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魔物資源活用機構  作者: Ichen
交わる世界の片鱗
1065/2953

1065. 龍の端くれトワォと、その宝

 

 面と向かった生き物の顔がぐーっと下ろされて、イーアンは驚き、一歩二歩下がる。相手の寸詰まりの顔が下りてきて、その様子に好奇心一杯と見た、イーアン。


 もしかしてと『分かったの?私の言葉が』すぐに訊ねると、相手はゆっくりと首を傾げ『トワォ』頭の中に響く声。



 あー・・・! 嬉しくなったイーアンは、もう一回、その声を聞くために『トワォ』繰り返してみると、自分の顔の二倍くらいの、龍とトカゲの合いの子のようなその生き物は、『トワォ。うん』と言う。


『私はイーアンです。トワォ。トワォはあなたの名前?トワォ』


『トワォ。うん。イーアン。イーアン、リュ?』


 わー! 会話が出来ると分かって、感激イーアンは、うんうん頷いて、『そうです。私は龍です。今日はここに遊びに来ました』と伝える(※宝欲しいとは言わない)。



『トワォ。一緒に来ますか?海に住みますか』


 姿から見て、トワォは海の仔と思うけれど、一応訊ねると、龍よりも小さな顔を何度もゆらゆらして、『ウミ。ウミ、トワォ。ここ』ちゃんと理解して答えてくれた。トワォは動けない。それなら、とイーアンは提案する。


『そうですか。ではね。私は今。友達と一緒です。分かるかな。友達です。もう一人います。それでね、海の上に、また()()の。見ますか』


 不思議な、龍に似通う生き物は、ちょっと考えてから『いない。イーアン。いない。うーん』困っている。


 ああ、寂しそう・・・その様子に、イーアンは同情する。きっと深い海のここに住み着いて、長いのかも知れない。


『どうしましょうね。何か。ちょっと、待って下さいね。私の友達。あなたは平気かしら。会える?』


『うーん。うーん』


 あんまり多い言葉は難しいのかも知れないので、イーアンは『友達を見るか』と訊いてみると、頷いた。それでイーアンは、ミレイオのいる場所まで一緒に動く。


 動く様子を見ると、ショレイヤたちよりも一回り小さく、それなのに首と尾が妙に長いと分かる。

 短い体も少しペタッとして、足は肘や膝があると分かるものの、その先の鰭の方が大きかった。6本あるかと一瞬思った足。前と後ろの間に、幅の広い鰭があるので、それだったよう。

 頭にも小さいけれど角があり、角は背鰭と似ている形をしていた。


 ふと。この仔がビルガメスの話していた『龍の端くれ』ではないだろうか、とイーアンは思う。

 似ている部分があるけれど、龍とは違う。でも、龍気に怖がりもしない。そして、イーアン(自分)を『リュ』とすぐに気が付いていた。


 端くれちゃんには『龍の要素はある』と聞いた、その状態。それがこの、トワォかもしれないと思うと、イーアンはちょっと手を伸ばして、その体に触れてみた。

 トワォは怖がらない。イーアン自身が触れても、何も違和感なし。


『平気?嫌ではないですか?』


『嫌。ナイ。トワォ。ヘキ』


 やっぱりそうかも、と思いつつ。イーアンはトワォのすべすべした皮膚をナデナデしながら、ミレイオのいる開いた広前へトワォと一緒に出た。


 イーアンと後ろの生き物を見たミレイオ、目が丸くなっている。

 宝物は既に、きちんと詰め込んだ様子で、待っていたと分かる状態。ミレイオはすぐにイーアンに『何それ』と話しかけてきた。


 事情を説明すると、ミレイオはしげしげ、トワォを見て『この仔、龍みたいよ』とイーアンに言う。トワォは長い首を左右前後に揺らしている(※見た目ぐらんぐらんしてる)。


『これ。否定だと思います』


『そうなの。あんたがそう思うなら、そうか。どっちか分かり難いけど』


 龍じゃない、と自覚している様子に、ミレイオはふーんと了解した。それから『一緒に海の上、来れる?』来ても良いわよ、と鷹揚に提案。



 すると。


 さっきは困ったようにしていた、同じ内容の質問だが、トワォは首を動かして、外を見る。そしてそのまま、柱の隙間を通って。


『あの仔・・・さっきのとこ。じゃない?』


『はい。棺のある場所へ向かいました。行ってみましょう』


 来客を残した不思議な生き物は、スイスイ外へ出て、ミレイオとイーアンの見ている前で、御堂の中へするっと入ってしまった。


『入った。あんな大きさでも、人間用の入り口抜けられるのね』


『見た目の印象より、体が平たいかも。手足もぺらんとしています。角度では』


 私たちも入れるかしら、とミレイオが入り口手前で待つ。イーアンも考えるが、中のトワォの顔がこっちを見ているのを知り『来てほしそう』ミレイオの手を掴んで、一緒に中へ入った。



 中は狭いとはいえ、奥行きで6~7mほどの空間。イーアンたちが入ると同時に、正方形の室内に入り込んだ、魚の群れが慌てて逃げ出す。たくさんの魚が横を泳いで逃げるのを見送り、トワォのいる辺りへ二人は進む。そこには二つの祭壇が並び、その祭壇の合間に棺の枠だけが置かれていた。


『これ。さっきの』


『はい。同じ大きさと形です。蓋もないし、中も(カラ)ですが』


 トワォは、イーアンを見て、(カラ)の棺を見る。『これは、どうしますか』イーアンは何をしたら良いかを訊ねる。


『イーアン。ここ』


 トワォは棺の底を、鰭で叩く真似をする。叩けってことじゃないの、とミレイオに言われ、イーアンはそっと底をノック。反応がないので、もう少し強く、手の平でぽんぽんと叩くと、突然底が浮かび上がった。


『うお。何?』


『外れたのでしょう。これは不思議・・・って、地上にあった時は何か脇に差し込んで外したかもですよ』


 よく見ると、底板の左右に僅かな(えぐ)りがある。そこに鉤でもかけたんじゃないか、とイーアンは言いながら、外れた下を見ると『さっきの部屋です』棺がたくさん並んでいる地下室を見た。


『でも。変よ。これ、天井なんじゃない?透けているけれど』


 二人は、棺の部屋の真上と知ったが、透かして見えるそこには、一枚何かある様子。砂も小石も浮んでいるように、さながら透けた板の上に乗っている。


 ミレイオがくまなく体を動かして、じっくり見ると、『あ。あれ?これ記号よ』透かした板に彫った後が見えると指差す。



 イーアンもじっと見つめて、少し光を増やす。透かした板には彫刻されたように、分かりやすい記号が、間隔を開けて並んでいた。『ミレイオ』『うん。私これ知ってるわ』読める、と呟くミレイオ。


『うー・・・ん。ああ、そういうこと。ちょっと待てよ。ってことは』


 ミレイオは体を起こし、少し距離を開けて、全体を眺めるとゆっくり顔を右から左へ動かして『分かった』と一言。


『順番だ、これ。えーっと。これが1か。で、こっちでしょ。それから、これか?これが3で・・・ここと、次がここね。それと、これで最後だな』


 ミレイオが5つの記号を、順番に触れる。何もない。側で覗き込むトワォを見てから『合ってる?』ミレイオが訊ねると、トワォは頷く。


『イーアン、やってみな。私だとダメなのかも。サブパメントゥだからか知らないけど』


 はい、と答えてイーアンも、ミレイオに教えられる順で記号に触れる。イーアンが触れた側から、記号は光を蓄えて、それは5つ全てが光った時、5つ目の記号の真下にある、棺の蓋が消えた。


『げっ。中が』


『おお、ちょっと怖い。骨だけど。で?あれに用事があるのね』


 なぜか反応した、透かし板の下にあった棺の一つが、蓋を消し、その中に寝かされた人の、骨と化した姿が現われる。


 トワォは、イーアンをちょんちょん鰭で触り『ここ。ツカウ。イーアン。ツカウ。トワォも』そんな謎めいたことを告げるので、イーアンは急いで解釈し『あの方の、手にある物ですか?持ってるものを使うの?』指差して確認すると、小さな頭は頷いた。


『さっきの地下道よ。あそこから入って、この人の両手に納まってる何か・・・ちょっと見えないけど、何かもらっても良いのよ』


『遠慮したいですが。トワォの願いとあれば。では行きましょう』



 そして二人は、トワォに取ってくることを告げて、表へ周り、地下道を進み、棺の部屋へ行くと、見上げた場所にトワォを見て手を振る(※トワォも鰭を振る)。


『このお方の・・・これ。指輪では。指に()めていません。この方は、二つの指輪を()()()()()状態で』


『イーアン、これ。ショショウィよ!ほら、タンクラッド(あいつ)とショショウィ。二人とも、同じ指輪持ってるじゃないの』


 イーアンは、ショショウィの側に寄れないので、何をして彼らが一緒にいるのか覚えていない。


 ミレイオは側で見ているので、ショショウィの首にも、タンクラッドの指にあるのと同じ、奇妙な指輪があると教えた。


『ああ、親方の指輪。あの、骨で出来ている・・・あれ。

 あ~そうですね、そうでした。思いっきり忘れていた。()()()、あの仔に触れませんので』


『今、ざっくり嫌味言わないの(※注意)。この人も、もしかして。トワォと、この指輪で繋がっていたんじゃないの?海に沈む前・・・・・ 』


 ミレイオは、少ししんみりした顔を骸骨になった人に向けて、そっと屈むと『トワォ。あなたのトワォかな。これを持ってほしい、と私たちに頼んだの。だから持って行くわよ』そう言うと、イーアンに彼の指から指輪を取るように促す。


 イーアンは、死んだ人の持ち物を取るのは嫌だった。怖いとか、そうした気持ちもあるけれど、それ以前にいけないことだと思う。躊躇いながら、骨になった指に、触れるに触れられないイーアンは、さっと上を見上げた。


『トワォ。この方はあなたを好きで』


『イーアン。ソリクヴァ。いない。ヘキ。ソリクヴァ。トワォ。スキ。良い。イウ』


 あ・・・イーアンとミレイオは顔を見合わせる。それから骨になった亡骸を見つめて『この人よ。ソリクヴァって。彼は、次の誰かにトワォを預けようと』好きだったからじゃないの?とミレイオが言う。


 頷いたイーアンは深呼吸してから、もう一度トワォを見る。黄色く見える小さい目が、待っている。


『では。私はイーアン。龍です。ソリクヴァ、あなたのトワォをお借りします。大切にしますからね』


 物言わぬ骸骨に語りかけると、イーアンは彼の胸の上に重ねられた骨の隙間に、大切そうに守られた二つの指輪に手を伸ばし、彼の骨の指を優しくどかすと、指輪を取り出した。

 それから、骨の指をそっと撫でて『トワォを大切にしますからね』もう一度伝えた。


 そーっと、骨の手を最初と同じように重ねて、二つの指輪を受け取ったイーアン。


 指輪を手の平に握り、自分を見ている明るい金色の瞳に、目を合わせて微笑む。ミレイオも微笑んで『大丈夫よ。行きましょう』と笑顔で頷いた。


 二人が部屋を出て、御堂の外に出ると、トワォが迎えに来て『来る。来て』と言う。まだ何かあるのかと、二人が案内されるままに、また御堂に入ると。



 イーアンとミレイオは入った途端、仰天。


 祭壇の向こう側にあった透かし板の辺りから、光が噴き上がっており、そこには人の姿があった。

 光に包まれた背の高い人物は、静かな眼差しを向ける、深い茶色の肌を輝かせ、黒い長い髪を一本に編んで胸に垂らし、見たことのない複雑な模様の長衣を着た男性。

 柔らかく微笑む口元は、とても格の高い人のように見えた。ミレイオは『スゴイ素敵』と、不謹慎にも口から漏れる。


『イーアン。龍のあなたに。トワォを任せます。龍ではありません。あなたの手伝いをするでしょう。さよなら。トワォ』


『ソリクヴァ。好き』


『私も好きですよ。さよなら。トワォ』


 その人は近づいたトワォの首に腕を伸ばして、本当に優しく微笑むと、そのまま消えた。



 光もそれに合わせて静まり、イーアンとミレイオはトワォと一緒に御堂を出る。『きっと。最後に挨拶するまで、待っていたのね』それくらい、仲良かったのよと呟くミレイオに、イーアンも微笑んで頷く。


『龍気は?どう?』


『はい。そろそろ上がらないと。私はこの一度しか、お手伝い出来そうにないですね』


 長居しすぎたと笑うイーアンは、僧院に入って床に置かれた、ぱんぱんの宝袋を2つ持つ。ミレイオも2つの袋を持ち上げると、『いいわよ。私もう一度来るから』と伝えて、トワォを振り返った。


『指輪の使い方。後で教えて。イーアンはもう、水の中無理だから、一度、海の外に出るわ』


 私はもう一度来るからね、と言うミレイオに、トワォは袋をじーっと見て、床の宝をじーっと見る。何を思ったか、トワォはするっと僧院の中に入り、戻って来てその口に網をくわえて、床の宝の上に置いた。


『ミレイオ。この仔、まさか。分かって』


『そうよ。ここを離れるって思ったんじゃないの?これ、持って行って良いのよ』


 そうなの?と訊ねるイーアンに、トワォは、宝の上に置いた網の上をすいすい泳ぎ回って見せる。


『絶対、良いってことよ(※やったーって感じ)!』笑顔が輝くミレイオ。


 そうと分かれば、イーアンに宝袋を預け、網の端をすごく器用に引き寄せて、かなりの範囲の宝を囲み上げる。

 そして、一つにまとめた端っこをトワォに見せて『これ。口に(くわ)えられる?一緒に持って行ける?』お前の出番だ、とばかり、目的を告げると、トワォはちゃんと従ってくれた。



『よしっ!これで一回で済むわよ!帰ろう、イーアン』


 上機嫌のミレイオ。イーアンに預けた袋を2つ取り、こうして二人と一頭は海面を目指して、僧院を後にした。

お読み頂き有難うございます。

天理妙我様が、トワォをフェルトで作って下さいました!有難くご紹介~


挿絵(By みてみん)


トワォの絵も描いてあるので、続けてご紹介です。



挿絵(By みてみん)



トワォはずっと、この海底に沈んだ僧院にいました。

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