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魔物資源活用機構  作者: Ichen
力の属性
1084/2953

1084. ハイザンジェル・リーヤンカイ山脈連動

 

「ハイザンジェルがどう」


「今、いやさっき。ギアッチが、今」



 ドルドレンの血相を変えた顔に、驚いたイーアン。慌てて立ち上がると、伴侶の側へ行き『ギアッチ?』と名前を尋ねる。

 ドルドレンはイーアンの両腕を掴み『ハイザンジェルに、西の壁に』と散らかる言葉を言いながら、目をぐっと瞑る。


 ザッカリアもハラハラしながら、総長の代わりに急いで話す。


「ギアッチが教えてくれたんだ。まだ大変なことにはなってないと思うけど」


「何ですか?ザッカリア、ギアッチ?西の壁って、あの穴は」


 シャンガマックも言葉を繋ぐ。


「イーアン。聞いてくれ、もしかするとまた魔物が」


「それはないでしょう、だって」


 信じられないと目を丸くするイーアンに、フォラヴも言葉を選んで情報を口にした。


「地震が。西北西へ、イオライの」


「イオライだと?」


 妖精の騎士の出した地名に、大声で驚き立った親方。ミレイオも腰を浮かせて『何ですって?』何があったのと、不安そうに騎士たちの輪に歩み寄った。


「イオライセオダは?地震って何だ。いつから」


「ちょっと、待ってくれ。俺も、ずっと混乱している。ギアッチの話を今すぐまとめる。彼も報告で」


「ドルドレン、魔物か?魔物が出たのか。イオライセオダに?」


 タンクラッドは目をむいて、ドルドレンに詰め寄る。ミレイオが間に入って『今、教えてくれるから』と親方を止めた。

 後ろにいる、ギールッフの職人たちも、何事が起こったかと心配そうに、旅人たちの話の先を待つ。


 ドルドレンは、混乱する情報を大急ぎでまとめながら、まずは必要最大事項『行動』から話す。そして、理由、現状と続けて、最後に『想像している恐れ』を伝えた。


「また」


 表情の消えた顔で呟くイーアン。頭の中には、あの男の影がちらつく。

 だが、今回もそうとは限らないのだ。怒りがこみ上げるにしても、今回は違う可能性もある。ビルガメスは『連動』と言ったのだ。


 瞬間的に湧いた怒りの矛先が、原因を(もた)したと推測する()()に向かうが、怒りに囚われている場合ではないと、自分を落ち着かせる。



「また、とは?イーアン。昨日の」


「そうじゃないの?だってあんたたちが、イル・シド集落で食らったのと似てるじゃないの」


 ドルドレンはイーアンの呟きと顔に、不安を感じて訊ね、ミレイオが代わりに答える。ミレイオは、間を置かず、昨日の続きはどこかで起こる気がしていた。


「どうする。イーアンはまだ動けない。俺たちも龍がいない。ミンティンも」


「ドルドレン。落ち着きましょう。私も考えている最中です。1分1秒惜しいけれど、惜しんで間違いは犯せません」



 イーアンは皆をさっと見渡してから、『ちょっとお待ちになって下さい』と言うと、腰袋から連絡珠を一つ出す。その連絡珠は見なれない色で、皆はそれが誰の珠か分からなかった。


 イーアンは金色の珠を手に持ち、暫く誰かと交信・・・あ、と一声上げる親方。『ファドゥ』あの色はファドゥに預けた珠だ、と思い出した(※495話参照)。さっとイーアンが見て微笑んで頷く。


「ファドゥ?男龍に持たせているの」


 その名を聞いたミレイオが意外そうに、タンクラッドを見上げる。タンクラッドは『彼女がまだ、空に上がった最初の頃に』と、ファドゥも龍の子だった話をする。


「そうなの。男龍って()()()()だものね。会話ってなると、さすがに連絡珠じゃないと無理か」


 金の珠を持って、交信し続けるイーアンを見つめ、ミレイオもタンクラッドも騎士たちも、男龍を呼ぶ事態である、そのことに緊張が高まる。

 交信が終わったのか。数分後、イーアンは珠を持つ手を下ろして、見守る仲間に顔を上げた。



「ファドゥは何て」


 ドルドレンがすぐに訊ね、イーアンは『彼からビルガメスへ』と答える。ビルガメスを呼んでもらい、彼に訊ねた話をした。『ビルガメス。来るのか』親方が急ぐ。イーアンは首を振る。


「彼ではありませんが、男龍が来ます。アオファも一緒ですから、あの仔に私とドルドレン。それとタンクラッドはバーハラーで、ハイザンジェルへ行きます」


「イーアンは大丈夫なの?」


 ミレイオはそれが心配。行っても、彼女は何も出来ないし、かえって疲れるだけになるような。そのミレイオの心配を察したように、イーアンも困った顔で頷く。『お察しの通りですが』行かないと、と言う。


「アオファと男龍ですから、私が今以上に疲れることはないと思います。動かなければ、の話ですが」


「どうしてイーアンも行くのだ。男龍が来てくれるなら、イーアンは休みなさい」


 ドルドレンもちょっと心配になる。イーアンが動かないで見ているなんて、出来ない気がする。何かあれば『大丈夫』と出て行ってしまう人なのに。


 優しい伴侶に微笑み、イーアンは苦笑いして『私が行かないと。()()()()()()()()()()()()が来ます』と答えた。その答えに、ドルドレンとタンクラッドは、さっと顔を見合わせる。


「それは。もしや」


「そうです。ニヌルタとシムが来ます(※イーアンが一緒でも言うこと聞かない相手)」


「何で?」


 あの人たち、危険じゃないの(←思いつきの方々)!?と、事態が事態だけに恐れるドルドレン。イーアンもちょっと笑って『笑っている場合じゃないのですが』伴侶の驚き方に理解を示して、短く説明。


「昨晩と同じ状況であった場合。()()()彼らが出てきます。ニヌルタの強さは驚異的に抜群ですし(※だから危険でもある)シムは、ニヌルタと同じ力を使えます。

 そしてもしも、ハイザンジェル以外でも同じことが起こっていた場合は、そちらに」


「ビルガメスたちが向かうのか。アオファがいなくても?」


「そうです。もしもそうなったら、アオファと同じくらいの龍気を満たす数で、ショレイヤたちのような龍が連れられると思います」


「そんなに・・・・・ それほど大事(おおごと)が起こって」


 シャンガマックが首を振って眉を寄せる。イーアンは彼の言葉に、少しだけ寂しそうな眼差しを向けた。その意味は誰にも分からなかったが、親方だけは見当が付いていた。


「全貌は私も知らないですが。思うに、()()()()()()()が、今の危機です」




 この後。イーアンとドルドレン、タンクラッドの3人はすぐに出発準備に入る。ドルドレンは鎧を着け、タンクラッドは龍の皮の上着を羽織って、剣を背負う。イーアンもグィードの皮セットで身を包み、腰に剣を帯びた。


「万が一です。龍気で戦えないので」


 心配そうな親方の視線に、イーアンはちょっと笑って『アオファの上にいるから、使わないと思う』と伝えておいた。ドルドレンも気にはなったが、自分と一緒だからと思うようにした。


 イーアンは外へ出る。ギールッフの職人たちも、一緒に見送ると外へ出た。


「何が来るのか」


 ガーレニーがイーアンに訊ねる。親方、イーアンの真横で待機。ドルドレンも『この人誰?』の視線をちらちら(※またうちの奥さんに、と思う瞬間)。

 イーアンはガーレニーを見上げ、『私の同胞です』と答えた。彼女の答えに、フィリッカとイェライドが空を見る。


「イーアンの同胞。空から、龍の人が」


「そうです。今、私が少々疲労しておりますから、彼らが来て下さいます」


 バーウィーや他の職人も空を見つめ『何か光った』と気がついた瞬間、全員が閃光に驚いて叫んだ。


「何だ!眩しい」


「はい。直視してはいけません。それでは皆さん。また次回に。今日は有難うございました。お気をつけてお帰り下さいね」


 緊張感のない挨拶に、ギールッフの職人たちと一緒に見送る、ミレイオや騎士が、少し笑う。『イーアンは毎度こうだけど』可笑しそうに、目を瞑って顔を伏せたままミレイオが呟く。



「ドルドレン。タンクラッド。行きますよ」



 この二人も眩し過ぎて目が開かない。イーアンはニヌルタとシムを見ていて、バーハラーが近づくタイミングで『シム!連れて下さい』と叫んだ。


「待ってろ」


 光の中からシムの声が聞こえ、その次の一秒で、イーアンとドルドレン、タンクラッドは男龍に抱えられ、一気に空へ浮上した。

 タンクラッドは、すぐにバーハラーへ預けられ(※見えてないのに、ぽーいって投げられた)慌てて龍にしがみ付く。『危ない!』落ちるかと思ったとぼやくが、誰も聞いていない。


 ドルドレンとイーアンはシムの腕に抱えられて、そのままアオファの上に連れて行かれた。アオファの頭に乗せられてすぐ、『イーアンは翼も無理か』と側に来たニヌルタに聞かれ、無理と答えるイーアン。


「そうか。じゃ、イーアンは見ていてくれ」


 龍族は向きを変えて、真っ白の光の塊と化し、目指す場所『ハイザンジェル・リーヤンカイ山脈』へ。



 アオファの上で、少しずつ目が慣れてきたドルドレンは、そっと目を開けながら、横にいるイーアンの背中に手を添えたまま『イーアン』と呼びかけた。


「被害は出ていないが。あの後は分からない。もしかしたら」


「ドルドレン、私も心配です。でも、もうじき着きます。()()()()()()()()()()、一番早い対処をしました。それは分かっていてください」


 不安そうなドルドレンを励まし、イーアンも祈る。どうぞ、無事であって下さいと何度も祈る。



 ――ドルドレンの聞いた話は。


 今日の午前。昼前に北西で地震があった。地震は止まらず、支部の広間の天井が落ち、広間上にある騎士の部屋、2部屋の床が抜けた。北西支部の騎士たちは演習中のため、ほとんどが外に出ていたという。

 厨房にいた騎士たち、執務室、その他、支部の中にいた騎士たちも外に出て、おさまるまではそのまま。


 誰もが、地震に異常を感じた。大きい揺れが落ち着くまでに10分以上かかり、余震が続く中で、まずは支部の損壊を調べ、緊急で隊長が話し合い、各地区の被害を調べるため、ロゼールが出された。


 お皿ちゃんで動けるロゼールは、浮かび上がってすぐに降り、『西の壁が』と震えた。


 皆が一斉に、ロゼールに言われたリーヤンカイを見た時、あの気味悪く開いたままの黒い穴の周辺から、大きなぼやけた筒が空に伸びていた。


 ロゼールはクローハルやブラスケッドに『何かあったら、戦うな。絶対に即戻れ』と言われて送り出され、両腕にミレイオの盾を装備し、真っ先にイオライへ向かった。


 支部の騎士に被害者はいなかったが、巡回に出ている騎士たちがいるので、日数を逆算し、近い位置にいると思われる騎士たちには、支部から迎えを出した。

 これも『途中で魔物がいたら、全力で逃げろ』と隊長に言われて、送り出される。


 支部に残った騎士たちで、すぐに出来ることに取り組み、早馬用に手紙を書いたり、支部の壊れた場所などの対処に掛かった。


 ギアッチが言うには『総長のお宅は無事』だそうで、有難いけれど、それは良いからとドルドレンは答えた。


 厨房の片付けもしながら、料理担当の騎士たちは、支部に残る皆に遅い昼食を出し、最初の出先から戻ったロゼールに、全員が話を聞いた。


 ロゼールは、イオライセオダ・イオライ地区の集落を回り、西の支部まで行って状態を確認。

 イオライ地域は家屋倒壊もあるそうで、『イオライセオダは地割れが』町の中に、広くはないが、地割れで段差が起きていたようだった。


 そして西の支部も馬車置き場の屋根が落ち、支部も老朽化しているところは崩れ、西の支部に続く坂に『陥没も見えました』との状況。


「西の支部は、周辺集落の人々に支部へ避難するように伝えるために出ていましたが」


 ロゼールの懸念は、間近にあるリーヤンカイを見て消せなかった。『西の支部が呑まれるかも』と不穏な言葉を口にした若い騎士。


「変な、透明に見える筒が。少しずつ広がっています。少しずつですが、動いている気がする。西の壁はその中ですが、中から音が聞こえます。西の支部の騎士たちも恐れていました」


 恐ろしい魔物の再開に、隊長たちも騎士たちも言葉を失ったが、ロゼールにはとりあえず『北の支部も、行ければ南西も見てきてくれ』と頼み、彼に食事を摂らせてから再び送り出す。


 そして。ロゼールが戻る前に、西の支部を救わなければと、話し合いが続き、西の支部よりも山脈に近い住民にも支部へ避難させた話から、『広がる筒を止めることを考えねば』と話が移った。



「ギアッチ。ドルドレンだ、ドルドレンに伝えろ。イーアンが動くかも知れない」


 クローハルは『龍に頼め』と言った。ブラスケッドもポドリックもそれ以外に思い付かなかった。


 他の隊長も悩んだが、避難したところで()()()()()()が広がる一方なら、それをどうにかする手立てを打つべきだと同意した。


 余震は続き、時々大きく揺れながら、リーヤンカイの黒い穴から異様な音が響くのが、北西支部にも聞こえるくらいだった。


 そしてギアッチは、ザッカリアに連絡し、総長に伝え、状況を全て伝えた後、ロゼールが二度目の出先から戻り『北と南は大丈夫』との話も添えた――



「イーアン。あそこだ」


 ニヌルタが側へ来て、前を見て呟いた。はい、と答えたイーアンたちの前に、雪山が連なる大きな山脈と、そこの一箇所を奇妙に包む、ぼんやりとした筒が、まっすぐ空に伸びているのが見えた。

お読み頂き有難うございます。

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