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魔物資源活用機構  作者: Ichen
力の属性
1103/2959

1103. アギルナン荒廃の夜 ~退治完了

 

 バイラとオーリン、そして別の区画で、町民を保護していたフォラヴとザッカリアは、一箇所に避難を呼びかけた町役場の連絡で、町中に散らばった人々を集めていた。



 動けない人を連れて龍で何往復もし、出来る限りの救助を続けていた最中。


 龍の咆哮、大揺れ、すぐに空気を伝った轟音と、光った空に白く輝く龍、その体に絡み付くような化け物の両者が、空に浮んだ光景に釘付けになった。


「イーアンが魔物と対戦・・・勝ってくれ!」


 願うバイラの声に、側にいたオーリンは空を見たまま『大丈夫だ。絶対に勝つ』と頷く。


 自分が側に行けたら。オーリンは手伝えないことを悔しく思うが、ガルホブラフのことを考えると、あの奇獣の存在が危険で近づけない。



 フォラヴとザッカリアも、人々を町役場に運び、その最中で見た光景に驚き『総長たちも、あそこにいるのか』と不安を抱いた。


「イーアン、大丈夫だよね?」


 あんまりにも長い体で暴れる、魔物の影。白い龍は夕暮れの光に輝きながら、ガァガァ吼え叫んで応戦している様子。

 不安になったザッカリアが、フォラヴに訊ねる。妖精の騎士も、息を吸い込んで頷き『大丈夫です』と答えるが、声が震える。


「あの方は。いつでも、勝ってきたのです。どんな時も。絶対に諦めないです。大丈夫」


「イーアンより、全然大きいよ。まだ地面にくっついている」


「ザッカリア。大丈夫です。あなたのお母さんですよ、大丈夫。彼女は言いました。『自分は勝つまで戦う』と。あの魔物相手にも、必ず・・・イーアン!」



 空色の瞳は、子供を見て励ますように伝えていたが、目端に揺れた白い光を見て慌てる。ザッカリアも大きな目を見開いて、びっくりして叫ぶ。


「イーアンが!」


 慌ててイーアンの側へ飛ぼうと、ソスルコを動かしかけた子供に、フォラヴが急いで止める。『ダメです、ザッカリア!行ってはいけません』彼を止めて、フォラヴもまた空で戦う龍を見る。


「何が・・・もしかして、龍気?」


 白い龍は突然、ぐらりと揺れて、魔物を真上に引っ張り飛んだものの。


 その猛烈な加速する勢いで、最後の最後、魔物の全体が引きずり出された途端。光が減り、落下し始めた。



 *****



 イーアン、もう無理だと悟った瞬間。


 自分の龍気だけでどうにか持ち堪えて、必死に急いだが、魔物が長過ぎる上に、暴れるし、絡むし、振り払っても噛んでいる場所は崩れるしで、悪戦苦闘しながらの攻防を繰り返し、とうとう『龍気が尽きる』と感じた。


 それならと最後の力を振り絞り、使い切ることを覚悟した龍。目一杯噛み付き、目一杯魔物を鷲掴み、残る全ての力を注いで、一気に上昇した。


 上昇する際、どこにタンクラッドがいるか分からないので、腕輪を撫でた。

 大きな女龍の腕には、小さすぎるその腕輪なのに。それでも、始祖の龍の思いか、彼女の壁画にあったように、イーアンの腕にもその輪が付いていた。タンクラッドへ・・・頼む、懇願を送った一瞬。


 力を籠めたら、あっという間に、崩れ始める魔物の体に、早く!早く、と焦って目を瞑り、風を切って上昇した結果、イーアンに手応えはあった。

 がくんと軽くなった気がして、さっと下を見たら。魔物の全身が出たと知り、イーアンは、後をタンクラッドに託す。


 白い体は光をぐんぐん減らし、(くわ)えた顎は力なく開く。既に、銜えた場所も掴んだ場所も崩れ、上の方が千切れた魔物と一緒に、イーアンは落下し始めた。



「おお!イーアン!」


 いきなり空に翔け出した、白い龍の動きに不安を持ったタンクラッドは、続く数秒で、魔物が全て出された姿に、喜びを浮かべたのも束の間。落下し出した、力尽きる龍に叫ぶ。


「行け、ザハージャング!今こそ、お前の動く時だ」


 落下する魔物は凄い勢いで地上へ向かう。イーアンの白い体も、徐々に失う光と共に小さく変わって行く。


 乗り手に命令を受け、疾風のように急発進で突っ込む奇獣は、魔物相手に体が動き始めた。タンクラッドは落ちてくるイーアンをまず、と思ったが、魔物の方が落下が早い。


 その時、目の前から『俺が』と声が聞こえ、藍色の龍と鎧の騎士が凄い速度で向かってくるのが見えた。


「ドルドレン!来ていたか」


「イーアンっ」


 親方の声に答えるより早く、ショレイヤは最高速度で突っ込み、その速度に合わせた鎧の騎士は、落ちてくる、白い角の女の体をガッチリ受け止め、その場を一瞬で飛び去った。


「よくやった。後は俺だ」


 心配は消えた。地面に残り数秒で落ちる魔物相手に、タンクラッドは、時の剣を振り上げる。


「ザハージャング!あれを倒せっ」


 時の剣は光の輪を放つ。タンクラッドの腕を包み込んだ金色の光は、あっという間にザハージャングの龍気を取り込み、振り下ろした相手の邪気を奪い取る。


 タンクラッドの腕から放たれた光の刃は、魔物が地表に触れる前に、その体をボロボロと崩し、あれよあれよと言う間に、光の粒子をまとって塵に変わった。


 崩れる魔物を食らい尽くす勢いで、ぐるぐるとその周りを飛ぶザハージャングの動きと共に、剣を振るう腕は、金の光を飛ばし続ける。


 光が触れるその一瞬で、消滅してゆく魔物の体。ザハージャングは、残る邪気を余すことなく取り込み続け、時の剣は、混じる邪気と龍気どちらの力も消し去った。



 タンクラッドとザハージャングが、落下する魔物の周囲を高速で飛びまわりながら、見る見るうちに、光の刃で消し続ける様子を、ミレイオも、イーアンを抱きかかえたドルドレンも最後まで見守る。


「恐ろしい力である。この前見た時も驚かされたが、比べる力が思いつかない分、何と言って良いか。

 しかしあの奇獣・・・何と奇妙な姿だろう。あれの意味もあるのだろうが、オーリンが逃げた理由も、ショレイヤが嫌がるのも、感覚的に理解出来る。

 気味が悪い相手だが、タンクラッドだけがあれに乗るのかと思うと、彼も不思議な男だ」


 俺はお前で良かった、と呟く勇者に、ショレイヤはちょっと顔を向けて頷く。

 それから、彼の腕に抱えられた龍の女を見つめると、ショレイヤは長い尻尾を回して、龍の女の上に添えた。


「お前。イーアンを癒してくれるのか」


 龍気を分けてくれようとしていると分かり、ドルドレンはお礼を言う。

『でも、お前が足りなくなっては困る。イーアンはこの後、空に連れて行ってもらうから』そう言われて、ショレイヤは気にしつつも、了解した。


 そう。早く連れて行かなければ。でも、タンクラッドが終わるまでは、タムズを呼べない気がして、ドルドレンは親方の完了を、急ぐ気持ちで待った。


 腕の中のイーアンは、目を閉じて眠るように動かない。


 しかし眠っているのとは違うのは、彼女の息遣いが、あまり分からないことだった。

 それはとても不安で、ドルドレンは腕に抱いた奥さんをぎゅっと包むと『有難う』とお礼を伝えた。


「君はいつも、こうして。この前も、俺たちを助け出すために」


 今回。皆が戦った。皆が必死だった、このアギルナン地区の魔物応戦。


 多くの人が亡くなり、多くの人々が傷つき、多くの人たちの日常が壊れた。町は、崩壊も甚だしい状況に陥った。オーリンの話では、集落は全滅させられたところもある。

 自分たちも必死だったし、民間人の皆も、大切な人を守るために命からがら、逃げ惑う恐怖の時間だった。


 だから、イーアンだけが頑張ったわけではないにしても・・・



「そう。だけど。だけどね、君は皆がしたくても出来ないことを、自分が受け取った力と知って、全開で挑むから」


 それに、俺の奥さんだ。ドルドレンは涙が出そうになるが、それはどうにか堪えた。


 イオライの時もそうだった。大事な愛する人が、死ぬんじゃないかと思うくらいに、大怪我を負っていても。

 総長の自分は、彼女よりも重傷の仲間を優先して、治癒場に連れて行った。イーアンなら、そうしてくれ、と言うから。


『今回もね。そうなのだが。だけど想いは・・・一番なんだよ』一番、君が頑張ったと言いたいし、一番イーアンが無理をしていると思うし、一番先に助けたい。


 それなのに、すぐに助けてあげられないことを、済まなく思う。両腕に包んだ、意識のないイーアンに顔を埋めて、涙を我慢するドルドレンは震えていた。




「終わったわよ!」


 ドルドレンが、早く早く、とイーアンの髪に顔を埋めて祈っていると、ミレイオの声がして、ハッと顔を上げる。『ドルドレン、終わった!』近づいてくるミレイオが、タンクラッドの方を指差した。


「本当だ。魔物が全部消えた」


「もう、大丈夫じゃないかしら。あの気色悪い、変な銀色のやつが、地面に下りたから」


 タンクラッドも下りたわよと、ミレイオは抉れた地面を見下ろす。言われて見てみると、棘だらけの銀色の体は地面に着いて、何かしている。タンクラッドも横に立っていた。


「終わったのか・・・・・ 」


「ドルドレン、イーアンを早くっ」


 ミレイオも気にしていたようで、空を見上げる。そうだ、と一声上げて、ドルドレンはすぐに男龍を呼んだ。

 それは何度も呼ぶ必要はなく、ドルドレンが、2度目を繰り返えそうとした矢先、夕暮れの空が眩しく光った。



 やってきたタムズは、ビルガメスと一緒だった。

 夕暮れの暗がりを照らしながら、二人の男龍は、後ろに10頭近くの小型の龍を付けて地上へ降り、全てを知っているように、ドルドレンの側へ来た。


「彼女を」


「勿論だ」


 ビルガメスはイーアンを受け取り、悲しそうに目を一度瞑ってから、すぐにミレイオとドルドレンを見て『ミレイオは良いが』と言い、ドルドレンや騎士たちに龍を早く戻すように伝えた。


「お前たちの都合もあるだろう。分かっている。だが、龍を一度戻せ。今日は休ませてやれ。そばに()()がいたんだから」


 大きな男龍は、地面に降りている銀色の奇獣を見て、静かにそう言うと、タムズに顔を向けて『タムズ。ザハージャングを先に連れろ』と命じた。


 タムズは頷き、ドルドレンを見て『君たちは頑張った。不自由があると思うけれど、夜の間は休みなさい。その間に龍を癒してあげないと』と伝える。


 総長は了解して『龍がいて助かった』と答えると、ショレイヤを撫でて『すぐに戻すよ』と声をかけた。


「シャンガマックたちにも言う。きっと少ししたら、龍は全部戻る」


「そうしてくれ・・・でもね、ジョハインだけは帰って来ている。他の龍を頼むよ。もし龍のいない間、何かあれば私を呼びなさい。魔物はもう、いそうにないが」


 タムズはドルドレンの額に上げられた、龍のマスクを見て微笑み『君は本当に忠実』と頭を撫でると、そのまま銀色の奇獣へ飛んだ。



「あ。でも、あの変なの連れて行かれたら。タンクラッド、どうやって動くの?」


 タムズの背中を見ていたミレイオは、思いだしたように『()がない』とドルドレンに言う。


 ビルガメスがそれに答え『ショレイヤと一緒に寝る場所へ戻れ』と教え、その後に龍を戻すように指示。


「お前たちが今日以降、どう動くか。それはお前たちが考えろ。龍に無理が多い。それも考慮する必要があることを忘れてはいけない」


 ビルガメスは二人にそう言って、タムズが銀色の奇獣と白い光に包まれ、空へ戻るのを見てから『ではまただ』と挨拶する。大きな男龍は、イーアンと背後の龍と共に、瞬く間に光となって空へ消えた。

お読み頂き有難うございます。


昨日。とても驚くPVがありましたことに心より感謝します。

ご関心を向けて頂いたこと。読もうと思って下さいますこと。本当に嬉しいです。本当に頑張れます


今回のお話には、ちょっと合わない絵なのですが・・・驚くほどのPVを頂戴して、浮かれて励んで、朝一番で描いた絵がありますので、こちらに貼ることにしました。



挿絵(By みてみん)



シャンガマックとヨーマイテスです。二人が一緒に、朝の草っぱらで寝転がっている時。

別のお話の挿絵でも良いのですが、今日描いた絵なので、こちらに出しました。

本日の活動報告にも載せました(↓)。お時間がありましたら、宜しければいらして下さい。


https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1714731/blogkey/2653138/



○昨日今日、所用が立て込んでしまいまして、明日は朝1回の投稿です。夕方の投稿はありません。

いつもお立ち寄り下さいますことに、心から感謝して!

どうぞ宜しくお願い致します。


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