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魔物資源活用機構  作者: Ichen
交わる世界の片鱗
1070/2954

1070. ギールッフの戦う職人・ビルガメスの子・注意事項

 

 職員のおじさんに『どうぞ』と、扉を開けた部屋に促された3人。


 室内はとても広く、幾つもの炉があり、水場もそれぞれに用意されていた。換気も行き届いているし、定期的に掃除でもしているのか、煤などの汚れもそこまで見えない。



「ここは。()()()()を使っているとか、あるのか」


 親方は、カヤビンジアを思い出して先にそれを確認。おじさんは首を振って『温度の差はあまりないんですよ』と炉を示し、ここへ来る職人も()()()()()場所を使っていると教えてくれた。


 ミレイオとタンクラッドは頷いて、バイラと目を合わせると、バイラはこの前、ちょっとしたトラブルのあった、その内容を伝える。

 おじさんは少し気にしたようだが、『ここは恐らく()()です』職人たちを見上げてはっきりそう言った。


「あそこに。もういらっしゃってる職人がいます。彼は長いですけれど、試しに聞いてみましょうか」


 え、と思うおじさんの言葉。3人が驚いた顔を向けたのを見る前に、職員のおじさんは、すたすたと、先に来ている職人の作業しているところへ行き、こちらを指差しながら、その人に何かを話している。


「すごい。自然体」


 ミレイオの呟きに、タンクラッドも小さく頷く。『開放的だよな』性格かもな、と答える。


 おじさんが手招きしたので、どうなるやらと思いつつ、3人はそこへ行く。


 すると、そのおじさんの一角には既に10人ほどの地域の職人がいた。ちょっと気後れする3人は、おじさんを見て『いきなり紹介か』と訊いた。


 それに答えたのはおじさんではなく、手前から三人目の職人だった。

 立ち上がった男は背が高く、白髪の混じる髪を後ろで結び、白い髭を生やした50代くらいの男で、整った顔つきに、職人らしい、人を寄せ付けない印象を持っていた。


「おはよう。遠くから来たんだな。魔物を倒して何か作っているのか」


「そうだ。ハイザンジェルはそれで生き延びた。テイワグナでも」


「今持っているのか?ここでも作ろうってんだろ?」


「ミレイオ。お前のも」


 話が早いので、タンクラッドは荷物から、作り掛けの剣とナイフを出して渡す。素材にした魔物の体も同時に並べ、ミレイオも肋骨さんとそれで作った銃を見せた。その場にいた職人は目を丸くして、出された品に食い付いた。


「これで?こんなのが出来るのか。何するとこうなるんだ。ちょっと、使って良いか」


「使い方は。刃物はそのままだが、これ何だ?どう使うんだ」


「こんなの見たことないぞ。本当に魔物なのか。じゃ、()()()()()あいつも使えたってことか」


 その場にいた職人が集まって、品を手にあれこれ話している中、一人の言葉が耳に入る。

『倒した?あんたが』タンクラッドは、品の側にしゃがみ込み、舐めるように見ている職人に尋ねる。


 話しかけた男は、金髪の日焼けした30代くらいで、上の前歯の右側がなかった。

 唇には新しい傷が治りかけていて、顔つきは子供みたいなのに、目つきが威勢良い。彼はタンクラッドを見て、ちょっと笑って頷く。


「あんたは。その、もしかして怪我を」


「そうだ。魔物に突っ込まれたからさ。でも()()()()()()()んだ。目の前で殺しやがって。怪我したって気がつかないくらい、頭に来ていたよ」


「親・・・倒した、って」


 倒すよ、仇だぜと、彼は力強く頷いた。タンクラッドは驚いて、それ以上は訊かなかった。彼は気にしていないような態度を取る。笑顔も出ている。でも傷口の状態は、まだ一ヶ月も経っていないと見えた。


「ああ、気にするな。俺の親はさ、最悪だったんだ。ヤな男でさ。だけど親っちゃ、親だしな。守る前に殺されちまったから。それだけのことだ。倒した魔物で何か作れるなら、この手で倒した、あの憎たらしい魔物をこき使ってやりたかった」


 まだあるのかなぁ、と思い出すように言う男に、タンクラッドはちょっと笑う。『何て勢いだ』首をゆっくり振ると、彼の肩に手を置いて『一週間ほどで、魔物は崩れるかも』と教えた。


 肩に乗った大きな手に、男は親方を見上げて『あんたも?あんたも倒すの』と言うので、タンクラッドはこれまでのことをざっくり話す。ミレイオも横で会話を聞いていて、前向きな言葉にちょっと心が開く。


「イェライドの倒した魔物。この間、町の向こうの鉱山でも出てただろ。

 俺の親戚が家畜やられて、引っ越した。でもこれ、こんなの作れたら、負け損しないぜ。倒して使ってやれ」


 イェライドと呼ばれた、親の仇を討った男。

 彼に答えた、50代半ばくらいの職人も、意外に良い体。背丈はミレイオくらいで、白いシャツの袖を千切ったような服に、黒い厚手のズボンを身に付けている。


 彼の手は力強く、肩から腕の筋肉がかなりしっかり付いている。黒い髪をざんばらに散らした、青い目の風貌逞しい職人に、ミレイオはじーっと観察(※思ってたより、目に優しい職人が多いと気がつく)。


「バーウィー。お前の斧、これで作れるんじゃないのか」


 他のおじいちゃん的職人も、やけに目力が強い。逞しい風貌の職人・バーウィーに魔物で斧を作れと提案する。


 タンクラッドも、ミレイオも。そして横にいるバイラも。彼らの話の途切れない展開に、止める気もなく、もっと聞いていたくて黙っているだけ。



 彼らは暫く話し合った後、自分たちを眺めている来客に、ハッとしたように気が付いて、笑顔を向ける。


「これ。魔物の材料から、ここで作るんだろ?俺も横で見ていて良いか」


「勿論だ」


 イェライドの笑顔に、親方はニヤッと笑って、久しぶりに、手応えのある仕事の予感を体中で感じた。



 *****



 その頃。お空のイーアン。大きくなったビルガメ・ベイベを励ましながら、お父さんビルガメスと一緒に子供部屋の2階にいた。


「もうちょっとですよ。頑張って」


「大丈夫だ。こいつは自分のことを確認しているんだ」


 奇跡の子。半日で生まれてきた、伝説のビルガメ・ベイベ。なぜか今日を選び、急に頑張り始めて、うんうん言いながら、あっちこっちを発光させている。


 お空に上がった直後の出来事で、イーアンが子供部屋に入った時には、もうビルガメスは2階にいて『おお、イーアン。お前もここで見てくれ』が開口一番のお願いだった。


 ビルガメスが言うには、『ファドゥに呼ばれたんだ。こいつが人の形になるかもと』急いで来た、というビルガメスに、イーアンはちょっと微笑み、2階の広さのある場所で頑張る、ビルガメ・ベイベを見守り、数時間後の今も応援している最中。 



「イーアン。お前にこの前・・・話したが。とりあえずな、もう少し教えておこう」


 子供を見守りつつ、ビルガメスは、女龍に伝えようと思っていたことを話し出す。イーアンもベイベを見つつも、男龍を見上げて『はい。何でしょう』とお返事。


「『時の剣』と同じような力を使う者の話だ」


「え。はい、何か」


「完全に。()()()が、その動きを封じることは出来ないからこそ、の話だ。

 彼の今後の動きで、お前たちにも、厄介なことが起こる可能性がある」


 イーアンは驚きながらも、黙って続きを待つ。ベイベを見ながら、ちょいちょい、女龍の見上げる顔に話しかけるビルガメス。



「可能性、だ。しかし、知っておくべきだと思った。なぜなら、その可能性が現実になった時、今のお前たちの知識と情報ではどうにも出来ん。そして、俺たちが知ることが出来たとしても、常に助けに行けるとも限らん。

 覚えておけ。龍の力を持った、()()()()()()()()が動くことを」


「場所?場所って」


()()だ。龍の力・・・いや、どこまで話すものかな。空に繋がる力、とでも言おうか。

 もしもそれが動いた時。それを()()()のは、男龍(俺たち)女龍(お前)だけだ。もしくは()()()だが、彼らは滅多なことでは出ない」



 ビルガメスの途方もない話が、イーアンには何のことか、全然理解出来ない。どう覚えておけば良いのかも、難しい丸暗記。急いで、ちょっとだけ質問する。


「あの。その()が何かをすることで、その場所が動くのですか?彼は()()()()のに、()()()()?」


「そうだ。動くのは、彼の意思じゃない。彼の間違いによる事態だろう。だから戻せはしないのだ」


 何ですって~・・・あの野郎、と思うイーアン。眉を寄せる女龍を見ないで、ベイベの頑張りを見守るビルガメスは、少し息を吐き出してから頷いた。


「戻す時。お前は、探さねばならない。どこが()()()()に値するのかを。

 そして見つけ出したら、お前の龍気を『場所』が見えなくなるまで注ぎ込め」


 言われている意味。ちっとも分からない。でもイーアンは『物凄く大変そう』と、それだけは理解した。


「場所に値するところを探し、そこに龍気を」


「注げ。その姿が消えるまでだ。そうしないと、場所の全貌が出てきた時には、触れるもの全てを飲み込み・・・・・ ここまでだ。俺が言えるのは」



 中途半端~~~っっ!!! ええ~~~!! 


 イーアンは恐ろしい予告を聞いて、それが自分に掛かっていると言われ、もうちょっと情報下さい、と頼んだが。



 そんな話もつい、途切れる。自分を変えようとするベイベの『ふん、ふん、うーん』の声に、気になる二人の会話は、ざっくり消滅。

 ベイベは頑張って、一生懸命あちこち光っているが、なかなか思い通りに行かない。


 がっつりと、話も終わってしまい、ビルガメスの心配する顔が、ベイベにずっと向いているので、イーアンも『この話は可能性だから』と、また時間のある時に質問することにした。


 それより今は、ビルガメ・ベイベ。


 大きな子だから、エネルギーもたくさん使うのかしら、と思い、イーアンはせっせと龍気を送る。ビルガメスもイーアンを抱え込み、その状態で子供に龍気を満たし、子供に行き渡らせる。


「きっと。今日」


「勿論そうなる。こいつは俺の子供。俺の男龍だ。今日を選んだということは、必ず今日だ」


 ビルガメスも見守りながら、緊張しているようにも聞こえる。緊張と無縁な男龍の、慎重な言い方にイーアンは温かい気持ちを感じる。


 見上げた大きな男龍に『名前を付けましょうね』と言うと、見下ろす美しい男龍も微笑んで『お前が付けてくれ』と答えた。



 そして。この一時間後。ハラハラしながら見守るパパママ状態の男龍と女龍の前で、奇跡の子はその願いを具現した。



 *****



「すぐ来るんじゃないかな。お昼前だし、オーリンも呼んで一緒に食べようよ、って誘ったから」


 連絡珠を腰袋に戻したミレイオは、タンクラッドに、イーアンと話した内容を伝えて、昼食に出ようとタンクラッドを誘った。バイラは、最初の反応が良かったことで一安心し、あの後すぐ駐在所へ戻った。



「今日はショショウィ、どうするの」


「食べ終わったら、俺だけ外で呼ぶつもりだ。お前たちは仕事をしていろ」


 自分だけ・・・文句を言うミレイオに、鼻で笑う親方。『来たければ来れば良い』イーアンの機嫌が悪くなるだろうが、と付け加えておく。

 ミレイオは親方を肘で小突いて、ムカッとした相手の顔も見ずに、地元の職人の炉の方へ歩いて行った。


「これからお昼食べに出るんだけど。荷物、このままで良いかしら」


「そこに置いとけ。誰も触らねえから」


「有難う。そんなかかんないと思う」


「午後、何時までいるんだ。何日か通うみたいなこと、話してたが」


 ええ?とミレイオはタンクラッドを振り向いて、むすーっとしている(※小突かれたから)顔に『今日、何時までいる?』と確認。親方はちょっと目を上に向けて『3時くらいだろ』ぶっきら棒に答えた。


「だってさ、3時くらい。町営の宿に戻るから、ちょっと時間かか」


「うち来るか?泊まれよ。ここから近いぞ」


 ハッとするミレイオ。何このお誘い!お誘いをしてくれたのは、バーウィー。斧を作る男。ミレイオ、悩む(※顔はそのまま)。


「町営でも金はかかってるだろ?うちはタダで泊められるぞ。旅してるなら、金かからない方がいいだろ」


「あ。そのね、ええっと」


「そんな申し出くれる親切な人間もいるんだな。有難いが、気持ちだけで充分だ。町長が取り組みに協力的でな、町営も7日以内なら無料で貸してくれた。大丈夫だ」


 ミレイオは金色の瞳で、後ろから邪魔した男を睨み付ける。タンクラッド、無視。ミレイオの背中を押して『ほら。食事行くんだろうが。行くぞ』なーんにも気にしないように、向きを変えさせる。


「そうか。そりゃ良かった。まぁ、7日以上滞在ってなったら、その時は俺の家に来いよ」


 気の好い返事をくれたバーウィー。あっさりと了解してくれて、ミレイオは心の中で舌打ちしまくる。タンクラッドはけろっと、彼の返事に、追い討ちのような一言を添えて返した。


「すまんな。助かる。仲間が1()0()()()()。無理は言えないが」


 この野郎、遠回しに断ってんのか!ミレイオがさっと睨み上げると同時、他の職人が顔を向ける。


「そんなにいるのか。じゃ、俺の家も2~3人泊まれる。家族はいるが、工房は広いんだ」


「フィリッカの工房も2階があるな。納屋もでかいし」


「平気だね。そんな大したところじゃないが、雨風とネズミくらいはしのげるよ」


 これにはミレイオびっくり。それは親方も同じで、ちょっと唖然とした顔で、彼らの発言を聞いている。


 家族がいようが何だろうが、見知らぬ相手を泊めることに躊躇しないなんて。それも自分の工房に入れてやろうと話し合っている。


 結局。親方はこれ以上、何も言えなくて、彼らがとても親切に『7日以上いるなら、泊まって良い』申し出にお礼を言うしかなかった。

 ミレイオとしては、嬉しいだけ。そして炉場を出た途端、親方に『バカ』と一言投げて終わる。



 外に出ると、空が光る。柔らかい大きな白い光を見て『イーアン』笑顔のミレイオが手を振ると、『ミレイオ~』の間延びしたお返事が戻って、笑った。


 ぐんぐん近づいてきて、イーアンとオーリンが炉場の前庭に降りる。オーリンはガルホブラフを戻し、ぐるっと見渡して『ここ。いいね、人がいなくて』目立たないから降りやすいと、いうことらしい。


「じゃ、行くか。昼食べるぞ」


 炉場の話は食べながら・・・タンクラッドがそう言うと、外の食事処へ4人は向かう。親方はイーアンの横に並んで、ミレイオの攻撃を避けた。

お読み頂き有難うございます。

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