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魔物資源活用機構  作者: Ichen
力の属性
1116/2962

1116. 渦巻く気持ち・空の午後

 

 ほぼ喋らずに宿へ戻った、騎士の4人。


 ザッカリアは、総長の機嫌が悪くなったと思って、さっきまで平気だったのにと、嫌な気持ちだった。


 総長の前に座らされて、馬で宿へ戻る最中。ザッカリアが『俺は今日はどこで寝るの』と訊いても無視されたため、それ以降、何も言わないまま。



 馬車へ戻ると、宿屋の人が戻ってきていて『ああ、お客さんたちは無事』と数日振りに再会を喜んでくれた。

 度々、避難所から宿へ戻っていた従業員の男性は、旅の馬車は2台あるから、『二つに一つだとヒヤヒヤして』いたらしかった。馬車を残して危険に遭ったか。それとも馬車をここに置いて、動いているのか、と。


「日中、私だけが、宿に少し戻っていました。馬車はあるけれど、人もいないし、馬は居たり居なかったりで」


 総長は彼に、しばらく置かせてほしいことと、町長の手伝いも兼ねて、もう少し滞在するかも知れない可能性を話した。


 宿の人は『建物が半壊しています。そちらに近寄らなければ、安全だと思うから』と、裏庭を使うことを許可し、残った建物の半分には『客室しかないけれど、使えるものは使って。ベッドを使っても』それで雨風しのいでほしいと、言ってくれた。


 総長はお礼を言って、他の従業員たちにも宜しく伝えてもらうように頼み、皆の無事を祈って送り出した。



 騎士たちはとりあえず、時間も時間なので、馬車の扉を開けて昼食にする。朝と同じ、平焼き生地と乾し肉を食べ、水を飲んで、無言に近い窮屈な時間が過ぎる。


「総長。俺はホーミットと話したいです。相談してみては」


「お前に何か思いついたか」


 シャンガマックは、沈黙を破る。総長が心配していることは、一つの方法だけを選んでいる気がして、それを終わらせたかった。それは総長のためでもあったし、皆のためでもあると思えた。


「あの。はい。ちょっと、良いですか」


 ザッカリアをフォラヴに任せ、シャンガマックは総長を宿の外へ連れ出す。総長は怒ってはいないが、考え込んでいる。


「俺とホーミットだけが行く。それではダメですか?」


「だから。それだと、お前は夜しか彼と居られないんだから」


「そうじゃなくて、夜に出発して。それで向こうで・・・南の遺跡で館長を待つとか、館長と調べ物をして、戻ってくるのがまた夜、と言うか」


 自分一人で移動しない・・・褐色の騎士が、そこを押さえると。


「移動だけではないぞ。一人の時間が心配なのだ。

 お前が館長を待つ間。ここには賊も多いし、お前は鎧で行くだろうから、どうしても目立つ。夜以外の時間を俺が心配しているから、こうなっているのが分からないか」


「総長」


 褐色の騎士は、不満そうな総長の腕に触れて、彼を見上げる。灰色の瞳がいつになく・・・久しぶりに見た冷たい温度に思えた。『シャンガマック。お前に連絡が()()()()じゃ心配だ』離れるのが危険だ、と静かに総長は言う。


「それに。早く帰ってきたとしたって、ザッカリアが動きたがらない。バーウィーと口約束でも『少し一緒に居られる』ようなことも伝えてしまった後だ。バーウィーは、真に受けはしないだろうが」


「早くに俺が戻っても。別に良いじゃないですか。ミレイオとタンクラッドさんも、町では教えたいようだし、普通に滞在すればいいんですよ。

 俺はホーミットがいます。総長にイーアンがいるように」


 灰色の瞳は、部下を見つめる。彼の言葉が、『ドルドレンとイーアン』の、安全と信頼を意味していると理解する。


「それほどまでに。お前は、ホーミットを」


「俺の『父親』と言ってくれました。彼の祝福も受けて。あれ、()()とは呼ばないのかな」


「祝福。初めて聞いたぞ?何だ。何があった」


 意外そうな総長に、シャンガマックは『総長がミンティンと出かけていた時(※1061話参照)』と話す。


 何があったと言われたので、『多分、祝福と似ている』とだけ答えると、総長は続きを待つ(※聞きたい)。

 言うのか・・・と思いつつ、少し照れたシャンガマックは、額を指差して、困った顔で総長をちらっと見た。


「男龍がするみたいにです。男龍、祝福の時は額に。ええっと、俺も。ホーミットが。その」


「う。ぬ。ホーミットが?お前の額に?本当か」


 何やら少々、戸惑いつつも赤くなり始めた総長に、シャンガマックは真っ赤になって頷く。改めて言われると恥ずかしい。しかし総長は、それ以上、訊ねてこなかった(※想像して悩ましい)。


 話が脱線し、二人で少し赤くなって黙ること数秒。

 咳払いした総長は、ふーっと息を吐き出し(※♂♂好きな、奥さんにも教えなければと思う)『話を戻す』そう言って、俯く部下に確認する。


「お前とホーミットが、本当に大きな信頼関係にあることは分かった。

 では、だな。これからお前が、ホーミットを頼って。二人で南の神殿へ行く話がついたら。俺もホーミットと話す。

 お前は、彼の息子さんかも知れないが、俺はお前の上司で、お前の無事を願う責任がある」


 総長は、はっきりとは言わなかったが、許可を出した。


 シャンガマックは微笑む。頷いて、そうすると約束した。

 自分とヨーマイテスの二人だけが動くのなら、総長たちが安全を懸念する必要がなくなる。自分たち以外が『ギールッフに滞在するだけ』のこと。その方がずっと、心にも良いだろうと、思えた。



「イーアンはまだ。連絡が来ませんか?」


「そうだな。オーリンも何も言ってこないから、危険ではないのだろうが。目覚めているのかどうかも知らん」


 褐色の騎士は、イーアンが戻ってくる時。やはり、皆が町に居た方が良い、と思うことも伝える。

 バイラも動けないし、職人たちも日数をかけるなら、総長たちも居てほしい。


 それを聞いて、総長は部下の肩に手を置き『お前だけ、動かすのは苦しい』と小さな溜め息を付いた。


「ホーミットがいつも一緒なら。俺もここまで粘らない。明るい時間のことだけが本当に心配だ」


「それを、ホーミットに相談するんですか?」


 そうだ、と総長は頷く。シャンガマックも気にならないとは言い切れないが、ホーミットに無理をさせるのも、少し気が引けた。

『とにかくホーミットにまず、この話をします』と答えて、シャンガマックは一人宿を離れることにした。


「影の深い場所を探すだけなので、町から出ません。歩いていける範囲で」


「分かった。気をつけろ」


 総長に見送られ、シャンガマックは父・ホーミットの協力を仰ぐため、町の中へ影を探しに向かった。


 総長は馬車へ戻り、自分を避ける子供は仕方なし、フォラヴに『シャンガマックは用事で出ている』と伝えて、午後は馬車で待機を選ぶ。


 倒壊家屋は無理にしても、瓦礫の撤去作業など。何かしら、町のことを手伝えたらとは思うが、思い付きで動くのも、他の仲間に知らせていない分、難しい。


『午後は待機』と決めて、騎士の三人は馬車で休む。

 ザッカリアは総長と喋らず、フォラヴも子供の近くにはいるものの、無理して話しかけようとはしなかった。騎士たちは気まずい沈黙を過ごすよりなかった。



 *****



 この頃。お空のイーアンは、連日で男龍たちと過ごし、今日も午後を迎えていた。


 お昼過ぎだなぁと思いながら、男龍の皆で教える『龍とは』『龍気とは』の講座を、滔々(とうとう)と聞き続けるイーアン(※男龍は基本的にヒマ)。


 伴侶に連絡くらいしたいと、初日に訴えてみたが『オーリンに伝えさせた』と言われて、余計な気を紛らわすことを止められていた(※余計じゃない、と思うけど、従う)


 無論。オーリンも近寄せてもらえない。ビルガメスの家にいるので、家に来る子供たちだけは近寄れるが、子供部屋には行かせてもらえない。これも理由が『気が散るから』だそうだった。


 何日目なんだろう、と。段々、日にちの間隔が曖昧になっているイーアンは、ふと、腰袋が光っていることに気が付く。


 さっと男龍を見ると、皆が気が付いている・・・非常に、取り出し難い。イーアンを見つめたニヌルタが、ふむ、と頷く。


「それは。誰かからの連絡だな」


 イーアンが答える前に、シムがぽろっと許可。


「一応出てみろ。応援かも知れん」


 応援なら、直接呼びそうだがな、とビルガメスがシムに言う。

 だが、ビルガメスに止められる前に、イーアンは『シムが良いって言った!』と大急ぎで珠を取り出した。

 ファドゥが笑って見ている前で、イーアンもちょっと笑って『少しだけです』多分・・・と、珠を握る。その珠は、ミレイオと分かっていた。



『あ!イーアン。良かったわ~ どう?大丈夫?あんた、いつ戻るの』


 お母さんのように捲くし立てるミレイオに、イーアンは感謝して『龍気は戻ってきている』と答えて、帰るのはもう少しかも、と予定がないことを伝える。


『そうなの?いつ戻るかくらいは、教えてもらえないの?あんたから何も連絡がないから、こっちも連絡しづらいわよ』


 心配する母との会話の如く。その流れにイーアンは『自分ではどうにも出来ない』ずっと、男龍の揃う中にいることを伝えると、ミレイオは興奮していた。


『え、そうなんだ。全員揃ってるって、羨ましい!私も行きたい』


『私は出たいです』


 イーアンが少し笑ったところで、ビルガメスが珠を取り上げた。

『長いぞ。もうダメだ』小さな珠を器用に取り上げた大きな男龍に、慌てるイーアンは『ミレイオが』と言いかける。



「ん?・・・・・ふむ」


 手に持った珠の向こう、ミレイオが何かを伝えたのか。ビルガメスが黙った。応答しているらしいので、イーアンは彼の前に立ったまま、待つ。


 ビルガメスは少しやり取りしてくれたようで、1分も経つと、前に立った女龍を引っ張って膝の上に座らせ、珠を返してくれた。『ミレイオに挨拶を』と言うので、イーアンはミレイオに『また』と伝えた。


 何だか。自分と話すよりも楽しげに『うん、またね』と交信を終えたミレイオに、複雑な心境ではあったが、何はともあれ、ようやく仲間に現状を伝えられたことで、イーアンもホッとした。


「イーアン。お前が戻るのもそろそろだが。その前にザッカリアを呼ぶ」


「はい・・・はい?ザッカリア。あの子を呼んでどうするのです。一人で来れませんでしょう」


「良い。タムズ、迎えに行け」


「私は、子供が頑張っているんだから、離れられないよ」


 命令されたタムズは、子供がまだ人の姿になれず、日々、頑張り通しなのを理由に、動けないと断る。


「ザッカリア。そうか。じゃ、俺が行こう」


 間髪入れずに引き受けたのは、ニヌルタ。ビルガメスは彼を見て『お前が行くのか』と確認。ニヌルタは頷いて『()()があるな』と微笑んだ。

 


()()()そうかも知れん。最初の、な。イーアンの眠っている間に、俺たちが理解した」


「そうだな。確かめていないが、()()()()()()()と言えなくはない」

  


 二人の男龍は、何やら、イーアンが全く分からないこと伝え合う。イーアンの意識のない時、なにかがあったのかとしか、分からないが。


「良いだろう。ニヌルタ、ザッカリアを迎えに行け。アオファがもう、動ける」


 ビルガメスに指示され、ニヌルタは立ち上がると、女龍を振り向いて『待ってろ』(※逃げるな発言)と一言、ニコッと笑って空へ飛んだ。


 白い光を見つめてから、イーアンはビルガメスに『どうしてザッカリアですか』と訊ねた。


「彼も自分を疑う。どうも、中間の地はいけないな。大きな力を信じられない何か、そんなものでも渦巻くのか」


 ハッハッハと笑う大きな男龍に、ニヌルタも一緒になって笑う。タムズもフフンと鼻で笑って、シムとルガルバンダは、分からなさそうに笑みを浮かべるだけ。ファドゥは全然分からない(※ほぼ地上のこと知らない)。


 イーアンは笑えなかった。ザッカリアが―― 連絡してきたミレイオは、ザッカリアの異変を伝えたかったのかと思うと、その急な動きに、彼に何があったのだろうと心配が募った。



 ルガルバンダは、イーアンを見て『ズィーリーと。お前も。同じような状態だったな』と呟く。


 その意味あり気な言い方に、イーアンは彼を見て、続きを話してもらえるよう、無言で促した。ルガルバンダは緩く巻く長い髪をかき上げて、首を傾げた。


「理由は知らん。俺は話していない。だが、ビルガメスが『疑う』と言うなら、それはお前とズィーリーも通った道だ」


 心配そうなイーアンに、彼女を膝に座らせているビルガメスは、ちょっと角を押して自分を向かせ『ザッカリアが来れば分かる』と教えた。


「ミレイオは何て」


「今、言ったぞ。来れば分かる」


 いつものように、無駄を話さないビルガメスは微笑み、イーアンの角先をくりくりしながら『彼が来たら、外へ出る』と言った。

お読み頂き有難うございます。

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