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魔物資源活用機構  作者: Ichen
力の属性
1081/2955

1081. 待機時間 ~謎解き1,2

 

「プリモル・ドラガン・ィサイヤ・ディン・コシカ、サ・フィム・サビアー・ァプカリプシ」



 黒髪の騎士は、腕を組んで長椅子の背凭れに寄りかかり、椅子の背に頭を預けた。

『うーん』灰色の瞳は天井を見つめて考える。磨かれた食卓の天板が、左側の窓から差し込む光に反射して、晴れた外の明るさと対照的な、宿の1階の暗い天井に、撥ねる光が揺れた。


「何て言ったの?」


 総長の座る長椅子の横に少し斜めに座り、総長の腕にぽこっと顎を乗せるザッカリア(※ダレてる)。

 腕組みした右腕に、顔を乗せる子供の大きなレモン色の瞳に、総長はちょっと目を合わせて『今のは』と教える。


「テイワグナの馬車歌の一部だ。発音はジャスールの」


「そうじゃなくて。『何て言ったの?』って俺、聞いたの」


 今言うから聞いていなさい・・・総長は遮るザッカリアに注意する。子供は頷いて黙る。


「我らのものなる『時の剣』、『最初の龍』を()()()()()・・・と歌っているのだ。

『我らのもの』の意味は、この歌は人間の作った歌だから、きっと『人間の仲間』とした意味だろう」


「最初の龍って、始祖の龍のこと?時の剣は、タンクラッドおじさん?」


「タンクラッドじゃないが、時の剣を持っていた男のことだろうな。始祖の龍は、思うにそのまんまの意味だが」


「総長は何が気になるの?()()()()()()()こと?」


 子供の歯に布着せぬ質問に、ぐーっと眉間にシワを寄せて『そうではない』と、きちんと否定するドルドレン(※『勇者関係ない』って言われた)。食卓を挟んで向かい合う、騎士二人とミレイオも声を押さえて笑っている。


「ちゃんと聞きなさい。ほれ、体を起こして。そうだ。お前も体は大きいのだ、他の者が見たら、だらけて見えるだろう。そんな顔をしない。はい、よし。お前の教育はギアッチに任されているのだ」


「ギアッチはこんなこと、気にしないよ。もっと心が大きいんだ(※遠回しに『総長と違う』と言う)」


 一々、引っかかるドルドレンは咳払いし、横にきちっと座らせた子供に『俺も()()()()』しっかり目を見て伝えると、疑わしそうな子供の頭をナデナデして『では教える』総長らしく姿勢を正す。


「時の剣を持つ男が、始祖の龍を助ける箇所なのだ。しかし俺には疑問だった。

 イーアンの話では、始祖の龍は今のイーアンと、比にならないくらいの力の持ち主だ。伝説ではこの地上をたった一人で滅ぼしたのだ。

 大陸を割り、海を溢れさせ、大雨と暴風に包んだ、その絶大な力の持ち主である」


「男龍より強いの」


「ビルガメスは息子さんである。始祖の龍は、彼のママなのだ。ビルガメスも強いが、始祖の龍の強さは、想像出来ないほどなのだと思う」


 ザッカリアは胸の内が震える。それは恐れではなく、自分の関わる空の強さへの、誇らしさにも似ていた。


「総長の言わんとすることは。なぜその始祖の龍が、時の剣を持つ男に助けられているか、ですね」


 妖精の騎士がそっと口を挟む。灰色の瞳は妖精の騎士を見て頷き、『奇妙だろう?』と首を振る。フォラヴも澄んだ空色の瞳に、長い白金の睫を被せ、顎に指を添えて考える。『条件?』呟いた鈴のような声に、ミレイオがちらっと見る。


「条件、って言ったわね?始祖の龍が動けない条件って意味?」


「はい。時の剣の力は、私も未だ把握していませんけれど・・・しかし、剣を握るのは人間だったのでしょう。タンクラッドが、現在の所有者であるように。

 そうしましたら、どれほどの力を秘めた宝剣であろうと、使うのは人間です。人間の彼が動けて、絶大な力の主が動けない・・・その条件があるようにしか思えません」


「フォラヴの思ったこと。俺も今、それを考えていたのだ。()()()()()を思い浮かべながら」


 ドルドレンは部下とミレイオを見て、思ったことを伝えた。


「ジャスールの教えてくれた、テイワグナの馬車歌に、そんなことを臭わせる箇所がある時点で、()()も何か・・・そうしたことがと」


「ズィーリーたちは、どうだったのかしらね。彼女たちの旅も変わっていたし、長かったみたいだけど」


 ミレイオは座った膝に両手を組んで引っ掛けると、シャンガマックに話を振る。

 褐色の騎士は少し考え『そうしたことは、ホーミットは何も』短く答える。ヨーマイテス()の名を出して、また思い出す、昨日の夜に来なかった違和感。どうしたのかなと()ぎるだけの寂しさ。



「示唆がありそうにも思う。示唆なのか、注意なのか」


 ドルドレンがそう言うと、窓の外でふわーっと空が光った。『あ、イーアン』ハッとして嬉しそうに立ち上がるドルドレン。


「あの光はイーアンだ!でも、強烈に眩しい感じもあるから、男龍も一緒かもっ」


 嬉々として宿の外へ走る総長を見送り、その喜び方に笑いながら、部下とミレイオも彼の後について出た。



 宿に近づく光。その光はドルドレンたちの出てきた姿を見たのか、距離を取った上の方で止まる。宿の外は午前で活気もあり、光の出現が『龍の女』と何度かで覚えた町民が騒ぐ。


 すると、一層白く輝いた光が、突然降るように近づいたと思った瞬間、眩しさに目を瞑ったドルドレンの前に、タンクラッドとイーアンが降り立った。眩さはそのまま、白い光はあっという間に空へ戻って消える。


「戻りました」


「イーアン?」


 目が潰れそうで開けないドルドレンが、笑って名を呼ぶと、イーアンの笑い声が響き、足音数歩分の続き、ドルドレンは体にイーアンが抱きついたのを知る。『お帰り、イーアン』ぎゅっと抱き締めると、角の生えた頭でぐりぐりされて、また笑った。


「俺も戻ったぞ」


「お帰りタンクラッド。今のは」


 ゆっくり目を開けつつ、訊ねる総長の前に剣職人。皆を見渡して、いつものエラそうな笑みでフフンと笑う。


「ビルガメスとアオファがいた。人が、ほら。あんな具合だろう、だから俺とイーアンを、ビルガメスが降ろしてくれた」


 親方に言われた、外。宿の敷地の向こうでは一騒ぎなので、その言葉に苦笑いする総長。『行く先々で、宿には面倒をかけてしまうが』こればかりは仕方ない、と思う。


「白い光って、龍気なのだろう?()()()は降りれないな」


「やったことありませんけれど。多分、落ちます」


 ハハハと笑うイーアンに、危険だからやらなくて良いと、ドルドレンも笑えずに頷いた(※愛妻は動き鈍い)。


「とにかく入りなさい。バイラとも話し合って、今日は宿で待機だ。イーアンは龍気が少ないのだから、部屋で休むのだ」


「そうですね。ちょっとお部屋に行きましょう。龍気の件もするべきことがあります」


 総長とイーアンの会話に、フォラヴたちも側へ来て挟まる。

 フォラヴとミレイオは、イーアンの龍気が非常に低いことを感じていた。シャンガマックにも、今は何となく分かる。ザッカリアだけは気にしないで、『イーアン帰って来て良かった』と無邪気に喜んでいた。


 イーアンの背に手を添えて歩くドルドレンは、龍気の残量云々までピンと来ないが。親方に『龍気が本当に少ない』と言われて、冠を思い出し、被ってみると『あ、分かる』と驚いた。


「分かりますか。冠サマサマ」


「分かるよ。かなり普通の人である(?)。見た目は神秘的だが、龍の気配が分からないくらいだ。本当、冠サマサマなのだ」


 凄いね、これ・・・冠をちょっと触って、伴侶が感心しているので、イーアンは笑って『いつも付けていないと』と助言した。



 2階へ上がった旅の仲間は、総長の部屋に一度集まり、椅子を持ち込んでそれぞれ座る。ドルドレンは皆を見渡し、うん、と頷く。


「イーアンとタンクラッドが戻った。これだけでも、心強さが半端ない。有難いことである。

 さ、有難さを噛みしめて、まずは待機している間に考察だ。今すぐ何をするのかといえば、昨日の出来事への対処を考える。

 もしも同じようなことが起きた際に、『二度目は無駄なく』動けるようにだ。


 そして、イーアン。龍気を、地上で回復するのだろう?

 トワォの手伝いを通すようだが、そこまでして戻ってくれた理由も、まずは皆に聞かせてくれ。

 戻ってきたことは何より嬉しいにしても、イーアンの健康状態に皆は心配している」



 イーアンは了解する。今から『ミーティング』。

 お題目:①昨日の一件を考察し、対策を練る。②私のお急ぎ帰宅理由と、龍気回復方法説明。


 ②の『回復説明』は、皆さんから見て、手伝えることはしようと思って下さっていると分かるので、イーアンはちょっと考える(※あるかしら?と)。


 ①については、少々問題あり。②のお急ぎ帰宅理由を含んでいる・・・であろう。

 私とタンクラッドに、きっと質問が来る。昨日の時点では、私だけが知っていそうな立場で、現時点ではタンクラッドも『知っている可能性あり』と思われているであろう。が。


 これを今、どこまで話すべきか。戻った二人(私たち)も、この全容を知らないのに。

 そしてビルガメスが見つめた、さっき・・・言わないでおく必要があるのだ。



 イーアンはタンクラッドを見て、彼が自分の視線に気がついて振り向いたことで、次に扉に視線を移した。


 勘の良いタンクラッド。すぐに察したように立ち上がり『ちょっと待ってくれ』と総長に言うと、部屋の外へ出る。

 続けてイーアンも立ち、『彼と話が』とだけ伝え、怪しいよなぁ~と苦笑いしつつ、伴侶たちを見ないでそそっと廊下へ出た(※後ろで『何で』と伴侶の声)。


 廊下へ出て、親方を見上げたイーアンは『ビルガメスの話は言えない』それを先に伝えた。親方も小さく首を縦に振る。


「そうだな。彼は俺を呼び出した。俺とお前にだけこの話をしている」


「だからきっと。()()()()伝える必要がないと、彼は判断しているはずです」


「お前にもだ。ビルガメスはお前に、()()()()()と指示している」


 イーアンは彼の鋭い視線を受けて、黙る。この人は、と思う溜め息を付くと、親方は少し笑った。


「今は訊かない。お前が言えないことは、恐らく、龍族の話に関わるんだ。お前自身がそれを知らなくても。

 ビルガメスのことだから、少しずつ見えてくるものに合わせて、情報を添えるんだろう」


「タンクラッドと会話していると、私はいつまでも敵う気がしません」


「今、そんなことは話していないぞ。親方に敵う目標は、立てなくて良い。俺とお前の関係は、一生、親方と弟子だ・・・もっと別の関係もあると思うが(※願望)。

 まぁいい。ドルドレンたちに話すことは、昨日の件は『龍族と、()()()()()()()が、何やら力を発揮するに向いている』とだけで、良いだろう。実際、理由云々は俺たちも正直、何も見えていないんだ」


「はい」


「トワォのことは、お前が話せ。ただ、あんまり詳しく話すこともない。どうせ、皆は蚊帳の外だ。

 俺はお前を手伝えるだろう・・・というかな。俺が手伝う前提で、ビルガメスは伝えている。それも言え」


 はい、と答えたイーアン。


 胸中。『ビルガメスと親方は似ている』と、前々から思い続けた部分に上塗りした。

 二人とも何でこう・・・(※あれこれ浮ぶ)似ているんだろうと、真面目な顔で頷く。この二人が組んだら、私は心の安息が危険であると思った(※命令される一方)。


 満足そうな親方は、見上げる女龍の頭を撫でると『さて。では、中へ戻ろう』そう言ってニッコリ笑った。


 超絶イケメン親方のスマイルにも、すっかり慣れた(※伴侶も男龍もいるし)。

 降り注ぐ美しい笑顔には、常に神様に感謝するが、イーアンは心のげんなりした状態で部屋へ入った(※笑顔は嬉しいけど、言う役、嫌)。



 二人が入ると、伴侶とミレイオが不審者を見るような目で、じーっと見つめる。


 イーアンは、仕方なさそうな笑みを寂しく浮かべ、親方は二人を無視して椅子に座る。『何話していたの』ドルドレンがイーアンに詰め寄る。イーアンは『お話しますこと』それですよ・・・力なく教える。


「イーアンを()()()()()なよ。まだ本当は、空で休まないとダメなくらいなんだ」


 親方の言葉に、ドルドレンの表情が曇る。イーアンは心で『やめて~』と一声叫ぶ(※伴侶刺激しないでほしい)。


「えー。では。私の早く戻ってきた理由を、最初にお話します。

 龍気も減っている状態で戻っても、役に立ちもしませんけれど、でも龍気だけが頼りでもありません」


 ささやかな前置きをして、イーアンは話し始める。


 自分が戻ったのは、『地上にいることで、()()()()()おきたい』気持ちから。

 空で療養して、地上を留守にしているよりも、地上で龍気回復の手段があるなら。それを行いながら、皆さんと地上にいた方が、何かあってもすぐに事情を知ることが出来る。イーアンは、そう話す。


「口を挟むが、何かあると思うのか?そんな予測が」


「いいえ。『あったら、イヤだ』とした意味です。

 テルムゾの村では、私は留守でした。親方と連絡を取りながら、相談に乗りましたが、自分に全体が見えないので、心配は常にありました。

 次のティティダックもそうです。降りたと思ったら、あっという間に逆戻り。


 あの時までは、私も自分の龍気の限界を分かっていなかったので、無茶もあってのことですが。

 しかし、やはり龍気の補充で、こう・・・ちょくちょく留守がちになると、それは私の望むところじゃ在りません」


「そうか。そうだね。イーアンは強いが、龍気を使って、動けなくなるほどまでに、至ることもある」


 伴侶は静かに理解した様子。イーアンは続け『今後も()()()()()()なら、可能な範囲で、地上療養を望む』と困ったように笑った。


「よく思っていたのです。今の自分は、驚くほどの強さを得たにしても。

 龍気が消えたら、私、何も出来ないのです。それもその都度、旅の馬車を離れないといけないでしょう?

 これでは、午前も子供たちと一緒だし、午後に戻って龍気がなくなったら連日留守だしで、何の為にいるのか分からないなぁと」


 ということで、とイーアンは〆る。

『今回。トワォの話を出したことで、ビルガメスに教えてもらい、トワォとグィードを頼りに、地上で少しずつ龍気を回復します』方法は、まだこれから・・・それだけ話すと、イーアンは黙った。



 ドルドレンはふむふむ頷いて、その方法はどんな具合?と訊ねる。『何か自分たちも手伝えるか』と言うので、答えようとしてイーアンは口を開いたが、親方が割り込んだ。


「手伝うのは無理そうだな。どうも、()()()の流れを保つようだから」


「タンクラッドも、この話を聞いたのか」


「大体な。龍気補充の間。イーアンとトワォ、グィード、この三者の繋がる空間は、余計なものが入れない。乱すものは近づけない、と。そんな解釈だ」


 そうか・・・そういうものかも、と呟くドルドレンは、すまなそうに見ている奥さんの角を撫でて『そっとしておくのが一番か』と了解する。

 ザッカリアは、自分はダメなのか?と内心思っていたが、言わなかった。


 騎士二人は、はっきり『自分たちはいない方が良さそう』と理解。ミレイオとしては『私、ダメなのかしら』の粘りが若干出たが、タンクラッドに『お前はサブパメントゥ』そうガッチリ否定された。



「でも。この状況で、何とも言い難さが伴いますけれど、タンクラッドは()()なのです」


「また、タンクラッド!」


 ドルドレンが嫌そうに言う。イーアンも笑って『すみません』と謝る。タンクラッドも苦笑いして『悪く思うな』と総長を宥めた。


「彼は、ニヌルタの祝福を受けて、普通の人の能力以外のものを、体に内包しました。

 人間の肉体ですが、彼の力は()()()()()()。簡単に言うと、人の形をした『時の剣』それが今のタンクラッドです。

 私も時の剣自体、まだよく分かっていませんが、これまでの彼の戦いの際に感じていた、『剣の及ぼす結果』を考えると、彼は私が龍気を補充している間、他を寄せ付けない役目をしてくれると分かりました」


 これは、ビルガメスもそう話していたんですよと、急いで付け加えるイーアン。


 ドルドレンはガッカリしたように『俺はどうして勇者なんだろうか』勇者を後悔するような発言を落としていた(※『こんなことなら、俺が()()()()()でも良かった』と悲しくなる)。



 落ち込む勇者を見つめ、睨み付けるミレイオを一瞥し、好奇心の目を向ける騎士たちに微笑むと。

 タンクラッドは背凭れに体を預けて、一息置いてから話を変えた。


「それでな。ドルドレン。これはイーアンが言った方が良いかと思ったが、今の流れから、俺が言うことにした。イーアン、大丈夫だ。ちゃんと伝えるから。

 昨日の()()、な。あれは、また起こる可能性があるようだ。

 しかし、その時。動けるのは彼女たち・・・龍族。そして、補助として俺だけのようだ。()()()()()()()。これは俺がそう思う」


 親方のどっしりした言い方に、お昼前だというのに、ドルドレンはもう気力が萎えた。

お読み頂き有難うございます。

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