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魔物資源活用機構  作者: Ichen
交わる世界の片鱗
1066/2955

1066. ギールッフの町 ~初日午後・宿に集合

 

「テイワグナの馬車じゃないから、襲われた。そういう・・・解釈もあるか」


「はい。見るからに、総長たちの馬車は、色も独特で、形も少し違うので、目を引きますし。

 旅の馬車の強盗は、盗賊側からすれば都合が良いのでしょう。国内の馬車だと、そのまま裁判にもなりますけれど、旅人相手だと」


「ははぁ。()()()()()分からないから。追いようがない、と」


 だと思います、とバイラは食事をしながら頷く。総長もシャンガマックも顔を見合わせて『馬車の色までは変えられないな』と諦めがちに呟いた。



 ドルドレンたち騎士は、数日振りに4人揃って、バイラと一緒に昼食中。


 宿は食事処の向かい。町営の宿屋は広くて大きく分かりやすいので、馬車はすんなり辿り着いた。

 すれ違いで、役場の人間が事情を伝えてくれた後、ドルドレンたちが到着し、滞在日数未定で、とりあえず一週間以内の宿を取り、馬車を預け、只今お食事の段階。


 食事をしながら、お互いに起こった出来事を報告。最初は、お留守番のバイラたちの話だった。それが冒頭。


「それにしても。ホーミットが来るとは」


 ザッカリアはその名前を聞いて目を伏せる。ドルドレンは動いた彼をちらっと見て、仕方なさそうに見ない振り。


 シャンガマックも分かっているようで、総長の目にちょっと瞬きで合図する。総長は了解し『後で聞かせてくれ』と短く、そこを終えた。


「とにかくな。やはり。治安云々はさておき、俺たちは旅人で、身なりも気をつけている分、旅の資金を持っているとは判断されやすいのだろう。気をつけて行動する意識を、高めねばな」


「無事で良かった。一先ず、そこを喜ぶべきです。ええ、その。()()()()()()()()()()は、話し合う理解が必要であっても」


 妖精の騎士は、沈むザッカリアを見つめ、彼の衝撃を受けた心境を察して、静かに皆に伝える。ドルドレンたちは『その必要がある』とし、タンクラッドたちが戻ったら、また話そうと決めた。



「総長たちは?フォラヴは、傷一つなかったようで、本当に何よりです。でも、これまでどこに」


 バイラは話を変えた。横に座る、食欲の落ちた様子のザッカリアに『食べておくと良いよ』と自分の皿から、よく焼けた、香菜と挽肉の団子を分けてあげる。


 その様子を微笑んで見つめる総長は、少し間を置いてから『フォラヴは安全だった』と話し始める。


「彼にも直に話を聞くが、今は俺の話だけで充分だろう。彼も戻ったばかりで疲れている。

 俺はミンティンに連れて行かれ、何が何だか分からない幻想的な出来事の中、戸惑いながらも、どうやら部下を救出できた。

 言ってみれば、それだけのことだが、何はともあれ。今こうして一緒に居られるのが、実に嬉しい」


 言い終わると同時で、総長は皿に寄せておいた揚げた芋を何本か、ザッカリアの皿に渡す。

 自分を見たレモン色の瞳に微笑み『それ、好きだろう。食べておけ』元気が出るようにと、心で続けながら、自分の食事を食べ切る。


「イーアンたちはまだ戻らないが。話だけだと、龍で行って戻って、そう掛からない距離とか。

 夕方前には戻るだろうから、彼らが戻るまでは宿で休もう。風呂に入れるなら、先に風呂で砂を流すのも良いだろうし」


 砂まみれだよと笑う総長に、バイラも苦笑いする。『ここまでの道のりは乾いていた』と答え、風呂は多分入れることも教えた。


「それと、私はこのまま。駐在所へ行ってきます。私の報告書が各地に届いたなら、目を通しておかないと」


「そうだな。さっき、そんなことを話していた。では、気をつけるのだ。えーっと、どうするかな。()()()は」


 少しザッカリアに気遣って、ドルドレンは小さめに短く伝える。バイラは軽く頷いて『私が報告します』と言うと、シャンガマックを見て微笑んだ。



「きっと、問題ないですよ。彼らは()()()()だったから。

 すごい言い方しますけれど、護衛の時の表現だと『いつ死んでも、誰も気にしない』()()がありました。

 腕と耳の後ろに、彼ら全員、同じ印がありました。精霊にも龍にも、平気で唾を吐くような集団です」


 少し強調した、凄みのある・・・しかしバイラの口から言うには、現在のバイラも、本当は言いたくはなかっただろう、厳しい表現を聞かせたのは。


 横に居る子供のため。そして、朝に紹介されたばかりの『父』に、助けられたシャンガマックのため。

『誰某は、その行いの為に死んで良い』と教育することは出来ない。決してそれは出来ない。


 だがバイラは、わざわざその言い方を選び『何を見つめるのか』を無言で促す。

 シャンガマックが父とした相手は、この世の存在でも人間ではない。言ってみれば『自然災害に意識が付いたようなもの』と、バイラは捉える。


 これ以上は、人間が裁いてはいけない範囲。

 齎された出来事で生き残ったのは、()()()()自分たちだった。それを、騎士たちがどう思うかは、バイラが教えることではなかった。



 バイラはちょっとした静けさに、大きく息を吸い込むと、さっと席を立って『では。仕事に行ってきます』と笑うと、ザッカリアの肩に手を置いて『ちゃんと食べるんだよ』と笑顔を向け、皆に挨拶をしてから出て行った。


 シャンガマックは彼の背中を見つめ、横の総長に『バイラ』呟きで話しかける。総長はゆっくり騎士を見た。その漆黒の瞳を受け止め、ドルドレンは頷いて、先を促す。


「あの人の信仰深さ。すごいなと思って。あの、風呂で。一緒に風呂入った時にでも、聞いて下さい」


「そうだな。じゃ、俺たちも出るか。風呂、入れると良いが。フォラヴも入りたいだろう」


「勿論ですよ」


 困ったように笑うフォラヴに、皆もちょっと笑って、寂しげに微笑んだザッカリアを一緒に立たせると、騎士たちは残った料理を包んでもらい、向かいの宿へ移動した。



 *****



 空を飛んで戻る職人組(※もとい中年組)。元気な中年たちは、満面の笑みで笑いが止まらない。


「これ。楽しいなぁ!こんなの久しぶりだよ」


 オーリンが弾ける笑顔で、イーアンを見て言う。少年のように無邪気に喜ぶオーリン45才(※そろそろ46)に、イーアンは冗談めかして睨むと『あなた、待ってるだけでしたもの』さくっと刺して笑う。


「ハッハッハッハ。良いじゃないか。お前とミレイオじゃなかったら、こんな凄い量を持ち帰るなんて出来なかったんだ」


 珍しいくらいに笑顔が続く、普段は生真面目なタンクラッド(※47才だけど、もうじき48)。オーリンの肩を持って(※自分も待ってる側)潜った二人の功績を称える。


「良い気なもんよね。さっきも言ったけど、これ、私とこの子で半分取るわよ。残りで、馬車とあんたたち分けなさい」


「それは取り過ぎだろう。お前は潜ったが、俺は解読に付き合ったんだ。俺が居なかったら、海原まで行かなかったんだぞ」


「それ言ったら、俺もそうだぜ?俺が行こうって、あの僧院に誘わなかったら、素通りじゃないか」


 ミレイオの言葉に、全力で抵抗するタンクラッドとオーリンは、分け前に過敏に反応して、暫くの間、ミレイオとやり合っていた。


 イーアンはそれを聞きながら、ちょっと笑いつつ。


 二頭の龍に、ぎっちり積んだ(※ぶら下げるとも言う)パンパンのお宝を見て『これをどう馬車へ運ぼうか』と、目立つキラキラの対処を考える。


 見るからに、バーハラーも、ガルホブラフも機嫌が悪い(←プライド高い)。

 早めに下ろしてあげないと、2頭とも怒りそう・・・それも気がかり。女龍(自分)一緒だから、我慢はしてくれているんだろうけれど、かなり嫌がっているのは伝わる。


 少し考えて。ミレイオに相談する。やり合っている最中だが、うざったい二人の話を投げたミレイオは、すぐにイーアンの相談に乗り、『これ?地下に?』良いわよ、と頷く。


「一旦地下へ。ミレイオの家に、全部運んでもらって。それから馬車に持って上がれば。私も手伝います」


「そうか。そうよね、目立つしね。こんなので町中は嫌だわ。そうしましょ」


 二人の会話に、目を見開く親方とオーリン。そんなことしたら、ミレイオが全部取るだろうが!と、抗議したが、ミレイオに一喝されて(※『おめえと一緒にすんな!』って)渋々黙った(※怖)。



 龍気ムンムンイーアンでも、グィード皮衣服のお陰で通える、サブパメントゥ。


 町より離れた、人気のない場所で龍に乗せた荷を下ろすと、二人はどっさりある宝の内、小分けに袋に入れた宝を、ムスッとしているタンクラッドとオーリンに渡し『それ、先に持って帰って良いわよ』と送り出す。


 言いたいことが、山のようにありそうな二人の男だが、龍に乗ったと同時、あっさり飛ばれて、文句の一つも言うこと出来ず、町へ連れて行かれた(※龍はさっさと帰りたい)。


「私たちも行こうか。これ、一度に運ぶから、あんたは私に掴まっていらっしゃい」


 ミレイオは全部の荷の端っこを掴むと、イーアンに体に掴まれと指示し、イーアンがミレイオの腰に両手を添えた時点で、地面は黒い穴を開け、全てを呑み込んだ。



 *****



 オーリンと親方は、馬車を龍に探してもらって、龍が見つけた宿屋の近くをぐるっと飛ぶと、『近くに空き地がないな』と言いつつ。


「堂々、降りちゃって良いんじゃないのか」


 笑う龍の民の提案に、親方もフフンと笑って頷く。


『まぁな。気を遣うのも、初っ端だけだ』ドルドレンたちが報告しただろ・・・そう言って、宿の裏手にある馬車置き場へ滑空し、馬車の屋根の上へ、宝片手に飛び下りる。

 続いてオーリンも『お疲れさん』とガルホブラフに挨拶し、ひょいと飛び下りた。


 宿の表通りで一騒ぎ起きているが、二人は顔を見合わせてちょっと笑うと、そのまま馬車の扉を開けて、中に宝を仕舞いこみ、馬車から出てそのまま宿に入った。




 宿に入った親方とオーリン。受付へ向かい『あの馬車の連れだ』と、宿屋の従業員に伝える。


 受付の中年女性は、二人の男のイケメンっぷりに、少々時間が止まったものの、確認すると言って、別の従業員に宿泊客へ報告させる。


 中年女性がじーっと見ている(※目の保養)のを無視し、タンクラッドとオーリンは『潮風で暑い』『ベタベタするな』と服を掴んで文句を言うものの、やっぱり笑顔(※宝効果)。


 待っているのも1~2分。呼ばれてきたドルドレンが、受付の前の二人を見て『戻ったか』と一声かける。


 それから、宿泊する仲間であることを受付に伝え、記録してもらうと、二人を労い『イーアンとミレイオは』と居ない影を訊ねた。


「風呂へ入ると良い。俺たちもさっき上がったのだ。風呂へまず入って。それから食事へ連れて行こう。どうだった」


 馬車へ、着替えのシャツとズボンを取りに行きがてら、ドルドレンが話を振ると、タンクラッドが何かを言う前にオーリンが口を挟む。


「イーアンとミレイオは地下だ。後で来るだろう。風呂も済ませるかもな。宝は凄いぜ。半端ない・・・ハハハハ」


 説明も続かないくらい、量を思い出して笑うオーリンに、ドルドレンは期待していそうな笑みを親方に向ける。親方も笑顔で頷いて『あまりに量があって、それでミレイオたちが一旦地下へ運び込んだ』と教える。


「そんなにあったのか。旅が終わるまで大丈夫そうだな」


 ハハハと笑う総長は、着替えを取った二人に『ほら』と、一つ宝を見せてもらう。水に濡れた金属の装飾品を前に、目を丸くするドルドレン。


『素晴らしい。オーリンが見せてくれた、最初のものよりも、ずっと宝石も多い』手に取って感心する総長に、タンクラッドは『続きは後で』と伝え、オーリンと一緒に風呂へ向かった。



 ドルドレンも宝を馬車に返し、鍵を掛けてから宿の部屋へ戻る。


「イーアンとミレイオ。彼らが戻ったら、食事だな。その時にでも、全員の報告を済ませよう」


 イーアンが戻ってくるまで、少しの間。ドルドレンは欠伸をして、ベッドに体を横にした。


「朝から。今日もいろいろ詰め込む一日だな」


 フフと笑って、黒髪の騎士は目を閉じる。ほんの一年前は、部下以外の誰とも関わっていなかった。そして、明日死ぬかもと思って生きていた。


 それが今じゃ。


「想像なんて出来ないものだ。人生は、ある時、あっという間にそれまでの流れを切って、全く別の方向へ進む」


 面白いなと呟いて、ドルドレンは少し黙ると、午後の風が通る部屋の中、そのまま短い眠りについた。

お読み頂き有難うございます。

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