚いたが、親方も顔が曇る。

 瞬時に、つかつかとガーレニーに歩いて行き、さっと自分を見た総長に、一度だけ目を向けた後(※両者の気持ちは一致)、鎖帷子の職人に小さく首を振って否定を示す。


「何でお前が来るんだ。同行って、簡単じゃないぞ」


「今、それを話していたところだ。鎖帷子の変更に、お前たちの誰も詳しく説明出来ないだろう」


 キーガンが先に口を開き、行きたいだけで言っている訳ではないと、背の高い剣職人に返した。タンクラッドは疲れたように息を吐き出すと、やや睨むようにキーガンを見据える。


「ザッカリアのことでも揉めたんだぞ。その上、助力になるとは言え、今度はガーレニー?回り先に懸念があるなら、一筆書いてくれ。俺たちの旅は」


「そうだな。ちょっと、無理があるな」


 気持ちを苛立たせないように喋っていた、親方の意見は遮られる。ふと皆が後ろを見ると、ザッカリアと一緒にバーウィーが来た。


「無理、と言って良い気がする。さっきの光、誰か見ていたか」


「光?外が光っていた、あれか。いや、気が付いたら終わっていたから」


 ロプトンが答えて、皆を見る。皆も作業準備だったので、顔を上げていない。

 バーウィーはザッカリアの背中を撫でて『総長のところへ』と優しく押すと、彼を総長に預け、仲間の輪に入る。

 怪訝そうに見ている、タンクラッドと総長に顔を向け、斧職人は仲間のガーレニーに向き直った。


「普通じゃないんだ。それは頭で理解するより、体感の方が強い。

 龍の女もいれば、夜の守り神もいる。特別な存在と、龍に乗って戦う騎士たちの旅。だが。

 俺たちはそれを、()()()()()()()()()かも知れない」


 さっき見た光景に、衝撃を受けたバーウィー。ああして揃ってしまった状態で、空から舞い降りる龍たちを知り、参ってしまった。


 畏怖と信仰心が強過ぎる故に、()()()とも言える影響を受けて、斧職人は、短い時間に休みながら、考えていたことを伝える。


「思っているよりも、鮮烈だぞ。こうして、イーアンや、この前の夜の守り神、騎士たちが乗っていた龍を遠目に見たり。個別に見て、感動しているのと・・・訳が違う。

 膝の力が抜けそうなほど、偉大だ。とても、普通の人間が()()()()()()良いとは。思えない」


 意外そうな顔をして、総長とタンクラッド、ミレイオは『へぇ』といった具合で、瞳に(おそれ)を浮かべた職人の変化を見つめる。



 フォラヴは一人、何となく理解する。彼だけではなく、バイラのあの信仰心。

 それはきっと、異界の存在を受け入れて喜んだ、この炉場の全員にも当てはまると感じた。『妖精と精霊の違いが、ちゃんと分かる』とバイラは話した。それは、皆の意識の隅々まで、常に行き渡っている存在だから。


 ハイザンジェルに比べて、ずっと根強く、宗教的な感性や感覚が『民族』に息づいている。


 だから、実際にその信仰対象の世界観に触れてしまうと、畏れ多くなってしまうのだ。『自分たちと世界が違う』と、感覚的に理解するのかも、と思えた。



 結局。この話は、バーウィーの一言でいきなり静まり返り、あんなにノリノリだった職人たちは、何やら恐縮したように『別の方法も考えてみるか』と言い始め、この後に『旅同行希望』の話は続かなかった。


 影響力が強い人なのかなと、ミレイオは最初に思ったが、彼らの雰囲気から、どうもそういう話ではなさそうなことを、フォラヴと同じように、心のどこかで感じ取った。

 それは、父・ヨーマイテスが地中の影に見えた時に、彼らがあっさり受け入れた、あれと繋がる理解だった。



 いきなり終わってしまった、一騒動にも似た、朝の時間に拍子抜けしたものの。ドルドレンたちは『まぁ、じゃあ』と有耶無耶で頷く。


 この流れに変わったなら、どうも自分たちに害はなさそう・・・と判断して、騎士は馬車へ戻る。

 ドルドレンは奥さんに『何かあったら馬車にいるからね』とは言ったが、親方もミレイオも揃っているので、特にもう心配はないかと思えた。



 そうして、何だか尻切れトンボの状態ではあるが、とりあえず、ミレイオとタンクラッドが側に付いて、イーアンのナイフ作りを指導協力する、午前が始まった。


 3人とも、鎖帷子の話は気にはなっていた。でも『ちょっと聞きたい』・・・それがまた、薮蛇になるのも困るので、その話題は誰も口にしなかった。


 ただ黙々と。親方が用意してやり、作り方を見せて、イーアンが真似て。ミレイオが温度を調整して、またイーアンが作って。研ぎは後だからと、ナイフを何本か作らせる、淡々とした作業が流れた。



 作業は本当に、実に効率良く繰り返され、親方もいりゃ、ミレイオもいるので、イーアンは流れ作業で言われるままに作るだけ。そうしてあっさり、昼になった。


 この間、他の職人たちも自分たちの作業に熱中していたので、朝のあれは何だったのか、と思うくらいに、炉場は生粋の仕事現場状態で、ちょっとは会話もあるものの、誰も長く話さなかった。


 実の所、イーアンは、ガーレニーに手伝ってもらえると助かるとは考えていた。


 だから、連れて行くのはちょっと無理だとしても、勝手かも知れないが、()()()()()()協力が願えるかどうか、それは聞きたくなった。


 ミンティンで迎えに行けば、一日も掛からない(※超高速設定)。だから、妥協案になるかどうかは別として、協力してもらいたい場面で、送迎するから来てもらえないかを聞いても良さそうに思えた。



 この話は、職人たちが一緒に昼を食べようと誘ってくれたお昼の時間に、伴侶にだけ話した。


 伴侶は最初、『え』の声と共に目が据わったが、『鎖帷子どころか、鎧に明るくない自分は心配ではあった』それを正直に伝えると、ドルドレンも考え込んだ。


「それ。誰にもまだ」


「言っていません。あの展開ですから、下手に話してこんがらがると困ると思いまして」


「そうだね。うん、でも。それは良いような気がしてきた。デナハ・デアラの無礼さはないにしても、言われてみれば、その道の人が説明に付かないと、今までも苦労したのだ」


 ドルドレンは、イオライセオダで『サージ(親父)の剣工房』の時も、間にブラスケッドが入り、初対面の際にはサージが付き添ってくれた』()()、タンクラッドとも話せたのだし、と小さい声で奥さんに伝える。


 イーアンも頷く。親方に聞かれないように、『私も最初は、どうしたら良いか分からなかった』と伴侶に打ち明けた。


 それはドルドレンも、一緒に工房を回る度に感じたこと。


 専門職に頼み込む時の難しさは、どこかで何か、上手く説明と流れが生まれるような、そんな手を打ちたいと考えていた。

 旅に出てからは、親方もミレイオもオーリンもいる。奥さんもちょっと変わった知識で、職人組に入るので、彼らに任せていた。これは楽で、ドルドレンとしては、肩の荷が下りたと思えた部分でもあった。


「うむ。では。彼も微妙に警戒対象だが、必要時に送迎付きで協力してもらえるか。俺が聞いてみるか」


「お願いします。私は、この話をするの、やめた方が良い気がします」


「当たり前だ。お前は何も言うな」


 ドルドレンとイーアンが話していた会話を、いつから聞き耳立てていたのか、親方がガッツリ『ダメ』と言い切って終わらせた(※地獄耳)。


 二人が振り向いて、親方をじーっと見ていると、親方はもぐもぐ食べながら『俺は、お前たちに手紙も書いた。ちゃんと受け入れる気で話を聞こうと()()()()()だ』と・・・・・二人がしおれ、言い返せなくなることを伝えた。



 この午後。お昼を終えたすぐ。イーアンとタンクラッド、ミレイオは炉場でナイフの続き。

 ザッカリアは『勉強しましょう』とのフォラヴの提案で、久しぶりに馬車の中で勉強。オーリンが来て、アオファの鱗を届けると、『俺も炉場入るよ』と職人組に参加。


 ドルドレンは、ガーレニーとキーガンに時間をもらい、先ほどの奥さんからの話を持ちかけ、彼らと相談を進めた。


 作業している面々の一日は、真剣に取り組むので、ハイザンジェル組もギールッフ組も、あっという間。


 夕方には、今日からは馬車を炉場に停留しても良いと許可も得たので、皆はギールッフの職人たちと、ちょっと長い夕食の時間を過ごした。


 バイラは日が暮れてから戻り、シャンガマックは案の定、戻ってこなかった。

お読み頂き有難うございます。

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