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魔物資源活用機構  作者: Ichen
交わる世界の片鱗
1069/2954

1069. 旅の五十四日目 ~勇者の冠談義・ギールッフの炉場

 

 次の朝は、宿の人が向かいの食事処を予約しておいてくれた。


 サブパメントゥ夜組、オーリン以外の旅の仲間は、早くに地下から上がったミレイオと一緒に、朝食へ。



 町営宿の流れからなのか。食事処も幾つか近くにあり、それらも良心的な金額で提供されている。

 予約したのは席だけなので、皆は朝から好きなものを好きな量で注文し、大きな食卓に次々料理が並べられた。


「昨日、()()()からな」


 親方は一度に4品頼んで、せっせと頬張る。『昨日も相当、食べていましたね』フォラヴに突っ込まれて、親方はゆっくり頷くと『お前ももっと食べないと』小食(※に見えるだけ)の妖精の騎士を励ます(?)。


「あんた、働いてないわ」


 バカにしたようにちらっと見て、ミレイオも鮮度の良い野菜のボウルを引き寄せ『私とイーアンだけよ、体力使ったの』頭も使ったけど、とぼやいた。



「頭を使ったと言えばな。俺は頭をしこたま・・・いろいろあって、言うの忘れていた。イーアン聞いてくれ」


 ミレイオの言葉に目の据わる親方を無視して、ドルドレンはハッと思い出したことを、急いで奥さんに言う。なんですかと、肉をむちゃむちゃ噛むイーアンに『ミンティンが酷かった』チクるドルドレン。


「ミンティン。あなたに何かしましたの」


「俺を攻撃するのだ。あれは、あんなに乱暴だったか?イーアンにはしないだろう」


 イーアンはちょっと考えてから『攻撃と乱暴』繰り返してから、伴侶を見て、突き匙に刺した芋を食べさせ『あの仔が、ドルドレンに乱暴なことをした?』と確認。うん、と頷く伴侶に、具体的に話すよう頼む。


 ドルドレンは、ミンティンが自分の頭を小突いたり、尻尾で背中を押して転ばせたり、挙句に、上半身を(くわ)えられて振り回されたと訴える。


 さすがにイーアンも皆も、『上半身を(くわ)えられて振り回す』には目を丸くしていたが、その前後も聞いてみると、イーアンは『ああ~』と納得してしまった。


「何、納得してるの。俺は死ぬかと思った(※タムズの名を呼んだのは伏せる)」


「いえ、それは大変に怖かったでしょう。そこには確かに同情します。ただ、あの仔なりに遠慮していたとは思います」


 何で、と詰める伴侶に、落ち着くように言って聞かせ、もう一つ丸っこい肉団子を食べさせると(※黙る)イーアンはフォラヴに『彼は冠を被ったことで、あなたと』と言いかける。妖精の騎士は、皆まで聞かずとも丁寧に頷いた。


「はい。勇者が迎えに来てくれるまで、私は出られません。誰もそれを知ることが出来ない状態です。私さえ、それを知らせるに至りませんでした」


「そうでしたか。ですって、ドルドレン」


「何なの。じゃ、ミンティンが乱暴でも仕方ないっての」


 ふてくされないの、と笑って、イーアンは『自分もミンティンに、結構あれこれやられている』と教える。


「ミンティンは知らせたかったのです。『ドルドレン(勇者)が迎えに行く』ことも気づいたでしょう。

 思うに、小突いた何だの動きは、ミンティンは喋りませんし、手を使うこともないから・・・そんな顔しないの(※むくれるドル)。

 私も、ボコボコやられていますよ。最近はあの仔に乗らないから、ないですが。最初の内は、よくありました。

 あの仔は力が強い。で、あの大きさです。アオファに舐められた時も、私ひっくり返りましたもの(※444話参照)」


 皆は、アオファの大きさを思い出し、あの顔が口を開けて舌を出した時点で、死ぬ覚悟をする気がした。それでもイーアンは、舐められて笑っているのだから、こりゃ格が違う、と思う尊敬。

 思い出したドルドレンも、うん、と真顔で頷く(※笑えない)。


「そうだ。あの時。王城の外だな。アオファに舐められたとイーアンが言った。上着丸ごと、ヨダレでずぶ濡れだった。ありゃ大変だ」


「あれでも、あの仔なりに『そーっと』だったのですよ。ミンティンも『そーっと』のつもりでしょう。

 まぁ。銜えて振り回したら、大体の方が悲鳴を上げると思いますけれど、それも『冠を持っている』と思ったからでしょうし」


「俺は可哀相じゃないのか」


 可哀相よ、と笑うイーアンは、むすっとする伴侶の肩に(もた)れかかって『でも話せないんですよ』と教え(※たまーに話すけど、それは伏せる)冠はこれから、よく使うかもと話を変えた。


「冠の存在が、今後ものを言う場合も多くなりそうです。ミンティンがそれに気が付いたくらいですから、恐らく兆しはあるでしょう」


 イーアンがそう言うと、フォラヴも総長を見て続ける。


「私も、眠っている状態でした。ただ聞こえているのです。妖精の会話を聞きながら、体は眠り続けて。

 その会話に『冠』と聞こえた時は、どう伝えたら良いのか気になりました」


「偶然かと思ったけれど。ミンティンが来て、総長だけを連れて行ったのは、もしかしたら、本来はしないような、()()()()()()()()だったのかも知れませんね」


 友達の言葉に続けた、シャンガマック。その可能性はあるかもと、食べるだけ食べた親方も口を挟む。


「ミンティンはどうか知らんが。冠をドルドレン(お前)届けるように言った最初は、グィードだ。

 龍は知っているのかも知れないぞ。冠だって、手に入れたのはテイワグナに入ってすぐの、大津波戦だったんだ。この国(テイワグナ)から既に必要、ってことかもな」


 皆にそう言われると、そうなのかもなと思うドルドレン。普通にしている時に、頭に輪っか付いているなんて恥ずかしいと、避けていたが。


「また振り回されても敵わん。仕方ない。俺の身を守るために(←青い龍から)被っておこうか」


 変なの・・・ぼやきつつも、いつ何時(なんどき)に備えてと、ベルトに挟んだ銀色の細い輪を取り出し、頭に乗せる。

 ちょいちょい髪をかき上げて、あまり冠が目立たないように引き上げた髪の毛で隠し、奥さんに確認。


「どう。目立たない?」


「はい。ドルドレンは前髪も額に掛かります。風でも吹かなければ」


 イーアンは試しに、ふーっと伴侶の顔に吹いてみる。ドルドレン、奥さんの心地良い息を、思いがけず頂戴して微笑む(※シアワセ)。親方は羨ましかった(※自分も冠要る気がした瞬間)。


「見えません。大丈夫。変じゃありませんよ」


 ニコニコしているドルドレンは、嬉しそうに頷いて『じゃ。これで』と冠を受け入れた(※単純)。


 この後、皆は値段も安い食事処に調子に乗って、二度目の追加で料理を頼み、それもがっちり食べてから、お腹一杯で朝食を終える。



 ここからは別行動。今日は、ミレイオとタンクラッドは炉場へ向かう。

 バイラも一緒に行って『今度こそ、ちゃんと作れるようにしたい』協力をしてもらえるように、自分も伝えると意気込んでいた。


「じゃあな。ドルドレン。俺たちは馬車一台持って行くから。武器は、そっちに移しておけ。バイラの駐在所に寄った後は、ずっと炉場の予定だ。何かあったら連絡くれ」


「そうだ。オーリンも来れそうなら。カヤビンジアの町はダメだったけど。この町で大丈夫そうなら・・・後で連絡する。そしたら『オーリンも炉場に来て』って伝えて」


 ミレイオの言伝を、イーアンは了解。ミレイオからイーアンへ、イーアンからオーリンへ。製作内容が『肋骨さん』引き続きと分かるので、お空でオーリンにも伝えると承った。


「売れそうな場所があれば。そっちも見に行くから。まぁ、門前払いでもなければ、普通に帰りは午後だろう」


 親方はそう言うと、馬車に積んだあれやこれやを大まかに分け、武器と鎧は寝台馬車へ運ばせた。

 そして職人二人とバイラは、皆に挨拶して、あっという間に出発した。



「行動が早い。さすが無駄のない人生」


「総長。感心していないで、俺たちも今日の予定を」


 馬車を見送った、騎士たち。シャンガマックに言われ、ドルドレンも『ん?』と顔を向ける。お腹一杯で考えていなかった。


「そうか。何しようか」


「今日。何もないんですか?町長面会や許可は、もう話は通りましたが」


「ないね」


 考えたけど、特にない。気がする(※満腹で頭動かない)。シャンガマックと総長のやり取りに、フォラヴとザッカリアは見守るだけ。

 考えている総長を暫く見てから、彼の横に佇む女龍に目を移す。


「イーアンは、もうじきですか」


「はい。昨日はお休みしたので、ちょっと早めに空へ上がろうと思います」


 子育てイーアン。訊ねた妖精の騎士に『休み一日明けは、早めの出勤』と話す。


 騎士たちは、ボーっとそれを聞いていたが、イーアンはそんな彼らをさっと見て『もう行きますね』特に居残る理由もなし・・・・・

 あっさり翼を広げると、パタパタ浮んで『それではまた午後に』さくっと挨拶し、手を振る皆さんに見送られ、ぎゅ―んとお空の星になった(※毎度)。この現象で、宿の中と表通りが、一時的に賑やかになった。


「イーアンは業務的である」


「俺たちも()()()です。何かしないと」


 そうね・・・ドルドレンは、何か仕事を考える(※今日ヒマ)。従順な部下が答えを待っているので、少し考えた後に『周辺見回り』無難な提案をする。


 皆が『それで良い』と許可してくれたので、騎士たちは地図を見ながら、広そうな場所へ徒歩で向かい、あまり人の目につかない場所で龍を呼んで、そそくさ乗り、そそくさ空へ飛んだ(※それでも騒がれる)。



 *****



 炉場へ向かう馬車の御者台。タンクラッドが手綱を取って、ミレイオも横に座っている。バイラは彼らの前を進み、『もうすぐ駐在所なので』すぐですから待っていて、とお願いした。


 朝でも活気のある町で、もう開いている店も多い。通り過ぎる道に並んだ飲食店は、何時から始まっているのか、客も普通に出入りしている。


 駐在所のある通りは、飲食店は点々とだが、役人関係の建物が多いため、文具や家具、輸送施設などの需要がありそうな店が集まる。

 そうした店でも、朝も9時前から扉を開けているので『よほど繁盛しているのか』と、親方はミレイオと顔を見合わせていた。


「あ。そこです。馬車はここに寄せて下さい。ちょっと待っていて下さい」


 バイラは前方を指差し、馬車は路肩の左に寄せるように伝えると、自分もそこで馬を下りて、カバンと一緒に小さな建物へ入った。

 軒を連ねる他の施設の合間、奥に長いのか、細く見える駐在所は、扉二枚分程度の幅しかなかった。



 待っている間。ミレイオは、嫌がるタンクラッドの肩に寄りかかって(※椅子の背凭れ代わり)『動くんじゃないわよ』とぼやきつつ、腰袋に入れてあった紙を、数枚取り出して眺めていた。


「どけ。何を寄りかかっているんだ!お前に寄りかかられたくない」


「うるさいわねぇ。デカイ体してるんだから、ちょっとは役に立ちなさい(※背凭れとして)」


 御者台の背板は、直角だから痛いのよ・・・文句を言うミレイオ。


『だったら、後ろに行ってろ!』嫌がって、体をずらすタンクラッドを無視して、ずれればずれるほど、ダラけた寄りかかり方をした状態で、ミレイオは『動かないで』と言うだけ。手に持った、数枚の紙を見つめ、うーんと唸る。


「お前なぁ」


「うるさいって。ねぇ、ここ何だっけ。町の名前」


「ああ?町の名前?確か、えーっと。ギールッフか。地区は覚えてない」


「これさぁ。ね、ちょっと!見なさいよ、こっち。これ、見て!」


 寄っかかったまま、右腕を伸ばして、しかめっ面のタンクラッドの顔の前に、一枚の紙を突き出す。『何だ』不機嫌そうに、紙をぴっと引っ手繰り、タンクラッドは溜め息と一緒に(※諦め)『これか』書かれた文字を見て、聞き返す。


「この町だろう。何だ、これは」


「やっぱ、そうだ。覚えてる?首都の職人の人たち。ほら、私たちが離れる日にさ」


「ああ・・・お前何か教えてもらっていたな。それがこれか」


 うん、と頷いて、ミレイオは体を起こす(※だらけ過ぎて首痛くなった)。座り直して、タンクラッドに住所を指差すと『この場所、どこだろ』と明るい金色の瞳を向ける。タンクラッドも、首を傾げる。


「バイラに聞かないと。俺は地図持っていないぞ」


「炉場って、違う住所でしょ?でも行くなら、この()()()()()()()の工房の方が良くない?すんなり作れそうじゃない」


 言われれば、そうも思うが。

 親方としては、とりあえずは『町長が許可を出した、炉場へ行ってからに』と、ミレイオに言う。

 ミレイオも特に反対はしなかったが『時間があったら、帰りに探そうよ』明日はそっち行きたい、と控え目に意思を伝えた。


 出来ればミレイオとしては、カヤビンジアの二の舞は、もうタンクラッドにさせたくなかった。

 協力的な相手がいるなら、最初からそこへ行きたいと思う。でも気にしていなさそうな友達の顔に、それは言えなかった。



 二人が話し合っていると、バイラが駐在所から出てきて、カバンに書類を仕舞いながら『すみません。行きましょう』笑顔を向けて、馬に跨る。


「仕事。短い時間だったけど、大丈夫?」


「仕事ですか。はい、私は書類報告ばかりなので。宿で書ける内は、夜に終えますから」


 夜に仕事してるんだ、とミレイオ。タンクラッドも意外そうに『そうだったのか』と少し驚く。バイラは馬を進め『それはこの旅の間、続きます』そう笑って、炉場はもうすぐと教えた。


「何か。手伝えると良いんだけど。夜に仕事しているなんて知らなかった」


「いえ、毎日じゃないんですよ。今回は特に、私が本部で出した報告書が、地域に回ったのもあったし」


「バイラは真面目だなぁ。それで、馬車だと料理も手伝うじゃないか。ちゃんと休めてるのか」


 気遣ってくれる職人二人に笑って『警護団だから、そういうもの』と話を終える。気の好い男に、タンクラッドたちも目を見合わせて苦笑い。もう少し、気にしてあげようと囁き合った。



「ここを曲がります。この道は、取引所なんかもあるんですよ。ええっと、これですね。地図にも載っているから、炉場で作ったものや、旅の間に作ったものは、この通りで見てもらっても良いかも知れない」


 バイラは地図を出して、馬を寄せると、腕を伸ばしたタンクラッドに地図を渡す。受け取った親方の手の近くを指差して、『今はここ』と通りを教えると、親方も確認して前を見た。


「ふむ。なるほど。換金所みたいなもんだな。取引所って呼んでいるのか」


 ミレイオも地図を覗き込んで、周囲を見渡し『ここだけ違う感じ』とタンクラッドに言う。親方も頷いて『この通りだけで用事が済む』と答えた。



 それから馬車は炉場へ到着。通りを抜けた右手に、広い敷地があり、塀代わりに木々で囲んだ、開放的で見た目良い建物が、この町の炉場だと知る。


 バイラの誘導で馬車置き場へ入り、馬車と馬をそこに預けると、荷台から荷物を出して職人二人は、バイラと一緒に炉場の入り口へ回った。


 煉瓦で造った趣のある建物で、扉も開けっぱなし。大きくがっしりとした分厚い扉の横を通り、中へ入ってすぐ『おはようございます』と挨拶が掛かった。


「おはようございます。私たちは」


 職員なのか。60代くらいの太ったおじさんが笑顔で迎えてくれて、バイラは自己紹介。

 町長との話もすると、話している側から奥の部屋のおばちゃんが『昨日に連絡がありましたよ』と大声で教えてくれた。



「大丈夫ですよ。炉場は貸し出し出来ます。こちらへ」


 おじさんは3人を見てニコッと笑うと、長く奥へ伸びる通路を案内し、最初の扉を開けた。

お読み頂き有難うございます。

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