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魔物資源活用機構  作者: Ichen
力の属性
1094/2953

1094. ギールッフ職人の魔物製品~両刃斧・長筒銃・鎖帷子

 

 場所は変わって、本日午前のギールッフ町の炉場。



 昨夜。旅の職人に会いに町営宿へ出向き、家に戻ったギールッフの職人。彼らは、自工房へ戻るなり、すぐに作業をしていた。

 作業を続けた時間は人それぞれだが、彼らは翌朝、いつものように炉場へ出かけて、持ち込んだ製作中の品と試作を見せ合った。


「なるほど。ここに使ったか。どうだ、まだ」


「試作だから。すぐに使っても、家にある肉の塊くらいだ」


 アハハと笑うイェライド。ナイフの試作に、早速、手応えを感じたと教える。『切れ味は良いだろうね』入れる温度で違う、と教えるイェライドに、後から来たバーウィーが『斧を』と荷物から出した。


「昨日・・・あの時間から作ったわけじゃないだろ?」


「違う。途中までで、どうしようかと考えていた。続きは短かったから」


 バーウィーが出した斧は、彼の仕事を見慣れている職人たちも驚く。『こんなの、お前これまで、作ったことないだろう』老職人が、バーウィーの太い腕に持ち上げられた斧を見て、心底びっくりした声を上げた。


「ないな。昔、テイワグナにこんな斧があったのを、資料館で見ているくらいだ」


「昔ったって・・・もう何百年も前の戦争の時のだろう」


 老職人の質問に答えたバーウィーに、ロプトンという若い職人も、まじまじと斧を見つめて呟いた。バーウィーも少し笑って頷く。

 皆で彼に寄り、その仕事の成果を見せてくれと、場所を空けた机の上に斧を置いてもらった。


「戦闘用だな」


 普通の顔で言うバーウィー。ぞくっとするものが背中に走る、他の職人。両刃の斧は考えていなかった。


 テイワグナで斧といえば、普通に片刃。林業・栽培農家相手の受注が多い地域でもあるので、両刃は特別需要があるわけでなし、片刃で充分の日常では、全くと言っていいほど、両刃の斧など目にすることもない。


「戦闘用だが、実戦で使った記録も、年数を見れば少ない。ウム・デヤガの郷土資料館に、遺物の両刃斧が飾られている。

 とはいえ、この斧が登場したのは、ヨライデからの侵攻があった数十年間で、ヨライデ軍の巨剣マーシュライを参考にしたとかな、そんな話だ。

 それから、ヨライデを撃退するまで、テイワグナの西から西南にかけて、この両刃斧の生産が200年ほど続いた」


 バーウィーの説明に、フィリッカが顔を手でぐっと拭うと、横にいるロプトンに訊ねる。


「マーシュライ・・・あれか。ミレイオが持っていた。昨日、俺たちに見せてくれて」


「見てないやつもいるな。鎧をしまう時に、ミレイオが『こんなのもあるよ』って、魔物材料じゃないにしても、参考品で教えてくれて」


 ロプトンも剣作りに憧れて、弟子入りもせず独学で10年。炉場に来たのも最近で、まだまだ客もいない職人だが、知識と独学で磨いた腕は、他の者も感心するほど。


 そんな若いロプトンは、ミレイオが見せてくれた大きな剣・マーシュライを初めて見て、大感激した。


 ミレイオが思うより喜んだロプトンに、気を良くしたミレイオは、彼にマーシュライを持たせてやり、他の職人が中へ入った頃に少しだけ、マーシュライの製造方法を教えてくれた。


「ミレイオはあれを使えるんだ。でも、普段は使わないと話していた」


「あの人も不思議な人だな。盾職人だが、様々なものを作っている」


 ロプトンは、マーシュライの製造方法をバーウィーにも伝えて、今回作った両刃の斧も同じかと訊ねる。

 バーウィーは首を振り『これは俺の普段の斧に、タンクラッドが教えてくれた方法で、魔物を使った』と答えた。


 大きさも、刃の形、付け方も、握りの柄も。今後、これの需要を知っているように、計算されて作られた両刃の斧。相手が魔物なら――


「魔物を倒す武器だ。人間向けじゃない。そのつもりで挑んだ」


「俺も作った。これ、ミレイオが見せてくれた『銃』っていうの、あれのさ」



 魔物を倒すためだ、と強く微笑んだディモ。

 飛び道具に強い関心を寄せていたが、慎重なディモは、ミレイオに散々質問してからじゃないと動けなかった。


「でも、構想はあった。最初の日に、ミレイオが預けてくれた銃で。俺も中のバネを作って、大丈夫だと言ってもらえたから。材料分けてもらって、部品試作もして」


 ここで、イェライドが彼を見た。ディモは年下のイェライドに『こいつが知恵をくれたよ』と微笑む。


「イェライドが、圧力を一箇所にかけたらどうだ、と」


ミレイオの銃は短くて、弾くのはバネの力がほとんど。『彼らの銃は、元がオーリンの作った、変わった弓を応用しているから』だから大きさも威力も、同じくらいの状態なのだと思う、とディモは話す。


「この魔物金属製のバネが。一瞬の熱で一気に形が戻る。それがあの銃の強力な部分だ。戻った後、もう一度ミレイオが本体上の部分を引くと、中のバネはまた縮む。それで中にまた石を詰めるだろ?

 俺のは筒の部分が長い分、ミレイオが引く銃の部分をこうして・・・な。こうだ、こんな具合で。見えるか」



 説明しながら、皆の前に見せた、ディモの作った武器。

 ミレイオの肋骨さん銃を大きくし、片腕に添えるようにして使う。『これなら。もっと遠くまで・・・威力あるぞ』彼は自信を持って頷く。


「こんな長くて、大丈夫なのか」


「長いけど。ミレイオの話も合わせれば、問題ないと思ったんだ。さっきの所を、こうだろ、ミレイオの銃は短いから、こっちにあるけど・・・俺のはここを、ゴキッとさ」


 折れる銃身。皆が『大丈夫かよ』と心配する中、ディモは『とりあえず、試作だから』壊れたところで改良するだけ、と苦笑い。


「それから。これ、凹みあるだろ?これにさ。ええっと、こんくらいの石を置くんだ。石も変えたい・・・でな、こうやってまた・・・今、ガチャンッて言っただろ?これで、もう撃てるんだ」


 ディモはそう言いながら、不審そうな目を向ける仲間に笑って、窓辺へ行き、窓を開けて20mくらい距離のある壁を指差す。


「あの辺に撃つからな。側に誰もいないか、ちょっと見てくれ」


 職人の一人が、さっと窓から出て、外を見てから『大丈夫だ』と答える。

 何度も練習したディモは構えて、『多分、大丈夫だと思うよ』いきなり弱気な発言をして、ニヤッと笑うと引き金を引いた。


 パンッと軽い音がした後、ディモは『うーん。石によるかな』一言呟き、銃を下ろした。


 皆で壁を見に行くと、ディモの撃った石は壁を傷つけていて、それはかなりはっきりと痕を残していた。


「これさ。ミレイオは石を使うけど。俺は金属の棒を切って、このくらいにしたやつの方が良い気がするんだよね。石、いつも同じ大きさとは限らないだろ?」


 ディモは、重さも形も都度、違う石よりは、揃えたものを使用した方が、発揮する威力に影響が少ないと思うことを話す。



 作りはよく分からない、刃物などの剣職人たちは、ディモの飛び道具の破壊力を見て『これは危ないな』と感想を伝える。

『弓矢よりも、分かり難い』扱うのに制限を先にかけよう、と。初めての武器の登場に話し合った。


 ディモは警戒する皆に、自分も慎重に考えている旨を伝え、その上で『そんなにすぐ誰でも使えるわけじゃないと思う』ことを話す。


「狙った場所に当たるかどうかは、練習だろうな。勘の良いヤツはいても。

 これはバネと、バネが引いた空間に溜める、()()()弾ける威力で、この小さな粒をふっ飛ばしている。皆が見たように、狙うにしたって、こんなちっぽけな石がどこへ飛ぶか。威力はこの筒の中だけ。

 練習必須だし、この武器に慣れないと、そこまで危険は無いと思う」


「あるぞ。何言ってるんだ。性能がどうって、それはディモが、魔物を相手に考えているからだ。

 間近で撃たれてみろ。これだけ離れた場所に、あんなに小さな石が壁を(えぐ)った。

  人相手に使ったら、頭に(きり)でも差し込むのと同じだぞ」


 それを言ったら、刃物は全部そうだろう、とディモはぼやく。だが、確かに出てきたばかりの武器は、扱いに慣れる段階で『扱う』人間と、『そうではない』人間両方の認識が必要ではある。


 剣を見たら、斬られる間合いから逃げる。ただ、それだけのことだが、これが分かっているかどうかで、武器の普及への注意点は変わってくるのだ。


 ディモが製作者ということで、長い形の銃は今後の武器として登録するにしても、販売に関しては、武器職人全体で考えて、条件を付けることにした。



 朝から、魔物材料を使った作品で盛り上がる炉場。朝と言っていても、皆が真剣に考えて話すので、もう午前も半ば。


 武器の話が一段楽したところで、自分の作ったのも見てくれと、ガーレニーが包みから鎖帷子を出した。


「イーアンに聞いた、鎧の構造。午後にミレイオが見せてくれた、ハイザンジェルの鎧。俺の鎖帷子に、魔物製の鎖を繋ぐだけでなく、この板の部分も魔物の一部で作って・・・これがあるだけで、鎖帷子が使いやすくなる」


 防具はガーレニーだけ。老職人も作る者がいるが、国内で鎖帷子の需要が減ったので、専門を切り上げたのは何年も前。


「護衛もな。昔に比べると、少なくなっただろ。もう鎖帷子使うやつなんて、あんまり来なかったからな」


「ガーレニーは、警護団の知り合いに回したから、それで仕事になっている。警護団が、これから数を頼むようになれば、また防具の状況が変わるだろう」


 老職人の二人が、ガーレニーの見せた鎖帷子を手に、話を進める。


「そうか。魔物製となると、どんなものかと思ったが。()()()()()より軽い気がする」


 白い髭の職人キーガンが目を凝らして、ガーレニーの作品を間近で見つめる。持った手に重さがそれほどでもない、というキーガンに、ガーレニーも頷く。


「どんな魔物、ということでもない。この板状の部分。()()はイーアンが分けてくれた。

 イーアンの鎧にも使っているし、彼ら騎士の内、二人はこれと同じものを使っている。

 彼女が言うには、俺に分けた()()は、テイワグナに入ってから回収した魔物らしいが、ハイザンジェルで回収したものと、ほとんど質が変わらないと言っていた」


 軽くて強い、というガーレニー。キーガンも60代。見た目は50代にしか見えないが、鎖帷子作りを8年前に引き上げた職人。今は手甲や脛覆い、鞘を作っている。


「面白い。これは金属に見えないが、金属なのか」


「違う。俺はこれを、()()と一度も呼んでいない。金属質な輝きだし、そこらの金属よりも遥かに硬いが、()だ」


 皮、の言葉を繰り返すキーガン。他の職人も、その黒い不思議な光沢の板状部品を見て『これが皮』と何度も触る。


「これは体中、この硬さの板で覆われているようだが、倒す時は、関節に毒を塗った剣を刺せ、と。魔物の毒だったようだが、イーアンはそれで倒せた話をしてくれた。彼女がまだ、()()()()()頃」


 ガーレニーの言い方が可笑しく思う、周りの皆は、彼を見て、その顔が笑みを含んでいるので、一緒に笑う。


「タンクラッドが話してくれた。イーアンは普通の女だったと。普通の女は戦う気がしないが、彼女自身も話していたように『誰でも倒せる』と知ることが大切なんだ。

 倒す時、攻撃を受けても返せるのは、防具の仕事だろ。俺はそれを、一人で作り続けるのは無理がある」


 そう言って、鎖帷子を手に持っているキーガンを見た。もう二人の老職人は『もう、小さいものは目が痛いよ』と、鎖帷子は遠慮することを先に伝える。


「キーガン。出来ないか」


「面白いな。だがもう、俺が鎖帷子から離れて8年だ。お前の思うように動くかな」


「『誰でも、魔物を倒しに行く』なら、防具は必要だ。ギールッフ以外で、国内の製造工房に、彼らハイザンジェルの旅人が辿り着くまで。まだ、どれくらい掛かるか分からない」


「期待するなよ。俺も変な防具は作りたくないんだ。命を守る代物だ」


 分かっている、とガーレニーは微笑んだ。キーガンは『()()ばっか、だったしなぁ』と、乗り気ではなさそうだが、遠回しに引き受けてくれた。



 彼らが炉場で、こうして新しい材料を片手に、広がり始めた製作に意見を出し合っている、午前も昼近い時間。


 ギールッフの炉場の反対側。対角線にある、南西の果樹園では、土を掘り起こして進む、モグラのような手の、巨大な虫が動き出していた。

お読み頂き有難うございます!

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