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魔物資源活用機構  作者: Ichen
力の属性
1114/2964

1114. 旅の六十一日目 ~養子願い

 

 ギールッフに入ってから、一週間が過ぎた今日。


 首都でも一週間未満だったので、テイワグナでは初めて長居していることになる。長居すると、仲良くなる人も出てくる。


 それはタンクラッドやミレイオには顕著で、炉場の職人たちがそうだった。



 騎士たちとバイラには、そこまで関わりを強くする相手がいなかったので、お別れの時は、町の様子が気がかり・・・くらいの感覚。

 タサワンの村で出会ったナイーアのように『どうしても自分たちの正義感が彷彿とする』そうした、絞られる対象がいない。


 ギールッフは、地区全体がその状態に見舞われてしまったことで、騎士やバイラの思いは、全体的な対象から外れはしなかった。



 しかしここへ来て、騎士の一人・ザッカリアがその枠から外れ、二日前に仲良くしてもらったバーウィーに懐いたため、同じように昨晩、職人の工房に世話になった、親方とミレイオは、朝方顔合わせをした際、驚く。


 各自、世話になった先で朝食を済ませて、炉場へ集まった朝。


 ザッカリアはバーウィーの所で着替えさせてもらったようで、テイワグナの・普通の・少年、の格好。それだけならまぁ、親方もミレイオも『ハハハ。良かったね』で済むのだが。


 バーウィーは何と、『ザッカリアを引き取れないか』と言い出してきた。


 突拍子もない、朝っぱらの切り出しに、言葉を一瞬考える親方より早く、ミレイオがまず『どうして』の返事をぶつける。


「何を言っているの。ザッカリアは旅の」


「そうだが。子供だから。昨日、うちでいろんなことを話してくれた」


 げーっ、と顔に出ている刺青パンクは、さっと子供を見る。子供はバーウィーの横で、困ったような、でも自分では言えないような、そんな顔でちらちら見ていた。


「何が。どうすると、そうなるの?どうしたの?何を彼に話したの」


「ミレイオ、落ち着いてくれ。うちは親がいるだろう?俺の両親だ。両親もザッカリアを見て、とても喜んだ。本当に孫が帰ってきたようだと」


「だが、顔も違えば育ちも違うぞ。ザッカリアは他人だ」


 親方もようやく、ちょっと唐突だろう、と(たしな)めるように職人を制する。それからタンクラッドは、自分を心配そうに見つめるザッカリアに『お前は、そうしたいと言ったのか』と大切なことを訊く。


「そう、って言うか。俺がギアッチの子供で、ギアッチが俺の心配をいつも」


「それと、バーウィーの家の子供になるのとは、全然、話が違うぞ」


「あのね。少し、バーウィーの家で過ごして・・・それで」


 ザッカリアも言い淀む。子供の言い方からすると、何か、回避できなかった、誤解でも生じたような気がする親方。すっと視線を職人に移すと、彼はザッカリアの背中に手を置いて『大丈夫だよ』と声をかける。


「タンクラッド」


 ミレイオが親方の手に触れて、首を少し後ろへ向ける。彼らの後ろにフィリッカがいて、バーウィーと子供を見た彼は、ミレイオたちに少しだけ合図と見える仕草をして、炉場の中へ入った。


「即決なんか無理だぞ。後でその話をしよう」


 タンクラッドはとりあえず、バーウィーとザッカリアにそう言って、ミレイオと一緒にフィリッカの後に続いた。



 炉場の中で、フィリッカが外を少し気にしながら、早口で教えてくれる。


「ごめんな。バーウィーは、多分。思い出しちゃったんだよ。離婚して、子供が奥さんに引き取られて以来、会えなくなった。彼の子は、もう少し大きい年齢だったけどな。

 ・・・・・よその子供に懐かれるなんて。

 あの顔だろ?あの腕だろ?あの体格で、あんな感じだからさ、なかったんだ。俺たちの子供を見ていても、『子供がいて、いいな』って、何度言ったか知れない。あんな見た目で子煩悩でね。子供は、本当に大事していたんだよ。

 きっと、昨日の夜。いろんなこと話している間に、()()()()()()断れなくなったんじゃないかと思ってさ」


「そりゃ、そうよ!あの子・・・子供だけど、本当に大切な役目があって、一緒に動いている子なのよ。

 頭だって良いし、自分が旅を降りるなんて、選ぶわけはないわよ」


 ミレイオは困ったように笑っているが、顔はどうにか笑っていても『無理言わないで、と思う』本音も口に上る。


 フィリッカも苦笑いするしかない。仲間の突拍子なさは認めるものの、遠回しに『悪く思わないで、穏便に話し合いしてほしい』旨を伝えた。


「バーウィーも、非常識な男じゃない。自分が無理無茶を言っているくらい、分かっているだろう。

 だけど、よっぽど嬉しかったのかもな。今、ちょっとバーウィーの父性が・・・かな。話し合えば、戻ると思うよ」



『父性』。それを聞いて、親方もミレイオも頭ごなしに言えなくなる。


 大事だった人間を失った後、日常を過ごしながら、思いだしては乗り越える場面はたくさんあった、ミレイオ。


 子供はいたが、10年程度でほぼ会話も消え、冷え切った最後で前妻とも子供とも別れた、タンクラッド。


 タンクラッドに、子煩悩的意識はなかったが(※天然だから気付いてない)バーウィーは子を可愛がっていたと言うし、分からないわけではない、その気持ちに『非常識』と言い難い部分。


 ミレイオも、子供・大人問わず『大切な人間』と捉えてしまえば、少しの無茶(※相当な無茶とも言う)をダメ元で言ってみようとする、バーウィーの気持ちの高まりも理解する。



 炉場の扉は開けっ放しで、少し首を動かすと、バーウィーとザッカリアが、笑って話している様子が見えた。


「ね。さすがに置いてはいけないけど」


「ハイザンジェルに戻ったら。会いに来れる距離でもないしな」


「今だけ、とか。どうなんだろ」


「・・・・・バニザットが。南の遺跡に、もう行かないといけない頃だ。俺はそれを気にはしていたが。

 この期間。だな、もし・・・『もし』って言うなら」


 じっと外を見つめる、タンクラッドとミレイオ。何とも言えない展開で、受け入れなくても良いとは思うものの。


「ザッカリアは、これからでしょ?これから、あの子の」


「だろうな。これまでは特に、目立った場面もなかった。今後も彼の旅は続く」


 そうだよね、とミレイオは悲しそうな表情で、二人の仲良さそうに笑う雰囲気に溜め息をついた。フィリッカもバーウィーを見ていて『すごく、嬉しいって分かるよ』と同情している。


「離婚した理由。少し聞いたことあってよ。奥さんが疲れたんだってさ。

 バーウィーは家で子供とは遊んだけれど、奥さん後回しだったから・・・そんなつもりはないだろうが、()()()が多過ぎたんだと思う。

 彼は歴史も好きで、仕事も好きで。儲からなくても、毎日、腕を磨くようなやつだから。奥さん、付いていけなくなったんだろう」


 タンクラッドは沈黙(※離婚原因が同じ理由)。ミレイオはそんな友達を、明るい金色の瞳でちょいっと見て『分かる』と一言、誰にともなく呟いた。



 そして。総長が来たら、その時、真剣に話し合おうということに決まる。

 フィリッカと一緒に外へ出て、親方がバーウィーに、それを伝えると、彼は微笑んで『有難う』と答えた。門前払いの答えではなかったことに、彼は感謝し、彼の控え目なお礼に、ミレイオとタンクラッドも同情した。


 ザッカリアは戸惑っている。でも、バーウィーに最初に同情したのは、きっとザッカリアだったんだと、ミレイオは分かっていた。


 だから、どのくらい無理か分からなくても。少しだけでも、この精悍な職人の側に居てあげたいと思ったのかもしれない。

 そう思うと、目が合って微笑んだ子供に、ミレイオも『優しいのよね』と微笑み返すしか出来なかった。




 一方。ドルドレンたちは馬車の朝を迎え、ミレイオもいないので、乾し肉と平焼き生地の朝食。すんなり朝食を済ませてから、町役場へ行く話が出る。


 昨日。ミレイオの二度に分けて動いた結果を、夕方に町長に報告したバイラは、『今日も手伝うことがあるか確認を』と話していたので、皆でとりあえず向かうとなった。


「でも。フォラヴがここまで一気に回復を手伝ってくれたので、死傷者はどうにも出来ないものの。皆の気持ちは随分違います。

 地面が直り、木々が立ち上がって、魔物の姿が目に入らない。これは、普通に考えれば、かなりの月日を要するはずだったことばかりです」


 昨日のバイラの午後は、倒壊家屋の調査や、農産物・農耕地の被害申請受付を担当していて、臨時で回された警護団と手分けして行っているが、その中で感謝の声も届くことを、フォラヴに教えた。


「本当に。皆は()()()に感謝していますよ。妖精、と皆が気が付いています。精霊と妖精の別が、ちゃんと分かるんです。

 本当なら、あなたを皆に会わせたいけれど。そんなことしたら、フォラヴがここで捉まりますから、それも出来なくて」


 コロコロと笑う妖精の騎士は、頭を振って『私だけではありません』と遠慮し『でも良かった』自分も役に立てたことを心から嬉しく思うと、答えた。



 ようやく。自分らしく、力を発揮出来たフォラヴに、側で見つめるドルドレンも嬉しい。


 彼はずっと悩んでいた。他の者が力を蓄えるたびに、この儚げな優しい妖精の騎士は寂しそうだった。

 いつも、多くは話さない男だが、一日森に出かけた時。彼に何があったのか。そのうち、時機を見て話してくれるだろうと思う。


 フォラヴもまた、紛れもなく偉大な力の元にいる。それは、今回のことで大きな確信となった。



 バイラに喜ばれて照れている友達に、シャンガマックも微笑んで功績を称える。

 シャンガマックは、『自分をまだちゃんと探していない』と昨晩で分かったけれど、友達は一気に進んだ。


 自分もこれから―― これから、ヨーマイテスと一緒に、自分が向かう力の先へ歩もうと誓う。


 昨日の夜。

 船に乗せてもらったシャンガマックは、ヨーマイテスに案内されて、南の遺跡へ一足早く向かった。

『海の方にある遺跡』は、この前、宝探しで行ってきたが、今度の『南の遺跡』は、隠れるようにある場所。ヨーマイテスはそこへ連れて行ってくれた。


 海に近いところだったが、そこは入り江の奥。干潟の続きに、なぜか建っていた。


 どうやって建設したのかと思ったが、ヨーマイテスが言うには『神殿が先』らしく、干潟にある不思議な光景を上から見た後、一緒に降りてもらい、中を少し回った。


 大したものはない、と言われていたが、シャンガマックには毎回楽しい。タサワンの神殿と似ていて、ヨーマイテスが理解している範囲で話を聞いた。


 遺跡を出てからは、船で少し海の上を飛んでいたが、ヨーマイテスは騎士に眠るように言い始めたので、もう少し起きていたかったけれど、シャンガマックは従った。


 船は鉱山の上に着陸し、ヨーマイテスだけ船を仕舞いに戻り、シャンガマックは彼を待って、帰ってきた彼と一緒に眠った。

 そして夜明け。馬車へ戻ると、大男は馬車に結界を張り、『また夜だ』と約束して影に消えた。



 本当に、ずっと。一生、彼と一緒でも問題ないな、とシャンガマックは感じていた。


 例え、彼が自分に理解し難い行動を取るにしても。自分はヨーマイテスと出会った、それがもう運命の導きと信じて。どこまでも一緒に動こうと思う。


 ヨーマイテスはきっと、精霊の加護の付いた自分を導いて、この魂の歩みを手伝ってくれる。シャンガマックはそれを、ずっと感じながら、今後の自分の動きを定めていた。



「よし。では行くか」


 総長の声で、ハッと意識を戻した褐色の騎士は、皆が町役場の話をしているので、一番最初に行くのは町役場、と理解する。

 自分も馬を借りて跨り、総長たちの側へ行く。一行は、朝の日差しの中、なだらかな丘を下るような通りに出て、ゆっくりと町役場へ出かけた。



 町役場へ到着し、バイラと一緒に町長に会いに行くと、町長はミレイオの動きにとても感激していた。


 昨日、ミレイオが警護団本部から直にもらって来た『緊急特別支援』の知らせには、『馬だったら、どれくらい待ったか』と、涙ぐむほど嬉しかったと話した。


「ミレイオ。首都滞在中に、警護団模範演習で出てもらっていたから、本部に入った時もすんなりだったそうです(※932話参照)」


 それですぐに、話が通ったと言うバイラは、総長に『何がどこで功を奏すか、分かりません』と笑顔を向けた。


 地区の集落被害は、ギールッフの町だけでは手に負えない範囲もあり、それも警護団と国が、対処を迅速に行うとした手紙が添えられていた。

 死者だけになってしまった集落は、誰かが遺体を世話しない以上、想像するに、とても酷い状況に進む。それは急がないといけなかったし、人として動かないとならない部分でもあった。


 ミレイオは、バイラの提案で、近隣の町にも出かけてくれたので、2~3日以内に救援物資も到着するだろうと、町長は頭を下げる。


「何から何まで。お世話をかけて」


 でも本当に助かった、とお礼を言う町長に、ドルドレンは『助け合うのは普通』と答えて、今日は何か必要かを訊ねた。


 町長は、すぐにはないからと答える。『何かあったら連絡させて下さい』としたことで、騎士たちは役場を出て、仲間を預けた炉場へ。バイラは警護団の仕事で残った。




 そして、炉場で。ドルドレンはびっくりする。正確には、部下2名もびっくり。


 タンクラッドとミレイオは、彼らの反応をまず見てから、バーウィーとザッカリアに『総長に話して』と回す。

 ドルドレンは信じられない、といった顔で、二人の中年(←うちの中年)を見て『止めなかったの』とそこを確認。


「それは。あんたが決めて頂戴。一応、私もあんたと同じ反応したわよ」


「誤解はするなよ。俺だって、言えることは言った」


 炉場に着くなり、仰天ニュースを食らったドルドレン。


 眉を寄せながらも『では。うむ。已む無い。まず、話を聞こう』とりあえず、何が起こったか、最初から話してもらおうと職人に言い、職人も了解したので、子供付きで早速会議(?)となった。


 会議は1時間以上(※三者面談ともいう)。

 ドルドレンは1時間後には悩みに悩んで、『ギアッチを呼びなさい』振れるものは振ってしまえとばかり、父親担当ギアッチに投げた。


 子供が不思議な連絡珠を使って、親たるギアッチに交信する様子を、バーウィーはしげしげ見つめ『こんな便利なものが』と関心を寄せていた。そんな職人にドルドレンとしては、何を暢気な、と彼の余裕に困っていた。


 ザッカリアは交信を終えた時点で、総長に代わるかと思いきや。


「バーウィーと話したいって」


 そう言って、手を出した総長を空振りさせ、職人に珠を渡し、使い方を教えたすぐ、バーウィーは驚いたように交信を取り始めた。


 ドルドレン。何だか思ってもない方向へ向かう、嫌な予感(※勘は良い)。


 バーウィーの口端に少し笑みが浮び、それを目ざとく見つけたドルドレンは『しまったか』と心で悔やんだ。

 5分ほどの間、職人は小さな珠を手に包んで、何度か頷いたり、考えるような素振りを見せた後。


 すっと総長を見て、珠を持つ手を伸ばし『総長と代わるようにと』そう言って、不審丸出しの総長に代わる。



 結論。


 ザッカリアは、一時的に旅を休むことを推奨された。

 ドルドレンも何度か、ああだったら、こうだったら、とギアッチ相手に『ザッカリアが重要かも知れない場面』を伝えたが。


 ギアッチはついこの前の、記憶に新しい『魔物だらけの町』が怖くて、子供を休ませてほしいと訴えていた。


 このやり取りは無論、ギアッチが勝った。ドルドレンは敗退(?)。


 ()()()()()だからとした条件で、許諾。

 条件は、これから詳細を決めると伝えて『あくまで。この期間だけだぞ』と、総長が困りながら許可を出した時、喜ぶバーウィーもザッカリアも聞いていなかった。

お読み頂き有難うございます。


思い通りには描けなかったのですけれど、折角描いたからと思って、こちらにもご紹介。


挿絵(By みてみん)



彼はフォラヴ。アップにすればするほど、それっぽく見えるのですが(←描き手目線)お客様にそこまで願えませんため、このサイズだと「思い通り」でもなく・・・


活動報告に、彼に手こずった話を少々書きました。


https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1714731/blogkey/2656958/


秋の夜長。週も明けたばかりでお忙しい日の終わりかも知れず、そんな時間はないかも知れませんが、宜しければ休憩にお立ち寄り下さい。


いつもいらして下さいます皆様に、心より感謝して。

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