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魔物資源活用機構  作者: Ichen
交わる世界の片鱗
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1064. ミレイオ&イーアンと新しい友達

 

 こうして、袋をとりあえず二枚。その手に持たされて。


「ちっ。私が息が続くからって。そんなに深くはないけどさ。だけど私、あんたらの小間使いじゃないのよ」


 自分一人が働くと思うと、イヤなのか。ミレイオはぶつぶつ言いながら、待機する3人を見て『じゃー行って来ます』嫌味のようにそう言うと、彼らの返事を待たずに、また海へ飛び込んだ。



 あっという間に見えなくなったミレイオの影を、中年3人はじーっと見送り、『そんなこと言ったって』『適材適所だろう』『水の中でも()()()()()行くのですけれど』そんな会話をして、自分たちが手伝わないわけではないと言い合っていた。


 で。イーアンはふと、記憶が蘇る。なぜか受信率抜群の親方も、同じことを過ぎらせる。

 すっとお互いの顔を見合わせ、イーアンは目が据わる。親方はうんうん、頷く。


 その二人を見て、オーリンは『どうした』と、彼らの無言の通信に気が付き、何を考えているのかと訊ねた。イーアンは溜め息。親方はイーアンを指差す。


「(タ)こいつは水の中。結構、平気なんだ」


「(イ)()()()って」


「(タ)変なところで引っかかるな。お前、グィードの宝で」


 そうだけど~・・・イーアンは行きたくなさそう。親方の言い方が中途半端なので、オーリンは続きを頼む。ざっくり、親方はグィードを探した時のことを話して、再び、目の据わっているイーアンに振る。


「(タ)ということでな。イーアンは龍気があれば、かなりの深さまで行けると思うが。どうだ、イーアン」


「(オ)そうなの?今と、地震の時とじゃ、龍気なんてもう、桁違いに違うだろ。手伝い、長時間イケるんじゃないの?」


「(イ)私も今、思い出したけれど。あのですね、龍気があっても濡れるんですよ。濡れると、塩水だし、体はベタベタになるし、服も傷むし」


「(オ)それ。ミレイオに聞かれたら困るだろ」


 ムスッとするイーアン。親方もちょっと笑って『ミレイオは、()()()()()()だな(※他人事)』聞かれたら怒られそうだと、オーリンを手伝う。



 こうして。舌打ちを盛大に大きめで打ち付けるイーアンは(※お手製服が傷むのイヤ)『そんじゃー行って来ます』ぶすーっとした顔で、首をゴキゴキ鳴らしながら引き受けた。


「(オ)不機嫌一直線」


「(タ)そうだな。恐ろしい態度の悪さ」


「(イ)ちきしょう。服!普通の服じゃないから(※龍皮製)縫うの大変なのに(※ミレイオ手製)。替えもないのに(※各2枚常時交換)」


 ケッと吐き捨て、イーアンはグィード・クロークを脱ぐと、笑うオーリンに放る(※勢いある)。


 それから彼らに背中を向けると、タンクトップとズボンだけの体で、翼を4枚に減らし、体に力を籠めてぐっと龍気を漲らせた。


 その後姿に、オーリンもタンクラッドも目を凝らす。『すっげぇ。カッコイイ(※ワイルド好き)』『何て魅力的な(※横恋慕復帰)』ぼそ、ぼそ、と、呟きが口から漏れる男二人。


 半透明の白い肌のイーアン。背中も肩も腕も、引き締まった筋肉に包まれ、細い腰に貼り付くタンクトップと、背中から張り出す、長く細い白い翼。

 白く捻れた大きな角が、ぶわっと白い光を放ち、黒い螺旋の髪が龍気で浮き上がる(※某『悟○さん』状態)。


 男二人、惚れ惚れしていると、仏頂面MAXの女龍が肩越しに振り返り、片手を伸ばして『袋』低い声でオーリンに命じる。


 ハッとしたオーリンがいそいそ袋を2枚渡すと、引っ手繰ったイーアンは(※不機嫌)白い光の塊と化して水中へ突っ込んだ。


 白い光が、どんどん小さくなるのを無言で見送った、龍に乗る二人の男は。完全に見えなくなってから(※自分たちの声聞こえないって距離まで)目をちらっと見合わせる。


「すごい。イイ体してたな」


「下品な言い方はよせ。だが、意味は同感だ(?)」


「下品じゃないよ。女がどう、とかじゃなくてさ。もろ『龍族』ってカッコ良さあるよな」


「次元が違う気がする。元々、イーアンらしい美しさはあったが、皮膚の色が変わって、角が伸びたからな。

 ビルガメスたちと重なる。『やはり女龍』と思わされる、迫力の美しさだ」


 機嫌は損ねたがな、と笑う親方。オーリンも笑って、放り投げられたクロークを丸め、脇に抱えた(※待ってれば宝が届く人たちは暢気)。



 *****



 ミレイオはその頃、海底の僧院に到着。ゆっくり動いて、僧院の周囲を一周すると、遺跡を調査する時と同じように行動開始。


『たーだ・・・これは僧院だもんねぇ』


 ちょっと造りも違うよねぇと、僧院版の調査を思い出しつつ、表の庭だったらしき場所も回り、一つ二つ、調査対象を見つけて、そこと僧院を繋いだ様子を想像する。


『うん。充分在り得る。こっちから見るか』


 僧院は、今回のように、ギラギラのお宝がある場合、もう一歩食い込んで、()()()()()()も存在することがある。ここはそれが期待出来ると、ミレイオは睨んだ。


 庭と思しき場所にある、小さな御堂。崩れかけた御堂の周りを調べると、やはりあった。砂の中に埋もれているが、不可解な導が壁に刻まれている場所。その場所の砂を『消滅』静かに消し続け、丁寧に邪魔をどかすと、ミレイオの目に見えた金属の引き輪。


『これこれ』


 良いじゃないのと、ほくそ笑む。袋に詰め込む宝は、最後。こっちの()()()()は、宗教的な意味合いで謎めいた物があると、勘が告げる。


 引き輪を掴み、少しずつ力を籠めて、引き輪自体の耐久度も慎重に応じながら、ちょっとずつ動かす石板。


『重いわね』かなり重く感じる。ミレイオは、脇に挟んでいた袋を一旦海底に下ろし、そこに足を置いて浮ばないようにしてから、もう一度両手で引き輪をぐーっと引いた。音も無く、ズズズと動く感触。


 周囲の砂がこぼれ入るように、開いた隙間に流れ込む。『下か』御堂の中ではないと思える、角度の階段が見えた。



 と。ここで、ミレイオ。龍気に反応。さっと暗い海中に顔を上げ、すぐに『イーアン?』大丈夫なのと驚く。とりあえず、動かした石板を横に置くと、袋をまた小脇に抱えてイーアンに合図する。


 近づいてくる龍気の白い光の塊に、自分も青白いサブパメントゥの発光を見せて、呼び寄せる。


 気が付いたらしき白い龍気は、一直線にミレイオ目指して近づき、側まで来た白い光の中、ニコッと笑ったイーアンを見た(←ミレイオがいれば機嫌戻る)。


 どうやって会話しようかな、とミレイオが考えていると、イーアンは連絡珠を取り出す。ああそうか、とミレイオも連絡珠を出し、それを握って会話。


『イーアン。あんた、大丈夫なの?』


『行けって言われまして(※チクる)。龍気が持つ間は大丈夫です』


『手伝いね、お疲れ様。今さ、こっち見てたの。お宝は僧院の床に転がってるけれど、こっちの方が段違いのヤツ、いそうな気がして』


 ミレイオの示す場所を見たイーアンも、微笑んで頷く。『あなたは実に鼻が利きます』素晴らしいと答え、二人で、御堂横の地下階段を進むことにした。



 中は狭いが、入れないこともない。イーアンは翼を仕舞って、小さな通路を屈みながら進む。

 前を行くミレイオも少し窮屈そうだが、下へ続く階段を数mほど進んだところで、『ここ、床よ』と振り向いた。

 イーアンは発光しているので、白い光で中が見える。天井の低い、屈折した通路は短そう。


 二人が、崩れもせずに残った通路を進むと、僅か10m程度で、行き止まりの一室へ出た。


 中には棺。幾つもの棺があり、その長方形の手前に何かが書いてある石版が並んでいた。『これは読めないな』ミレイオは眺めて首を振る。イーアンは死者の部屋は尊ぶべきと思っているので、『ここに何があっても持ち出す気になれない』と伝えた。


『そうね。どうしてこんな形で、棺を置く場所を造ったのか。それは分からないけれど。階段も通路も、棺が入りそうな広さじゃないのにね』


 帰ろう、と肩をすくめたミレイオ。きっと古代の習慣で宗教上、何かあったのよ、ということにして。二人は来た道を戻り、僧院に移動した。


 ミレイオが言うには、『もう一箇所。似たような感じの、あっちに見つけたんだけど』らしいが、そっちも僧侶の棺置き場かもね・・・ミレイオは諦めたようだった。



 イーアン、ここで思い出すことがあったが。また雰囲気も異なるし、何でも記憶と同様とは限らないので、黙っていたことがある。


 それは、ハイザンジェルの西・カングート戦の時。


 親方とオーリンと一緒に、墓場のような場所を訪れた(※461話参照)。そこは一見して、墓場には見えなかったが、岩戸の中は棺のようなものがあり、イーアンたちはそこに異質を感じて開けたのだった。

 そして、今この手に持つ連絡珠を、空っぽだった棺の中に見つけた。白いナイフで聖別したが、魔物の持ち物だったかもと、話し合った思い出。


 もしかして、今回の場所にも、そうした遺物があるかとは思ったが。印象も違うし、場所も僧院と森の中では全く意味合いが異なる。そう考えて黙っていた。



 ミレイオに案内されて、僧院の中に入ったイーアン。すぐに納得した。足元にまで床を埋める、その宝の数々。

 振り向いたミレイオはニコッと笑う。『奥の部屋。扉もないから、あっちから転がったのかもよ』指差すミレイオは、壁の間に開いた隙間が、こうしたものを置いていた部屋じゃないか、と伝えた。


『これほどの量とは。陸の僧院もこうだったでしょうか』


『かもね。ここさ。島だったかも、ってあんたは言ったじゃないの。多分そうだったのよ。浅瀬とかで繋がっていたとか。

 島にしても、この辺は大きく遠浅であったとか。陸の僧院と通路が続いているから、途中、海面に出ていたところも何箇所かあったんじゃない?』


 巡礼だと、そういう距離のある造りもするでしょ・・・ミレイオは言いながら、宝を袋に入れつつ、奥の部屋を気にしていた。



『あの、ミレイオ。()()()どうなのでしょう』


 ミレイオが、袋に出来るだけ入るよう、向きや大きさを変えながら、宝を入れている最中。イーアンは暫く気になっていたことを、ミレイオに訊ねる。袋の口を掴む片手に握った珠を持ちながら、イーアンも宝を選んで入れていたが。


『んん?何?あれって』


『ええっと。あれ、です』


 どれよ、とミレイオが顔を上げると、イーアンはそっと、ミレイオと目を合わせた視線を動かす。ミレイオもその視線の先を見るが、特に何もない。


『どれ?何か気になるの』


『ミレイオ。感じませんか』


 イーアンの伝え方が変だと気が付き、ミレイオは宝を運ぶ手を続けながら、言われた方向へ感覚を研ぎ澄ましつつ『何?分からないかも』と伝える。イーアンは小さく小さく頷き『何かいます』と教えた。


『何か・・・って分かるの?』


『いいえ。でも私たちを見ています。それは感じます。ずっと居るみたいで気になって』


『あのさ。それ。魔物ではないでしょ?でも霊とか、さっきの棺絡みじゃないわよね』


 違うと否定するイーアン。ミレイオと同じように、宝を詰める手を休めないままに、『生き物だと思う』と教えてから『一頭です。大きくありません』そこまでしか分からないことを言うと。ミレイオはするべきことを考える。


『お聞き。私が見てくる。あんた、ここに居なさい。それで』


『いえ。行くなら私が。私は傷つきません。ミレイオ、ここで』


 ちらっと見たミレイオの目は、イーアンに任せるのを躊躇う視線だったが、イーアンはちょっと微笑んで『私が』ともう一度言った。


『分かった。でも。気をつけて。無理しちゃダメよ』


 はい、と答えて、イーアンは宝の袋の口を少しすぼめると、それをミレイオの側に置き、静かに振り返った。それから、発光している龍気をその状態に保ち、相手を驚かさないように奥へ泳ぎ始めた。


 ミレイオは心配。だけど、今のイーアンを傷つけるのは、よほどの相手じゃないと無理だろうと、それくらいは分かっているので、祈りながらも任せる。



 奥の部屋へ進んだイーアン。どこもかしこも、よくここまで保存状態を保ったと感心するくらいの、宝物が転がっている中を進む。


 そっとそっと、探し物が他にあるように、ゆっくり動きつつ、少しずつ目的の存在へ近づいていく。


『こんな場所に。生きている相手。あれかしら?クラーケンとか、あの系統かしら(※映画)』


 そんなおっかない感じもしないし・・・何だろうと思いつつ、イーアンもドキドキしながら部屋から部屋へと壁を辿る。

 イーアンは幽霊系は絶対イヤ。()()()()じゃないと感じるのが救いで、無事を祈りつつ、小さな通路を順繰りに回った、曲がり角。



 イーアンは止まる。目の前に、何か大きな壁。光に照らされて、それが石でも何でもないのは理解した。


 えー・・・と。そーっと、目だけを下から上へ動かすと、上のほうに顔があった。『う』固まるイーアン。その顔もじっと自分を見ている。


『龍・・・・・? でも、ちょっと違う』


 思ったことはそれ。体が大きいのかと思えば、真向かいにいるそれは、首が長いことに気が付く。後ろにぼんやり見える体は扁平で、足は四足か六足のようだが、肘膝の続きは櫂の如き、鰭と知る。


 見下ろす顔は、心臓が出そうなほどに緊張するイーアンを、ひたすら見つめる小さな顔で、首の太さからすると、その頭はとても小さく感じた。

 この光だからか。それともそういう色なのか。青黒い感じの体は、鱗も見えない。のっぺりした皮膚に、小さな頭は龍にちょっと似ているけれど、寸詰まり。そして角があるような。



 向かい合う、女龍と不思議な生き物。


 イーアン。ここはと思って頑張って話しかけてみた(※頭の中で)。『あなたは。分かる?あなたはここに住んでいますか』言葉も通じるか分からないけれど、とりあえず質問。


 相手は見下ろす顔を少しだけ動かして、それからぐーっと下ろした。

お読み頂き有難うございます。

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