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魔物資源活用機構  作者: Ichen
交わる世界の片鱗
1077/2955

1077. 龍族一時休憩決定の夜

 

 ドルドレンは驚きに驚いて、倒れたイーアンをタンクラッドの手から奪い取ると『イーアン!イーアン!』と叫んで揺する(※ガンガン揺する)。



 その行為に驚くタンクラッドに、また引っ手繰られて『揺するな!』と怒られた。

 怒られてもドルドレンは、親方の腕の中のイーアンに屈みこんで、その顔を両手で挟むと、懸命に名前を呼んで反応を求める。


 明らかにいつもの倒れ方と違う。


 ガルホブラフも嫌な横倒れでオーリンが叫んでいるし、大きな青い龍まで、イーアンの後ろで地面に首を下ろしたまま、目を開けない。

 イーアンも口が少し開いて、瞼も僅かに開いている、この状態。一体、何が――


 恐ろしいことが起こったんだと、怯えるドルドレンは、何とかしてイーアンの意識を戻そうと、名を呼ぶが。タンクラッドは逆で、耳を貸さずに慌てるドルドレンを叱り付ける。


「ドルドレン!お前じゃ無理だ。男龍を呼べ。ミンティンもガルホブラフも、こんな状態では」


「何があった?突然あの『堂々巡り』が終わったと思ったら」


「その話は後だ!早く呼べ!」


 泣きそうになるドルドレン。オロオロしながら空を見上げて、急いでタムズを呼ぶ。何度もタムズを呼び続けると、夜空にカッと白い光が行き渡る。


「来るぞ。事情はともかく」


 そこまで言うと、タンクラッドはあまりの光量に目を瞑る。白い光は、真昼の太陽を凌ぐほどに煌々と光りながら、凄い勢いで地上へ降りた。



「イーアン。ここまで使ったか」


 降りてきたのはタムズとファドゥ。二人の翼が畳まれて、お互いの顔を見合わせると『これはちょっと』と呟きを交わす。


「タムズ!イーアンが」


「分かっている。ドルドレン。()()()君たちが知らないことだ。しかし、彼女は伝えられていたから、正しい行動を取ったが・・・・・ 」


「それでも。ガルホブラフは仕方ないにしても、ミンティンまで」


 ファドゥも少し驚いているようで、ゆっくりと周囲を見渡す。『この大きさで()()のか』集落の周囲に残る龍気を見ているようで、銀色の男龍はそれ以上続けなかった。


「行こう。私たちだから、すぐに連れ帰れる」


 タムズは倒れているミンティンに龍気を注ぐ。青い龍の目が開いたので『動けるか』と言うと、龍は目を閉じた。


「ファドゥ。君はイーアンとガルホブラフだ。私はミンティンを支える」


 ファドゥは、地面に首をべたっと伸ばしたガルホブラフに近づいて、驚いているオーリンにちょっと微笑むと龍気を注ぐ。ガルホブラフの目が開いたので、ファドゥはオーリンに『乗りなさい』と静かに言った。


 急いでオーリンが友達の背中に乗ると、ファドゥは片腕にイーアンを抱え、もう片手をガルホブラフの首に置き、翼を広げた。


 タムズもそれを確認すると、すぐにミンティンの首に触れて、青い龍と一緒に浮上する。



「タムズ。ファドゥ」


 あっという間に空へ上がる龍族に、ドルドレンは、一旦降りたショレイヤの背中に乗ろうとしながら、声をかけた。二人の男龍は振り向き、首を振る。


「君たちは待ちなさい。いつもと同じだ。イヌァエル・テレンで休ませる。少し日にちが掛かるだろう」


 今までよりもはっきりと。『日にちが掛かる』と宣言されて、ドルドレンはショレイヤに跨ったまま、頷いた。


「イーアン」


 騎士が呟く名前は、その場にいる者にしか届かない。龍族は再び真っ白な光を放って、地上から上がる流れ星のように、疲れた仲間を空へ連れて戻った。



 *****



 龍で戻った騎士と親方、お皿ちゃん使用のミレイオは、宿の裏庭で龍を降りてすぐに、また衝撃を受ける。

 乗り手の降りたドルドレンたちの龍は、大津波戦の翌日同様、あっという間に空へ戻って行った。唯一、疲れていなさそうなバーハラーも一緒で、親方も何か本当に大変なことが起きていると察した。


 騎士たちも困惑する馬車の側。宿でやきもきしていたバイラが、彼らを見つけて、急いで来ると『心配しました』と最初に伝えて『とにかく食事を』腹を満たして下さいと、食事処へ連れて行った。


 夕食の食事処。夕食とはいえ時間は遅く、もう辺りも真っ暗で8時を回った。


 時間が時間だけに、親方はコルステインがいると思っていた。しかし、龍が戻った後もコルステインが来ないことが気になって仕方ない。

 度々、食事を抜けては様子を見に表へ出たが、やはりコルステインの姿はなかった。


「来たら、待っていてくれる」


 3度目に店に戻った時。ドルドレンに落ち着くように言われ、先ほどまで取り乱していた総長も、どうにか顔に出さないよう務めていると知り、親方も着席し、とにかく食事を終えることにする。



 バイラは、ミレイオに大体の事情を聞き、ミレイオが話し終えてから、総長たちに何があったのかを聞いた。

 それから、もう食べ終わって席を立とうとするタンクラッドにも『イーアンは何を話していたのか』と少し訊いてみると、親方はバイラを見て、短く答える。


「彼女は。ミレイオから話を聞いた時、始めは『ドルドレンと皆さんが』と慌て、急ぐ帰り道の間に、何を思い出したか『もしや。男龍(ビルガメス)の話していたことでは』そう言った」


 だから『彼女は、何かを知っているのだろう』と思ったことを、タンクラッドは教えてくれ、宿の馬車へ戻った。



 食事をしながら、バイラは周囲の混雑する音を気にし『宿の部屋で話をしましょう』会話の内容から、皆を促す。ドルドレンたちもそれを了承し、騎士とミレイオ、バイラの6人は、食べ終わった後に宿のホールへ移った。


 シャンガマックも、ヨーマイテスが来ていないことを気にして、ソワソワする。

 だが彼もまた、ヨーマイテスは部屋で待っていてくれると考えて、今は情報の共有を優先した。


 手には、館長からの手紙を握り締める。戻ったすぐ、親方が『忘れないうちに』と渡してくれた、手紙と伝言。

 でも今のシャンガマックには、この状況への不安の方が心を占めており、館長のことまで考えられなかった。ただただ、何とも言いようのない感覚に眉をひそめていた。



「今。私たちには、一頭の龍も、一人の龍族もいない。それは確かなんですね」


 バイラの言葉に、ドルドレンは泣きそうな顔を俯かせた。済まなそうに、頭をかく警護団員。

 言い方は悪かったけれど、状況を整えて、皆で現状を理解した方が良い気がする。


 それは誰もが―― その現場に居なかった自分以外 ――まだ落ち着きを取り戻していない様子から、バイラ(自分)が、皆に確認をする必要があると、判断しての話だった。


「次から次ですが・・・一日が始まった時と、終わる時。がらっと状況が変わります。

 それに付いて行かないといけない、この精神的な負担は大きいでしょう。でも。現状は都度、確認した方が、絶対に有利ですから」


 目を伏せる総長を慰め、バイラはミレイオと騎士たちを見る。彼らも黙ったまま、茶を飲んで待つ。


「光の筒が空に伸びたのを、私もこの町から見ていました。いえ。きっと町の誰もが見ていたでしょう。

 まさか、あの中に総長たちがいるとは思いもせず。あの筒の光がイーアンと龍たちの力と知りもせず、です」


 バイラは掻い摘んで、自分が皆に聞いたことをまとめる。



「総長たちは、午前に駐在所を出てから、全部の地区を回ってくれていたんですね。それで、最後のイル・シドの集落に入った後。集落で魔物の近況を聞いていたら、地震が起きた」


「そうだ。突然の大揺れに驚いて、地震が止まった時、集落の老人たちの無事を確認し、龍で上空から見ようとしたら、もう」


「出られなかったんですね。どんなに進んでも、どんなに向きを変えても」


 総長とバイラのやり取りに、顔を手で拭ったザッカリアを抱き寄せるミレイオは『砂漠の時みたい』と呟く。


「夕方。炉場から戻って異変に気が付いたミレイオたちは、イル・シド集落の異様な状態を見て、イーアンを呼んで」


 バイラに話しかけられたミレイオは頷く。『オーリンも私も始めは分からなかった』と答える。


「さっきも少し話したけど。全然、魔物とかそういう感じじゃなかったのよ。砂漠の時は、魔物っぽい感じもしたけれど。

 でもあの集落の奇妙な筒に、最後まで魔物染みたものは感じなかったの。だからどうして良いのか。

 ドルドレンたちは右往左往、中でくるくる回っていて、こっちに気がつきもしないし」


「私たちは、ミレイオとオーリンがいたことさえ知りませんでした。見えなかったのです。空が暗かったことも。まるで・・・午後に入ったその時間が止まってしまったようでした」


 ミレイオの話に続けたフォラヴに、シャンガマックも小さく頷いた。

『もう、いい加減、時間が経っていると俺も思った』それは砂漠の時と同じだと思うと言う。


 彼らの話を聞きつつ。バイラはやんわり合間に入って『疲れていると思うから』と前置きし、話を短く終えるように導く。


「今。私たちに分かっているのは・・・・・ 

 イル・シド集落は地震に見舞われたけれど、周辺に地震がなかったこと。これがまず一つ。

 総長たちは地震の後に、時間も距離もない場所に閉じ込められていたこと。これが二つめです。

 助けに行ったオーリンとミレイオは、集落ごと筒の中にあるのを見た。これが三つめ。

 何かを知っていたらしき、イーアンが助けに来て、龍たちと力を合わせ、集落を囲む筒を外したこと。四つめ。

 そして、集落は解放され、総長たちも無事に出てきました。イーアンたち龍族は全員、空で休養。

 ここまでで、五つのことが事実です」


 バイラがそこまで言うと、皆は彼を見つめ『明日』と誰ともなく、明日の動きに話を動かす。今日の出来事は、ここまでと受け入れた。

 バイラは、自分の翌日の行動を先に話し、それから皆への提案を話す。


「私はこれを報告書に書きます。現場に居ませんでしたが、魔物ではない、新たな脅威の可能性もありますから、これはアギルナン地区全体への注意喚起として伝えます。

 それと。イーアンたちは数日戻らないような話でしたが、この間、町を出ないでいましょう。

 何か、この出来事に続きがあるかも知れません。理由を調べるにも、移動手段が変わりました。今、動けるのは」


「私だけよ。お皿ちゃんがあるから」


「後は・・・暗い時間なら、サブパメントゥの二人が」


 動ける立ち位置を教えてくれたミレイオを見て、ドルドレンが力なく付け加えるが、ミレイオもシャンガマックも、何か気になって、彼の言葉にはすぐに頷けなかった。


「では。とりあえず、風呂に。明日の朝、また細かく決めましょう」


 場の空気に少し止まるものが出るのは、得体の知れない不安を皆が感じているからだ、とバイラも思う。今日はもう休もうと伝え、騎士たちとミレイオ、バイラは解散した。



 *****



 先に戻った親方は、馬車の近くで呼んでも来なかったコルステインに、何かあったと理解してすぐ、風呂だけは済ませて部屋に戻り、窓を開けてコルステインを待ち続けた。


 ドルドレンたちが夕食を終えて、宿の1階に移動した頃。


 ようやく、待ちに待ったコルステインが来た。親方はすぐに立ち上がって、青い霧を迎え『どうしたんだ』と訊ねた。

 コルステインは人の姿に変わると、タンクラッドに腕を引かれてベッドに座り、彼を青い目で見つめる。


『コルステイン。何度も呼んだ。俺もいつもより遅かったけれど』


『龍気。たくさん。ある。たくさん。待つ。した』


 ああ、と声を上げる親方。『あの龍気か!イーアンたちの』気がついた言葉に、コルステインは頷いた。


『たくさん。消える。する。待つ。動く。ない』


 龍気が強烈で、コルステインが出て来れなかったと知る。そんなに凄かったのかと、親方も驚いた。


 確かに見えている分でも、相当なことが起こっているんだろうとは感じていたが。コルステインが、地下から上がって来れないほどとは。


 集落から、ギールッフの町まで、結構な距離がある。

 それでも、イーアンたち龍の出した、あの時の龍気はここら一帯を覆い、コルステインを躊躇わせるくらいの強さだったさと知った。


 青い目はじーっとタンクラッドを見て、ゆっくり抱き寄せた。

 いつもと様子が違う気がして、抱き返す親方は見上げる。『気になっていること、あるんじゃないのか』ちょっと訊ねると、コルステインは考えている。


『言ってみろ。何となく、お前が悲しそうに見えるんだ』


『悲しい。違う。困る。する。でも。まだ。まだだけど』


『うん?まだ?』


 親方が何度か訊ねても、コルステインは伝えられる範囲ではないのか、これ以上は答えなかった。

 ただ、何かを心配していそうな表情は変わらず、それがコルステインの力を以ってしても、心配なのかと思うと、タンクラッドも気になる。


『俺に話しにくいのか。無理はしなくて良いが』


『うん。まだ』


 分かったよと了解し、タンクラッドはコルステインに『もう寝よう』と促す。


 この夜。コルステインは、ずっと不安そうな色を青い目に湛えていたが、その『もの言わぬ時間』に、一つの物事が浮上していても、それを話すことはしなかった。



 *****



 ヨーマイテスを待つシャンガマック。いつまで経っても、彼は来なかった。


「どうしたんだろう。毎日来ていたのに。コルステインも、さっき来なかったみたいだし・・・今は、近くにいそうな気がするけれど」


 サブパメントゥの、祝福的な誓いを受け取っているシャンガマック。コルステインが近くにいると、何となく気がつけるようになっていた。それは勿論、ヨーマイテスが来ても同じで。

 なのに、今日は何時になっても彼は来なかった。諦めて、シャンガマックは窓に鍵を掛けず、ベッドに入って眠った。




 窓の外。影の中に僅かな間だけ存在した、サブパメントゥ。

 焦げ茶色の体は、雲が増えて、星も閉ざされた夜空に光ることもなく、数秒だけそこに現れた後、すぐに影に消えた。


 自分の居場所に戻ったヨーマイテスは、ごろんと横になって、やり切れないように両手で顔を覆った。


「ガドゥグ・ィッダンが・・・まさか。あんなことになるとは」


 イーアンに助けられた。嫌でも認めねばならない事態を、引き起こしてしまった今日。ヨーマイテスは苦しんだ。


「バニザットが無事で良かった・・・!バニザット、お前に合わせる顔がない」



 閉じ込められた騎士たちにバニザットがいると知った時、ヨーマイテスは驚きを飛び越して、我武者羅に助けに行こうとしたが、変化した空間に龍気が引き込まれつつあると気が付き、慌てて下がった。


 イーアンたちが来るまでの間に、地上に落とされたガドゥグ・ィッダンの一部が、龍気を呼び込みながら、姿を現そうとしているのを、大量の龍気に触れれば消える我が身では、黙って見ているしか出来なかった。


「ガドゥグ・ィッダン。今も信じられん。俺が発動させたのか?俺は『バニザット』に示された場所へ行っただけだ」



 今日。ショショウィに会いに行き、緋色の布に()を移してもらった。

 若いバニザットが喜びそうな場所と、自分にも益になる場所を考えていて、次の行き先を『老バニザット』にも話した。


 最近、呼び出せば毎度のように嫌味を言う、老バニザット。とはいえ、貴重な情報や様々な知恵を貸してくれるので、定期的に呼び出していたのだが――


『バニザット(※騎士)のいる近く。その地下に、今は埋もれた遺跡がある。そこからガドゥグ・ィッダンへ通じる。ただ・・・行き先は分からんが。暫く埋もれていたが、今は()()()を感じる。行ってみろ』



 老バニザットの声は、緋色の布を通して聞こえ、中間の地にある『ガドゥグ・ィッダン』の分かれた部分は、これまでも探してきた場所だからと。


「それで、行っただけだ。何であんなことに」


 遥か昔、老バニザットが生きていた時代に、彼と一緒に入った遺跡に()()()()()()が記されていた。


「正にそれだ。()()()そのまま、遺跡の忠告だった」


 悔やむヨーマイテス。ミレイオはいないと分かっていたが、まさか。まさか、若いバニザットが、自分の探った地下の真上にいたとは。


「おお。()()()()()ところだった。俺は『お前の父』と名乗ったのに」


 ヨーマイテスは悩む。苦しんで、自分を責めた。イーアンが来なかったら。龍がいなかったら。男龍が降りてくるとしても、間に合わなかったなら。



 後悔と恐れに苛まれたことなどないヨーマイテスの、初めて味わう、恐れに満ちた長い夜。

 それは誰にも言えない、失態の夜でもあった。

お読み頂き有難うございます。


最近、色つきではないけれど鉛筆で絵を描き始めています。

主要とか登場順の関係なく、描きたいと思った衝動で描くためランダムですが、活動報告にも載せています。



挿絵(By みてみん)



今回は、シャンガマックが「カワイイ」と喜んだ、ヨーマイテスの獅子の姿。

そのまま獅子です(笑)そして勢いで描きたくて、画風はラフです。

もし宜しかったら、活動報告にもどうぞいらしてみて下さい。いつもお立ち寄り下さいますことに感謝して。


(活動報告9/9)

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1714731/blogkey/2645179/

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