表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
力の属性
1095/2953

1095. 旅の五十八日目 ~龍気回復、前兆

 

 岩礁の先。波の間に立つ岩の上で、海龍グィードを呼んだイーアンたちは、想像以上に目的を果たすことが出来、手伝ってくれたグィードにお礼を言って、お別れした。



 手にはお土産。龍気の相談をしたイーアンは、グィードにまた皮を貰った。


 今度の皮は、グィードのお顔のどこからしく(※顔も巨大)今着ている服の表面とは、少し違った模様がある。その皮を手にした時、イーアンの体に膨れるような龍気を感じ、またそれは中を巡るように思えた。


 戻ってゆく黒い大きな影を見送る3人。タンクラッドは横に並ぶ、満足そうなイーアンを見て微笑む。


「凄い龍気だ。土産もあるのだろうが、本来のお前の力が蘇ったな」


「分かりますか。私、何となく」


「それで、何となくかよ!どんな神経してるんだ」


 タンクラッドに言われたことを、イーアンが『はて』と思って正直に答えたら、後ろのオーリンが笑って遮った。

 ムスッとして、龍の民を見る女龍。『仕方ないでしょう。()()()()()()くらいは分かりますけど』神経とか言うな、とむくれる。


「お前は自分の龍気が大き過ぎて、その中心にいるから、分からないのかもしれないな。

 グィードが来た時は、龍気が周りに満ちていると言っただろう?」


 あまりに鈍い発言の女龍に、これは違うのかもと、タンクラッドが理解を示す。イーアンは親方をさっと見上げて、うん、と頷く(※親方に頼る)。


「さっき、グィードには気が付いた。だが、最初の津波の日。お前は、グィードの龍気も感じなかったんだ。俺でさえ分かったのに。

 ビルガメスも話していたようだが、恐らくお前の龍気は『最大』なんだ。だから常に、その状態でいるせいもあって、()()気が付き難いのかも知れない。

 今回、減りに減ったから、グィードにも気が付いたとか・・・な」


 優しい親方の前向きな意見に、イーアンは頭を下げてお礼を言い、後ろで『そんなのこじつけ』と笑い続ける龍の民を睨み付ける。


「あなたねぇ。そんなに笑うことでもないですよ」


「だってさ。普通は、それだけの龍気があったら、他の龍気も気が付けるもんじゃないの?全然分からないなんて、嘘みたいだよ」


 イーアンは翼を出す。びょっと6枚の白い翼を完璧に出して、驚く龍の民を、一番長い翼でべしっと叩いた(※女龍のお仕置きその①)。倒れるオーリンに驚くタンクラッド。慌ててイーアンに注意する。


「叩かなくても」


「彼に痛くありませんでしょう。何ですか、大袈裟に倒れて。

 龍気ですよ、この翼。()()()()()なら避けて下さい。()()()分かりそうですけれど」


 何だか嫌みったらしい言い方に、オーリンはイーアンをじっと睨んでから立ち上がり『不意打ちなんて。それが龍族のすることか』となじりつつ(※イーアン無視)白い翼に近寄った。


「あのな。翼で叩くなんて思わないぞ。ここまで付き合ってやってるのに、何てことするんだ。謝れ」


「あなたが先です。お謝りなさい。笑ってバカにして」


「イーアンはいつもそうだ。俺に命令して、自分が正しいと思い込んでる」


「さっきのは、どうやったってオーリンがいけないでしょう。あんなにからかって、笑うなんて失礼」


「誰だって思うだろ!龍気で動く種族なんだから、分からないなんて有り得ないって言っただけだ」


「何ですか、その言い方。違う人がいたら、認めないのですか。その考えを改めて」


「どうしてそう、いつも上から目線なんだよ。とにかく叩いたのは謝れよ」


「イヤです。あなたが先でしょ」


「大の男を、()()()叩いて倒しておいて、よくそんなこと」


「オーリンが()()()、大人の女性を笑ったのはどうなんですか!」


「女性としてじゃないぞ、龍としてだろ?イーアンは俺を叩いたんだ!」


「痛くないでしょ!あんな倒れるほどの力で叩いてないもの!」


 一度、口喧嘩が始まると、この二人は終わらないので。


 タンクラッドは二人を引き離し(※無言)喚いているイーアンのバサバサする翼を、よいしょと一つにまとめると『まだ飛んで戻るな。一緒に乗るぞ』と、頭の上から声をかけ、女龍を抱え上げて(※まだオーリンとやり合ってる)待っていてくれた龍に乗る。


「すまんな。待たせて。これで帰るからな」


 ショレイヤも、女龍が元気になったことと、グィードの側にいたことで、自分も龍気を得た。親方の言葉に頷いて(※ドルドレン似)ぎゃーぎゃー怒る女龍を気にしないように、翼を広げた。


「ガルホブラフ。お前もオーリンを乗せろ。帰るぞ」


 ガルホブラフの首に手を置いたまま、背にも乗らずにイーアンに言い返しているオーリン。


 龍は、親方の言葉を了解し、友達の首根っこを(くわ)えると『何すんだ、自分で乗る』と煩い男をぽいっと背中に放り、さっさと飛び立つ。

 その行動に、龍の民は友達を責める(※八つ当たり)。


「お前。タンクラッドの命令なんか聞いて!」


「命令じゃないぞ。帰ると言っただけだ。ガルホブラフも帰りたいだろう」


 前のイーアンが後ろを向いて、まだオーリンに喚いている声を縫い、親方が疲れたように言い添える。


「ほれ、帰るぞ。帰ろ、帰ろ(※投げやり)」


 いつまで言い合うんだろう・・・苦笑いしながら、後ろに怒鳴る、女龍の長い角を掴んで前を向かせ(※ぐり、って)わぁわぁ騒ぐ女龍に『いい加減に静かにしろ』と注意(※44才♀ぶすっと頬っぺた膨らませる)。


 後ろでも『謝れよ』としつこいオーリンを振り向き、溜め息を付いて『お前も大人なんだ。止めろ』一言投げた(※45才♂仏頂面で黙る)。



 親方は思う。これが龍族なんだろうな~と。

 ニヌルタたちの、喜怒哀楽の回転速度も驚かされることは度々だが。見た目は人間的でも、イーアンとオーリンも、根本の性質は同じ。


 そう思うと、コルステインたちサブパメントゥは、共通する性質が、性格に関しては、あまり一定していない気がする。


 むすーっとしている、自分の腕の内に収まる女龍を見て、元気になって何よりと、少し笑う。元気になった途端、これなんだろうと思うことにして。


 親方の笑い声にも面白くないのか。全く無視し続けるイーアンに、親方は『お前が可哀相だったな』と小さな声で囁いてやった。

 イーアンはちょっと見上げて、本音かそれ、と言ったような目で親方をじーっと見る(※疑)。声を立てずに笑うタンクラッドは、女龍の角をナデナデして『怒るのも無理はない』と付け加えた。


「あれは。オーリンがいけないな」


 やっと表情が普通に戻ったイーアンを覗き込んで『龍気が()()()()だけだろう』と言うと、女龍は、うん、と頷いて、そこからは大人しかった(※自分でもそう思う)。


 ようやく静かになったので、龍は親方にちょっと感謝した(※龍は、グチっぽい人キライ)。

 そして静かな空を、静かな3人を乗せた二頭の龍がギールッフの町へ向かった。



 *****



 もうじき昼だなと、時計を見たドルドレン。


 宿で午前中、今日もギアッチとやり取りし、各地の状況を聞きながら出来る助言を伝えるだけ伝え、『休める時に交代して』と皆の体力を気遣い、また夕方に報告をと約束した。


 その後、状況をシャンガマックたちにも話して伝え、今朝、ショレイヤが動いたことから『午後か明日に、ハイザンジェルへ行きましょうか』と相談もした。


 しかし、テイワグナからハイザンジェルへ飛ぶとなると、さすがにショレイヤたち『小型の龍』に往復はさせたくない。

 ミンティンくらいなら平気だろうが・・・そんな懸念も含め、ああだこうだと話し合って、あっという間に昼近くになった。


「ミレイオに声をかけましょう。バイラも馬車です」


「そうだな。少し早いが。イーアンたちも、そろそろ戻ってくるだろうし、先に食べても」


 ミレイオとバイラは馬車で、武器と防具の話をしている。


 昨日バイラが、ガーレニーの鎖帷子を知ったことで、護衛時代から武器と防具に親しむ一個人として、意見を伝えたことにより、ミレイオが『その話を参考にしよう』と書き留めることにした。


 ハイザンジェルと環境の違う国なので、ミレイオも職人にアドバイスをする度、何度かに一回はズレがあるため『これは分かり難い』と感じていたようだった。


 バイラは控え目で、『単なる同行』の自分の意見を、彼ら騎士たち一行に聞かせることはあまりない。だが、何かの役に立てたらといつも考えているので、今回のことでは少し職人たちの役に立てそう、と思った次第。



「ミレイオも、この町にいる間に、結果を出したいだろう」


「あの人は真面目な人ですね。徹底的に詰め込むように、努力を惜しまないというか」


 旅の同行で来たのはミレイオも同じ。でもミレイオは、今となっては皆の中で重要な存在となり、ドルドレンを始めとした騎士たちは、盾職人の日々の行いに、ただただ敬服ばかり(※一番、面倒見の良い職人と思う)。


 オーリンもフラフラしているけど、腕は良いんだよとか(※当てにならない)。タンクラッドも面倒見は良いが、言い方はアレだからとか(※教え方キツイ)。イーアンも頼りにはなるけど、いつもお空に行くしね、とか(※時間細切れ)。


 他の職人と比べながら、騎士たちは、ミレイオの『付き合いが良い』『丁寧で優しい』『まめ』な態度に感心を述べつつ、馬車へ迎えに行く。


 荷馬車の後ろでは、バイラが防具を床に置いて説明中。ミレイオはそれを、手に持ったペンで示し、質問しながら、解釈を進めて書き付けていた。


「ほら。やっぱり」


「真面目ですよね(※他の人も真面目だけど)」


 近づいてきた騎士たちの姿に、バイラが先に気が付いて笑顔を向ける。『お昼ですか』バイラの声に、総長は頷いて『そろそろ食べよう』と答えた。


「あ。そう?もう食べるの。じゃ、後で()()()の話、してくれる?」


「分かりました。多分、それはどの地域でも一般的に使うものなので」


 二人はまだ続きがあるように、午後の相談内容を確認し合い、出してあった防具や筆記用具を片付ける。


 それから騎士たちと一緒に、バイラとミレイオも食事処へ向かい、昼より少し早い時間、混み始める前に席に着いた。



 ドルドレンは料理が出てくる間。ミレイオはいつも側に居るから、安心だと話した。

 笑うミレイオは『そうでもないと思うよ』と総長に言い、偶々(たまたま)自分がいる時間が長いんだと答えた。


「私は同行だからさ。イーアンもタンクラッドも、することが四六時中じゃないの。あんたたちもだけど。

 ()()があるのとないのとじゃ、動きなんて全然違うわよ」


「でも、心強いのだ」


 そう?と笑って、ミレイオは運ばれた料理を食べながら、お礼を言った。

 謙虚であっけらかんとしている盾職人に、騎士もバイラも『この人が居て良かった』と、じんわり思う昼食の時間。

 ミレイオは頼りになる・・・そして常識的・・・彼の見た目はもう、誰も気にならない(※刺青パンクオカマ)。とにかくこの頼りになる、年長の同行者に微笑みながら、穏やかな会話を続けた。


 6人は、食事をゆっくり食べつつ、午後の流れも話し合う。


 特別、用事はないのだが、偵察・調査に動き回るかどうかの話になると、『待機は続ける方が良い』とミレイオは言う。

 ミレイオが思うに『嫌な話だけど。()()2()()で済むかどうか』地震と奇妙な筒の話は、まだ終わっていない気がすると、眉を寄せて皆に伝えた。


「そう思うのか?何か理由があるとか」


「これは理由なんか分からないけど。予感って言うか。まぁさ、町に魔物も出てるじゃないの。だから、あれの影響でここだけ増えたり、そんなのも想像するのよ」


 ミレイオがハイザンジェルにいる時。まだ、イーアンたちに会っていない時期の話をしてくれた。


「知ってるかどうか。私の住んでいた所って、山脈の裾野みたいな場所だから、地震が度々あって。魔物騒動が始まってからよ、地震があるたんびに魔物が出たのよ。

 どこか魔物が出るような、割れ目でもあるのかなって、探したことあるけど、当時は()()()()しさ。

 馬で、そこら見に行っても、限度があるじゃない。馬も借り物だったから、危ない場所行けないし」


 だから、家まで来た魔物を撃退するだけだった、というミレイオは『家で魔物いつ来るかなって待ってる感じ』とうんざりしたような顔を向ける。


「それ。深刻なのだ。ミレイオは強かったから良かったが、おじいちゃんおばあちゃんは死んでしまう」


「西の支部からも遠い場所ですよね。ミレイオの家みたいに、周囲に人がいない地域は、助けが間に合わないと一気に被害が」


 それを言いかけたシャンガマックは、言葉を切って溜め息をついた。妖精の騎士が続きを拾う。


「地震も影響はあるでしょう。地震そのものが害ではなくても。

 ミレイオの経験談は、魔物被害に遭う多くの人に経験が。少し私たちも、この町に留まる間は、ここを中心に」


 待機の続行を改めて意見したフォラヴが、最後の一口を食べ終わり、水を飲もうとした時。



 ガンッと大きな音と共に、地面が縦に揺れた。


 凄まじい騒音が同時に起こり、店の中の物が、一度に落ちたり壊れたのだと知る。


「避難だ!ここにいる皆、避難しろっ」


 ドルドレンは立ち上がって、店の中にいる客や店員に大声で告げると、急いで厨房へ跳び込んで、火を一気に水で消し、倒れた人を引っ張り出す。『逃げろ』そう言いかけて、またドカンと地面が突き上げられた。


「おおっ」


「総長!」


 厨房から出てきた総長の声に、褐色の騎士が振り向く。店の中の客は叫び慌てながら表へ走り出る中、揺すられた勢いで転倒する人が何人も見えた。


「シャンガマック、窓!」


 割れた窓の、窓枠に残っている破片が震えて落ちてくる。総長に叫ばれ、褐色の騎士は窓辺に倒れた人に走り、彼らを抱えて外へ出す。


『フォラヴ、ザッカリアを守れ』フォラヴも、反対側の窓で怪我をした人を支えていたが、ザッカリアがうろたえているのを見て、ドルドレンが指示する。

 怪我人を支えたフォラヴに、店の人が走り寄ってお客さんを引き受けたので、フォラヴは急いで、戸惑う子供を抱き寄せた。


 バイラは!と、ドルドレンが外を見ると、バイラは既に、慌てふためく通りの人々に、大声で避難場所を教えて誘導していた。

 ハッとして、すぐに姿が見えなくなったミレイオを探すと、ミレイオだけは店に居ない。外なのか、と出てみたが、彼がどこにいるか分からなかった。


 しかし、いない仲間を思う時間も続かない。

 再び地震が、足元を叩くように突き上げる。通りの向こうで、悲鳴と建物が壊れる音が聞こえた。顔を向けると、町の空のそこかしこに煙が上がり始めていた。


 時間は昼。火事が起こり、壊れる建物の倒れる動きと、足元を走り抜ける地面の亀裂が、ドルドレンたちの目に映る。



「また。これは()()()と似ている。この地震」


 灰色の瞳に不安を湛えたドルドレンは、次の地震の前に、皆に外へ出て避難場所へ向かうように伝え、自分たちも一旦宿へ戻って、戦闘準備に掛かった。

お読み頂き有難うございます。


昨日より、番外の短いお話『こんな俺でも本気でした』シリーズ、セダンカ・ホーズ編が始まりました。

「セダンカと魔法の絵」↓一話目のURLです。


https://ncode.syosetu.com/n7309gl/11/


昨日、今日と続いて、明日、もしかすると明後日にも掛かるかもですが、3~4回ですんなり終わるお話です。宜しかったら、どうぞいらして下さい。


活動報告にもご紹介しています↓。一話目の活動報告のURLです。


https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1714731/blogkey/2649969/


いつもお立ち寄り下さいまして、心より感謝しています。有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ