表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
交わる世界の片鱗
1074/2957

1074. イーアンと親方のお使い ~首都資料館 

 

 やってきたイーアンは、ミンティンと一緒に町から離れた場所へ降り、そこで待っていたタンクラッドにご挨拶。

 親方がミンティンに乗ったのを見てすぐ、イーアンは『これを持っていて下さい』手に持っていた篭を渡す。


「何だ、これは。お前も座れ」


「いいえ。私、飛べますので。疲れていないし。でも荷物があると飛びにくいから、すまないのですが、それを宜しくお願いします」


 イーアンはニッコリ笑って、座布団の入った篭を押し付けると、目の据わっている親方をそのままに『首都へ急ぎますよ』の一声で向きを変えて飛び立つ。


 イーアンめ・・・(※読まれたと知る)心の中で思うものの。ミンティンも()()()()()なので、ドルドレンの最近の話も思い出しつつ(※青い龍に攻撃受けた)。とりあえず親方は、黙って従うことにした。



 首都への道のり。飛んでしまえば、わけもない距離で、イーアンはミンティンに頼んで急ぐ。


 現在地まで、日数だけで見れば20日使って首都から移動しているが、その間、同じ場所に滞在している日々もあるし、足止めを食うこともあった。


 遠回りというほどではないにしても、途中、別の場所へ立ち寄りもするし、そう考えれば『直接だと・・・もう少し、短縮しています』改めて日にちを思う、イーアン。


 それに飛ぶとなれば直行便である。『道関係ありません』これが実に早いと、毎度実感する。遮るもののない空で、せいぜい魔物くらいが、時間に揺さぶりをかける存在でしかない。



 ――馬車で動く一日の距離は、8~9時間で40~50kmくらいだと思う。休憩時間を入れたら、一日/40kmちょっとが平均か。


 20日間全部が動いていないとなれば、想像するに600~650km程度のような。

 それさえ、道に沿っていない距離を含む。警護団へ寄ったり、冷泉へ移動したりの例外も入れると、街道から出たり、戻ったりもある。


 実際に、首都からギールッフまでどれくらいか、知る由無くても、『直線距離=半分以下の距離』と考えても良さそうだった――



「こうして()()()には。山も、川も、回り道しませんもの。

 そう思うと、ぐるーーー・・・っと、山や岩壁を回って、道を進む馬車の距離は、かなりの長さです。日数が掛かっても仕方ない」


「イーアン」


 独り言をずーっと喋っている女龍の横に付いた、青い龍。その背中のタンクラッドは、イーアンに『お前はさっきから距離のことを』と言われる(※独り言がデカイ)。


「あら。聞こえていましたか」


「俺に話しかけていると思って、返事をしていたが、一向に気付かないから、違うと知った」


 アハハと笑うイーアンに、親方も笑う。『お前はいつもそうだ。独り言も夢中になって』そう言うと、少し黙る。

 親方が何かを言いたそうにしているので、イーアンは『独り言はもう大丈夫』と笑顔で、会話を促す。


「うむ。さっきな、炉場で。鎖帷子を作る男が、魔物の材料をどう使おうかと相談してきた」


「鎖帷子ですか。バイラにちょっと、見せて頂いたくらいですね」


「そうだろう?俺も特に気に掛けたことがないから、言えることは少なくてな。ミレイオが盾なもんだから、そいつはミレイオに使い方を訊いたんだ」


「ミレイオは何て」


 親方は、一度控え目な溜め息をついてから、女龍を見て『ミレイオはお前の名前を出したが』続く言葉に、専門じゃないから、あれこれ知恵はあるにせよ、期待してくれるなと断っていた・・・と、教えた。


 イーアンも、少し眉を寄せて頷き『鎧は。私も旅に出る前から気になっていた』と打ち明ける。


「鎧作りだけは、この仲間に居ません。するなら私でしょうが、私も補修程度の知識しかありません。それも、習ってもいないのです。

 この国の鎖帷子となれば、もう、全く作りが異なりますから、私はミレイオの配慮に従います」


「うむ、お前はそう言うと思った。ミレイオもやんわりだが、相手に断ったがな。彼は『知識があるなら、一緒に考えてくれ』と伝言を頼んだ」


 イーアンは親方に向けていた顔を前へ戻し、何やら懸命に考えている。親方が見るに、自分の知識を探って、何かしら、役に立とうとしていると見て取った。


「無理するなよ。命を守る防具だ。下手なことでお前の善良な手助けが、何かの折、裏目に出されても困る」


「ええ。私もそれは避けたい。ただ・・・製作過程最初、魔物の材料の扱いくらいであれば、お伝え出来そうです。どんなに考えても、鎖帷子は手が出せませんから」


 金輪を繋いだだけの防具、と言えばそこまで。しかし繋ぎ方もあれば、使う金輪の材質や、太さや径で、柔軟な鎧と化すものでもある。


 金輪は2~3万個を使うのが普通。古代の方法と現代の方法、いずれもイーアンがいた世界基準で、その時代による変化しか記憶にないが、バイラの使用する鎖帷子のような品を、その職人が警護団に卸している話(※でもバイラが言うには、団員はほぼ使わない様子だけど)なので・・・・・


「ふーむ、とすれば。ここは()()()でしょうか。あれもまた、私が手出しした経験がありません」


「イーアン、無理はするなよ」


「はい。しません。でも、提案手前の()()に『材料を調整する』、そこはお手伝い出来るかもと思いまして」


 タンクラッドはイーアンの知識に、時々本当に恐れ入る。イーアンが言うには、以前の世界が情報の開かれた場所だったお陰らしいが、それでも記憶している量が膨大に思える。


「お前は、女龍として生きることになったが。それでも、一端の職人だとつくづく感じる」


「素晴らしい誉め言葉です。有難うございます。しかし龍ですため、この世界では、職人業に精も出せません」


 二人でハハハと笑い合って、時間があったら一緒に炉場へ行こうと親方が言うと、イーアンは了解した。



「首都への道、半分くらいは進みましたか」


 下方に見える景色に見覚えがあるので、イーアンは飛びながら訊ねる。『そうだな、もう半分』話しているとあっという間に感じるが、1時間は経ったようで、太陽も午後の日差しを投げる。


「俺もだが、お前も食事をしていないだろう。首都へ着いたら、何か食べよう」


「店頭販売や、お店屋さんの前に長椅子があるところも多いです。そこで簡単に食べてしまいましょう」


 イーアンは、以前オーリンと一緒に魚の串を買った話をして、シャンガマックからも聞いた『館長が奢ってくれたヨライデ料理』の話もする。

 聞いているだけで、腹が鳴るタンクラッド(※腹ペコ)。早く到着して、早く食べようと決定。


「採石に行く時は、全然腹なんて減らないんだが。最近は怠けたもんだ」


 笑うタンクラッドに、イーアンも笑って『ミレイオが食事を大切にするから』と、いつも3食作ってもらえる有難さを誉めた。


 食欲に負けた二人は、急ごう、早く、と速度を上げて、笑顔で首都の食事を目指して飛んだ(※時速150km以上)。




 急いで飛んだお陰もあり、イーアンとタンクラッドは首都の見える場所まで来た。『2時くらいかな』親方は体内時計で、時間を感じる。


「早くしないと、食事処が休憩に入るな。どうする。ここから資料館へ、龍じゃ目立つだろう」


「ミンティンは大きいですからねぇ。仕方ない。資料館の近くで私があなたを支えて降りるか・・・その方がまだ、目立たないかしら」


 前、それでオーリンを降ろしたけれど、そこまで騒がれなかったと話すと、親方は『そっちの方が良い』と言うので、とりあえず資料館の上を目指した。



 こういう時は役に立つ、親方センサー。『あれが、そうだろう。あの館長が居そうな気がする(※レーダー)』親方がミンティンに教え、イーアンも横に付いて飛ぶ。すぐに(ひな)びた素っ気無い建物が見えてきた。


「素晴らしい。よくまぁ、すぐに見つけられて。そうですね、あの建物」


「何となくだ。あの(くせ)のある男が居るに、打ってつけのように感じる」


 二人で笑いつつ、資料館の上まで来て、イーアンは親方を背中から支える。親方も篭を持って『じゃあな、ミンティン。後でだ』青い龍に挨拶すると、二人はそのまま真下へひゅーっと降りた。



 ちょっとだけ、人目が付いて驚かれたけれど。でもまだ都民にも記憶に新しい『龍』の話で思い出してくれたのか、二人が逃げねばならないほどの騒ぎはなかった。


「ここが資料館だが。とにかく食事だ」


 親方はイーアンに篭を返し、翼を仕舞ったイーアンを振り返る。イーアンもニコニコして『何食べよう』と嬉しそうにしている。


 少し考えた親方は、『一緒に来るか』と訊ねた。はて、と思ったイーアンが見上げると、『お前。首都にいた時、まだその姿じゃなかっただろう。ここだと目立つな』と言う。


「そうでした。でも、はい。一人になる方が、万が一の時、上手く対処出来ない気がします(※逃げるしか出来ない)」


「そうだな・・・隠れるにも、怪しいしな(※木陰に人影状態)。じゃ、『何が食べたい』と探さないで、そこらの店で調達するか。俺の側にいろ」


 思い遣りとはいえ、イーアンを保護する親方は、真横にイーアンを並べて歩く、その二人時間に微笑む。


 東の町・ブリャシュでも、こうして一緒に魚を買いに行ったな・・・・・(※506話参照) 

 あの時、俺が金の数え方を教えて、イーアンは初めて、自分で買い物したんだ。


 そんな思い出も遠く感じる。俺の幸せな時間は短かったと、しみじみ思う親方。


 ちらっと真横を見て、大きな白い角が輝く頭にちょっと笑うと、その角を一撫でし、見上げた女龍に『お前はすっかり龍らしくなって』と伝える。イーアンもニッコリ笑って頷き『中身は一緒』と答えた。



 その答えに親方は『そうだな』と笑いながら、資料館の路地裏を出たすぐにある、屋台じみた店へ向かい、イーアンに驚く店主に『こいつは肉が好きだから』それを先に言い、続けて『龍の女だ』あっさり暴露。


 え、暴露。イーアンがびっくりしていると、お店のおじさんは、しげしげイーアンを見つめて『本当だね。龍の人じゃないか!』驚きつつも、嬉しそうに笑顔を向けた。


 そして親方が思ったとおり。イーアン用に、大きな肉の刺さった串をこんがり焼いてくれた。


「龍の女が、うちに食べに来たよ」


 笑顔で喜ぶおじさんは、親方とイーアンに肉の串をそれぞれ渡し、親方がお金を支払うとすぐに『こんなの食べれる?』と、調理台をごそごそして、ボウルに山盛りにした揚げたエビを見せた。


 即、イーアンが喜んだので、おじさんも喜ぶ。

 そして親方に『半額でいい(※商売)』と告げ、苦笑いする親方がお金を払い、イーアンは、揚げたエビのボウルも受け取った。おじさんは、揚げた芋もちょっと付けてくれた。


 そこに座って食べなよ、と長椅子を勧められて、満面の笑みで、肉とエビと芋を食べるイーアン。親方も笑顔のまま、美味しく全部を食べ切った(※この間、おじさんは近所に自慢する)。



「行くか。しっかり食べたしな」


「はい。お腹一杯」


 おじさんにボウルを返して、お礼を言って手を振り振り、イーアンと親方は資料館へ戻る。


「お前と一緒だと、何かしらもらうな」


「それは皆さんが、龍の女に(あやか)ろうと思うからかも」


 龍になる前からそうだったぞと、親方が言うので、イーアンはそうかなぁと思いつつ、『それは皆さんが、良い人だからだ』と答えた。


 親方は、そんなイーアンを見つめ、確かにこの顔を見ていると、何か食べ物をあげたくなるなと思った(※角はあっても顔はワンちゃん的)。




 資料館は5分も歩かない場所だったので、二人はそのまま玄関へ向かう。

 玄関に入る前。親方はイーアンを見て『俺の後ろにいるか、屋根の上にでもいるか』と、イーアンに選ばせた。


「お前は観察対象だ。今や、お前の姿は」


 親方が言いかけた直後、ハッとして顔を暗い館内に向けた時には、もう遅かった。


 肉眼で見えないくらいに暗い館内(←照明ケチる)から『ああ!』の一声が聞こえ、ビビったイーアンは、同じく慌てた親方の腕で、彼の背中に押しやられる。


「イーアンじゃないか!あ、タンクラッドさんも(※こっちが手前なのに見えてない)。どうしたの」


 館長は素早く駆け出てきて、背中に隠されるイーアンを見ようと、親方の左右にウロウロする。親方も困って『そんなに追い詰めるな』と注意するが、館長は『おいでおいで』と誘き出すのに必死。


「凄い進化したでしょう!ちょっとしか見えてないけど、角と体の色が変わって(※がっちり観察)」


「ちょっと落ち着いて聞け。用事があって来たが、イーアンは付き添いだ。狙うな」


「爪は?あの長い爪はどうなの」


「話を聞けっ!」


 親方の体にまで手を伸ばし、後ろ手に回されたイーアンを捕まえようとする館長に、親方も叱る。


 館長は不服そうに(?)背の高い男を見上げると、『いいから、俺の体を離せ』と命じられるまま、親方のお腹から手をどかした。


「まだ、ここに居てくれて何よりだ。バニザット・・・シャンガマックのことで来た。彼との約束で、南の遺跡へ行くんだろ?ここから出発すると」


「明日明後日に出るつもりです。今日から閉館で。護衛の人が夕方に来たら、打ち合わせですよ。

 明日だったら出発していたけれど、道は単純ですから。()()()()()()()()()()()かな」


 館長の発言に、親方とイーアンは少々考える。


「海まで。相当あるだろう。普通に馬で2週間くらい掛かるんじゃないのか」


 ちょっと簡単に計算されている気がして、親方は言い直すと、館長は後ろのイーアンを見たくて気にしつつも、中へ入って地図を見るようにと言う。


 親方にがっちり守られながら、二人は暗い館内で地図を見せてもらう。壁に掛かった大きなテイワグナの地図は、人の背丈くらいの位置から天井までの高さに伸びている。


「今。首都ですから、ここ。で、シャンガマックと約束したのは、ここ」


「結構あるぞ。あっさり着くわけない」


「タンクラッドさん、見えるかな。これ、分かりますか?ここね、約束の場所まで山というかさ。崖ばかりなんだけど、ギザギザした・・・こんなのあるでしょ」


 タンクラッドもイーアンも、ゲッと思う。

 まさかこの人、また危険な道を行くのかと館長を見ると(※この前、怪我した)館長は二人の顔を見て笑った。


「馬車じゃないから。私と護衛は。ここはね。細いけれど道があるんですよ。この中をずーっと下りて行くと、海に出るんです。海って言うかな、南のこの辺に。だから2週間も要らないんだね」


「だが一週間程度でもなさそうだぞ」


「そうだねぇ・・・えーっと。8~10日程度じゃないのかな。あなた方は今は?どの辺まで行ってるの?」


 大体、ここまでどうやって戻ったと言われて、親方はちょっと躊躇った後『()()()がいた』とだけ答える。それから現在、総長たちはこの辺にいると教えた。


「え。ギールッフか。そうなんだ、ゆっくりだね。やっぱり馬車だと、大回りしないといけないから」


「急ぐ旅でもないし、目的はこの国の、魔物退治と魔物の製品の普及促進だ。ちょくちょく滞在もする」


 あーそー・・・館長はうんうん、頷いてから、馬車で通るだろう道を指差して『南の遺跡まで6日くらいじゃないか』と話す。


「皆さんが、もう少し先かと思っていました。だから、ちょっと待たせる気とは、考えていたけれど。

 シャンガマックには『到着したら、一週間近くは見ておいてほしい』と伝えてあったんですよ」


 親方に隠れて聞いているイーアンは、この館長さんはマイペースなんだなと思った(※相手、一週間待たせるつもり)。それは親方も思ったようで、軽く咳払いして『そうか』とだけ答えていた。



 この後、親方はイーアンを館長に見せないように頑張りながら、必要な話をある程度確認し、館長さんの手紙を預かる。

 そして、用事が済んだので帰ると告げた途端。イーアンを見ようと迅速に回り込んだ(※俊足)館長から、イーアンを抱え上げて守ると、急いで逃げた。


 イーアンも怖くて、大急ぎで外に出たタンクラッドに『飛びます』と言うと同時に翼を出して、飛びかかろうとする館長(※研究者は諦めない)を間一髪で交わし、親方に掴まらせる状態で、お空へ飛ぶ。


 遠ざかる資料館から、負け惜しみのように叫ぶ館長の声がいつまでも聞こえていた(※『翼があるのか!』『次に会ったら!』『待っていなさいよ!』その他いろいろ)。

お読み頂き有難うございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ