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魔物資源活用機構  作者: Ichen
力の属性
1120/2959

1120. 旅の六十二日目 ~朝食の楽しみ・移動と出発

 

 次の朝、早くにドルドレンは起こされる。


 馬車の扉が叩かれ、それで親方組(※親方&コルステイン)もガッチリ起きている中、ドルドレンは寝ぼけ眼で扉を開け、爽やかな部下に挨拶。



「おはよう。シャンガマック。暗いのだ」


「はい。おはようございます。この時間じゃないと、ホーミットが動けないので」


 んん・・・ホーミット・・・目を擦り、欠伸を押さえて、ドルドレンは部下の後ろに誰もいないのを見てから、よいしょと、ぼんやり馬車を降りる。


「ドルドレン。そんなに()()()で、よく平気だな」


 突き刺すような一言が真横から飛んできて、ドルドレンは暗い夜明け前の庭に、大きな焦げ茶色イケメンを発見。


「無防備って。寝ていたのだ。普通だ」


「お前たちは服がないと弱い。それなのに、体の半分出している」


 焦げ茶色イケメンは、何やら注意しているようで、大きな太い腕を伸ばすと、ドルドレンの裸の肩を掴む。

 ドキッとしちゃう、ドルドレン(※違う意味で無防備)。『え、何』少し驚いて訊くと、強面イケメンは首を振って眉を寄せ『体くらい守れ』と。


 大変に分かり難いが。どうも、状態を気にしてくれている発言と受け取り、ドルドレンは頷いた。


 焦げ茶色イケメンは、ドルドレンを離すと、褐色の騎士を引き寄せて両腕に包み(※騎士無抵抗)呆然と見ている総長を前に、無表情で用件を伝える。


「これから南の遺跡だ。今日、相手の学者が来ているかどうか。どれくらい向こうにいるのか、それは知らん。だが、俺が一緒だ。何も気にするな」


 お前たちは自由にしろ、と命じられ、ドルドレンは『この人、こういう人』と認めて観念する(※実の息子が『仕方ない』って言ってたから諦める)。


「すみません。総長。でも、もう一つ言っておかないといけないことが」


「バニザット。黙っていろ。俺が言う」


 何となく、息子さんを矢面から守ろうとするお父さん的発言で、ホーミットは騎士を止めると、もう諦めモードの目が死んでいる総長に『(ついで)にな』と言う。


 何と。リーヤンカイへ、ホーミットが息子さん(←部下)と確認に向かうと言うではないか。


 それにはさすがに『ちょっと待て』となり、『お前だけじゃ、あの異様な状態には』部下が堪えられると思えず、止めに入るドルドレン。


 しかしそこは、お父さんが出てくる。『何も気にするな、と言った』冷たいくらいの重い声で、焦げ茶イケメン(※略)がドルドレンを止め返す(?)。



()()()()だ。バニザットが、この体に傷を負うことも、心に傷を負うことも、俺は許さん」


 ぬへ~~~っ カッチョエエ~~~~っ!!! ドルドレン完敗(※起床直後)。


 お父さんの守り具合が半端ない。

 そう言われて、シャンガマックもちょっと嬉しそうに頷いている・・・誰より、照れ屋さんだった部下が。

 もう、いろんな意味で渡しちゃった(※危)んじゃないか、と思える従順さを見せている。


「ああそうなの」


 総長は、口から魂がはみ出ているような、気の抜けた感じの棒読みで返す(※『もう、俺の範疇を越えている』と理解)。


 そして、まぁ。ここまで来たら、リーヤンカイへ行くのも、シャンガマックは気がかりだが、ホーミットなら人間のような反応もないかと、任せやすい気もしてくる。


 おかしなことをしようとしても、シャンガマックが止めれば、彼の言葉は聞きそうだし。


 すぐにでも向かいたいくらい、心配だった山脈。

 強烈な力を持ち、偏屈とは言え、息子大切丸出しの存在に守られて、調査と対処に行くなら。リーヤンカイを頼んでみるのもありかと、思えた(※想像通り浅はかドルドレン)。


 焦げ茶イケメンは軽く頷き返し、『じゃあな。何かあったら、呼べ』と。呼び方も教えずに、さっさと愛息子を連れて、さっくり影に消えた(※人攫い)。



「おい。ドルドレン。大丈夫か」


 横でぜーんぶ聞いていた親方が、ひょこっと馬車の間から出てきて、後ろにコルステイン付き。


 この人たちもねぇ~、と思いつつ(※いろいろ複雑)ドルドレンは首を縦に振り『自分の意識は問題ない』と答える。


「これで、バニザットは暫く放置状態だな。コルステインは、ホーミットが一緒だから平気だと言うが」


「そうなの。有難う、コルステイン。俺もそう思うのだ。しかし()()()()は気持ち的に負担である」


 その辺は、分からないかもね・・・ドルドレンは大きく溜め息を付いて、とにかく安全ならそれで良しとすると、親方に言う。親方も頷いて『無事で。戻ってくるからな。それでまぁ』とドルドレンの横に座った。


 コルステインも帰るようで、二人に挨拶すると、こちらもあっさり霧に変わって影に消えた。


「サブパメントゥ。ここまで親密になるとは」


「それを言ったら、()()()()()親密どころじゃないぞ」


 親方は笑って、地下から戻ってくる友達の存在に『あいつは人間そのもの』と笑った。


「人よりもずっと、賢いけどな。魂も人間より、遠くにある感じだし」


 こんなことを言う親方は知らないので、ドルドレンは不思議そうに彼を見た。何のかんの、言ったところで。二人はやっぱり親友なんだな、と思う。


 じっと視線を注ぐ灰色の瞳を見つめ返し、親方は総長の肩を抱いて『お前も。俺の友達みたいなもんだ』と微笑んだ。


 これやめて・・・・・ うーんうーん照れるドルドレンは、裸の肩を親方に抱き寄せられて、首を振り振り悩む。

 笑う親方は、彼をぎゅっと抱き寄せてから『弟でも良いけどな』信頼をこめた言葉を、顔を覗きこんで伝えた。


 ドルドレンは赤くなって『すまない、有難う。お世話になるよ』と返し(※久しぶりの3点セット)イケメン親方の朝の抱擁(※肩抱いてるだけ)にほだされていた。



 朝も早くから起きてしまい、二人が荷馬車の荷台で話していると(※一方的に親方が)バイラも起きて出てくる。続いてフォラヴが下りてきて、皆が早起きしたので、ドルドレンは『俺が朝食を』と用意し始めた。


「自粛。良いのか」


 親方に訊かれて、ドルドレンは『健康の問題が生じてはいけない』と答えた(←禿げるの心配)。ミレイオが戻る前だけれど、たまには自分の料理でもと、自粛を意識した控え目な朝食を作り始める。


 親方がすぐに焚き火を熾してくれたので、ドルドレンは鍋を火にかけて、油を多く入れ、油漬けの野菜と塩漬け肉をちゃかちゃか炒める。鍋の下に、皮付きの芋を押し込んで、炒めている間に芋を焼く。


「フォラヴとミレイオは、野菜を食べたがる。肉も油も多いが、芋はある(※ドルの野菜認識①芋)」


「お前の料理。好きだぞ。俺は馬車の料理なんて、お前に会わなかったら、知らなかったな」


 美味しそうな音と匂いに、親方は横から鍋を覗き込んでニッコリ笑う。ドルドレン、こういう時の親方が『味見』をねだっていると覚えた(※愛妻が味見を躾けてしまった)。


 少し食べるかと、ヘラに乗せた肉の切れ端を見せると、親方はちょいと摘まんで口に入れ、『うまい』と嬉しそう。

『頼もしく力強い、自分よりも上かも』的な男性には、ちょっと男色傾向のあるドルドレン。超絶イケメンスマイルの喜びを理解(※愛妻の気持ち分かった瞬間)。


 こりゃ、見たくて癖になるね・・・ドルドレンは気前良く。はふはふ言いながら『うまい』と眉を寄せて嬉しがる親方に、もうちょっとお肉をあげる。


 ここまでイケメンスマイルで天然に美味しがられると、何度か見たくなるもの。男龍には一生、食べてもらえなさそうだから、これからちょくちょく、親方相手に食べてもらおうと決める。


 またもらった親方は『良いのか』と驚きつつ、また食べて『本当に美味いぞ』とドルドレンの背中を撫でた(※ドルささやかな幸せ)。


「これ。何て名前だ。料理に名前、あるのか?」


「バーリンガゴシュカ。手の込んだものは俺も無理だ。これと似たような料理は、幾らも作れる」


「バーリンガグ・・・・・ 」


「バーリンガゴシュカ、だ。ちょっと発音が難しい。だが、俺に言えば、すぐこれのことと分かる」


 親方が、マブスパールで食べた時の料理とも違う、と伝えると、ドルドレンは笑って『店屋では出さないかも』と言う。

『俺が作ると、イーアンが作るよりも、肉も塩も多くなる』でも馬車の味だよ、と教えたら、タンクラッドはじーっとドルドレンを見つめた。


「バーリンガゴシュカ。また作ってくれ。お前の味で食べたい」


 ドルドレン、きゅーん。はい、と頷いて、もう一枚切れっ端をあげた(※やられた)。


 タンクラッドは『俺ばっかりだ。お前も食べろ』と、自分がもらったのをちょっと齧ってから、ドルドレンの口に押し込む(※親方は食べかけに抵抗ない)。


 ドルドレンはもう。今日はこれで満足かも・・・赤くなって『美味しく出来た』と、ごにょごにょ言っていた。


 そんな天然親方と、明らかに、男性に意識が向いている総長を、離れた場所から見守るバイラは、ミレイオが早く戻ると良いなと思っていた。

 フォラヴは新鮮そうに二人を見て『一層、仲が良くなって』と笑っていた。



 それから早い朝食。フォラヴは油が苦手ということで、ドルドレンは焼けた芋を潰して、刻んだ酢漬けの野菜と混ぜてやった(←ピクルス入りマッシュポテト)。


 これはフォラヴも笑顔で『総長。美味しいです』意外そうに、喜びの声を伝えた。ドルドレンは笑って『良かった』と答え、それは子供に野菜を食べさせる時に、馬車の女が使う手だと教えた。


「子供は。野菜も酢も最初は抵抗がある。煮てやれば食べるが、他の食べ方が難しい。大体の子供は芋が好きだから、そうやって食べさせてやるのだ」


「皆さんは優しいのですね。これ・・・僅かな酸味と、熱い芋の香りが。食べるとさっぱりしています。肉の付け合わせで、こんな素敵な一品が出るとは」


「それくらいしか出来ない」


 アハハと笑う総長は、フォラヴが肉も問題なく食べている様子に満足する。何度か自分が作ってやったが、もっと早く、こうしてやれば良かったと思う。


 バイラも美味しく食べてくれて『ミレイオが戻ってくるまでに、食べきりそうで』と困って笑っていた。タンクラッドは無言でガツガツ食べている。鍋に残る油も、芋を擦り付けて食べていた。


 総長の作った馬車の料理で、朗らかな朝食時間を4人は過ごす。


 そうしているとミレイオが戻って来て『あらやだ。もう食べてるの』と驚く。ドルドレンは自分が作ったことを伝えて、ミレイオも食べてと渡した。


「うーん。芋、美味しいじゃない」


 フォラヴに出した芋料理はミレイオにもウケたので、ドルドレンも嬉しい。タンクラッドは早めに肉を胃袋に収めたので、ミレイオに『肉食い過ぎ』の注意を受けずに済んだ。


 こうして、皆が食事を楽しんでいる時間も、気持ちを安定させるに大切。ミレイオが大事にしている『平常時』の意味を、ドルドレンもゆっくり感じていた。


 それから、ドルドレンは皆に、シャンガマックが出かけたことを話した。

 思ったとおりの流れだが、ホーミットがいる分には大丈夫。それでとりあえず、受け入れる。


 話しながら食事は終わり、時間も早いが、片づけをを手早く済ませると、早速、炉場へ向けて馬車を出すことにした。



「私が先を歩くので、馬車はちょっと、車輪の様子を見ながら出して下さい」


 宿の裏の通りに出るまでが、一番気がかりとバイラは言う。がくんとは落ちないが、距離が短く、急に近い下り坂のような状態の道。ドルドレンたちも少し悩む。


 ふと、ミレイオがフォラヴを見て『ここだけ。()削っても良い?』思いついたことを訊ねた。空色の瞳が不思議そうに向けられ、その意味を問う。


「どうせさ。宿の人たちも、落ち着いたら直しに来るとか、壊れたところ撤去するじゃないの。

 馬車が行き交うところだし、角度を、ここだけ緩められないかと思って」


「ああ。それは。その方が良いのでは」


 そうよね、と妖精の騎士に頷き、ミレイオは馬に乗って先に道に下りているバイラに『角度を見ていて』とお願いすると、裏庭から出る傾斜を消し始める。


 ミレイオが『消滅』と小さく呟くのを聞きながら、見る見るうちに土が消えてゆく様子を、皆は静かな恐れを心に、見守った(※味方で良かったと思う)。


 こうして、バイラのストップが掛かるまで、角度のある傾斜は削られ続け、『もう良いですよ』と声をかけられた時には、馬車が危なくない程度の緩い坂が出来上がった。


「素晴らしい力」


 皆に畏怖を添えた眼差しで誉められて、ミレイオは笑いながら『あんたたちの()()()()()()』と答えた(※ヨゴレ消滅)。


 そして、晴れて二台の馬車は宿屋を後にし、バイラの道案内で、安全な傾斜の通りを進んで炉場へ向かった。



 *****



「忘れ物はありませんか」


「ないよ。もともと、何も持ってないもの」


 お空でも、イーアンとザッカリアが出発準備。

 アオファじゃ目立つということで、ミンティンはどうなのとイーアンが訊ねると、ミンティンは問題なさそうに頷いたので、今日は久しぶりにミンティン同行。


 龍の島から出発する前に、ビルガメスたちに挨拶をと二人はミンティンに乗る。


「イーアンは?飛ばない?」


「龍気は戻りましたが。今日は乗って戻ります」


 イーアンがそう答えると、後ろに乗るザッカリアは嬉しそうに頷いた。『一緒が良い』そう言う子供に、イーアンも、そうしてあげたいと思う気持ちを伝えた。


 そして二人が青い龍に乗って、空へ上がると、同じようなタイミングで向こうから龍気が来て、それがビルガメスとタムズと分かった。


「もう行くのか」


「はい。今日は地上で大人しく過ごそうと思います」


「まぁ。それでも良いだろう。ザッカリア、またな」


「有難う。本当に有難う、ビルガメス。タムズ。皆に宜しくね。赤ちゃん・・・ええっと、名前が分からないけど、ビルガメスの可愛い子供。あの子にも宜しくね。あと、ファドゥのジェーナイにも」


「私の子供が、人の形になれるようになったら。また来なさい。遊んであげて」


「そうなの?来るよ、俺すぐ来る!俺の弟でしょ?妹、いる?」


 妹はいないね、とタムズが笑い、ビルガメスもイーアンも笑った。『龍の一族は、女の子が生まれない』と教えると、ザッカリアは『そうだった』と思い出したようだった。



「俺の子に名前を付ける。イーアンは、明日にでも来い」


 ビルガメスが、イーアンとザッカリアを撫でて、タムズを付き添いに出す。


『子供が寝ているうちは動けるよ』と微笑むタムズは、二人と青い龍に付き添って、イヌァエル・テレンを出発した。

お読み頂き有難うございます。

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